ダイヴのある風景

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第三章

第三章 ⑩

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 森が開けた。空が僕たちの前に大きくせり出してきた。
 饅頭のような丘の尖端におそるおそる進み出て見下ろす。町だ。箱庭のような浮葉町が、手でつかめるくらいの大きさで僕たちの足下に広がっていた。
 僕たちは丘のわきに回り込み、ほぼ、けもの道と化した側道を下りていった。
 途中、古い包帯や煙草の吸い殻、丸い杖の跡を見つけたときは、見知らぬ道なのに通い慣れた道のような錯覚が起こり、それが安心感を与えてくれた。
 十五分ほども下りただろうか、やっと町の端にあるフェンスにたどり着いた。
 ジャックに聞いていた通り、ずっとずっと右に回り込むと、フェンスの金網の破れたところがあった。ジャックがうまい具合に修復しているので、ちょっと見ただけではわからないけれど、拾った気の棒を割れ目に差し込んで力を入れると、カインカインと音を立てて金網が剥がれた。
 そこは公園の敷地内にある大きな池の裏側だった。確かに、ここなら誰にも見つからないだろう。ここでさりげなく散歩を楽しんでいるかのように散らばれば、難なく浮葉町に溶け込める。
 僕たちは公園を出た。左右に真っ直ぐ伸びている道路。これもジャックから聞いていた通りだ。大きな道路の割には交通量が少なく、簡単に渡ることができた。
「おいおい。俺たちの町と、かなり違うんじゃねえか? なんだよここ、ビルだらけじゃねえか」信良が驚いた犬のような顔をする。
「まあ、僕たちの町とは主要な産業が違うからね。我が落葉町は農林業が主体だし」
 それにしても、と言いながら、信良はまだきょろきょろと見回している。
「なんだおい、あそこを走っている車、電気自動車じゃねえか。テレビで見たことがあるぞ。うお。あのビルのやつら、じっとしているのに移動してやがる。どうなってんだ? 超能力者か?」
「動く歩道ってやつでしょ」冴子が関心なさそうに言う。「運動不足になりたい人はどうぞってシロモノよ」
「あらららら。あのじいさん、なにやら怪しげな機械を耳に当てているぞ。あ、あれ、紙芝居で見たことがある。思い出した、携帯電話って言うんだ」
「お前、ちょっといじけてないか?」僕は苦笑する。「なにもこの町に嫉妬することはないだろう。落葉町には落葉町にしかないよさがあるからね。現にこの町のダイヴ者が、落葉町にやってきてるじゃないか。そういうことだよ」
「花江、落葉町の山や川のほうが好きだよお」花江がぴょんぴょん飛び回りながら言う。「ここは空気も美味しくないしい。あんまり好きじゃないなあ」
「ちぇっ。悪かったよ」信良が頭をかいた。「俺だって、落葉町が好きだよ。あんないいとこ、他にないと思ってるよ。ちょっと言ってみただけさ。すまねえな」
「花江は、落葉町もそこに住んでいる信ちゃんも好きい」花江が信良の腕にしがみついた。
「おい、ここはよその町だぞ。離れろって」信良が回りを気にしながら、花江をたしなめた。
「甘いドラマは、落葉町に帰ってからにしたら?」冴子が信良を横目で見る。「あたしたちの目的は他にあるでしょ」
「ああ。そのとおりだが」信良が目を三角にして冴子を振り返る。「おい待てよ。誰が甘いドラマを演じてたんだよ」
「冴子。そう言う君は」僕は自分の腕に目をやる。「どうして僕と腕を組んでいるんだい?」
 言葉は返さず、ふふふ、と笑う冴子を見て、信良が口を尖らせた。
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