緋色の王女と黒の領主ー夫は冷徹魔族の領主様ー

漣 出雲

文字の大きさ
1 / 6
第一章 夜に昇る宴

01 プロローグ

しおりを挟む
01



真夜中の、とある城の一室。
部屋には紙上を走るペンの音だけが、微かに響く。


言葉も無く。無表情のまま、黙々と。
義務的に手を動かし、男は黒い筆跡を残していく。

それを見守るのは、この国の政を執る者たち。

彼等は、決してこの男に対して非難の言葉を口にしない。口にしたが最後、直後に待っているのは、彼の手による確実な死だからだ。


不意に、カリ、とペンの動きが止まった。
ペン先のインクを布でふき取り、男は最後に己の親指を噛んで、血の滲むその指先を紙面に押し付ける。


「契約は済んだ」


無機質な声で男は言う。


「これで、婚約は成立された」


その決定に対して、誰一人として拒否権など無いと。
念を押されなくとも、そんなことは皆が知っている事なのに。無情にも、あえてその事実を男は突きつけた。

差し出された水にも酒にも、何一つ手を付けず。
彼は席を立つと、早々に帰り支度を始める。

後ろに撫でつけた黒髪。
闇を吸い込んだかの様な双眸。
黒を基調としたモノトーンの正装に、同じく黒の外套。

死人の様に物言わぬ者達を一瞥すると、最早この場に用は無いとばかりに身を翻し、男は早々に部屋を出て行った。


――途端、部屋に、皆の深いため息が漏れる。

皆が恐れるのは、至極当然の事だった。

あの男に、人の心を理解せよ等と望むことは不可能な事だから。
冷徹で慈悲も無く、人間を厭わしいと口にする、ヒトに非ざる生き物だから。

すなわち――“魔族”と称される存在であったからだ。


そして何より、彼等が苦悶して止まないのは。
あの男が、あの冷徹非情な男がーー

皆にとって何よりも愛おしく、誰よりも大事に育ててきた我らが幼い王女ーーティナ=クリスティーンの夫となったという事実に対し。

誰一人として抗う事が出来ないという、無力感に打ちひしがれていたからなのであった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...