THE DARK ― 大手法律事務所のエースは妖しいバーテンダーの手中に堕ち、自我を覚醒していく

たろまろ

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main course ― 主料理

秩序

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 先月、学生時代の友人数名と、とあるビルの三階にある居酒屋で飲み会をした。
 その時入り口で、そのバーのマスターとぶつかった。
 女みたいな整った顔立ち。いや、女より美人かもしれない。一瞬、そう思った。男は俺の謝罪にニヤリと笑い、ひょいと肩をすくめると地下の階段を下りて行った。

 下には何があるんだ。倉庫か?

 疑問に思った俺は、エレベーターへ乗り込みビルの案内版を見た。一階から三階は居酒屋。四階はスナック。地下一階はジャズバーとあった。

 ああ、なるほど。地下一階にも店があるんだ。ジャズの店か。へ~。

 その日は三階の居酒屋でみんなと飲み、食い、騒ぎ、二次会に男だらけのカラオケ大会へと繰り出した。それから数日後、ジャズの店が気になった俺はもう一度そのビルを訪れた。

 今思うと、俺にしては珍しい行動だった。
 俺はオーソドックスを好む。決して新しもの好きでもないし、既婚者の身でもあるから、出会いや刺激など欲していない。全てを捨て冒険に出たいなんていう壮大な夢も持ってない。規則正しい生活が性にあってる俺には、サプライズは無意味だ。無意味どころか悪趣味とさえ感じる。
 想定外の出来事なんて、正直心臓に悪いだけだ。
 自分の決めたスケジュールを完璧にこなす。描いた通りに理想の毎日を滞りなく過ごす。それが無常の喜びだった。

 法廷での弁護士としての仕事も同じだった。
 検察側の用意した証拠の穴を見つけ、それがどれくらいこじつけかを裁判官へ説明する。
 思った通りに進む展開。判決。予想通りの無罪。それは驚きでは無かった。俺には当然のことだった。
 強い信念のもと、俺は理想の仕事へ就いた。

 疑わしきは罰せず。

 基本的人権を擁護し、社会正義を実現するという使命。社会の秩序を守る意識。どんな人間にも法律は平等であるべき。その理想は決して揺るがない。守られるべき権利が守られる。それこそが社会正義であり、法による秩序なのだ。
 そうでなければ、声の大きい者、力の強い者の言葉だけが通ってしまう世の中になってしまう。
 法律が完璧とは言い難い面もあるのは勿論分かっていることだ。だがしかし、法律があるからこそ、人は理性的に生きられる。

 無秩序な世界へ足を踏み入れてしまえば、人間はあっという間に獣へ落ちてしまう。その危険と隣合わせの世界に我々は住んでいる。それを誰も知らない。みんなこの世界は安全だと思っている。この平穏は一生続くのだと。

 本当は違うのだ。

 罪を犯す者。裁く者。裁かれる者。それを傍観者として、ただ見ているだけの者。そのどれかに分類されなければ、残りは被害者。たった五つの分類しかないのだから。

 誰にも分からない。

 いつ自分が、どの分類に属することになるのかなんて。
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