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第2話:国王から逃げられました
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目が覚めると国王の前だった。何を言ってるのか私にもわからない。
気品のある絨毯、壁、椅子。椅子には、少々気品にかける国王様が座っていらっしゃる。日長一日そこにいるのだから、責めるわけにはいかないけれど。
彼は、兵たちをかき分けて私の元へとやってきた。
「おお、おお! 我らの祈りが通じた! 神が勇者様をこの国に……何と有り難いことだろう。皆、体現した奇跡に感謝の意を示せ!!」
銀色の甲冑を身にまとった兵たちが通路を開けるように並び、槍を下へと落とす。そのまま、掛け声と共に振り上げた。
「お゛お゛お゛ーー」という野太い声が部屋の壁に叩きつけられる。
「ささ、勇者様こちらへ。魔王討伐を焦ることはありませぬ。今夜は宴としましょうぞ!」
「あのー」
「何でございますか? もしや歓迎の言葉が気に入らなかったのでは……!?」
「いえ、私ちょっと用事があるので帰りますね」
「勇者様はこちらに家をお持ちなのですか? 突然宙から現れたので、別の世界の方だとばかり……」
何だろう。ここでいくら私のことを説明しても、結局神輿のように担がれてしまう未来が見える。
「仕方がない……か」
「え!?」
「それじゃあ、失礼しまーす!」
唖然とする国王と、同じく動けないでいる兵たちに背を向けて私は走り出した。お爺さんの言ったとおり、身体能力は大きく向上しているみたい。車と競争できるほどの速度で、私は城下へと向かった。
「おばさん、これちょうだい!」
途中で寝袋のようなものを売っている女性に銀貨を投げる。思っていたより高額な貨幣のようで、驚いて見つめている。
「お釣りはいらない。早く」
目を回しながらも、寝袋を手渡してくれた彼女にお礼を言い、私は大通りを避けて城壁を登った。ゆっくりと街を見ている余裕がないのは残念だ。異世界に来てしまったのだったら、名物料理やアクセサリを見て回りたかったのに。
城壁上。誰か見張りが気づくかと思ったけど、中から飛び上がってくる人間がいるとは考えていなかったらしい。音をたてずに、そのまま深い森の中を走り抜ける。
「まさか森全体を捜索したりしない……よね?」
断言はできないので、奥に見えた岩山の麓へと向う。この間、体感時間で約5分ぐらい。自分でも恐ろしくなる。
女子高生としての体力で普通に歩けば……2~3日? そもそも、到達できそうにない。
勇者の耳を澄ませてみても動物の声が聞こえない。少し不気味だけど、あの城の兵が自ら進んでやってくる可能性も減る。
私は特に静かな場所にある洞窟を選び、荷物を置いた。寝袋と思って買ってきたのは、どうやら旅セットだったらしい。水筒や少しの保存食が入っていた。嬉しい誤算だ。
「でも……宴……かあ」
出て来る料理、美味しいんだろうなあ。勇者やらなくていいんだったら、食べて帰るんだけどなあ。
「考えても仕方がないか。今日は寝よ」
明日どうすればいいかなんてわからない。でも、まずは国王も把握していない田舎へと逃げて、宿でゆっくりと休もう。そしていつか小さな家を買って……
こうして、私の異世界生活1日目は慌ただしく終わった。
私は、国王から逃げられました。一応。
気品のある絨毯、壁、椅子。椅子には、少々気品にかける国王様が座っていらっしゃる。日長一日そこにいるのだから、責めるわけにはいかないけれど。
彼は、兵たちをかき分けて私の元へとやってきた。
「おお、おお! 我らの祈りが通じた! 神が勇者様をこの国に……何と有り難いことだろう。皆、体現した奇跡に感謝の意を示せ!!」
銀色の甲冑を身にまとった兵たちが通路を開けるように並び、槍を下へと落とす。そのまま、掛け声と共に振り上げた。
「お゛お゛お゛ーー」という野太い声が部屋の壁に叩きつけられる。
「ささ、勇者様こちらへ。魔王討伐を焦ることはありませぬ。今夜は宴としましょうぞ!」
「あのー」
「何でございますか? もしや歓迎の言葉が気に入らなかったのでは……!?」
「いえ、私ちょっと用事があるので帰りますね」
「勇者様はこちらに家をお持ちなのですか? 突然宙から現れたので、別の世界の方だとばかり……」
何だろう。ここでいくら私のことを説明しても、結局神輿のように担がれてしまう未来が見える。
「仕方がない……か」
「え!?」
「それじゃあ、失礼しまーす!」
唖然とする国王と、同じく動けないでいる兵たちに背を向けて私は走り出した。お爺さんの言ったとおり、身体能力は大きく向上しているみたい。車と競争できるほどの速度で、私は城下へと向かった。
「おばさん、これちょうだい!」
途中で寝袋のようなものを売っている女性に銀貨を投げる。思っていたより高額な貨幣のようで、驚いて見つめている。
「お釣りはいらない。早く」
目を回しながらも、寝袋を手渡してくれた彼女にお礼を言い、私は大通りを避けて城壁を登った。ゆっくりと街を見ている余裕がないのは残念だ。異世界に来てしまったのだったら、名物料理やアクセサリを見て回りたかったのに。
城壁上。誰か見張りが気づくかと思ったけど、中から飛び上がってくる人間がいるとは考えていなかったらしい。音をたてずに、そのまま深い森の中を走り抜ける。
「まさか森全体を捜索したりしない……よね?」
断言はできないので、奥に見えた岩山の麓へと向う。この間、体感時間で約5分ぐらい。自分でも恐ろしくなる。
女子高生としての体力で普通に歩けば……2~3日? そもそも、到達できそうにない。
勇者の耳を澄ませてみても動物の声が聞こえない。少し不気味だけど、あの城の兵が自ら進んでやってくる可能性も減る。
私は特に静かな場所にある洞窟を選び、荷物を置いた。寝袋と思って買ってきたのは、どうやら旅セットだったらしい。水筒や少しの保存食が入っていた。嬉しい誤算だ。
「でも……宴……かあ」
出て来る料理、美味しいんだろうなあ。勇者やらなくていいんだったら、食べて帰るんだけどなあ。
「考えても仕方がないか。今日は寝よ」
明日どうすればいいかなんてわからない。でも、まずは国王も把握していない田舎へと逃げて、宿でゆっくりと休もう。そしていつか小さな家を買って……
こうして、私の異世界生活1日目は慌ただしく終わった。
私は、国王から逃げられました。一応。
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