魔王見習いは、最強魔王を超えるか

亜久里遊馬

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1章:俺は魔王見習いのようです

第4話:チートスキルでメイド勇者を倒す

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 ランにこの世界について、もう少し詳しい事を聞こう、と思った時だった。
 机とコップが飛び跳ねた。
 同時に俺も下から突き上げられるかのような振動を感じる。

 じ、地震か? 縦揺れ?

「はー、またやってるあの人。せっかく違う仕事してもらってるのに。やっぱりちょっと嫌いかも」

 俺の側にいた時は大体笑顔だったランがため息をつく。
 ……許せんな。男として。転生したもう一人の魔王として。

「ラン、いこう!」

「え! ちょっと待って下さい!!」

 手を掴んで、無理やり外へと連れ出した。
 手は人間と同じように温かい。

「何者だ! そのような狼藉はやめぬか!」

「リュウジさん……どこかに頭打ちました?」

「あ、ちょっと昨日の魔王様の喋り方を真似しただけ。特に深い意味はないよ」

 まあ、いずれ意味が出てくるのかもしれないけど。
 食堂の側には、何とも奇妙な出で立ちの女の子がいた。

 いや、食堂とその服装は合っているんだ。
 これ以上ないぐらいにマッチしている。
 そう……彼女はメイド服を着ていた。

 俺の世界のメイド服とは、やや趣向が違うようにも思える。
 ただ、フリルのついた服とカチューシャを見ると、メイドという言葉しか思い浮かばない。
 食堂とメイドが一緒ならば、ここはつまりメイドカフェだ。
 うん、やはりマッチしてる。

 顔は眉が少し上がっていて、一見すると気が強そうに見える。
 目もそうかと思っていたけど、こちらは正義感の強い少年のように燃えている。
 鼻筋が通り、口はへの字を描くように結ばれていた。

 ただ、褐色の肌と合わせると、無邪気な南海の少女と言えなくもない。
 実際顔は端正というよりは、可愛い方にベクトルが向かっているしな。
 可愛いんだから、胸はまあ、きっとこれでいいんだ……。

 「あー髪は赤いんだ。俺メイドは黒髪の方が好きなんだ」
 「獣耳つけないかな。アレンジいいよね」
 自分でもわからないうちに、ぶつぶつと呟いていたらしい。
 メイドの彼女は、俺に何かをむけていた。

 あれは、剣……とまではいかないけど、危険だ。
 俗に言う、バールのようなものだ。
 あれでで殴られば、もれなく死ぬ!
 と、うちの世界では言われていたぐらいの最強武器!

 や、やばい。
 よく見ると、既に何人か犠牲者がいる。
 皆気絶していたまま、荷物のように積み重なっていた。
 さっきの振動は、彼女がバールで吹き飛ばしたものだったのか……?
 バールで振動がおこせるとは俺も初めて知った。

 この世界には、戦闘メイドのような概念があるんだろうか?

「ちょっと、やめてください! ゆ――」

 俺はランの口を塞いだ。
 俺のいいところは何事も楽しむという所だからな。
 せっかくチートスキルをもらったんだから、この辺りでカッコよくキメて、自分の存在をアピールしておきたい。

 ……あ、忘れてた。俺って今部下いないじゃん。

 バールを持ったメイドさんは、こちらから仕掛けない限り動きそうにない。
 考えろ、考えるんだ俺!
 せっかく口上を唱えたんだ。
 引き下がったら、かっこ悪いにも程がある。

 ――む、これでいけるか?

 俺はランの耳に口をよせ、ふっと息を吹き掛ける。
 「きゃっ」という可愛い声がした。
 いや違う。
 本能につられてしまったけど俺がしたいのは……。

「ランってさ、俺のお世話係みたいなものだったんだよね?」

「え、ええ。そうですけど。魔王様に言われて、しばらくはリュウジさんに付くようにと」

「じゃあ……何ていうのかな。魔王様流に言えば、少しだけ俺の部下ってことにならない?」

「え、えーと。はい。まあ、リュウジさんがそう言うんでしたら、部下でもいいですよ」

 よし! 言質とった!!

 俺はポケットからスキル表を取り出した。
 思った通り、文字が少しずつ浮かび上がっていく。
 やったよ、完全な不良品じゃなかった!

 出てきたのは……。
 スキル名:こんにゃく
 説明:どこにでも、こんにゃくを出現させられる

 馬鹿にしてんのか!!
 なんだこれ!!
 やっぱり不良品じゃないか。
 不良品じゃないって言うなら、製作者の神経疑うわ!

 そりゃあ、無から何かを生み出すのは凄いよ。
 どこにも属さない魔法・スキルだっていうなら、精霊や神に力を借りているわけでもない。
 この紙の通りだと代償がないみたいだから、チートスキルと言えなくもないよ?

 でもさ、おかしいでしょう。
 こんにゃく出しても食うか、お化け屋敷に使うか、あとは○○に使うかぐらいしかないわけじゃない?

「リュウジさん、どうしたんですか?」

「あ、ああ。問題ないよ。ちょっとした悩みだから」

 異世界に来てからこのパターン多いな。
 俺、困ってばっかりか。

 メイドは退屈そうに待っている。
 ええい! 何か悔しい!!
 泣いてあやまってももう遅い!
 驚くようなことやってやるぞ!

 ……そうか。
 俺は、手を前に突き出す。
 メイドもバールを手に戦闘態勢に入る。
 地面を蹴り、砂埃をあげながら、こちらへ向かって走ってきた。

 速いな! だが、これで!!
 俺は異世界で初めてのチートスキルを、今使う!

「スキル使用! 『こんにゃく』!!」

 俺の目の前には巨大なこんにゃくの壁が現れていた。
 ぷるんぷるんだが、一部を地面に突き刺しているので、倒れることもない。

 スキルにはこんにゃくの大きさは定義されていなかった。
 つまり、こういう使い方をしても問題ないわけだ。

 こんにゃく壁の横から顔を出すと、ちょうどメイドがバールを振り上げていた。
 いいぞ、そこだ!!

 ぷるん!!

 柔らかい音がする一方でメイドは焦っているようだった。
 良い具合にこんにゃくに埋もれてしまったらしく、バールがなかなか取り出せないようだ。

 そうだよな。
 だって日本の何でも斬れるアニメキャラでも『こんにゃく』は斬れないんだ。
 そう考えると……使えるチートスキル……とは言えないよ、もちろん。

 バールを諦めたメイドは拳で俺を殴ろうとしてきた。
 体重の乗ったいいパンチだ。
 服のわりには意外と身軽で、俺なんかではすぐにノックアウトされてしまうだろう。
 でも、こっちにはこれがある。

 「スキル四方向展開! 『こんにゃく』!」

 俺の四方がこんにゃくで囲まれる。
 今の俺にできる最強の守り……涙が出てくるなあ。
 さすがにこの距離だと、においも鼻につくし。

 ぼよん、ぼよんと何度も殴りかかってくる音が聞こえる。
 メイドに対して無敵……というのもなんか変な話だし、あまり騒いで人を集めるもまずい。
 『こんにゃく』のスキルは絶対に見られたくない。

「そろそろ……終わりにしようか」

 格好いい台詞を言いながら、俺はこんにゃくの一部に消えるように命じた。
 もちろん、そこから入ろうとしてくる。

「スキル使用……『こんにゃく』。ふっふっふ」

 「ふぇっ」と小さな声が聞こえた。
 さあ、冷たいだろう? 気持ち悪いだろう?
 これこそ、日本伝統のお化け屋敷の恐怖。
 『こんにゃく』だ!

 俺は一瞬見えたメイドの首筋へとスキルを放っていた。
 空中に現れたこんにゃくは、彼女の首筋を撫でてすぐに消え去る。

「さあ、さあ、もっとだ!!」

 意外と楽しくなってきた。
 こんにゃくが現れる度に、彼女は上下左右を見回している。

「最後にーー!!」

「スキル連続使用! 『こんにゃく』!!」

「わ、わわわわ!!」

 俺はメイドの『服の中』へとこんにゃくを出現させた。
 驚いた彼女は、慌ててそれを取り出そうとする。
 ……別に害はないんだけどね。こんにゃくだから。

「ま、待って――」

 待てと言われても連続使用と言っちゃったし。
 スキル発動は彼女の動きよりもずっと早い。

 しばらくすると、頬を赤くして立ち尽くし、膝から崩れ落ちてしまった。

 気絶した? や、やりすぎたかな?
 まさか、ここまで効果的だとは思わなかった。
 もっとも、使えるスキルとは口が裂けても言えないが。
 
 周りを見渡すと……幸いなことにラン以外は誰もいない。
 俺は、周囲と道の真中に鎮座するこんにゃくを消した。

 目を丸くしたランが駆け寄ってくる。

「ど、どうやったんですか!! リュウジさん!!」

「あー、まあ俺の魔法を使った感じ?」

「そんな……そんなに凄い人なんですか……。やっぱり魔王様が認めて……」

「ね、ねえ何を言ってるのかな?」

「だって……その人、勇者ですよ!!」

「ははは、まさか。そんなことあるわけが」

 ランの澄んだ眼差し。
 そんなことないよ……ねえ?
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