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しおりを挟む「ママ、ママ起きて。」
誰かに起こされるなんて何年ぶりだろう。施設にいた時といっても小学校ぐらいまでだ。中学や高校に上がったら逆に小学生を起こさなきゃいけないから早く起きないといけなかった。
起こされるのが久しぶりなのもあるけど、こんなに幸せな朝は初めてかもしれない。俺より小さな手で俺の胸あたりをすごく優しくトントンする優。
優、そんな弱く叩いても起きれる人いないよなんて思って可愛くて仕方なく思える。
目を開けると病室には日の光が差し込んでいて、これまではほとんどの時間を寝ていたから夜ご飯を食べて夜寝て朝起きるっていう当たり前のリズムが少し体にはしんどく感じたが優と暮らすためにもリズムを整えて早く退院したい。
それに、仕事も探さなくちゃいけない。番いがいなくなった俺では出来る仕事は限られるかもしれない。はやくんに相談してみようかな。
「ママ?起きた?」
「優、おはよう。」
「おはよう、ママ!ねぇママ、体大丈夫?辛くない?」
「大丈夫だよ?優しいな、心配してくれたのか?」
「うん、、、その、、」
少しモジモジしてる、、あ、そっか。
「優、ベッド起こしてくれる?俺、優のこと抱っこしたいな。」
パァっと表情が明るくなったことで俺の予想が当たったことが分かったと同時に、まだ甘えたいのを素直には言ってくれないのかと自分の無力感を感じてしまった。
「ママ」
俺も優もこれが夢じゃないって確かめたくてぎゅーっと強く抱きしめる。なんで俺は行動を起こせなかったんだろう、、。この幸せをもっと早く味わえたのに。昨日寝る前に優が泣いた時にははそう考えてしまったが俺は前を向くことに決めたから。
「優、もう少しで朝ご飯来るからまた俺の横で食べるか?」
「うん!!ねぇママ!今日理玖おじさんが宿題持ってきてくれるから分からないところあったら教えてくれる?」
「あぁ。ママはそんなに頭良くないから優の方がもしかしたら頭いいかもだけどな。俺が教えられるやつだったら教えるよ。」
「ママありがとう!!」
「学校は楽しいのか?俺が学生だったのって10年以上前だから昔とはやってることも違うのかな。」
「んー、勉強は嫌いじゃないし、体育とかも楽しいよ!あとね!英語の授業が俺は好き!」
「え、英語?小学生だろう?英語って中学生からなんじゃなかったか?」
「ううん、英語の授業あるよ?」
俺があの蔵にいた11年で日本人が英語ペラペラになってるのかな。俺喋れないけど、大丈夫なのかな。仕事の必須条件だったらどうしよう、、、。11年ってそりゃあ色々変わってるよな施設を出てから携帯もテレビも新聞もなくて俺が知らないこときっといっぱいあるよな、、、。
「俺、優より知らないこと多いかもしれない。こんなママでごめんな。」
「俺はママがいればそれでいいよ?ママがどんな人でもいい。ママが大好き。」
優がそう言ってくれるならいっかって思ってしまうのは優が可愛いから仕方ないよな。
それに、退院したら優と暮らすんだ。それが楽しみで仕方ない。
昨晩、優に俺と暮らして欲しいと話した。柊の家の時のように裕福な生活はさせてあげられない。貧乏になるかもしれない。ママは頑張って働くけど、欲しいもの買ってあげられない時もあるかもしれないって正直に話した。そしたら優は
「ママと暮らせるなら俺毎日ご飯なくてもいい!誕生日とかもプレゼントいらない!あと、あと、服もいらない!おもちゃも!だからママといたい!俺の欲しいもの買うためにママが働いて苦しいのは嫌だ。」
そう言ってくれた。だから俺は働きすぎて倒れるとか体調崩すなんてことになっちゃダメだ。そうならない働き方をしなくちゃいけない。Ωの俺にそんなに選択肢はないけれど、優のために生きるって決めたから頑張れる。
---コンコンッ
「はい!」
「お、起きてたか。」
「はやくん!」
「楓、朝飯の前に血圧と熱測るから腕だせ。」
こうやってるとはやくんがお医者さんなんだなってのを実感する。でもやっぱり昔のはやくんのイメージが強いから違和感がすごい。
「なんだ?俺に見惚れたか?」
「ううん、はやくん本当にお医者さんなんだなって思っただけだよ。あ、ねえはやくん。俺、退院したら働きたいんだけどΩの俺でも働けるところってあるのかな?」
「は?何言ってんだお前。今人雇うのに性別なんか関係ないぞ?αでもβでもΩでもどこだって就職できるぞ?あ、お前11年外のこと知らないから知らねえのか。6年前ぐらいに法律で決まったんだよ、性別によって雇用差別禁止ってな。それに今は昔より抑制剤も副作用なしでよく効くものがたくさん出てるからヒート中だって働こうと思えば働けるぐらいだぞ?」
し、知らなかった。そうなのか、、、良かった。なら俺働けるんだ。
「まあそれ以前にお前は働かなくても金には困らないんじゃね?」
「なんで?俺お金なんて持ってないよ?」
「お前、今回のことでどんだけ慰謝料取れると思ってんだ?柊の本家からも払われるだろうから相当な額だぞ?」
「ちょ、はやくん!!優の前でその話しないで!!!」
慰謝料なんて頭に無かったし驚いたけど、そんなことより優の前でそんな話をして欲しく無かった。優は俺の子供だけど、これまでは柊の家で育ってるんだから。
「いいよ、別に。俺はママのことしか好きじゃない。」
「優、、。ねえ優?優がママのこと好きなのはすっごい嬉しいんだ。でもね、優がこれまでご飯食べたり学校行ったりできたのは優のお父さんお母さんとか柊の家の人でしょ?だから感謝は忘れないでね?」
俺自身、施設にいたことでご飯が食べられることも学校に行けるのも当たり前じゃないことを日々感じていたから優には感謝の気持ちを忘れないで欲しかった。それが俺にとっていい思い出の無い相手だとしても。
「わかった。ごめんなさい、ママ。」
「ううん、俺も偉そうにごめんね?でも、優にはありがとうがたくさん言える人になって欲しいんだ。大好きだよ。」
「うん。俺もママ大好き、ありがとう。」
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