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第三章
第三章 ⑯
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局長は、最初、なんのことかわからないとごまかしていたけれど、僕たちがしぶとく迫ると、「私のあずかり知らぬことだ」と逆ギレし始めた。
「でも、花江、リチャードさんの名前を呼ぶと誉められたよお」
「え? リチャードさんの知り合いなのか?」局長の態度が豹変した。「そうなのかい? お嬢さん」
「知り合いってほどでもないけどお」花江が首を傾げる。「組体操を一緒にした仲かなあ」
「組体操を一緒にだって? それで君は」局長は、ごくりと唾を飲み込んだ。「ピラミッドで、まさかリチャードさんの背中に乗ったっていうのか?」
「うーん、よくわかんないけどお、でも、医者の不養生は嫌いだって言ってたよお」
「な、なんだってえ?」局長は明らかにうろたえていた。額からは生汗が流れ始めた。「その言葉は、リチャードさんが気に入った人の前でだけ使う言葉なんだ。あんたたちは、かなりのお気に入りだってことか。ううむ、これは無視できん事実だ」
局長は、ちょっと待ってくれと言って、コーヒーサーバーからコーヒーを紙コップに注いで飲み始めた。しばらく考えていたようだけど、やがて諦めたように深いため息をついた。
「わかったよ。では、今からお連れしよう。ある場所へ」局長は決心したような顔で言った。
「ある場所?」ジャックが不審そうに尋ねる。「どこだい、それは」
「ま、行けばわかることだ。そこで、君たちの失われた記憶に関することがわかるかもしれない。ただし」局長が真剣な顔で、一同を見回した。「危険な目に遭っても、私は責任を持てないから、そこは了承してほしい」
僕たちがうなずくと、局長はどこかに電話をして何かを話していた。
「よし、墓場に入る許可をもらった。今から出かけよう」局長は窓口に座っている局員に声をかけた。「おい、ジュサブロー君、ミキちゃん。一緒に出かけるぞ」
「ええっ? 僕たちもですか? 局はどうするのですか?」とジュサブローと呼ばれた若い男が言った。
「誰か代わりの者にでも任せればいい。これから出かけるにあたって、君たちは必要なんだよ」
「あたしたちが、ですか? なぜ?」ミキと呼ばれた女が不思議そうな顔をする。この人もまだ若い。大学を卒業したばかりくらいだろうか。
「それも、いけばわかる。とにかく、時間がないので急ぐんだ。申し訳ないが、そこの君と君。私たちが帰って来るまで、ここを頼まれてくれないだろうか」
局長が指名したのは、信良と花江だった。
「君たちを臨時職員として雇おう。これで君たちは郵便局で働ける喜びと充実感を味わうことができるのだ。ああ、なんという幸せ。ありがたやありがたや」
「なんかうわごとを言ってるぜ、このおっさん」信良が首を振る。
「花江、そんな難しいことできないよう」花江が泣きそうな顔になる。
「だいじょうぶだ。なあに、客なんてほとんどこないよ」微笑みながら局長が続ける。「もし来ても、適当にあしらっておけばいい。いざとなれば、壁の非常ボタンを押せばいい。ベルが鳴り響くから、客なんてとっとと逃げていくよ」
「……いいのか、それで」と信良がつぶやく。「このおっさん、世の中なめてないか」
「信良、悪いけど、頼まれてくれないか。ジャックさんたちを連れていくには、それしか方法がないようだ」僕は残念だけど、と付け加えた。
「ああ。ここまで来たのに、ものすごく残念だね」信良が機嫌の悪そうな顔になる。が、すぐにため息をつきながら苦笑する。「でもまあ、それしかないってのは、俺もわかっているけどな。しょうがねえなあ。ここは花江と留守番しておくから、ちゃんと解明してくるんだぞ。俺たちの目的についてもな。それでいいか、花江」
「いいよお。花江は信ちゃんと一緒なら、どこだって楽しいよお」
ジャックが口笛を吹いた。
僕は、じゃあ、こっちは任せてくれと言って、局長が用意してきたマイクロバスに乗り込んだ。
全員が乗り込んだので、マイクロバスは出発した。
「でも、花江、リチャードさんの名前を呼ぶと誉められたよお」
「え? リチャードさんの知り合いなのか?」局長の態度が豹変した。「そうなのかい? お嬢さん」
「知り合いってほどでもないけどお」花江が首を傾げる。「組体操を一緒にした仲かなあ」
「組体操を一緒にだって? それで君は」局長は、ごくりと唾を飲み込んだ。「ピラミッドで、まさかリチャードさんの背中に乗ったっていうのか?」
「うーん、よくわかんないけどお、でも、医者の不養生は嫌いだって言ってたよお」
「な、なんだってえ?」局長は明らかにうろたえていた。額からは生汗が流れ始めた。「その言葉は、リチャードさんが気に入った人の前でだけ使う言葉なんだ。あんたたちは、かなりのお気に入りだってことか。ううむ、これは無視できん事実だ」
局長は、ちょっと待ってくれと言って、コーヒーサーバーからコーヒーを紙コップに注いで飲み始めた。しばらく考えていたようだけど、やがて諦めたように深いため息をついた。
「わかったよ。では、今からお連れしよう。ある場所へ」局長は決心したような顔で言った。
「ある場所?」ジャックが不審そうに尋ねる。「どこだい、それは」
「ま、行けばわかることだ。そこで、君たちの失われた記憶に関することがわかるかもしれない。ただし」局長が真剣な顔で、一同を見回した。「危険な目に遭っても、私は責任を持てないから、そこは了承してほしい」
僕たちがうなずくと、局長はどこかに電話をして何かを話していた。
「よし、墓場に入る許可をもらった。今から出かけよう」局長は窓口に座っている局員に声をかけた。「おい、ジュサブロー君、ミキちゃん。一緒に出かけるぞ」
「ええっ? 僕たちもですか? 局はどうするのですか?」とジュサブローと呼ばれた若い男が言った。
「誰か代わりの者にでも任せればいい。これから出かけるにあたって、君たちは必要なんだよ」
「あたしたちが、ですか? なぜ?」ミキと呼ばれた女が不思議そうな顔をする。この人もまだ若い。大学を卒業したばかりくらいだろうか。
「それも、いけばわかる。とにかく、時間がないので急ぐんだ。申し訳ないが、そこの君と君。私たちが帰って来るまで、ここを頼まれてくれないだろうか」
局長が指名したのは、信良と花江だった。
「君たちを臨時職員として雇おう。これで君たちは郵便局で働ける喜びと充実感を味わうことができるのだ。ああ、なんという幸せ。ありがたやありがたや」
「なんかうわごとを言ってるぜ、このおっさん」信良が首を振る。
「花江、そんな難しいことできないよう」花江が泣きそうな顔になる。
「だいじょうぶだ。なあに、客なんてほとんどこないよ」微笑みながら局長が続ける。「もし来ても、適当にあしらっておけばいい。いざとなれば、壁の非常ボタンを押せばいい。ベルが鳴り響くから、客なんてとっとと逃げていくよ」
「……いいのか、それで」と信良がつぶやく。「このおっさん、世の中なめてないか」
「信良、悪いけど、頼まれてくれないか。ジャックさんたちを連れていくには、それしか方法がないようだ」僕は残念だけど、と付け加えた。
「ああ。ここまで来たのに、ものすごく残念だね」信良が機嫌の悪そうな顔になる。が、すぐにため息をつきながら苦笑する。「でもまあ、それしかないってのは、俺もわかっているけどな。しょうがねえなあ。ここは花江と留守番しておくから、ちゃんと解明してくるんだぞ。俺たちの目的についてもな。それでいいか、花江」
「いいよお。花江は信ちゃんと一緒なら、どこだって楽しいよお」
ジャックが口笛を吹いた。
僕は、じゃあ、こっちは任せてくれと言って、局長が用意してきたマイクロバスに乗り込んだ。
全員が乗り込んだので、マイクロバスは出発した。
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