上手な異世界での逃げ方~勇者の私は普通に生活するんで皆さん頑張ってください~

亜久里遊馬

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第1話:神様から逃げられません

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 そうか……私死んじゃったんだ。轢かれそうな猫を助けて道路に飛び出して。あの猫、生きているかな? 元気に暮らしているといいな。

 それにしても……と周囲を見渡してみる。天国は暗かった。それとも私、地獄に落ちたの? そんな悪いことはしてないと思うけど。


「ここは地獄でも天国でもなあい!!」


 あれ!? これって人の声!? 私もしかして生きてるの?


「日向夏美(ひなたなつみ)、お前さんは死んだ」


 無情な声が響いた。
 
 そして、闇の中から突然スポットライトを浴びたお爺さんが出てきた。地獄にも天国にもふさわしくない元気の有り余っていそうな笑顔だ。つけ加えると、アロハシャツと半ズボン。夏真っ盛りだね、お爺さん。
 
 自分のお爺ちゃんを思い出す。お爺ちゃんも筋肉何とかっていうモノを食べて無駄にムキムキだった。よく海で見せびらかしていたっけ。

「死んだけど、生きることになるのだ」

 何を言っているの?

「神であるワシの厳正なる抽選の結果、お前さんは地球70億人の人間の中から勇者に選ばれた。死ぬ前に助けた猫のお礼かもしれんな」

「勇者って? それに抽選っていうのはどういうことです?」

「勇者の資質というものはな、強いだけでは駄目なのだ。ワシはお前さんを勇者のように強くはしてあげられるが、一つだけできないことがある。それが『運』じゃ」


 私の話もあまり聞かずにお爺さんは話し続ける。スポットライトの光が眩しい。彼の頭に反射して、私に直撃している。


 お爺さんは歯をむき出してニカッと笑った。


「この……人間でいうところのガラガラというヤツでな。ハンドルを握ってぐるぐると回したんじゃ。そこで出てきた玉にお前さんの名前や高校、住所や趣味、3サイズなどが載っておった」


 個人情報が神にも流出している世の中。恐ろしい……と思ったんだけど、よく考えると神なのだから人間のすべてを知っていてもおかしくはない。


「さて、勇者よ」


 いつの間にか勇者と呼ばれている。


「お前さんは、ワシの管理外の世界で活躍するのじゃ。少しばかりやらかしてしまっての。本来はワシがなんとかできたんじゃが、外から手が出せんようになってしもうた。だからお前さんに頼みたいというわけでな」


 とてつもなく嫌な予感がする。身体の感覚はないんだけど、自分が震えているように感じた。


「それってもしかしなくても……魔王と戦って……ということですか?」

「飲み込みが早い子は好きじゃよ」


 ……冗談じゃない。私は死んでしまったのなら、天国でゆっくりと暮らしたかった。間違っても勇者になんかなりたくない。


「ほれ。これが装備一式とお金じゃ。もっと凄いモノをもっていかせたいんじゃが、魔王の結界がちと厄介でな。あとは、己の肉体でなんとかして欲しい」


 いつの間にか身体が見えるようになり、自分が軽いファンタジックな防具を身につけていることがわかった。腰には鞘に収まってる剣。そして、どこのものかわからない銀貨が袋に入っている。


「さらに……ふん!!」


 顔を赤くして力んだかと思うと、私へ向かって赤い光線が飛んでくる。走り回って避けようとしたけど、自動追尾型らしい。ついには、捕まってしまった。

 身体の奥から熱いものが込み上がってくる。まるで私の血管にマグマが流れたかのような信じられない痛み。けれど、すぐに痛みは治まり代わりに力が溢れ出してきた。今なら神でも殺れそうだ。


「では、もう異世界に送ってしまっても良いな」

「ま、待って! 不穏なこと考えて、ごめんなさい!!」

「答えは聞いてない!」


 一転。視界が暗くなる。やりきったという顔の神のお爺さんが最後に見えた気がした。


「バカヤロー!!」


 精一杯叫んだけど、声が届いたかはわからない。そのままズブズブと沈むように。

 私は……神様からは逃げられませんでした!
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