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しおりを挟む「ママ!ただいま!!」
さっきまであんなに暗い顔していたのにママには気づかれたく無いらしい。ニコニコしながら扉を開けたその姿に少し胸が痛む。優、ママに甘えるっていうのはただただ抱っこしてもらう手繋いでもらうだけじゃない。自分が苦しい時に助けてっていうのも甘えのうちなんだぞ。そう言ってやりたい。
「・・・優、おかえり。理玖さん、楓の送り迎えありがとうございます。」
楓君の様子が少しおかしい気がする。いつもならすぐに優に今日どんなことがあったのか聞いているのに。気のせいか?
「優・・・なんかあった?」
「ぇ?」
「朝より元気なくなってる。なんかあった?それか体調悪い?」
「・・・ちょっと、嫌なことがあって。」
「そっか。おいで?」
楓君はその嫌なことを聞かずに優を呼び自分の膝に座るように誘導した。そのタイミングで2人の方が話しやすいだろうと思って病室の外へ出た。と言っても、少し気になるから扉にもたれかかり中の会話に聞き耳を立てる。
「優、今日の昼ごはんはオムライスだってさ。俺今日リハビリで支え無しでかなりの距離歩けたんだ。退院する時には普通のスピードで歩けるようになるといいなって思うけどどうだろうな。優のお爺さんがくれたマンションもここから近いしな。」
「うん。マンションここのすぐ近くだから退院の日俺とママで手繋いで歩いて帰れるね。」
楓君は優から何か聞き出すことはなく自分の今日の出来事を語り始めた。先ほど何かがあったと気づかれて、なんて言おうと困惑していた優も今はママとの会話を楽しんでいる。2人で眠れるくらいの大きさのベッド買おうとか優の勉強机はどんなのがいいとかたわいもない話をしているうちに優の声色が泣きそうな声になっている。そのことにおそらく気づきながらも問い詰めることもなく何事もないように会話を続ける楓君。
「俺、施設出る前に園長先生に料理とか習ってたけど今となってはできるか分かんないな。優のご飯は俺が作りたいから退院したらちゃんと練習するからな?学校は給食だから朝ごはんと夜ご飯か。」
「遠足の日はお弁当だよ。俺に作ってくれる?」
「もちろん。上手にできるか分かんないけど優のためなら頑張れるよ。」
「ママが作ってくれるなら日の丸弁当でも嬉しいよ?」
「日の丸弁当って!俺そんなに料理下手じゃないからな!退院したら美味しいの作るからな~」
「・・・ママ」
「ん?どうした?俺の料理の腕信じられないか?」
「今日日和と陽介に会いに行ったんだ。」
優は今日のことママには言わないでと言っていた。ママが悲しむかもしれないから伝えないって。優自らそう言っていた。
優は強く見える。おそらくαなんだろう。
大切なママを守るって想いで心を奮い立たせているがまだ10歳の男の子だ。こうしたいのにできない。なんでできないの。どうしてできないの。そんな葛藤を感じて自分の理想と現実とのギャップに苦しんでいる。強く見えているけど人間なんだ、弱い部分もある。
「日和にママのこと言ったんだっ。でも、理解してもらえなかった。日和がまだ幼いからっていうのは分かってるっ!でも、俺たちを命がけで産んでくれたのはママなのに、ママは俺たちのことずっとずっと大切に思ってくれていたのに、それを分かってもらえなかったのが嫌だった!俺、お兄ちゃんなのに日和に怒鳴っちゃった。」
「うん。ありがとうな、優。ママすげえ嬉しいよ?優が俺のことそんなに大切に思ってくれているだなんて最高だ。なあ優、俺の一番の願いって何か分かるか?ヒントは俺の3人の子供達。」
「俺たち3人と暮らすこと?」
「ううん、違うよ。」
楓君のこの答えには俺も驚いた。子供達と暮らすのが楓君の願いかと思っていた。確かに提案したのは俺だけど、楓君自身もそれを目指していると思っていたからだ。
だとしたら、楓君の願いって?
「俺の1番の願いは優を産んだ日から変わってないんだ。蔵から出る前までもずっとそれを願って来たし、今入院していてもずっと願ってる。退院して、俺が死ぬまで願い続けるって断言できる。」
「そのお願いって何?」
「俺の1番の願いは、俺が産んだ子供たち3人が笑顔で幸せに過ごせること。ただそれだけだよ。別にそこに俺がいなくたっていい、俺が関われなくたっていい。希望を言っていいなら俺がそばにいて育てたい。でも、俺のそんな希望差し置いてでも3人が笑顔でいることが1番大事なんだ。だから、優も日和も陽介も、3人ともが笑っていられる毎日が大切。だから俺、優にそんな悲しくて泣きそうな顔して欲しくない。」
「焦らずに少しずつだよ。俺はまず、優と2人で暮らせるの楽しみにしてるんだから。」
「うんっ、俺もママと一緒に暮らせるの楽しみ。」
「だろ?新しい生活が落ち着いたら俺は日和や陽介に会いに行く。それまで優が日和と陽介とたくさん会って遊んであげな?もうすぐ日和誕生日だろ?」
「日和の誕生日覚えてるの?」
「全員の誕生日覚えてるよ。あの部屋にカレンダーも時計もなかったけど、産まれた瞬間は日付と時間を記録するのにお医者さんが言うからな。」
「そうなんだ。俺は?」
「優は2月11日の18時36分だよ。」
もう大丈夫そうだな。中から2人の笑い声が聞こえる。優の演技なんて楓君にはお見通しだったんだ。
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