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第7章 また混乱

14 博多攻囲戦 13 志摩の戦い

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お待たせしました。再開します。

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    志摩稲留にルシア軍は陣をしく。思っていたよりも押し込まれた。皇国軍は上陸した後、しゃかりきに前進してきたからだ。






    
一ノ岳指揮所真田繁信

    「くそっ、平地のルシア軍主力をなんとかしないと可也山には登れない。」

    皆さんは馬謖(ばしょく)という人物をご存知だろうか。そう、三国志に出てくる将軍である。彼はあの諸葛孔明(しょかつこうめい)の秘蔵っ子と呼ばれていた。彼はある戦いで高みを占めるために山に陣をかまえた。高い所の方が有利だからだ。だが、彼は致命的なことを忘れていた。水がなかったのだ。彼は敗れた。諸葛孔明は泣いて、彼を切ったという。【泣いて馬謖を切る】という言葉が残っているアレである。山に陣を構えるのは良いが、補給が出来ることが前提であるという戒めを教えている。

    可也山は山脈では無く、ポツンと孤立した山だ。どうするか?囲んでしまえば終わりだ。なぜか?補給が断たれるからだ。人間、食い物がなくても何日かは耐えられるが、水が無くては一日と持たない。

    アーネンは可也山の砲台を守るために、数千の守備兵力を上げている。こちらも観測拠点として、ぜひ欲しいが、単純に攻めても山上の敵を攻略するのは難しい。囲んでしまいたいが、平地には数万のルシア勢がいる。

    つまり、先に主力決戦をする必要があるということだ。

    そこへ参謀の1人が報告に来る。

    「黒田中尉が姫島から参っております。」

    「何、権蔵が?おう、権蔵、久しぶりだな。椿先生は元気か?」

    真田繁信、弾数についての報告を受けて、権蔵に答える。

    「今日一日で決着をつける。弾をケチる必要なし。それよりも弾幕に切れ目がないようにしてくれ。そうだな、6門で3つの組に分けて1組は休ませて砲身を冷やすとかな。」

    くるりと参謀団に向いて言う。

   「一ノ岳を降りる。島津公に合流するぞ。ついてこい。信号弾班はここに残り、姫島および立石山の着弾観測をよろしく頼む。」

    一ノ岳では信号弾が上がり始めている。姫島の30センチ砲が唸り始めた。

    可也山のルシア砲台は糸島方面への攻撃が前提だったため、糸島から見て反対側の山の稜線に隠されていた。つまり、一ノ岳からは丸見えだった。

    姫島砲台の試射が始まる。皇国の30ミリ砲も信管付きだ。着弾と同時に爆発する。砲弾重量は言ったっけ?400キロを越す。圧倒的!弾は当たらなかった。山の中腹に着弾。当たらなかったが、大爆発、大穴があく。山が震え、振動する。

    迫力は圧倒的だった。ほどなく、可也山のルシア砲台は全滅する。

    姫島から見える可也山の山肌は半分ほどなくなっている。深くえぐれたむき出しの土だ。士気への影響も甚大だ。

    「圧倒的じゃないか我が軍は!」

    なんて言い出す奴も出てくる。ことほどさように見た目が派手である。実際はまだ砲台を一つつぶしたに過ぎない。

    まあ、士気が上がることはいいことだ。


ルシア司令部アーネン・ニコライ

    「可也山と火山の間に切れ目なく塹壕(ざんごう)を掘れ。立って歩けるぐらい深く掘れ。」

    アーネン・ニコライ、ここまでにレンドル達と何回も打ち合わせを重ねている。

    「情勢の分析と行こうか。砲の数で負けている。兵力はやや負け。練度もやや負け。制海権はかろうじてこちら側が握っている。ドラコン1隻ではあやういがな。さて、どうする?」

    レンドル曰く。

    「城壁ではなく、塹壕で守るのです。城壁でもいいですが、厚くしなければなりませんし、えぐられた所は修理しなければなりません。塹壕なら、炸裂弾の恐るべき破片は兵の頭の上を飛び越えていきます。ああ、塹壕内での移動が便利なように2メートルぐらいの深さは欲しいですね。この塹壕を敵に対して並行に掘ります。1本じゃなく、複数欲しいですね。そうすれば敵の砲撃に耐えられるはずです。これは野戦でも使えます。」

    クツーゾフ正軍師が問う。

    「敵の手榴弾を投げ込まれたらどうする?」

    「う~ん、アレはやっかいですね。飛び込んで来ると、殺傷力のある破片を周りにまきちらす。さあ~て、どうするか?」

    ウマルディー・アランネがポンと手を打つ。

    「深さ1メートルほどの手榴弾が入る穴を等間隔に作っておきましょう。手榴弾が怖いのは破片をまきちらすからですよね。破片を上にまきちらさせれば、誰も死なない。」

    全員がポンと手を打つ。

    「採用だ。!」
    
    アーネン・ニコライ

    「投擲可能距離を越えた場所に鉄条網を置こう。そうすれば、それ以上入ってこられず、手榴弾を投げられない。あっ。」

    「あっ?」

    「いいことを思いついた。最前線の塹壕には歩兵突撃阻止用の砲を置くんだ。そしてこの砲は位置を隠蔽するため歩兵突撃の時以外は使わない。面倒くさいが1回使ったら位置を移動させる。


    「散弾を込めた砲ですな。」

    「うむ、これでだいぶ粘れると思う。火力劣勢も戦列艦10隻分の砲を陸揚げして、千門近く増えた。ドボルザーク(ウラジオストク艦隊司令官)には恨まれたがな。」

    レンドルが答える。

    「今、ウラジオストクにはルシアの英知が集結しつつあります。造船所も急ピッチで増やしております。ドラコン級2番艦以下の建造もまもなくです。ドボルザーク中将の手駒も又すぐ増えましょう。」

    「うむ、博多を占領して鉄軌道か?アレを見て実感した。モスコーとウラジオストクの間にも鉄軌道を敷かねばならん。そうでなければ、皇国には勝てん。産業革命と言うのか?我が国もな、早く富国強兵しなければならん。」

    博多攻囲戦の天王山、志摩の戦いが始まった。






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    いよいよアーネンと繁信の直接対決の始まりです。
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