『双子石』とペンダント 年下だけど年上です2

あべ鈴峰

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願いが叶うとき

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クロエは ネイサンと一緒に逃げ出そうとしていた。そこへ 伯爵夫妻が姿を現しただけでなく、私を こっちの世界に連れてきたのは自分たちだと告白した。


 長い沈黙の後 夫人が語り出した。
「あれは……結婚して二年。待望の赤ちゃんが産まれて私たちは幸せの絶頂だったわ」
当時を思い出すように瞳を伏せた。夫人を見つめていた 伯爵が
夫人の手の甲にキスすると、夫人が微笑みを返した。
そこには同じ苦しみを分かち合った絆がある。
「だけど、生まれたのは人形のように、感情も無く言葉も発しない、自分で動くことさえない子供だった……」
キュッと引き結んだ唇が かすかに震えている。慰めるように 伯爵が夫人の肩を抱き寄せた。
こうやって 互いを支え合っていたとわかる。 夫が居なかったら彼女は、とっくに自殺していた事だろう。
「 ……… 」
「夫の親戚や周りの者からは、人形を産んだと責められ『恥ずかしい』とか『恐ろしい』とか、ずっと言われ続けていたわ。フィリップ以外誰も私を気遣ってくれなかった」
彼女が愛しそうに夫を見つめる。四面楚歌の中、息をするのも辛かっただろう。夫がサラリと妻の髪を掴んでキスをする。その慣れた仕草に深い愛情を感じる。
「殺してしまえと、言う者もいたわ。だけど、どんな状態で生まれて来ても私たちの子供だ。そんな事できやしない」
声は穏やかだけど口元は強張り、瞳は暗さを増す。今でも深い傷となって血を流している。伯爵も苦渋に満ちた顔で首を振る。
伯爵も妻を捨てろ、子供を殺せ、 そんな言葉を浴びせられたに違いない。

 お腹を痛めて産んだ最初の子だ。どんな姿でも愛しいに決まっている。それが親と言う者だ。
そんな親の気持ちを、世間体だけで 踏みにじろうとするなんて、酷い人たちだ。
「そんな 私ができることは、神に縋ることだった」
「 ……… 」
「毎日毎日、教会に通って明日になれば目を覚ます。明日になったら声を出す。明日になったら体が動く」
伯爵夫妻には希望が必要だった。切実な願いだと言う事が 伝わってくる。
「それでも何の変化も無かった……」
そこまで言うと口を噤んで俯いてしまった。

「私たちに できることは、クロエ
の命の日が消えないように、魔法石を与え続けることだけだった」
「 ……… 」
「 ……… 」
魔法石 もタダではない。 大金をつぎ込んだことだろう。 そうしてで
も生きていて欲しかったんだ。
「幸い、体の方は順調に成長していった」


 ネイサンは嬉しそうに言う伯爵を見て、果たしてそれを"幸い"と言えるのだろうかと、疑問に思った。 きっと、奇跡を信じて家の財を食いつぶしてでも、クロエに魔法石を与え続けるだろう。 
やめないのは 他の双子石の被害者たちと同じだ。
"もしかしたら"と期待を捨てきれない。親の愛とは それだけ深いものだろう。しかし、姉の子供との魂の交換に失敗した状態では、二人が死んでからも 目を開けることはなかっただろう。
( ……… )
"期待"それは、なんと罪深い言葉なのか私は知っている。
陛下が私をクレール領に行かせたのは 罰なのか、それとも愛なのか……。



 彼女が顔を上げる。
その視線の先には過去が映っているようだ。
「そんな日が三年も続いて、精根尽き果てていた私は、誰でも良いから願いを叶えてと、いつしか祈る相手が神から精霊。そして、悪魔へと変化していったわ」
「っ」
「っ」
「 ……… 」
悪魔? 彼女の口から出た言葉に驚く。
周りからのプレッシャーも大きかった事は、分かるけど……。
私は悪魔召喚みたいな方法で、こっちの世界に来たの? そんなこと一般人が出来るの? 確かめるようにネイサンを見るが、何の反応ない。
「どんな手をつかってでも、私が産んだのは人間だと証明したかった」
「 ……… 」
夫人が 必死しに 仕方のなかった事だったと、私に理解して欲しいと、許しを求めるように、私に同意を求める。
「そんな時、あなたが目を覚ましの」
彼女の私を見る瞳に、その時の喜びが溢れている。この涙で潤んだように輝く瞳を私は知っている。


 こっちの世界に来て最初に見たの
は彼女だった。
「どんなに嬉しかったか、神に祈りが通じたと。何も知らなかった私は 奇跡が起きたと手放して喜んだわ」
そう言うと あんなに輝いていた瞳が、スイッチを切ったように灯りが消え。そして、その瞳を後悔とも 怒りとも言えない  苦い色になる。
本人にしてみれば 、まさか そうなるとは思っていなかったのだろう。



「『私はクロエじゃない』と言った時、私の祈りを叶えてくれたのは 神では無かったかも知れないと不安になった。だって三年間一度も目を覚まさなかったのに、喋れるし、物の名前も知っていたし……。あり得ないでしょ」
「キャサリン……」
伯爵の夫人を呼ぶ 声音には、ほのぐらいものが混じっている。
もしかしたら、夫人が何をしていたのか知っていたのかもしれない。
「自分が産んだ娘の中に、赤の他人が入っていると知ってショックだったわ。信じたく無かった」
「 ……… 」
考えてみれば、起きたばかりの三歳の子供が色々知っているのは可笑しい。 目をつぶるには あまりにも大きな問題だったはずだ。それでも、娘として育てていかなければいけないんだから……。
「だけど、祈ったのは本当だし、何より、私の呼びかけに答えてくれたのだから、大切にしようと考えを切り替えたの」
「………」
夫人が私に向かって優しくまた微笑むと、伯爵も同じように 微笑んだ。二人揃っての、その笑顔に胸が詰まる。
「お前を大事に育てる責任は我々にあると考えたんだ」
そうだった。 魔力が少なくて気を失って倒れた時も、怪我した時も、風邪をひいた時も、目を開けるといつも心配そうな 両親が私を見つめていた。義務だけでできることではない。

「どんな子供なのかと、びくびくしながら接していたのよ」
あの頃は自分の事で精一杯で余裕がなくて気付かなかった。
「でも、手料理を振る舞ってくれるくらい。優しい子だったわ」
懐かしむように言う。他人だと分かっているのに、もしかしたら悪魔かもしれないのに、それを 承知で可愛がってくれた。
その心の広さには敵わない。
「確かに魂は私の娘じゃないかもしれない。でも、ずっと育ててきたのは私だもの。だから、あなたは私の娘なの。だから今まで通り 、ここがあなたの家よ」
「母様……父様……」
(私は最初から愛されていたんだ。それなのに、この家から出て行く事ばかり考えていた)
二人が変わらぬ笑顔で私を見つめる。母様の言う通り生みの母より育ての母。と言う。心と心が繋がっていた。

 私は、前世と今世を足せば三十近い。歳は変わらないと思っていたけれど、母様の方がずっと大人だった。やはり、母親は違う。私は子供時代をくり返しているだけで、本当の意味では 大人じゃない。ネイサンが 後押しするように、私の背中を押す。
おいでと母様が両手を広げる。
真っ直ぐその胸に飛び込む。
私を捨てようとしてたんじゃない。両親は ただ私を失うかもと 恐れていただけだった。
「母様!」
「クロエ。私の可愛い娘」
そう言うと私を抱き締めてくれる。懐かしい香り、懐かしい温かさ、戻ってこれた。
母様の背中に手を回すとギュッと抱きしめる。そんな私たちを父様が、まとめて抱きしめた。
ここに居て良いんだ。娘のままで良いんだ。ホッとした途端、せきを切ったように涙が流れ出る。
「うっうっうっうっ……」
こっちの世界に来て右も左も分からなくて生き延びるために他人の振りをして来た。
ずっと騙していたから、母様や父様に偽物だと知らえるのが、拒まれるのが、とても怖かった。
私には泣いて縋る事さえ許されないと思っていたから。
少しでも罪を償わなくてはそう思って 生きてきた。有り難くて嬉しくて 声を上げて泣いてしまう。
「母様、あ~ん。父様、あ~ん」
「あらあら」
母様が私の涙を拭う。そんな母様だって泣いている。

 ネイサンは 幸せそうに泣きながら抱き合ってる 3人を見て、良かったとほっとする自分がいるが 、夫人からクロエを召喚した時の方法について語られなかったことを心配する 自分もいた。

 祈りだけなのか?
 供物を捧げたのか?
魔術師を呼んだのか? 
そしてこれは、悪魔の仕業なのか? 神の気まぐれなのか?
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