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魂の行方

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 両親は私が、こちらの世界に転生した時から 私が本物の クロエではないと知っていた。 どうやって召喚したか その方法は 気になるところだが、今は大切に育ててくれた。その愛情にどっぷり浸っていた気分だ。 
( あれ? でも……)


***

「はぁ~」
泣きつかれると言うのは、こう言う事を言うのだろう。全身に倦怠感を感じる。それでも心は晴れやかだった。だけど、新たなスタートを切るにあたって、もう一つの謎を解き明かしたい。

 クロエの魂の代わりに、私の魂が入ったと思っていたけど、伯母の話では、自分の子供の魂と入れ替えたと言っていた。 いとこの魂を追い出して、私が入ったってこと? 双子石の特性上、入れ替わってないとおかしい。
だけど……この体に二つの魂が入っているの?
でも、 もう一人の存在を感じたことは無い。
眠っているからか 。それとも、奥深くてわからないのか……。

「父様たちは……私が、伯母さんの子供の魂じゃなくても構わないの?」
実の娘じゃないにしても、 身元が
ハッキリしてる方がいいはずだ。
しかし、私の言葉に両親が顔を見合わせる。
(あれ?) 
両親の反応を見て戸惑う。驚いても、悲しんでもいない。何か私の知らない事情があるのかな?
父様の視線に母様が首を振る。 
しかし、それに対して父様も 首を振り返した。 二人のやり取りを見ていたが、私に伝えるかどうか意見が割れているようだ。
ここまで来たんだもの、全部知っておきたい。
「父様、母様、もう 秘密はなしです」
実は……みたいなものは要らない。
両親に向かって教えて欲しいと促す。どんな事でも乗り越えられる。だって、私は 愛娘 のクロエなんだもの。
二人がお互いに頷き合う。
「姉様は 自分の子供と、私の子供を入れ替わったと言ってたけど、最初から無理な話なのよ」
「どうして?」
「姉様は自分も妊娠したと 言い張ったけど、実際は赤ちゃんはできてなかったの」
「えっ、それって……」
(つまり、想像妊娠ってこと?)
そうか、 常に妹の上を行かないと気が済まない性格だから、妹に先を越されたのが悔しかったんだ。
だから、自分も妊娠したと思い込んだと……。
どちらにせよ、 いつまでたっても
、産まれなければ 現実を知ることになっただろうけど。
「ええ、そうよ。その頃は義兄様とは既に別居していたの」
「そのことを指摘したんだが 、聞く耳を持ってくれなくて……」
両親が苦労したのが見えるようだ。多分、体にも妊娠の兆候が出ていたから、他の人がそう言っても、言いがかりだと思っていたんだろう。
(まさかそんな裏がると思ってなかった)
「あの時ちゃんと、そうでないと 自覚させておけば、こんなことに ならなかったと 後悔している」
プライドの高い伯母のことだ。
いくら 証拠を出しても受け入れない。双子石は魂と魂の入れ替え。妊娠してないなら、この場合はどうなるの?
訊ねるようにネイサンを見ると硬い表情で両親を見つめている。
どうしたんだろう? 
何か気になることでも?

*****

ネイサンは 伯爵夫妻の 話に 、グサリと剣を突き立てられたような痛みに 声を出しそうになる。
(なるぼど、それが 失敗の原因か……)
お互いが妊娠していなかった事を考えると、夫人の赤子の魂は姉の近くにあった無機質のモノに宿った事だろう。
(まさかクロエに提案した事が、既に偶然とはいえ行われたていたとは……)
しかし、赤子の魂だ。その無機物に定着する前に消えてしまって。夫人のお腹の中には 魂の無い空っぽの赤子が宿った。

 三人は双子石の術が失敗したと思ってるならそれで良い。
これ以上、真実を知っても良い事など一つも無い。 この世の中には知らなくていいこともある。

***

 クロエは目を覚ました。
すると、見慣れた天井が私を見降ろしている。何時の間にか眠っていたらしい。ずっとこの天井を見ていた。やっとらこの体を自分のものだと言える。両親の言葉が、この世界が、私を受け入れてくれた気がした。私は正真正銘クロエ・サングレードになった。これで 髪の毛1本まで私の体だ。
喜びが指先まで伝わる。自然と笑みが零れる。窓から差し込む光に起き上がると 部屋をぐるりと見まわす。ベッドも机もチェストもぬいぐるみも、全~部、私の物。借りもの何て一つも無い。壊そうが売ろうが自由。
(勿論、そんな事はしないけど)
この世界に来て一番スッキリとした気持ちなった。この喜びを叫びたい。

 窓を開けると朝陽が、おはようと挨拶して来る。眩しさに手で庇を作って見上げる。雲ひとつない青い空。今日一日この天気が続くだろう。

 早起きしてしまったから、朝食まで散歩でもしよう。心と同じような軽やかな気持ちで 部屋を出た。
庭にやってくると 先客がいた。
私と同じように 暇を持て余しているネイサンに笑ってしまう。いつも忙しくしてるから、 休み方も知らないんだ。
(急に時間が出来て、手持ちぶたさなのだろう)
ネイサンにも随分心配を掛けてしまったに、この前は何となく部外者みたいに無視してしまった感じになってしまった……。
ネイサンが いなかったら真実を聞く勇気も持てなかった。
ネイサンの所へ行こう。感謝の気持ちを伝えたい。それと、口止めしておかないと。
十歳なら市井では働く子供も居る。だけど、私がメイドの仕事をしていると、母様が知ったら卒倒するかもしれない。
病弱な娘が働いているのは、母親にしてみれば、あり得ない事だ。
(一応、療養 目的で滞在しているし)
その上、剣の稽古をしていると知られようものなら、二度と外に出れなくなる。
(う~ん) 
とにかくネイサンの顔が見たい。
私の為に一緒に逃げようとまで言ってくれた人だ。


「ネイサン様、おはようございます」
声をかけると私の声に振り返ったネイサンが、安心したような顔をする。そのことに口元が緩む。
「おはよう、クロエ。もう 大丈夫なのか?」
「はい、ご心配をかけました」

 一緒に庭を散歩しながら、たわいも無い話に花を咲かせていた。すると、ネイサンが 急に立ち止まった。 自分も隣に立ち止まると 首をかしげてネイサンを見る。
ネイサンが真面目な顔で質問してきた。
「クロエは、どうやって こっちの世界に来たんだ」
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