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第25話:この世界から、まだ逃げられないみたいです
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「パーフェクトな朝! 戦いには絶好の日だと思わないか?」
ちょ、ちょっと待って。
この口調は……。
「いやあ、あんなに目立つ光は久しぶりだった。勇者よ、やはりそなたは素晴らしい!!」
少年の姿は、少しずつ大きくなり、やがて、この前あったばかりの魔王になった。
くそー。2段階変身とかずるいぞ!!
それに……どこかで不安に思っていたことが的中してしまった。
魔王に見つからないように静かに行動していたのに、あの花火は目立ちすぎた。
魔王の新しい魔法だと思われる、なんて考えていた自分が馬鹿だったと思う。
『魔王の』と思われるのなら、『魔王が』それに気づいてもおかしくないのに。
「ガッツ! ミラ!! 起きて!!!」
「すまんなあ。俺たちの戦いの邪魔はさせたくないのだ。前はドラゴンにやられてしまったからな。心配せずとも、眠っているだけだ」
心配には、私自身の身の心配も含まれているんですけど!
背中から見事な剣を引き抜き構える魔王。
「待った!!」
「何を待ったというのだ。せっかく二人きりになれたのだろう?」
普通のシチュエーションなら。口説いているとも思える言葉。
なんでだろうな。
言って欲しい言葉ランキング50位以内に入るのに、こんな場所でね……。
「私は聖剣とか持ってないし、卑怯だよ! 対等に拳で勝負をしよう」
せめてもの抵抗だ。
それにあの魔王ならのってくるに違いない。
「それはよい。拳での語り合いというものも悪くないものだ」
勇者と魔王の戦いがボクシングで決まるというのもなかなか珍しい……とりあえず私は聞いたことが無い。
「よし! いくぞ!!」
魔王が左でフェイントを放ってくる。
なんで!?
なんで魔王がボクシングっぽい動きをしてるの?
確か私の世界のボクシングは最新技術がぎゅっと凝縮されたような……。
「ふははは! 拳闘も魔王の嗜み!!」
「そ、そうなの?」
「正直に言ってしまうと、俺の趣味だがなーー!!」
やはり、この魔王に常識は通用しない。
ただ……地上での戦いは飛べない私には有難かったし。
それに魔法勝負になったりしたら、金魔法しか使えない私はどうなるんだ!?
フェイントは読めたので、あの……なんだっけ?
そうそう、カウンターで拳を放ってみた。
「ぬおう!!」
おお! さすが勇者の力!!
魔王の肩を捉えた。
よし、ボクシングのこと少しずつ思い出してきたぞ。
有名な漫画で読んだことがある。
そう……で、で、でんぷしーろーる!
八の字を描くように、身体を低くして接近すると、異様な動きに魔王が後ろへと下がる。
えーと、確か……左右から繰り返し殴っていけばいいんだっけ?
「くらえ!!」
「な、なんだその動きは。捉えきれぬ」
魔王はかなり狼狽している。
そこに拳を撃ち……あ、やばい滑った。
片足で身体を支えたけど、パンチは勢い良く空振りしてしまった。
正確にいえば、かすったぐらい。
「フ、フハハハッ!! 今のは面白かった!! さすが勇者。楽しい戦いができそうだ。さあ、今度はこちらの、ば、ん……?」
魔王の足がふらついている。
あれ? 私空振りしたよね?
なんで魔王がそんなにヨロヨロしているの?
「あ、顎を狙うとは……本当に強い。俺も拳闘の修練を積んできたが、少し正攻法すぎたな。まさか、こんな方法があるとは……。脳を揺らし、混乱させる。見事な戦術だ」
やめてよー!!
そんなに言われたら、偶然だったって言いにくいじゃない。
ただ、魔王も万能じゃないことはわかった。
わりと身体のつくりは人間に似ているのかも。
「くっ!! 勝負を続けたいところだが……、このダメージでは眠ったものたちへの魔力が途切れてしまう。勇者はやっかいだが、あのドラゴンと小娘の魔力も侮れん」
お、おお。
この感じ、逃げてくれる流れだよね?
そうだよね?
「だが……俺は魔王!! ここで引いては魔王の名がすたるというもの。起きてしまったならば、まずは2人を気絶させる。そこから再戦といこうではないか!?」
だめだー!!
この魔王に常識は通じないんだった。
どう考えても「フハハハ、ここは一旦引いてやろう」という場面だよ。
身体をよろけさせながらも、身体を前のめりにして戦闘態勢をとる魔王。
自然回復させてはだめだ!!
「ガッツ! ミラ!! まじで起きて、死ぬ気で起きて!! 私の生き死にがかかってるんだってば!!」
返答の代わりに「ぐおー」というガッツのいびきが聞こえてくる。
これは……私一人で逃げた方がいいかな?
魔王は絶対に私についてくる。
2人の寝顔を見ながら、私は残った力を振り絞って……私の背に見える、街へと……逃げた。
これは逃亡ではなく、計画的な後退なんだよ!!
想定通り、魔王が追ってくる。
飛んでいるけど、まだそれほど早くはない。
よし、街まで行って……街まで行ってどうしよう?
前に見えてくる街は大きく、穏やかそうな雰囲気だ。
そこに魔王を引き連れて入っていくなんてことは、いくら逃走優先とはいえ、できない。
「ぬー、どうしよう」
「フハハハッ!! 身体もだいぶ調子を取り戻してきたぞ。街に入る前に最終決戦をしよう」
あ、意外と優しいのね。
だったら私も……。
もう、2人は見えなくなっている。
ここまで来たら、大丈夫だろう。
私は逃げるのをやめて、下りてくる魔王を待った。
待っていたはずだった。
「ん……?」
魔王の下りてくる途中に、黒い円のようなものが見える。
新しい魔法かな?
魔法合戦になったら余裕で負ける自信があるよ、私。
けれど、魔王自身が慌てている。
勇者の私以外に敵なんて……。
「じ、爺や、待て! 俺は勇者との決戦中なのだ。帰って休んでおれ」
「そうは言われましても、正直な所、魔王様1人で戦われるのはいささか心配でありましてな。どうしてもというのであれば、再度魔王軍を率いてお戻りください」
「俺の一対一の戦いの邪魔をするというのか!? いくら爺やと言えども許さんぞ!」
私を置き去りにして会話が進んでいく。
このまま逃げちゃっていいかな?
でも、魔王軍が襲ってくるなら情報も欲しいし……。
「それでは前魔王様の代わりとして申しましょう。一度ひいてください」
「ぐ、ぬぬぬ」
へぇー。
魔王にも苦手な人がいるんだ。
前魔王の側近だとしたら、魔王のおじさんみたいなものかな?
しばらく黒い円に向かって怒鳴っていた魔王は少しずつ元気をなくしていっていた。
「ああ、うむ。そうか。はあ。ああ、わかったよ」
魔王が疲れ果てた顔でこちらを向いた。
かと思うと、パンと自分の頬を平手打ちし、気合を入れる。
「勇者よ! 残念だが、貴様との勝負、あずけるぞ!! だが、俺はアクティブな魔王。必ずまた貴様の前に――」
髪をなびかせながら、円の中に吸い込まれていった。
私が呆然としていると、後ろから声が聞こえる。
「あー、なんか眠っちまったみたいっすね。あの少年はどうしました?」
「あれ? 先輩汗かいてます? なんかあったんですか?」
なんかあったも何も、ついさっきまで魔王と戦ってたんだよ。
と、言いたいところだけど、ガッツはともかくミラは自分を責めるかもしれない。
ここは流しておこう。
「は、はは。ちょっと運動がしたくてさ。みんなを置いて少し走ってたんだよ。あと、男の子は逃げてた。さすが、エルフだね!」
自分で言っても苦しい言い訳!!
でも、2人は何の疑問もだかずに、信じてくれた。
これぞ、私の人徳だ!!
これ以上ボロを出してしまわないように、街へ向かって歩きだす。
空はさっき魔王が飛んでいたと思えないほど、明るくて、日差しが気持ちいい。
なんだろうね。
私……少しずつ、この環境になれてきてるのかな?
逃げるのはやめようとか……思ってるのかな?
時々感じていた。
自分がわくわくしていることを。
この世界が結構楽しいって思っていることを。
「少し頑張ってみるかあ」
「どうしたんです先輩? 急にそんなこと言い出して」
「いやー、なんかちょっと元気が出てきてさ」
「それは良かったです!」
ミラが可愛らしく微笑む。
うん、これでいいんだ。
私はしばらく逃げるのをやめよう。
皆で冒険していこう。
たぶん、こういうのってフラグっていうんだよね。
「いたぞー」「追えー!」「勇者様をお迎えするんだ!」
遠くから聞こえる声と、馬が駆ける音。
「お、国王軍がきたみたいっすね。ご主人、どうしますか?」
やっぱり前言撤回!
「逃げるよー!! みんな!!」
たぶん私の逃亡生活はまだ続くんだろうなあ。
でも……前よりはちょっとは楽しいかな?
体力のないミラを抱えながら、私は飛ぶように走る。
私はこの世界から、まだ逃げられないみたいです!
ちょ、ちょっと待って。
この口調は……。
「いやあ、あんなに目立つ光は久しぶりだった。勇者よ、やはりそなたは素晴らしい!!」
少年の姿は、少しずつ大きくなり、やがて、この前あったばかりの魔王になった。
くそー。2段階変身とかずるいぞ!!
それに……どこかで不安に思っていたことが的中してしまった。
魔王に見つからないように静かに行動していたのに、あの花火は目立ちすぎた。
魔王の新しい魔法だと思われる、なんて考えていた自分が馬鹿だったと思う。
『魔王の』と思われるのなら、『魔王が』それに気づいてもおかしくないのに。
「ガッツ! ミラ!! 起きて!!!」
「すまんなあ。俺たちの戦いの邪魔はさせたくないのだ。前はドラゴンにやられてしまったからな。心配せずとも、眠っているだけだ」
心配には、私自身の身の心配も含まれているんですけど!
背中から見事な剣を引き抜き構える魔王。
「待った!!」
「何を待ったというのだ。せっかく二人きりになれたのだろう?」
普通のシチュエーションなら。口説いているとも思える言葉。
なんでだろうな。
言って欲しい言葉ランキング50位以内に入るのに、こんな場所でね……。
「私は聖剣とか持ってないし、卑怯だよ! 対等に拳で勝負をしよう」
せめてもの抵抗だ。
それにあの魔王ならのってくるに違いない。
「それはよい。拳での語り合いというものも悪くないものだ」
勇者と魔王の戦いがボクシングで決まるというのもなかなか珍しい……とりあえず私は聞いたことが無い。
「よし! いくぞ!!」
魔王が左でフェイントを放ってくる。
なんで!?
なんで魔王がボクシングっぽい動きをしてるの?
確か私の世界のボクシングは最新技術がぎゅっと凝縮されたような……。
「ふははは! 拳闘も魔王の嗜み!!」
「そ、そうなの?」
「正直に言ってしまうと、俺の趣味だがなーー!!」
やはり、この魔王に常識は通用しない。
ただ……地上での戦いは飛べない私には有難かったし。
それに魔法勝負になったりしたら、金魔法しか使えない私はどうなるんだ!?
フェイントは読めたので、あの……なんだっけ?
そうそう、カウンターで拳を放ってみた。
「ぬおう!!」
おお! さすが勇者の力!!
魔王の肩を捉えた。
よし、ボクシングのこと少しずつ思い出してきたぞ。
有名な漫画で読んだことがある。
そう……で、で、でんぷしーろーる!
八の字を描くように、身体を低くして接近すると、異様な動きに魔王が後ろへと下がる。
えーと、確か……左右から繰り返し殴っていけばいいんだっけ?
「くらえ!!」
「な、なんだその動きは。捉えきれぬ」
魔王はかなり狼狽している。
そこに拳を撃ち……あ、やばい滑った。
片足で身体を支えたけど、パンチは勢い良く空振りしてしまった。
正確にいえば、かすったぐらい。
「フ、フハハハッ!! 今のは面白かった!! さすが勇者。楽しい戦いができそうだ。さあ、今度はこちらの、ば、ん……?」
魔王の足がふらついている。
あれ? 私空振りしたよね?
なんで魔王がそんなにヨロヨロしているの?
「あ、顎を狙うとは……本当に強い。俺も拳闘の修練を積んできたが、少し正攻法すぎたな。まさか、こんな方法があるとは……。脳を揺らし、混乱させる。見事な戦術だ」
やめてよー!!
そんなに言われたら、偶然だったって言いにくいじゃない。
ただ、魔王も万能じゃないことはわかった。
わりと身体のつくりは人間に似ているのかも。
「くっ!! 勝負を続けたいところだが……、このダメージでは眠ったものたちへの魔力が途切れてしまう。勇者はやっかいだが、あのドラゴンと小娘の魔力も侮れん」
お、おお。
この感じ、逃げてくれる流れだよね?
そうだよね?
「だが……俺は魔王!! ここで引いては魔王の名がすたるというもの。起きてしまったならば、まずは2人を気絶させる。そこから再戦といこうではないか!?」
だめだー!!
この魔王に常識は通じないんだった。
どう考えても「フハハハ、ここは一旦引いてやろう」という場面だよ。
身体をよろけさせながらも、身体を前のめりにして戦闘態勢をとる魔王。
自然回復させてはだめだ!!
「ガッツ! ミラ!! まじで起きて、死ぬ気で起きて!! 私の生き死にがかかってるんだってば!!」
返答の代わりに「ぐおー」というガッツのいびきが聞こえてくる。
これは……私一人で逃げた方がいいかな?
魔王は絶対に私についてくる。
2人の寝顔を見ながら、私は残った力を振り絞って……私の背に見える、街へと……逃げた。
これは逃亡ではなく、計画的な後退なんだよ!!
想定通り、魔王が追ってくる。
飛んでいるけど、まだそれほど早くはない。
よし、街まで行って……街まで行ってどうしよう?
前に見えてくる街は大きく、穏やかそうな雰囲気だ。
そこに魔王を引き連れて入っていくなんてことは、いくら逃走優先とはいえ、できない。
「ぬー、どうしよう」
「フハハハッ!! 身体もだいぶ調子を取り戻してきたぞ。街に入る前に最終決戦をしよう」
あ、意外と優しいのね。
だったら私も……。
もう、2人は見えなくなっている。
ここまで来たら、大丈夫だろう。
私は逃げるのをやめて、下りてくる魔王を待った。
待っていたはずだった。
「ん……?」
魔王の下りてくる途中に、黒い円のようなものが見える。
新しい魔法かな?
魔法合戦になったら余裕で負ける自信があるよ、私。
けれど、魔王自身が慌てている。
勇者の私以外に敵なんて……。
「じ、爺や、待て! 俺は勇者との決戦中なのだ。帰って休んでおれ」
「そうは言われましても、正直な所、魔王様1人で戦われるのはいささか心配でありましてな。どうしてもというのであれば、再度魔王軍を率いてお戻りください」
「俺の一対一の戦いの邪魔をするというのか!? いくら爺やと言えども許さんぞ!」
私を置き去りにして会話が進んでいく。
このまま逃げちゃっていいかな?
でも、魔王軍が襲ってくるなら情報も欲しいし……。
「それでは前魔王様の代わりとして申しましょう。一度ひいてください」
「ぐ、ぬぬぬ」
へぇー。
魔王にも苦手な人がいるんだ。
前魔王の側近だとしたら、魔王のおじさんみたいなものかな?
しばらく黒い円に向かって怒鳴っていた魔王は少しずつ元気をなくしていっていた。
「ああ、うむ。そうか。はあ。ああ、わかったよ」
魔王が疲れ果てた顔でこちらを向いた。
かと思うと、パンと自分の頬を平手打ちし、気合を入れる。
「勇者よ! 残念だが、貴様との勝負、あずけるぞ!! だが、俺はアクティブな魔王。必ずまた貴様の前に――」
髪をなびかせながら、円の中に吸い込まれていった。
私が呆然としていると、後ろから声が聞こえる。
「あー、なんか眠っちまったみたいっすね。あの少年はどうしました?」
「あれ? 先輩汗かいてます? なんかあったんですか?」
なんかあったも何も、ついさっきまで魔王と戦ってたんだよ。
と、言いたいところだけど、ガッツはともかくミラは自分を責めるかもしれない。
ここは流しておこう。
「は、はは。ちょっと運動がしたくてさ。みんなを置いて少し走ってたんだよ。あと、男の子は逃げてた。さすが、エルフだね!」
自分で言っても苦しい言い訳!!
でも、2人は何の疑問もだかずに、信じてくれた。
これぞ、私の人徳だ!!
これ以上ボロを出してしまわないように、街へ向かって歩きだす。
空はさっき魔王が飛んでいたと思えないほど、明るくて、日差しが気持ちいい。
なんだろうね。
私……少しずつ、この環境になれてきてるのかな?
逃げるのはやめようとか……思ってるのかな?
時々感じていた。
自分がわくわくしていることを。
この世界が結構楽しいって思っていることを。
「少し頑張ってみるかあ」
「どうしたんです先輩? 急にそんなこと言い出して」
「いやー、なんかちょっと元気が出てきてさ」
「それは良かったです!」
ミラが可愛らしく微笑む。
うん、これでいいんだ。
私はしばらく逃げるのをやめよう。
皆で冒険していこう。
たぶん、こういうのってフラグっていうんだよね。
「いたぞー」「追えー!」「勇者様をお迎えするんだ!」
遠くから聞こえる声と、馬が駆ける音。
「お、国王軍がきたみたいっすね。ご主人、どうしますか?」
やっぱり前言撤回!
「逃げるよー!! みんな!!」
たぶん私の逃亡生活はまだ続くんだろうなあ。
でも……前よりはちょっとは楽しいかな?
体力のないミラを抱えながら、私は飛ぶように走る。
私はこの世界から、まだ逃げられないみたいです!
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