伸ばしたこの手を掴むのは〜愛されない俺は番の道具〜

にゃーつ

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 風邪をひいてしまってからずっと咳が長引いていて寝苦しい毎日が続いていた。でも、理玖さんがくれた薬を飲むと体が少し楽になった。

 施設にいた頃もここに来てからも薬を飲む機会なんてあまりなかったし、こういうのって耐性がない方が効くって耳にしたことがあるからそのおかげで効くのかも。

 なかなか完治しない風邪のせいなのか頭がそーっとする。顔は熱っていてあついのに手先足先などの体の末端はすごく寒い。意識がフワフワする感覚で不思議だ。でも感覚的には苦しいって感じだ。

 俺ってあとどれくらい生きていられるのかな。やり残したことがあるのかすら分からない。そういえば、施設にいた頃に読んでいた漫画は完結したのかな。主人公が悪の組織のボスで立ち向かってくる勇者と何度も戦う話。悪役が主人公なんて珍しくて夢中になって読んだ覚えがある。

 こうなってしまえば俺を捨てた親って元気に生きてるのかな。会ってみたいとかそんなんは思わないけど、俺を施設の前に捨てたけど、それでも命懸けで産んでくれたんだよな。自分が妊娠して出産して分かった。妊娠中は怖くて仕方なかったのに産まれるときはどうか無事で産まれてくれって、自分の命なんてどうでもいいからって。命懸けっていう言葉がこんなにも当てはまることってあるんだってそう思った。

 だから、俺を捨てた親も産まれる瞬間だけは命をかけて産んでくれたから元気に生きているといいなってそう思う。

 もう死ぬんだって思うと後悔とかやり残したこととかが自分の中でどんどん溢れるもんだと思ってたけど、実際はそんなことなくて今の願望と言えば自分の産んだ子供に会ってみたいことと、ひまわり園の園長に最後に会いたいこと、、ぐらいかな。

 俺がひまわり園にいたころに施設にいたみんなはもうほとんどが成人して施設を出てるか里親の元へ引き取られてるだろうな。そういえば、隼人は今どこで何してるんだろうな。

 俺が人生で唯一仲良くしていた友達と呼べる存在。それも隼人が引き取られてからは疎遠になってしまったけど。

 俺にだって小さい頃は夢があったはずだけど、それすら思い出せなくなった。まだ少し動く腕を蜘蛛の巣の張った天井に向かって伸ばす。伸ばした手は誰からも握られることなんてなかった。親からも、番からも、自分の子供からも。来世というものがあるのなら、贅沢は言わない。貧乏でいいし、容姿だって整ってなくていい。1人でいいから俺の手を取って握ってくれる人がいてくれる人生を歩みたい。それぐらい叶えてくれよ、神様ってやつがいるならさ。

 今日は子供達の声が聞こえない。毎日の楽しみなんだけどな、、、。1番下の子はそろそろ歩いたかな。真ん中の子は多分女の子だと思うんだけど、今は幼稚園とか行ってるのかな。1番上の子は、たぶんゆうって名前かあだ名かな?もう10歳とかだよな多分だけど。俺の子供達ってどんな子達なんだろうな。


 ---ギィ

「・・・楓君」

「・・・?理玖さん、、?」

 この人また来たのか。すごいな、飽きもせずに。あ、でもこの間の薬のおかげで少し楽だったからお礼言わないといけない。でも、だめだ。もう声出ない、、なんでだろ、、。

「酸素マスク早く!!すぐにストレッチャーに乗せて救急車へ!!」

なんだかすごく騒がしい。この蔵にたくさん人がいる。出産の時でさえお医者さんと看護師さんの2人だったのに。

俺、ここから出されるの?

体が浮いたと思うとストレッチャーに乗せられた。やっぱり、この蔵から出されるんだ。

・・・嫌だ。ここにいないと柊さんは来ない、、、。

「ゃ、、いや、、ここにいる」

「楓君?」

「柊さ、、ん、ひ、らぎさんのとこにいる!離れたくない」

ここにいなくちゃ、柊さんが来るかもしれない、、。

俺が頑張れば、俺が元気になれば、柊さんは来てくれるかもしれないんだ。でも、俺がここを離れて仕舞えば会えなくなる。そんなの嫌だ、俺はここにいたい。

思う通りには動かない体を必死に動かして抵抗するが俺の抵抗なんて微々たるものでストレッチャーから降りることなんてできない。それでも抵抗し続けたかった。俺は、柊さんの番だから柊さんの近くにいなくちゃいけない。番だから、子供だって産めと言われたら産まなくちゃいけない。どれだけ体がボロボロになったって産まなくちゃいけないんだ。

ここから連れ出されたら、柊さんともう会えなくなる気がした。

「楓!!死んだら何の意味もないだろ!!」

知らない人がそう叫んだ。さっきいろいろ指示してた人だ。

「・・・っ、、、」

死んだら意味がない。そんなこと分かってる、、、でも、柊さんはそれを望んでるでしょ?番が望むことなら、叶えなきゃ

「楓!!お前の人生だろ!!生きろ!!」

今日初めて会った人にそんなふうに叫ばれて響くわけないのに、どうしてか俺の心にその言葉がスッと入ってきて俺が見て見ぬふりをしていた生きたいって気持ちに俺自身気づいてしまった。

俺は抵抗するのも嫌だと言うのもやめた。俺が抵抗する気がなくなったのがわかるとすぐに蔵から運ばれた。

太陽を直接体に浴びたのはかなり久しぶりで眩しくしくて仕方なかった。理玖さんがすかさず日傘を刺してくれたみたいでから目を開けられたが、太陽ってこんなに眩しかったんだな。

救急車に乗せられたところまでは覚えているが、そのあとすぐに俺は意識を失った。

意識を失っていた間に俺は11年もの間過ごした土地を後にした。

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