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第四章
第四章 ⑭
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「どうだ。完全に関連性があるのが見て取れるだろう?」管理人が言った。「すなわち、君たちの関係は、加害状況と被害状況の両方の存在によって成り立っているのだよ」
「そんなバカな」ジャックが叫んだ。「じゃあ、ケンイチは、俺とリリィの子供だと言うのか?」
「そうよ、あたしが乳児だったケンイチを捨てたと言うの? そんなの、あり得ない」
「リリィ。嘘偽りのない悲しい現実だ。君は映像からもわかるように、ジャックにレイプされてケンイチを身ごもり、苦悩の果てにケンイチを捨てる決心をしたのだよ」管理人が目頭を押さえて息を吐き出した。「人間誰しも加害者のマスクと被害者のマスクを常に持ち歩いているのだよ。たいていはそのマスクを被らずに済むのだが、被ってしまう人もいる。みんなが被らないということは、犯罪のない世の中だということだからね。しかし、マスクを被った人も、普通は小さな加害、被害で収まってしまうものなんだ。ところが」
そこで管理人は言葉を切った。数秒置いてから続ける。「マスクを完全に被って、大きな加害、被害を体験する人もいるわけだ。そう、君たちのように」
「でも、そのモニターに出ている関連性は、ちょっとできすぎているような気がしますけど」冴子が疑問を呈した。「そんなに上手い具合に、全員の輪がつながるものでしょうか?」
「できすぎなように見えるがね、お嬢さん。案外、そうでもないんじゃよ。たとえば、ゾンビから始めるとよくわかるかな。ゾンビがお絹の印鑑を使って、金をだまし取る。お絹はその腹いせもあってか、自分が営んでいる金融業の客であるジャックに、強制的な取立てを行う。強制的な取立てに関しては、別に普通に行われていることじゃから、なんら特別ではない。ただ単に、客がジャックだったというだけのことじゃ。そして、ジャックは映像にもあったように、かねてから気になっていたリリィの家を発見して理性が吹き飛び、彼女をレイプするに至る。不運なことに、リリィは身ごもってしまう。精神的にボロボロになっているため、魔がさしてしまった。それが乳児の置き去りじゃ。最後はケンイチじゃが、ケンイチは虐待の反動で、不穏な行動に出るようになった。それが火遊びじゃ。虐待の反動で火遊びをするのは、特別な行動とまでは言えないよ。そして、火遊びの規模は次第に大きくなっていき、家をターゲットにしてしまうんじゃ。ここで正直に言うとだな、このときだけ、組織が少し手心を加えているんじゃ。それは、ケンイチがターゲットとする家がゾンビの家になるように誘導することじゃ。しかしそれは、誤解のないように言っておくが、ケンイチに火を点けるように誘導したのではなく、あくまで最初にケンイチが家に火を点けることが前提条件として存在し、組織はターゲットの方向付けをしただけじゃて。要するに、ケンイチが火を点ける気がなかったのなら、ゾンビの家に誘導することもなかったってわけじゃよ」
また全員が沈黙した。しばらく沈黙が続いた。今度は、僕がそれを破った。
「ちょっと質問が。ゾンビさんって、いったい何者なんですか? 閲覧では、金融機関の男、ってことになっていますが、そこのところがいまいちよくわからないんです。ゾンビさん、どこかの銀行の行員さんだったのですか?」
「それについては、私から説明しよう」今までうつむいて話を聞いていた局長が、顔を上げた。「ゾンビは、郵便局の職員だよ。それも、浮葉町郵便局の本当の局長だ。そして、私とは双子の兄弟なんだ。ゾンビは私の兄だ」
全員が声を上げた。もちろん、ゾンビもだ。包帯の間から、もの凄い息を吐き出している。
「兄が焼死したため、私が身代わりになったんだ。なぜかと言えば、兄はときどき、小口の貯金を搾取していたことがわかったからだ。それが大きな問題に発展することを恐れた私は、前局長に相談したのだよ。そして出された結論が、今の身代わり局長なんだ。まあ、この告白も、この場限りで消えてしまうから、たいした告白にはならないかもしれないがね」
「そう。記憶は消えてなくなる。だから、わしからも今のうちにもうひとつ告白しておこう」管理人は、ちょっと言いにくそうに頬をかいた。「さっき局長が前局長と言ったのは、実はわしのことなんじゃよ」
驚くみんなを制して続ける。「お絹さん、あんたが強欲な──おっと失礼、高利貸しになったのは、実はわしのせいなんじゃよ。あんたには、わしの個人的な理由により組織に頼んで消してもらった記憶があるのじゃ」
お絹さんが目を見張った。「あんた、なにを言っているんじゃ。冗談はサンタもどきの髭だけにしな」
「いやまあ、髭だけにしときたいところだが……ええとその、ええいくそ、ちょっと内容的に言いにくぞ。つまりだな」
管理人の説明によると、こういうことらしい。
昔、管理人とお絹さんは恋仲だった。
しかし、元来のギャンブル好きが災いし、管理人は借金地獄になった。それから逃亡するため、泣く泣く別れることとなったお絹さんから自分の記憶を消去してもらい、自分は立ち去った。お絹さんは記憶を消されてから、管理人が借金に苦しんでいた反動もあってか強欲な高利貸しになったらしい。
管理人は必死に働いて借金を返した。組織には、お絹さんの記憶を消したもらったという借りがあるため、組織の仕事の一部を手伝うことにした。すなわち、記憶の墓場に置かれてある記憶のうち、死亡した人の記憶を返却する仕事だった。それは、「記憶チップ」と呼ばれるもので、死亡者の棺桶の中に収めるために、まさに記憶の墓場から肉体の墓場までひとっ走りするものだった。記憶の墓場にある記憶チップを棺桶の中に戻してあげるのは、とてもやりがいのある仕事だったらしい。
この町に帰ってきてから、管理人は「浮葉町郵便局」を開局した。
実は、浮葉町郵便局は、「裏の仕事」としてこの記憶チップの返却を行っている。
「記憶の墓場」と浮葉町の特別記憶喪失者との橋渡し的な存在らしい。その仕事を、現在の局長が引き継いだわけだ。
局長が暇を見つけては、すぐにどこかへ出かけていっていたのは、自宅で仮眠する場合もあるが、趣味の車を駆り、実は記憶の墓場に記憶チップを引き受けに行っていたのだった。
「そんなバカな」ジャックが叫んだ。「じゃあ、ケンイチは、俺とリリィの子供だと言うのか?」
「そうよ、あたしが乳児だったケンイチを捨てたと言うの? そんなの、あり得ない」
「リリィ。嘘偽りのない悲しい現実だ。君は映像からもわかるように、ジャックにレイプされてケンイチを身ごもり、苦悩の果てにケンイチを捨てる決心をしたのだよ」管理人が目頭を押さえて息を吐き出した。「人間誰しも加害者のマスクと被害者のマスクを常に持ち歩いているのだよ。たいていはそのマスクを被らずに済むのだが、被ってしまう人もいる。みんなが被らないということは、犯罪のない世の中だということだからね。しかし、マスクを被った人も、普通は小さな加害、被害で収まってしまうものなんだ。ところが」
そこで管理人は言葉を切った。数秒置いてから続ける。「マスクを完全に被って、大きな加害、被害を体験する人もいるわけだ。そう、君たちのように」
「でも、そのモニターに出ている関連性は、ちょっとできすぎているような気がしますけど」冴子が疑問を呈した。「そんなに上手い具合に、全員の輪がつながるものでしょうか?」
「できすぎなように見えるがね、お嬢さん。案外、そうでもないんじゃよ。たとえば、ゾンビから始めるとよくわかるかな。ゾンビがお絹の印鑑を使って、金をだまし取る。お絹はその腹いせもあってか、自分が営んでいる金融業の客であるジャックに、強制的な取立てを行う。強制的な取立てに関しては、別に普通に行われていることじゃから、なんら特別ではない。ただ単に、客がジャックだったというだけのことじゃ。そして、ジャックは映像にもあったように、かねてから気になっていたリリィの家を発見して理性が吹き飛び、彼女をレイプするに至る。不運なことに、リリィは身ごもってしまう。精神的にボロボロになっているため、魔がさしてしまった。それが乳児の置き去りじゃ。最後はケンイチじゃが、ケンイチは虐待の反動で、不穏な行動に出るようになった。それが火遊びじゃ。虐待の反動で火遊びをするのは、特別な行動とまでは言えないよ。そして、火遊びの規模は次第に大きくなっていき、家をターゲットにしてしまうんじゃ。ここで正直に言うとだな、このときだけ、組織が少し手心を加えているんじゃ。それは、ケンイチがターゲットとする家がゾンビの家になるように誘導することじゃ。しかしそれは、誤解のないように言っておくが、ケンイチに火を点けるように誘導したのではなく、あくまで最初にケンイチが家に火を点けることが前提条件として存在し、組織はターゲットの方向付けをしただけじゃて。要するに、ケンイチが火を点ける気がなかったのなら、ゾンビの家に誘導することもなかったってわけじゃよ」
また全員が沈黙した。しばらく沈黙が続いた。今度は、僕がそれを破った。
「ちょっと質問が。ゾンビさんって、いったい何者なんですか? 閲覧では、金融機関の男、ってことになっていますが、そこのところがいまいちよくわからないんです。ゾンビさん、どこかの銀行の行員さんだったのですか?」
「それについては、私から説明しよう」今までうつむいて話を聞いていた局長が、顔を上げた。「ゾンビは、郵便局の職員だよ。それも、浮葉町郵便局の本当の局長だ。そして、私とは双子の兄弟なんだ。ゾンビは私の兄だ」
全員が声を上げた。もちろん、ゾンビもだ。包帯の間から、もの凄い息を吐き出している。
「兄が焼死したため、私が身代わりになったんだ。なぜかと言えば、兄はときどき、小口の貯金を搾取していたことがわかったからだ。それが大きな問題に発展することを恐れた私は、前局長に相談したのだよ。そして出された結論が、今の身代わり局長なんだ。まあ、この告白も、この場限りで消えてしまうから、たいした告白にはならないかもしれないがね」
「そう。記憶は消えてなくなる。だから、わしからも今のうちにもうひとつ告白しておこう」管理人は、ちょっと言いにくそうに頬をかいた。「さっき局長が前局長と言ったのは、実はわしのことなんじゃよ」
驚くみんなを制して続ける。「お絹さん、あんたが強欲な──おっと失礼、高利貸しになったのは、実はわしのせいなんじゃよ。あんたには、わしの個人的な理由により組織に頼んで消してもらった記憶があるのじゃ」
お絹さんが目を見張った。「あんた、なにを言っているんじゃ。冗談はサンタもどきの髭だけにしな」
「いやまあ、髭だけにしときたいところだが……ええとその、ええいくそ、ちょっと内容的に言いにくぞ。つまりだな」
管理人の説明によると、こういうことらしい。
昔、管理人とお絹さんは恋仲だった。
しかし、元来のギャンブル好きが災いし、管理人は借金地獄になった。それから逃亡するため、泣く泣く別れることとなったお絹さんから自分の記憶を消去してもらい、自分は立ち去った。お絹さんは記憶を消されてから、管理人が借金に苦しんでいた反動もあってか強欲な高利貸しになったらしい。
管理人は必死に働いて借金を返した。組織には、お絹さんの記憶を消したもらったという借りがあるため、組織の仕事の一部を手伝うことにした。すなわち、記憶の墓場に置かれてある記憶のうち、死亡した人の記憶を返却する仕事だった。それは、「記憶チップ」と呼ばれるもので、死亡者の棺桶の中に収めるために、まさに記憶の墓場から肉体の墓場までひとっ走りするものだった。記憶の墓場にある記憶チップを棺桶の中に戻してあげるのは、とてもやりがいのある仕事だったらしい。
この町に帰ってきてから、管理人は「浮葉町郵便局」を開局した。
実は、浮葉町郵便局は、「裏の仕事」としてこの記憶チップの返却を行っている。
「記憶の墓場」と浮葉町の特別記憶喪失者との橋渡し的な存在らしい。その仕事を、現在の局長が引き継いだわけだ。
局長が暇を見つけては、すぐにどこかへ出かけていっていたのは、自宅で仮眠する場合もあるが、趣味の車を駆り、実は記憶の墓場に記憶チップを引き受けに行っていたのだった。
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