64 / 96
第6章 反撃
12 咄嗟(とっさ)遭遇戦 6
しおりを挟むルシア軍指揮系統の混乱
アガペーエフ大将の負傷は、混乱に紛れてパーヴェル・アレクサンドロヴィチ元帥には伝わらなかった。イワン・オボレンスキー中将は戦場に未到着。
何が起こったか?各師団長は指揮官の命令のないまま、独断で交戦するしかなかった。
指揮権の継承が行われないまま、戦闘継続?まとまりを欠くのは明らかだった。
皇国側の指揮官たちは、それを敏感に察知する。
皇国第3師団長平澤少将
「敵の様子がおかしい。まとまりを欠いている。」
それを聞いた真田中将
「だがしかし、アンネンコフめしぶとい。もう少しで崩れそうなんだが。・・・確かにおかしい。チャンスかな?小官は司令部に戻る。平澤少将、後を頼む。もう予備はない。よろしくやってくれ!」
「真田閣下!あの錦の御旗(にしきのみはた)、本当に帝(みかど)から賜ったのですか?」
繁信、ぐいっと三澤少将の肩を抱きよせる。
「三澤少将、【勝てば官軍】だよ。負けたらどうせ死ぬし。!あ~はっはっは!」
突発した戦だった。以前から用意していたとしか考えられない。三澤少将は思った。
こういうところが頼もしいが、ついていけない部分だ。畏(おそ)れ多いことを平気で・・・。
午前10時30分
ルシア第1師団の残り4千が到着した。到着して、最初に目に入ったのがパーヴェル・アレクサンドロヴィチ大公の司令部だったのがよくなかった。
最先任将校がお伺いを立てる。(師団長は既に左翼で指揮を取っている。)
「第1師団第5・8・9・10大隊4千到着いたしました。直ちに原隊に復帰します。」
「待て。右翼も苦戦しておるようだ。右翼に半分を援軍として出してやれ。」
「はっ。」
帝族の総司令官が出した命令に逆らえるはずがなかった。だが、結果として一時的な効果に終わった。わずか4千、たかが4千、だけど4千、まとめて右翼に投入していたらアンネンコフ少将が平澤少将を押し切ったかも知れない。
所詮は結果論だ。パーヴェル・アレクサンドロヴィチ大公を批判してはいけない。彼は神輿としての役割は果たしたのだから。
時間は過ぎる。当事者にとっては、もどかしいほどゆっくりと。
午前11時
わずかの差で勝利の女神は真田繁信にほほえんだ。
「中田少将、第1師団が到着しました!」
欠けた最後のピース・第1師団が到着した。
「中田少将に命令!左翼から回り込んでアンネンコフの師団を撃破せよ!」
アンネンコフ少将
「げええ!ウソだろ?」
新たに出現した1万。側面を突かれた。ひとたまりもなかった。
アンネンコフ師団、崩壊。
第3軍団司令部真田中将
「よくやったあ!中田少将。そのまま敵第3師団の腹を引き裂け!」
その時にイワン・オボレンスキー中将の1万5千が到着した。彼は直ちに右翼に駆けつけようとする。だが、崩壊したアンネンコフ師団の敗残兵が、その進軍の妨げになる。
「くそ、どけ、邪魔だあ!」
12時
第1師団・中田少将は続いてルシアの第3師団に襲いかかる。正面の池田・平澤少将と死闘を繰り広げていた第3師団も側面から更に1万が襲いかかって来てはひとたまりもなかった。
第3軍団司令部真田中将
「よ~しよし。全軍に命令。総反攻を開始せよ。」
こうなっては残った騎馬師団も第1師団も逃げるしかなかった。ルシア関東派遣軍のフロントラインは完全に崩壊した。
勢いに乗った皇国軍は、そのまま前進。オボレンスキー中将の1万5千を取り囲んだ。
13時
オボレンスキー中将を撃破。ルシア軍の組織的抵抗は終了した。パーヴェル・アレクサンドロヴィチ大公の手元にはまだ予備が残されていたが、投入されることはなかった。
皇国軍はルシア軍を川越まで押し込んだ。追撃は夜になるまで続けられ、ルシア軍の損害を増大させた。
損害
皇国軍 7,000
ルシア軍 13,000 砲115門
ルシア戦役において、実に2倍以上の敵を撃破したのは真田繁信だけである。彼はこの後、【不敗】の称号が増えることになる。遭遇戦というものは即断即決の連続であり、一つ間違うと致命的になりかねない。その的確な判断力は他に類を見ない。
ともあれ関東は皇国の手に戻ったようである。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる





