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第6章 反撃
12 咄嗟(とっさ)遭遇戦 5
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午前10時
ルシア関東方面軍アガペーエフ大将
前衛師団と第2師団の残りが到着。前衛騎馬師団3,000と第2師団6,000。第2師団6,000は右翼に合流。前衛師団3,000は左翼に合流。
これでルシア側は3万となった。皇国側は1万6千。戦力比は最大に開いた。危(あや)うし皇国軍。
ここでアガペーエフ大将が決断する。
「ミクボ村を主攻撃目標に定める。総攻撃を行え!」
自身も中央を担当する第3師団の司令部に身を運ぶ。
「ピョートル(ヴラーンゲリ第3師団少将)、頼むぞ。押しつぶせ。」
皇国軍左翼第3師団平澤少将
一時減っていた圧迫が、以前より厳しくなる。何しろ前面の敵が6千も増えたのだ。優先的に軍団砲兵の援護を受けてはいるが、砲の数だって向こうの方が多い。
「ずく出せえ(がんばれ)!耐えろお!」
平澤少将、信州弁が出ているのにも気づかない。
ルシア軍右翼の兵力2,500から8,500に増加。おまけに正規の指揮官まで到着したのだ。第2師団長ボリス・アンネンコフ少将だ。
「現状報告せよ!」
「はっ、第1大隊と第2大隊の2千が左翼援軍のために引き抜かれております。前面の敵は約6千。中央の第3師団とともに圧迫しておりますが強硬に抵抗しております。」
「よ~し、聞け!中央はピョートル(ヴラーンゲリ第3師団少将)に任せろ!わが第2師団は、一番右はしの千人に戦力を集中する!よいか?いけええ!」
どっとルシア第2師団の兵が皇国第3師団の左はしに押し寄せる。
平澤少将の顔には脂汗がしたたり落ちている。
「くっ、耐えろお~。」
ジリジリと押されて行く。
アンネンコフ少将も必死だ。
「押せええええ!もう少しだあ!押せええええ!」
皇国第3軍団司令部真田中将
「いかん、崩れる。」
脱兎のごとく飛び出す。
予備の2千の兵のところへ行く。
「整列、全員せいれ~つ!」
2千の兵が整列する。
「今から仲間を助けに行くぞ。これを見よ。」
錦(にしき)で織られた縦長の旗、上部には菊の御紋が刺繍されている。見るからに神々(こうごう)しい。
「帝(みかど)より賜りし錦(にしき)の御旗じゃ!我らは天軍ぞ。この旗の下にある限り帝が見守っていて下さる。帝にお前らの働きをお見せせ~い。いくぞおおおお!」
「おおおおおおおお!」
繁信、調子いいねえ。ともあれ、兵どもの顔はさっきまでとは明らかに違っていた。
愛馬【赤龍雲(せきりゅううん)】にまたがり、走り出す。それに続く2千の兵。
皇国軍左翼、既に兵が逃げ出し始めている。
「東方方面軍参謀長真田繁信であ~る。逃げるなあ。援軍が到着したぞお。逃げるなあ!踏みとどまれえ!」
真田繁信を知らない兵はモグリである。アノ鷲巣の英雄が来たと知った兵どもは、その場に踏みとどまる。
依然として劣勢には違いないのに、人間とは不思議なものである。先程までの青息吐息はどこへやら、援軍が空いた穴を埋めて行くのを見て、元気百倍になってしまう。元々、充分訓練された兵どもである。練度から言えば農奴が多いルシア軍より上であると言えるだろう。
今度は逆に押し返し始める。
少ない兵力にもかかわらず、いや、だからこそ予備を残しておいた真田繁信。繁信、半端(はんぱ)ないよ。
錦の御旗、いつの間に賜ったの?自作の旗じゃ・・・ない・・・よね?
皇国軍第3軍団砲兵隊栗林大佐
手持ちの砲を総動員して撃ちまくっている。皇国砲兵の練度は急速に向上していた。この戦場だけで見ても、発射速度はルシアより上だった。しかもルシア相手の2度の勝利で、自信もつき、冷静さも出て来ていた。実戦経験を経ることは本当に貴重だ。
敵の中央、後方はるかに人のざわつきが感じられた。
「軍曹よ。あそこな、敵の後ろのほうさ、ざわざわしてるの見えるか?」
「ああ、あっこでありますか。ざわざわしとりますな。偉いさんでも来たんでっかな?」
「・・・それだ!あそこに榴弾ほうり込めるか?」
「やってみま。しばしお待ちを。」
この一発でルシアはウラジーミル・アガペーエフ大将とピョートル・ヴラーンゲリ第3師団長を負傷させることに成功する。両名とも意識不明の重体。
このとき、予備軍は未到着。ルシアの軍編成表を思い出して欲しい。次席指揮官はイワン・オボレンスキー中将だったよね?イワン・オボレンスキーは予備軍を率いている。
予備軍は未到着。あれえ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ルシア関東派遣軍 63,000 砲230門 パーヴェル・アレクサンドロヴィチ元帥(帝族・ルシア大公)
前衛師団 7,000 フリアネン少将
主力軍 31,000 ウラジーミル・アガペーエフ大将
・第1師団 9,500 フョードル・トレポフ少将
・第2師団 10,500 ボリス・アンネンコフ少将
・第3師団 11,000 ピョートル・ブラーンゲリ少将
予備軍 15,000 イワン・オボレンスキー中将
・第1師団 7,700 アブラム・ガンニバル少将
・第2師団 7,300 ルードルフス・バンゲルスキス少将
大公直轄師団 10,000 フルフラム・アンネン少将
ルシア関東方面軍アガペーエフ大将
前衛師団と第2師団の残りが到着。前衛騎馬師団3,000と第2師団6,000。第2師団6,000は右翼に合流。前衛師団3,000は左翼に合流。
これでルシア側は3万となった。皇国側は1万6千。戦力比は最大に開いた。危(あや)うし皇国軍。
ここでアガペーエフ大将が決断する。
「ミクボ村を主攻撃目標に定める。総攻撃を行え!」
自身も中央を担当する第3師団の司令部に身を運ぶ。
「ピョートル(ヴラーンゲリ第3師団少将)、頼むぞ。押しつぶせ。」
皇国軍左翼第3師団平澤少将
一時減っていた圧迫が、以前より厳しくなる。何しろ前面の敵が6千も増えたのだ。優先的に軍団砲兵の援護を受けてはいるが、砲の数だって向こうの方が多い。
「ずく出せえ(がんばれ)!耐えろお!」
平澤少将、信州弁が出ているのにも気づかない。
ルシア軍右翼の兵力2,500から8,500に増加。おまけに正規の指揮官まで到着したのだ。第2師団長ボリス・アンネンコフ少将だ。
「現状報告せよ!」
「はっ、第1大隊と第2大隊の2千が左翼援軍のために引き抜かれております。前面の敵は約6千。中央の第3師団とともに圧迫しておりますが強硬に抵抗しております。」
「よ~し、聞け!中央はピョートル(ヴラーンゲリ第3師団少将)に任せろ!わが第2師団は、一番右はしの千人に戦力を集中する!よいか?いけええ!」
どっとルシア第2師団の兵が皇国第3師団の左はしに押し寄せる。
平澤少将の顔には脂汗がしたたり落ちている。
「くっ、耐えろお~。」
ジリジリと押されて行く。
アンネンコフ少将も必死だ。
「押せええええ!もう少しだあ!押せええええ!」
皇国第3軍団司令部真田中将
「いかん、崩れる。」
脱兎のごとく飛び出す。
予備の2千の兵のところへ行く。
「整列、全員せいれ~つ!」
2千の兵が整列する。
「今から仲間を助けに行くぞ。これを見よ。」
錦(にしき)で織られた縦長の旗、上部には菊の御紋が刺繍されている。見るからに神々(こうごう)しい。
「帝(みかど)より賜りし錦(にしき)の御旗じゃ!我らは天軍ぞ。この旗の下にある限り帝が見守っていて下さる。帝にお前らの働きをお見せせ~い。いくぞおおおお!」
「おおおおおおおお!」
繁信、調子いいねえ。ともあれ、兵どもの顔はさっきまでとは明らかに違っていた。
愛馬【赤龍雲(せきりゅううん)】にまたがり、走り出す。それに続く2千の兵。
皇国軍左翼、既に兵が逃げ出し始めている。
「東方方面軍参謀長真田繁信であ~る。逃げるなあ。援軍が到着したぞお。逃げるなあ!踏みとどまれえ!」
真田繁信を知らない兵はモグリである。アノ鷲巣の英雄が来たと知った兵どもは、その場に踏みとどまる。
依然として劣勢には違いないのに、人間とは不思議なものである。先程までの青息吐息はどこへやら、援軍が空いた穴を埋めて行くのを見て、元気百倍になってしまう。元々、充分訓練された兵どもである。練度から言えば農奴が多いルシア軍より上であると言えるだろう。
今度は逆に押し返し始める。
少ない兵力にもかかわらず、いや、だからこそ予備を残しておいた真田繁信。繁信、半端(はんぱ)ないよ。
錦の御旗、いつの間に賜ったの?自作の旗じゃ・・・ない・・・よね?
皇国軍第3軍団砲兵隊栗林大佐
手持ちの砲を総動員して撃ちまくっている。皇国砲兵の練度は急速に向上していた。この戦場だけで見ても、発射速度はルシアより上だった。しかもルシア相手の2度の勝利で、自信もつき、冷静さも出て来ていた。実戦経験を経ることは本当に貴重だ。
敵の中央、後方はるかに人のざわつきが感じられた。
「軍曹よ。あそこな、敵の後ろのほうさ、ざわざわしてるの見えるか?」
「ああ、あっこでありますか。ざわざわしとりますな。偉いさんでも来たんでっかな?」
「・・・それだ!あそこに榴弾ほうり込めるか?」
「やってみま。しばしお待ちを。」
この一発でルシアはウラジーミル・アガペーエフ大将とピョートル・ヴラーンゲリ第3師団長を負傷させることに成功する。両名とも意識不明の重体。
このとき、予備軍は未到着。ルシアの軍編成表を思い出して欲しい。次席指揮官はイワン・オボレンスキー中将だったよね?イワン・オボレンスキーは予備軍を率いている。
予備軍は未到着。あれえ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ルシア関東派遣軍 63,000 砲230門 パーヴェル・アレクサンドロヴィチ元帥(帝族・ルシア大公)
前衛師団 7,000 フリアネン少将
主力軍 31,000 ウラジーミル・アガペーエフ大将
・第1師団 9,500 フョードル・トレポフ少将
・第2師団 10,500 ボリス・アンネンコフ少将
・第3師団 11,000 ピョートル・ブラーンゲリ少将
予備軍 15,000 イワン・オボレンスキー中将
・第1師団 7,700 アブラム・ガンニバル少将
・第2師団 7,300 ルードルフス・バンゲルスキス少将
大公直轄師団 10,000 フルフラム・アンネン少将
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