4 / 22
君の名前はキュル
しおりを挟む
悪魔のダリルに約束通り、フランス語のテストの改ざんをしてもらってミリアは、安心する。すると、教室に入って来たエルザ先生が私を見てニッコリと笑う。
不気味だ。 いつも苦虫を噛み潰したような顔をして私たちを監視しているのに、何か変な物でも食べたのかしら?
「 皆さんのフランス語の担任になって5年。とうとう、補習の人がゼロになりました。こんなに嬉しい日を迎えることができて幸せです」
ミリアは先生の言葉に本当にダリルが約束を守ってくれたと実感する。
ざわざわしだしたクラスメイト達がエリザベスと私を交互に見てはコソコソと話している。
ジェニファーが、目を丸くして私を見る。
信じられないだろう。でも現実なのだ。
屈折五年。補習の無い日々を過ごすのは、初めて。幸せこの上ない。
「しかも、このクラスで最高点を取ったのはエリザベスです。 あんなに苦手だったフランス語を見事克服しただけでなく。得意にまで、してしまったんです。皆さん!エリザベスに拍手しましょう。さあ、エリザベス立って」
名前呼ばれたエリザベスが得意げに起立すると鷹揚に挨拶する。
ジェニファーの言うとおり本当に満点だったんだ。
みんなが賞賛の拍手を贈る中、感極まったエルザ先生がエリザベスを抱擁する。
芝居がかっていると内心、呆れながら機械的に握手する。
エリザベスが座ろうと前かがみになった時、胸元でキラリと何かが光った。するとエリザベスが慌てて胸元を隠す。
たかが ネックレスを見られたぐらいで、何を慌ててるのかと不審 に思って見ているとエリザベスと目が合う。その氷のような冷たい視線にミリアはゾッとして反射的に目を伏せる。
元々嫌われていたがエリザベスの視線には殺意が込められていた。
**
ミリアは帰りの馬車を待ちながら、フランス語の答案用紙を両親や弟に見せた時の事を想像して笑いが止まらない。きっとお父様は泣くわ。お母様は踊り出して、弟が悔しがって地団駄を踏むはす。
すごく楽しみだわ。
ウキウキした気分で乗り込む落としたミリアは馬車のドアを開けたが、すぐ閉める。 契約は完了したはずなのに。
まさか! 追加料金を払えとか?
(・・・)
覚悟を決めてドアを開ける。
中では私の態度に怒ったダリルがドアを蹴破るうとしているところだったが、勢いよく乗り込んできた私に驚いて場所を譲る。
「居るなら居ると言ってくださらないと、心臓が止まりそうになりましたわ」
と、言って自分の胸に手を当てるとダリルが鼻で笑う。
「ふん。そんなタイプじゃないだろ」
ミリアは、わざと心外だと傷ついたふりをしたが、取り合ってくれない。
「はい。はい」
「どうして、ココに居るんですか?」
「実は、お前に仕事を頼みたい」
興味はあるが危険な香りがする。平凡な日常には飽き飽きしているが、悪魔の仕事を手伝うのは私の手に余る。
それに、 これ以上悪魔と親しくなるのは危険だ 。
「無理です。いくら何でも無理です。 私、働いたこともないんですよ。 まして、戦うようなスキルも武器も持っていません」
ミリアは激しく首を振って断る。 するとダリルが手をひらひらさせて違うと言う。
「非力で愚鈍な人間に望むことなど無い。 もしそうだとしても、お前には頼ま無い。私は、そこまで愚かではない」
仕事を頼みたいくせに、その言いようは無い。ミリアは不満げに 頬を膨らませる。
「勿論、タダ とは言わない」
「私、取り立てて欲しいものなどありませんから 他を当たってください」
甘い言葉で釣ろうとする気だろうが、 そう簡単に首を縦に振る気はないと すげなく断る。
「まぁ、 見てから考えろ」
ダリルが私の目の前で 手を開く。
見る? 宝石? 世界に一つしかないとか言われても 迂闊には受け取れない。
でも、見るくらいならと 片目だけで見る。
小さなリスのような小動物が私を見て小首をかしげる。 耳と目が大きくて可愛い。
愛らしい姿に自然と頬が緩む。 指で頭を撫でると猫のように喉を鳴らす。
「 この子は何ですか?」
「 私の使い魔だ」
意外だわ。見た目と違って可愛らしいものが好きだなんて。
「私も こんなペットが飼いたいです。でも、お父様がアレルギーで・・」
他の友達が、どんなに羨ましかったか。
「そいつは動物じゃない。 雑魚だが魔獣だ。だから アレルギーも無いし、お前の体に触れていると 透明になって 他のものに見えないから バレることも無い。お前の思考も読み取ってくれる。どうだ。便利だろう」
使い魔とは悪魔が飼っているペットのようなもので、おつかいも出来るらしい。
昔 新聞を運んでくる犬を見たことがあるが、 それより役に立つみたい。
聞けば、聞くほど飼いたくなる。
「 餌は何を食べるんですか?」
「そいつは雑食だから、 何でも食べる」
「 そうなの。食いしん坊さんなのねぇ~」
使い魔の頬を指でつつくと 私の指にしがみつく。 そのまま持ち上げると プランプラントとぶら下がっているが、 まるで重さを感じない。
『全く 見た目に騙されて 愚かにも程がある。 これだから人間は』
「何か言いました?」
「いや 、それでどうする?」
危険だと承知しているが この愛らしさには敵わない。
しかし、 仕事内容を確かめておかないと。
犯罪者にはなりたくない。
「 どんな仕事ですか? 人殺しとか 盗みとかは嫌です」
「 そんなもの お前には頼まない。 私が頼みたいのは クラスメイトの噂話を集めて欲しいだけだ 」
「噂話ですか?」
悪魔の依頼だから もっと危険なことをさせられるのかと 内心覚悟していたが 、これなら大丈夫そうだ。 女学院では 噂話に事欠くことは無い。
でも 一番の話題は恋バナだ。 そんなものに興味があるのかしら?
「 ところで、 どんな噂を集めればいいんですか?」
「 そうだな ・・急に大金持ちになったとか、 玉の輿に乗ったとか、 死人が生き返ったとか ・・。兎に角 あり得ない事が起こった話だ」
「あり得ないこと?」
漠然としすぎている。 話の内容からすると奇跡みたいなものかしら?
「 そうだ。 本人と知り合いでなくても構わない。上手くやれば、そいつは、お前にくれてやる」
「分かりました。やります」
ミリアは しっかりと頷く。
指に戯れている使い魔 を名残惜しく思いながら、 ダリルに返そうとすると 押しと止められた。
「 連絡係として 、そいつは預けておくから 何かあったら使え」
ミリアは目を瞬かせる。 親切すぎる。
絶対 上手くいくまで渡さないと思っていたのに・・。何か裏があるのでとは 勘ぐってしまう。
「・・・」
「何だ?」
「 何でもありません。 明日から早速 噂を集めます」
本心を気取られ無いように、 にっこりと笑いかけると ダリルが眉をひそめる。
ちょっと、ワザとらしかったかしら。
***
交渉が上手くいったダリルは 、上機嫌でミリアの馬車から降りると 近くの建物の屋根に飛び移る。
ミリアから情報が入りまでは自由時間だ 。
街を見て回ろうと手をかざして、 王宮の位置を確認する。建物は変わっても道は変わらない。
すると 背後から慣れ親しんだ声が聞こえた。
「 ダリル様 。新居のご用意が整いました」
「 ロール。 やっと来たか」
振り返るとロールが 片腕を折って跪いている。 ロールは中肉中背の 中年のどこにでもいそうな感じの男だが、 その灰色の瞳だけは 非凡な鋭さがある。 長年、私の家令として仕えてくれている。 ロールがいると助かる。 雑事は苦手だ。
「 どうだ !早速、 流行の服を・・手に・・」
ダリルは、 満面の笑みで ターン決めてポーズを取ったが 、立ち上がったロールの姿を見て よろめく。
どうやら 人間界に行くことに はしゃいでいたようだ。 ロールの服のことを 完全に失念していた 。
「私としたことが・・。 お前に こんな服を着せていたとは。 私の落ち度だ。 すまない 」
ロールの服は 紺色のジャーキン。 その下に オレンジ色の バ・ド・ショースと パンプキン・ブリーチズに 白いタイツ。 紫色の羽根つき帽。極めつけに 白いラフ。
それは はるか昔に流行ったものだ。
「 私は大変気に入っております 。それに、この服は 扱いが簡単で 動きやすいです」
ロールが自分の服をちらりと見ると 気にしないと言う風に 肩を竦める。
お前が困らなくても 私が困る 。
客人を最初に迎えるのは 家令である ロールだ。 そのロールに この服を着せていたら 私の趣味が疑われる 。
「すぐ新しいのを用意する」
「 そうですか・・。ラフ のアイロンも上手くなったんですが」
「 ならなくていい!」
ロールが残念そうにラフを撫でる。
だがここは、主人である私に従ってもらう。
ダリル は頭の中で ミリアの家の使用人の服装を思い描く。
( シャツ、ジャケット 、タイ・・)
指をパチンと鳴らす。 すると一瞬で ロールの服が変わる。 上出来だ。 ミリアの家の使用人の服と 何ら遜色ない。
さすが俺と 自画自賛する。
***
ミリアは使い魔にキュルと名前をつけると一緒に登校する。 そのキュルは朝から エッグスタンドに頭突っ込んで ゆで卵をペロリと一つ 平らげて、今は 私の肩の上で 満足げに毛づくろいしている。
「 みんな、おはよう」
教室に入ると 何かあったのか、ジェニファーたちが集まっている。
覗いてみると皆が 自分の手のひらと 机にある紙と見比べている。
私も見てみるが 何のことかサッパリ分からない。
「 どうしたの? みんなで手のひらを見てるけど」
「 手相占いよ。 神秘的でしょ」
「何で もミスター ・キロー の 師匠の弟子の、 そのまた弟子が お店を開いたのよ」
「手相?」
「 ミリアは 『手の言葉』って本も知らないの?」
口々に教えてくれるが 初めて聞く言葉に知らないと首を横に振る。
そんな本が あること自体知らない。
「これよ」
友達の一人が私に 自分の手のひらを見せて皺を指差す。 シワにどんな意味が? 戸惑っていると もう一人の友達が私に手のひらを見せる。
「ほら 私のも見て。 違うでしょ」
確かに そんなもの 気にも留めていなかったが
改めて見ると 少しずつ違っている 。
「つまり、 この皺の違いを見るのが 手相占いよ」
「へ~。皆その店に行ったんだ」
「 そういう訳では・・」
ジェニファーが そう言って顔を曇らせる。
他の皆も視線を外す。
恋話に目がない皆は ことあるごとに運命の伴侶を見つけようと 恋占いのしては大騒ぎする。
それなのに、躊躇するのは珍しい。
「どうして駄目なの? 良く当たるんでしょ」
「 如何わしい場所に、 お店があるの。 行ったことがバレたら 勘当されちゃうわ」
「 この紙は、どうやって手に入れたの?」
「それは 家の使用人をもらってきたのよ。 ペンダントも勧めたらしいけど、 高額で諦めたんですって」
ミリアは手相の紙を見ながら思案に耽る。
噂としては弱い。 もっと奇跡っぽくないと、そう思っていると 別の友達が声を潜めて 話を切り出した。
「実は家の使用人が その店からエリザベスが出てくるのを見たのよ。 きっと魔法のペンダントの噂を 聞きつけたのね」
「知ってる。 なんでも そのペンダントを身につけるだけで 、全て望み通りになるらしいわ」
眉唾物の話だ。 ペンダントに願うだけで、全て叶うなんて信じられない。 しかも、それが売っているなんて あり得ない・・。
待って! 奇跡ってありえない話のことよね。
「 そのペンダントを使って、満点を取ったんじゃないかと 私は睨んでるの」
( もしかして、 あれが魔法のペンダント?)
ミリアは昨日の出来事を思い出した。
ペンダントか どうかは分からないが エリザベスが貴金属を身につけていたのは確かだ。
「 絶対そうよ。 でなかったら万年赤点のエリザベスが 満点なんて おかしすぎるわ」
耳が痛い。 きっと私のことも 同じように思っているわね。
「そうよ。 そのペンダントが 奇跡を起こさせたに決まっているわ 」
みんなが同感だと頷く。
誰もエリザベスが実力で 満点を取ったとは 思ってないらしい。
あのエリザベスに 満点を取らせることができるなら ・・・ペンダントの力は本物?
「興味本位で お店に行っちゃ駄目よ。 分かった」
ジェニファーが 釘を刺してくるが ミリアはエリザベスを探して首を伸ばす 。
「ところで 噂のエリザベスはどこ?」
「 あそこよ 」
ジェニファーが指差す方を見ると エリザベスの周りに 人垣が出来ている。
「 昨日満点を取ったから、 ちやほやしてるよ」
みんなの手のひらを返した態度に、 プリプリと怒りながらジェニファーが言う。
確かに、あからさま過ぎて頂けない。
だが さぞかし気分がいいだろうと エリザベスを見たが、 目が笑っていない。
( おかしいわね。クラスの女王になるのが 望みだったはずなのに・・)
イカサマをして 今頃になって罪悪感に駆られたとか?
いや、いや。エリザベスに限ってそれは無い。
プライドが服を着ているような 人間だもの。
**
ミリアはジェニファーの目を盗んで 、友達を教室の隅に連れ出す。
「 早速だけど、そのペンダントを売っている店が どこにあるか知ってる?」
「 ミリー。あんな得体の知れないものが欲しいの?」
「 いいから 、いいから。 場所だけ教えてくれたら 後は何とかするから (ダリルが )」
これでお役御免 。ダリルと縁が切れて、 晴れてキュルが私のものになる。
知ってか知らずか キュルが胸ポケットから顔を出す。
その頃 ダリルは自分でも 調べるという名目で 外出する ことにした。
不気味だ。 いつも苦虫を噛み潰したような顔をして私たちを監視しているのに、何か変な物でも食べたのかしら?
「 皆さんのフランス語の担任になって5年。とうとう、補習の人がゼロになりました。こんなに嬉しい日を迎えることができて幸せです」
ミリアは先生の言葉に本当にダリルが約束を守ってくれたと実感する。
ざわざわしだしたクラスメイト達がエリザベスと私を交互に見てはコソコソと話している。
ジェニファーが、目を丸くして私を見る。
信じられないだろう。でも現実なのだ。
屈折五年。補習の無い日々を過ごすのは、初めて。幸せこの上ない。
「しかも、このクラスで最高点を取ったのはエリザベスです。 あんなに苦手だったフランス語を見事克服しただけでなく。得意にまで、してしまったんです。皆さん!エリザベスに拍手しましょう。さあ、エリザベス立って」
名前呼ばれたエリザベスが得意げに起立すると鷹揚に挨拶する。
ジェニファーの言うとおり本当に満点だったんだ。
みんなが賞賛の拍手を贈る中、感極まったエルザ先生がエリザベスを抱擁する。
芝居がかっていると内心、呆れながら機械的に握手する。
エリザベスが座ろうと前かがみになった時、胸元でキラリと何かが光った。するとエリザベスが慌てて胸元を隠す。
たかが ネックレスを見られたぐらいで、何を慌ててるのかと不審 に思って見ているとエリザベスと目が合う。その氷のような冷たい視線にミリアはゾッとして反射的に目を伏せる。
元々嫌われていたがエリザベスの視線には殺意が込められていた。
**
ミリアは帰りの馬車を待ちながら、フランス語の答案用紙を両親や弟に見せた時の事を想像して笑いが止まらない。きっとお父様は泣くわ。お母様は踊り出して、弟が悔しがって地団駄を踏むはす。
すごく楽しみだわ。
ウキウキした気分で乗り込む落としたミリアは馬車のドアを開けたが、すぐ閉める。 契約は完了したはずなのに。
まさか! 追加料金を払えとか?
(・・・)
覚悟を決めてドアを開ける。
中では私の態度に怒ったダリルがドアを蹴破るうとしているところだったが、勢いよく乗り込んできた私に驚いて場所を譲る。
「居るなら居ると言ってくださらないと、心臓が止まりそうになりましたわ」
と、言って自分の胸に手を当てるとダリルが鼻で笑う。
「ふん。そんなタイプじゃないだろ」
ミリアは、わざと心外だと傷ついたふりをしたが、取り合ってくれない。
「はい。はい」
「どうして、ココに居るんですか?」
「実は、お前に仕事を頼みたい」
興味はあるが危険な香りがする。平凡な日常には飽き飽きしているが、悪魔の仕事を手伝うのは私の手に余る。
それに、 これ以上悪魔と親しくなるのは危険だ 。
「無理です。いくら何でも無理です。 私、働いたこともないんですよ。 まして、戦うようなスキルも武器も持っていません」
ミリアは激しく首を振って断る。 するとダリルが手をひらひらさせて違うと言う。
「非力で愚鈍な人間に望むことなど無い。 もしそうだとしても、お前には頼ま無い。私は、そこまで愚かではない」
仕事を頼みたいくせに、その言いようは無い。ミリアは不満げに 頬を膨らませる。
「勿論、タダ とは言わない」
「私、取り立てて欲しいものなどありませんから 他を当たってください」
甘い言葉で釣ろうとする気だろうが、 そう簡単に首を縦に振る気はないと すげなく断る。
「まぁ、 見てから考えろ」
ダリルが私の目の前で 手を開く。
見る? 宝石? 世界に一つしかないとか言われても 迂闊には受け取れない。
でも、見るくらいならと 片目だけで見る。
小さなリスのような小動物が私を見て小首をかしげる。 耳と目が大きくて可愛い。
愛らしい姿に自然と頬が緩む。 指で頭を撫でると猫のように喉を鳴らす。
「 この子は何ですか?」
「 私の使い魔だ」
意外だわ。見た目と違って可愛らしいものが好きだなんて。
「私も こんなペットが飼いたいです。でも、お父様がアレルギーで・・」
他の友達が、どんなに羨ましかったか。
「そいつは動物じゃない。 雑魚だが魔獣だ。だから アレルギーも無いし、お前の体に触れていると 透明になって 他のものに見えないから バレることも無い。お前の思考も読み取ってくれる。どうだ。便利だろう」
使い魔とは悪魔が飼っているペットのようなもので、おつかいも出来るらしい。
昔 新聞を運んでくる犬を見たことがあるが、 それより役に立つみたい。
聞けば、聞くほど飼いたくなる。
「 餌は何を食べるんですか?」
「そいつは雑食だから、 何でも食べる」
「 そうなの。食いしん坊さんなのねぇ~」
使い魔の頬を指でつつくと 私の指にしがみつく。 そのまま持ち上げると プランプラントとぶら下がっているが、 まるで重さを感じない。
『全く 見た目に騙されて 愚かにも程がある。 これだから人間は』
「何か言いました?」
「いや 、それでどうする?」
危険だと承知しているが この愛らしさには敵わない。
しかし、 仕事内容を確かめておかないと。
犯罪者にはなりたくない。
「 どんな仕事ですか? 人殺しとか 盗みとかは嫌です」
「 そんなもの お前には頼まない。 私が頼みたいのは クラスメイトの噂話を集めて欲しいだけだ 」
「噂話ですか?」
悪魔の依頼だから もっと危険なことをさせられるのかと 内心覚悟していたが 、これなら大丈夫そうだ。 女学院では 噂話に事欠くことは無い。
でも 一番の話題は恋バナだ。 そんなものに興味があるのかしら?
「 ところで、 どんな噂を集めればいいんですか?」
「 そうだな ・・急に大金持ちになったとか、 玉の輿に乗ったとか、 死人が生き返ったとか ・・。兎に角 あり得ない事が起こった話だ」
「あり得ないこと?」
漠然としすぎている。 話の内容からすると奇跡みたいなものかしら?
「 そうだ。 本人と知り合いでなくても構わない。上手くやれば、そいつは、お前にくれてやる」
「分かりました。やります」
ミリアは しっかりと頷く。
指に戯れている使い魔 を名残惜しく思いながら、 ダリルに返そうとすると 押しと止められた。
「 連絡係として 、そいつは預けておくから 何かあったら使え」
ミリアは目を瞬かせる。 親切すぎる。
絶対 上手くいくまで渡さないと思っていたのに・・。何か裏があるのでとは 勘ぐってしまう。
「・・・」
「何だ?」
「 何でもありません。 明日から早速 噂を集めます」
本心を気取られ無いように、 にっこりと笑いかけると ダリルが眉をひそめる。
ちょっと、ワザとらしかったかしら。
***
交渉が上手くいったダリルは 、上機嫌でミリアの馬車から降りると 近くの建物の屋根に飛び移る。
ミリアから情報が入りまでは自由時間だ 。
街を見て回ろうと手をかざして、 王宮の位置を確認する。建物は変わっても道は変わらない。
すると 背後から慣れ親しんだ声が聞こえた。
「 ダリル様 。新居のご用意が整いました」
「 ロール。 やっと来たか」
振り返るとロールが 片腕を折って跪いている。 ロールは中肉中背の 中年のどこにでもいそうな感じの男だが、 その灰色の瞳だけは 非凡な鋭さがある。 長年、私の家令として仕えてくれている。 ロールがいると助かる。 雑事は苦手だ。
「 どうだ !早速、 流行の服を・・手に・・」
ダリルは、 満面の笑みで ターン決めてポーズを取ったが 、立ち上がったロールの姿を見て よろめく。
どうやら 人間界に行くことに はしゃいでいたようだ。 ロールの服のことを 完全に失念していた 。
「私としたことが・・。 お前に こんな服を着せていたとは。 私の落ち度だ。 すまない 」
ロールの服は 紺色のジャーキン。 その下に オレンジ色の バ・ド・ショースと パンプキン・ブリーチズに 白いタイツ。 紫色の羽根つき帽。極めつけに 白いラフ。
それは はるか昔に流行ったものだ。
「 私は大変気に入っております 。それに、この服は 扱いが簡単で 動きやすいです」
ロールが自分の服をちらりと見ると 気にしないと言う風に 肩を竦める。
お前が困らなくても 私が困る 。
客人を最初に迎えるのは 家令である ロールだ。 そのロールに この服を着せていたら 私の趣味が疑われる 。
「すぐ新しいのを用意する」
「 そうですか・・。ラフ のアイロンも上手くなったんですが」
「 ならなくていい!」
ロールが残念そうにラフを撫でる。
だがここは、主人である私に従ってもらう。
ダリル は頭の中で ミリアの家の使用人の服装を思い描く。
( シャツ、ジャケット 、タイ・・)
指をパチンと鳴らす。 すると一瞬で ロールの服が変わる。 上出来だ。 ミリアの家の使用人の服と 何ら遜色ない。
さすが俺と 自画自賛する。
***
ミリアは使い魔にキュルと名前をつけると一緒に登校する。 そのキュルは朝から エッグスタンドに頭突っ込んで ゆで卵をペロリと一つ 平らげて、今は 私の肩の上で 満足げに毛づくろいしている。
「 みんな、おはよう」
教室に入ると 何かあったのか、ジェニファーたちが集まっている。
覗いてみると皆が 自分の手のひらと 机にある紙と見比べている。
私も見てみるが 何のことかサッパリ分からない。
「 どうしたの? みんなで手のひらを見てるけど」
「 手相占いよ。 神秘的でしょ」
「何で もミスター ・キロー の 師匠の弟子の、 そのまた弟子が お店を開いたのよ」
「手相?」
「 ミリアは 『手の言葉』って本も知らないの?」
口々に教えてくれるが 初めて聞く言葉に知らないと首を横に振る。
そんな本が あること自体知らない。
「これよ」
友達の一人が私に 自分の手のひらを見せて皺を指差す。 シワにどんな意味が? 戸惑っていると もう一人の友達が私に手のひらを見せる。
「ほら 私のも見て。 違うでしょ」
確かに そんなもの 気にも留めていなかったが
改めて見ると 少しずつ違っている 。
「つまり、 この皺の違いを見るのが 手相占いよ」
「へ~。皆その店に行ったんだ」
「 そういう訳では・・」
ジェニファーが そう言って顔を曇らせる。
他の皆も視線を外す。
恋話に目がない皆は ことあるごとに運命の伴侶を見つけようと 恋占いのしては大騒ぎする。
それなのに、躊躇するのは珍しい。
「どうして駄目なの? 良く当たるんでしょ」
「 如何わしい場所に、 お店があるの。 行ったことがバレたら 勘当されちゃうわ」
「 この紙は、どうやって手に入れたの?」
「それは 家の使用人をもらってきたのよ。 ペンダントも勧めたらしいけど、 高額で諦めたんですって」
ミリアは手相の紙を見ながら思案に耽る。
噂としては弱い。 もっと奇跡っぽくないと、そう思っていると 別の友達が声を潜めて 話を切り出した。
「実は家の使用人が その店からエリザベスが出てくるのを見たのよ。 きっと魔法のペンダントの噂を 聞きつけたのね」
「知ってる。 なんでも そのペンダントを身につけるだけで 、全て望み通りになるらしいわ」
眉唾物の話だ。 ペンダントに願うだけで、全て叶うなんて信じられない。 しかも、それが売っているなんて あり得ない・・。
待って! 奇跡ってありえない話のことよね。
「 そのペンダントを使って、満点を取ったんじゃないかと 私は睨んでるの」
( もしかして、 あれが魔法のペンダント?)
ミリアは昨日の出来事を思い出した。
ペンダントか どうかは分からないが エリザベスが貴金属を身につけていたのは確かだ。
「 絶対そうよ。 でなかったら万年赤点のエリザベスが 満点なんて おかしすぎるわ」
耳が痛い。 きっと私のことも 同じように思っているわね。
「そうよ。 そのペンダントが 奇跡を起こさせたに決まっているわ 」
みんなが同感だと頷く。
誰もエリザベスが実力で 満点を取ったとは 思ってないらしい。
あのエリザベスに 満点を取らせることができるなら ・・・ペンダントの力は本物?
「興味本位で お店に行っちゃ駄目よ。 分かった」
ジェニファーが 釘を刺してくるが ミリアはエリザベスを探して首を伸ばす 。
「ところで 噂のエリザベスはどこ?」
「 あそこよ 」
ジェニファーが指差す方を見ると エリザベスの周りに 人垣が出来ている。
「 昨日満点を取ったから、 ちやほやしてるよ」
みんなの手のひらを返した態度に、 プリプリと怒りながらジェニファーが言う。
確かに、あからさま過ぎて頂けない。
だが さぞかし気分がいいだろうと エリザベスを見たが、 目が笑っていない。
( おかしいわね。クラスの女王になるのが 望みだったはずなのに・・)
イカサマをして 今頃になって罪悪感に駆られたとか?
いや、いや。エリザベスに限ってそれは無い。
プライドが服を着ているような 人間だもの。
**
ミリアはジェニファーの目を盗んで 、友達を教室の隅に連れ出す。
「 早速だけど、そのペンダントを売っている店が どこにあるか知ってる?」
「 ミリー。あんな得体の知れないものが欲しいの?」
「 いいから 、いいから。 場所だけ教えてくれたら 後は何とかするから (ダリルが )」
これでお役御免 。ダリルと縁が切れて、 晴れてキュルが私のものになる。
知ってか知らずか キュルが胸ポケットから顔を出す。
その頃 ダリルは自分でも 調べるという名目で 外出する ことにした。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる