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紳士的な悪魔
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泊める泊めないで 悪魔と揉めていると お父様が不審に思って声をかけてきた。
何とかやり過ごそうとしているのに 悪魔が勝手にドアを開ける。
絶体絶命のピンチ!
ドアの裏に隠れてミリアは 目を瞑って十字を切る。
「・・ ダリル様。 こんな所に いらしたんですか。 良いワインを手に入れたんです。 どうですか 一杯?」
「いいな。 ワインは好みだ」
お父様の怒鳴り声が すると思ったのに 悪魔との楽しそうな会話に 耳を疑う 。
どう考えてもおかしい。
ドアから少しだけ顔を出す。
何と、お父様が悪魔に笑いかけている。
まるで昔からの知り合いみたいに 親し気だ。
困惑したまま様子を伺っていると お父様がワインセラーに案内する言い出す。
ミリアは ついて行こうとする悪魔の前に回り込む 。
「ちょっと! お父様に何をしたんですか?」
「 私は悪魔だぞ。 記憶の改ざんなど 朝飯前だ」
「なっ、 何ですって!」
悪魔が さらりと言うと、 私を押しのけて歩き出す。 そんな事を自慢されて 安心すると思うの?
何とか阻止しようと 悪魔の手首に体重をかけて 引っ張ったが 逆にズルズルと 引きずられてしまう。
「元に、戻して下さい」
「 心配するな。 私はこう見えて 紳士的な悪魔だ。 無駄な殺生はしない」
「・・・」
私の腕を払いのけると お父様と連れ立って歩いて行く。
何が紳士よ! 悪魔のくせに。
しかし 、私一人の力では どうにもならない。 今は 悪魔の言葉を信じるしかない。二人の 後ろ姿を見送りながら ミリアは、心の中で お父様の無事を祈る。
(どうか、 ダリルの気が変わりませんように)
ダリルは ワインを喉に流し込みながら 遠くに見える 王都の明かりを見つめていた。
あの灯りのどこかに 犯人が隠れている。
出されたワインは美味しいが 洗練された味より 昔ながらの皮の渋みのある 赤ワインが好みだ。
だが、料理は口に合う。
事件が解決したら 食べ歩きしながら 仕立て屋巡りでもするか。
***
ミリアは、やきもきしながら 朝食のテーブルに着いたが ダリルの姿は無かった。
お父様も何時も通り。 顔色も良い。
どうやら何事も無かったらしい。 ダリルの話題も上がらなかった。
ミリアは安心して 登校しようと玄関を出ると 馬車の屋根でダリルが 足を組んで新聞を読んでいる。 あまりにも大胆な行動に ギョッとして周りを見たが 、使用人達は誰も何の反応も示さない。
『 おはようございます。 朝でも現れるんですね』
「・・・」
不思議に思いながら 小さな声で挨拶をすると 無言で見つめ返される。
何か変なことを言ったのかと 思っていると 御者がドアを開ける。すると、ダリル も一緒に乗り込んだ。
「 それで どうやって学校の中に入ればいいんだ?」
朝の挨拶は無視され、 座るや否や 依頼の話になる。 それにしても 朝から慌ただしい。
「 そうでした。 今から説明しますわ」
手引きは私がしないと イケないんだった。
鞄からノートを取り出すと 学校の見取り図を描くき始める。初めてのダリルでも 迷子にならないように 事細かく説明する。
ダリルの様子を伺うと 機嫌は悪く無さそうだ。これなら安心して任せられる。
***
小娘が通っている ロイヤル・ウエストウッド 女学院は 王宮の南側にあり 元皇太子の住居で、 白亜の4階建ての 豪華な建物だ。
敷地も広く校門から校舎まで 長いスロープがあり。 その両側には 色とりどりのバラが植えられている。 何ともロマンチックな事だ。
ダリルは 馬車を降りようと腰を浮かしたが、 肝心なことを聞いていなかった事を思い出す。
これでは 答案用紙が見つからない。
「 お前の名前を教えろ」
「あっ、 そう言えば 自己紹介がまだでしたわね。 ミリア・リリスアン・ ロビンソン です 」
「リリス?」
「 違います。 リリスアンです。 みんな 間違えるんですよね。 悪魔じゃありません。 本当は、 お母様が大好きな アマリリスの花の名前をつけようとしたんですけど、 反対されて・・。ああ、 アマリリスっていうのは 4、50 CM ぐらいの背丈で 太い茎の頂部に散形花序で 花を咲かせます。 花は6弁の大輪で、 緋色が一般的で・・ 聞いてます?」
「 分かった。 じゃあな」
ミリアが延々と 喋っているが、名前の由来などに 興味は無い。 降りようとすると 名前を呼ばれた。
「あっ、 ダリル。 待って下さい 」
「・・どうして私の名前を知っている?」
「えっ?昨日の夜 お父様がそう呼んでいました。 違うんですか?」
ダリルは 厳しい顔でミリアを見る。 名前を知られるのは 悪魔にとって良い事ではない。
しかし 、名前を呼ぶなといえば 変に勘ぐられるかもしれない。
「 ・・これからは 名前を呼ぶ時は、様をつけろ」
「でも、 悪魔に様って変じゃないですか? 悪魔様・・ 悪魔様・・ 悪魔様?」
「 変じゃない? 私は、お前より年上だ。 それだけでも十分な理由になる」
差別だ。 神には様をつけるのに 悪魔には着けない。どちらも人智を超えた力を持っている。
それに 人間の為に力を貸すのは、 何時も悪魔だ。 どう考えても敬うべきは悪魔だろう。
「はぁ・・」
ミリアの気のない返事に ダリルは苛立って 酷い言葉が喉まで出かかった。 だが 、これっきりの相手に 真剣に取り合うのは馬鹿らしいと考えを切り替える。
「 待って下さい」
ドアに手をやると またしても引き止められる。 ダリルは うんざり顔で振り向く。
「 今度は何だ」
「 その格好では見つかります。 変装して下さい」
俺に女装でもしろと言っているのか? 全く説明するのも面倒だが 仕方がないと重い口を開く。
「・・言葉を交わすか、 私の名前を知らない限り 存在を認知できない。だから問題ない」
「?」
「 記憶が残っているなら とっくに御者か 家族が大騒ぎしているはずだろう。 気づかなかったのか? 私が馬車の上に乗っているのに 誰も何も言われないのは、見えていないからだ」
「 そう言えば」
そう言ってミリアが ポンと手を叩く。
ダリルは 飲み込みの悪いミリアを残して 馬車をようやく降りた。
登校 する生徒に混じって 玄関ホールへと歩きながら、 ダリルは自分の言葉に首を捻る。
ミリアは 最初から私が見えていた。 先に話しかけてきたのミリアの方だ。
何故だ? 無意識に言葉を発していたとか ・・。
考え込んでいたダリルは ハッとして振り返る。 微かだが確かに 悪魔の気配がした。
しかし 、生徒でごった返してるせいで もはや誰か分からない。
内ポケットから 使い魔の 魔獣を取り出すと床に放す。
使い魔の行方を確認すると 生徒たちの間をすり抜けて 2階に上がる。
言われた通り部屋のドアに あるネームプレートを 一つ一つ確認して 目的の部屋を見つけた 。
指をパチンと鳴らして 解錠して中に入る。
机の上に 置かれている 紙の束の前に立つ。
( これか ?)
「ミリア ・ロビンソン。 ジェニファー・ブラウンの答案用紙は私の前に来い」
命令して指をパチンと鳴らすと 紙の束が揺れて 2枚の紙が手の中に納まる。
ダリルは 2枚の答案用紙を見比べて 目を閉じる。 ここまで酷いとは・・。
ミリアが 悪魔に泣きつく理由が分かる。
ダリルは ジェニファーの答案用紙を見ながら 1/3ほど正解に書き換えた。
***
ミリアは そわそわと自分の席から見える 樫の木を何度も確認する。
ダリルが完了の合図を その場所から送ってくれる約束になっている。
「 どうしたのミリー? さっきから外ばかり見てるけど、 何かあるの」
背後からの声に 振り向くと親友のジェニファーが、 私の視線を辿って窓の外を見る。
ジェニファーは 美しい金茶の髪にエメラルド色の瞳で、 いつも笑顔を絶やさない。 そして、 私の面倒を見てくれるしっかり者だ。
ジェニファーに、隠し事などしたこと無かったが 今回ばかりは 話すことが出来ない。
もし、知られたら カンカンに怒るに決まってる。
「 ううん、別に 。ジェニファーこそ何かあったの?」
話を振って注意をそらしたが、本当に話しが あったようだ。 私の 前の席に座って 辺りの目を気にしながら、 そっと耳打ちしてくる。
「 エリザベスが フランス語のテストで満点を取ったらしいの」
「嘘!!」
思わず立ち上がったが 、すぐにジェニファーに両肩を押されて椅子に座らされた。
ちょっと待って それが本当なら、今回のテスト 私だけが補習? そんなの嫌だ!
一人だけなんて死んでしまう。 エリザベスとは、 いつも仲良くフランス語の 補習を受けている。 時には私より 点数が低かったことさあった。そのエリザベスが 満点を取った時は にわかには信じられない。
もし その話が真実なら 、一気に気が滅入る。 5年間一緒に試練を乗り越えてきた同志を 失ってしまった。
ミリア は、がっくりと肩を落とす。 慰めるように ジェニファーが肩をポンポンと叩く。
ダリルが約束を破ったら 2週間、マンツーマンで補習。 想像するだけでも恐ろしい 。
「もしかして 凄腕の家庭教師でも 雇ったの?」 それなら、私も 同じ人に教えてほしい 。そうすれば 悪魔の力などに 頼らなくて済む。
「それは、無いわ。この前 12人目の家庭教師を 首にしたばかりよ」
私の問いに 気まずそうにジェニファーが答える。
「そっ、 そうなんだ ・・」
何とフォローしたものか ・・。しかし、 高慢ちきなエリザベスが 家庭教師を雇っているのに、赤点とは・・。
「 ミリアも 本気を出せば、出来るんだから 勉強すれば良いのに 」
あのエリザベスに出来たんだから、 私にも出来きるはずだと言いたいのだろう。
ジェニファーが不満げな目で見る。
ダリルが 約束を守ってくれたら 勉強したことになる。 でも 、ダリルが約束を守ってくれなかったら・・。
横目で木を 見たが ダリルの姿は無い。
ミリアは 仕方なく曖昧な相槌を打つ。
「・・ そうね ・・」
「そんな事では お嫁にいけないわよ」
ミリアは ジェニファーに向かって チッチッチと指を振る。 フランス語の成績が 全てでは無い。
「 そんな事ないわ。 一番重要なのは 家を切り盛り出来るか、 どうかでしょ。 その点 私は完璧よ。 料理も裁縫も 仕入先との値段交渉も お手の物よ」
他にピアノ、 バイオリン。 絵画に社交ダンス。 後は自転車にも乗れる。 機会があれば 、他のスポーツもチャレンジしたい 。
そうそう クロスワードも好き。
それなのに ジェニファーが横槍を入れる。
「 旦那様が フランス人の客を連れて来たら どうするの?」
「 フランス人と 付き合いのない人を選ぶわ」
「ミリー・・」
他の事は上手なんだから 問題無い。
それに 欠点のない人間なんて、いないんだから。
「 探せばいると思うのよ。 私みたいにフランス人が 嫌いな人が、一人くらい。そう思うでしょ?」
「 本気で言ってるのよ!」
ジェニファーが 怒って 立ち上がる。 すかさずミリアは 両肩を掴んで椅子に座らせる。
心配してくれるのは分かるが、 一度も見合い話が出た事も無い私には、 どうしても他人ごとのようにしか感じられない。
ミリアは 結婚したいと思ったことは一度も無い。 まして恋愛など 本の話の中だけで 、夢のまた夢。
ジェニファーは 弟のウィルと付き合っているから 現実的に考えられるのかもしれないが・・。口を真一文字にして ジェニファーが責めるような視線を送ってくる。
「 分かったから。 そう怒らないで 」
「ちゃんと約束して!」
それでも 足りないとジェニファーが重ねてくる。 ミリアは仕方なく 頷く。
***
ダリルは 約束通り木の枝に ハンカチーフを敷いて 足を伸ばして腰かける。
教室に目をやると ミリアと目が合う。
こくりと頷いて合図を送ると ミリアの顔に 花のような笑顔が咲く。
よほど補習が免れて嬉しいのだろう。
ミリアの仕事は終わったが 、ダリルはそのまま 使い魔が戻ってくるのを待つことにした。
暇つぶしに教室を見ると、ドアの開く音に 騒がしかった生徒が一斉に自分の席に着席して 無言で教師を出迎える。
その徹底ぶりに 酷薄な笑みを浮かべる。
( ここは、学校という名の軍隊だな。とうとう 令嬢も 戦に駆り出される時代になったか )
下から聞こえる音に目をやると使い魔が木を登ってくると、 そのまま私のズボンをよじ登って 肩にとまると耳に口を近づける。
使い魔からの報告は 興味深いものだった。
残滓が薄くて 特定出来なかったが、 悪魔と接触した人間か 、悪魔の持ち物を持っている人間が 確かにいるとの事だった。
( これは・・ 調べてみる価値が、あるな)
ミリアに、やらせてみるか。 この学院の生徒だし、 少しくらいは役に立つだろう。
何とかやり過ごそうとしているのに 悪魔が勝手にドアを開ける。
絶体絶命のピンチ!
ドアの裏に隠れてミリアは 目を瞑って十字を切る。
「・・ ダリル様。 こんな所に いらしたんですか。 良いワインを手に入れたんです。 どうですか 一杯?」
「いいな。 ワインは好みだ」
お父様の怒鳴り声が すると思ったのに 悪魔との楽しそうな会話に 耳を疑う 。
どう考えてもおかしい。
ドアから少しだけ顔を出す。
何と、お父様が悪魔に笑いかけている。
まるで昔からの知り合いみたいに 親し気だ。
困惑したまま様子を伺っていると お父様がワインセラーに案内する言い出す。
ミリアは ついて行こうとする悪魔の前に回り込む 。
「ちょっと! お父様に何をしたんですか?」
「 私は悪魔だぞ。 記憶の改ざんなど 朝飯前だ」
「なっ、 何ですって!」
悪魔が さらりと言うと、 私を押しのけて歩き出す。 そんな事を自慢されて 安心すると思うの?
何とか阻止しようと 悪魔の手首に体重をかけて 引っ張ったが 逆にズルズルと 引きずられてしまう。
「元に、戻して下さい」
「 心配するな。 私はこう見えて 紳士的な悪魔だ。 無駄な殺生はしない」
「・・・」
私の腕を払いのけると お父様と連れ立って歩いて行く。
何が紳士よ! 悪魔のくせに。
しかし 、私一人の力では どうにもならない。 今は 悪魔の言葉を信じるしかない。二人の 後ろ姿を見送りながら ミリアは、心の中で お父様の無事を祈る。
(どうか、 ダリルの気が変わりませんように)
ダリルは ワインを喉に流し込みながら 遠くに見える 王都の明かりを見つめていた。
あの灯りのどこかに 犯人が隠れている。
出されたワインは美味しいが 洗練された味より 昔ながらの皮の渋みのある 赤ワインが好みだ。
だが、料理は口に合う。
事件が解決したら 食べ歩きしながら 仕立て屋巡りでもするか。
***
ミリアは、やきもきしながら 朝食のテーブルに着いたが ダリルの姿は無かった。
お父様も何時も通り。 顔色も良い。
どうやら何事も無かったらしい。 ダリルの話題も上がらなかった。
ミリアは安心して 登校しようと玄関を出ると 馬車の屋根でダリルが 足を組んで新聞を読んでいる。 あまりにも大胆な行動に ギョッとして周りを見たが 、使用人達は誰も何の反応も示さない。
『 おはようございます。 朝でも現れるんですね』
「・・・」
不思議に思いながら 小さな声で挨拶をすると 無言で見つめ返される。
何か変なことを言ったのかと 思っていると 御者がドアを開ける。すると、ダリル も一緒に乗り込んだ。
「 それで どうやって学校の中に入ればいいんだ?」
朝の挨拶は無視され、 座るや否や 依頼の話になる。 それにしても 朝から慌ただしい。
「 そうでした。 今から説明しますわ」
手引きは私がしないと イケないんだった。
鞄からノートを取り出すと 学校の見取り図を描くき始める。初めてのダリルでも 迷子にならないように 事細かく説明する。
ダリルの様子を伺うと 機嫌は悪く無さそうだ。これなら安心して任せられる。
***
小娘が通っている ロイヤル・ウエストウッド 女学院は 王宮の南側にあり 元皇太子の住居で、 白亜の4階建ての 豪華な建物だ。
敷地も広く校門から校舎まで 長いスロープがあり。 その両側には 色とりどりのバラが植えられている。 何ともロマンチックな事だ。
ダリルは 馬車を降りようと腰を浮かしたが、 肝心なことを聞いていなかった事を思い出す。
これでは 答案用紙が見つからない。
「 お前の名前を教えろ」
「あっ、 そう言えば 自己紹介がまだでしたわね。 ミリア・リリスアン・ ロビンソン です 」
「リリス?」
「 違います。 リリスアンです。 みんな 間違えるんですよね。 悪魔じゃありません。 本当は、 お母様が大好きな アマリリスの花の名前をつけようとしたんですけど、 反対されて・・。ああ、 アマリリスっていうのは 4、50 CM ぐらいの背丈で 太い茎の頂部に散形花序で 花を咲かせます。 花は6弁の大輪で、 緋色が一般的で・・ 聞いてます?」
「 分かった。 じゃあな」
ミリアが延々と 喋っているが、名前の由来などに 興味は無い。 降りようとすると 名前を呼ばれた。
「あっ、 ダリル。 待って下さい 」
「・・どうして私の名前を知っている?」
「えっ?昨日の夜 お父様がそう呼んでいました。 違うんですか?」
ダリルは 厳しい顔でミリアを見る。 名前を知られるのは 悪魔にとって良い事ではない。
しかし 、名前を呼ぶなといえば 変に勘ぐられるかもしれない。
「 ・・これからは 名前を呼ぶ時は、様をつけろ」
「でも、 悪魔に様って変じゃないですか? 悪魔様・・ 悪魔様・・ 悪魔様?」
「 変じゃない? 私は、お前より年上だ。 それだけでも十分な理由になる」
差別だ。 神には様をつけるのに 悪魔には着けない。どちらも人智を超えた力を持っている。
それに 人間の為に力を貸すのは、 何時も悪魔だ。 どう考えても敬うべきは悪魔だろう。
「はぁ・・」
ミリアの気のない返事に ダリルは苛立って 酷い言葉が喉まで出かかった。 だが 、これっきりの相手に 真剣に取り合うのは馬鹿らしいと考えを切り替える。
「 待って下さい」
ドアに手をやると またしても引き止められる。 ダリルは うんざり顔で振り向く。
「 今度は何だ」
「 その格好では見つかります。 変装して下さい」
俺に女装でもしろと言っているのか? 全く説明するのも面倒だが 仕方がないと重い口を開く。
「・・言葉を交わすか、 私の名前を知らない限り 存在を認知できない。だから問題ない」
「?」
「 記憶が残っているなら とっくに御者か 家族が大騒ぎしているはずだろう。 気づかなかったのか? 私が馬車の上に乗っているのに 誰も何も言われないのは、見えていないからだ」
「 そう言えば」
そう言ってミリアが ポンと手を叩く。
ダリルは 飲み込みの悪いミリアを残して 馬車をようやく降りた。
登校 する生徒に混じって 玄関ホールへと歩きながら、 ダリルは自分の言葉に首を捻る。
ミリアは 最初から私が見えていた。 先に話しかけてきたのミリアの方だ。
何故だ? 無意識に言葉を発していたとか ・・。
考え込んでいたダリルは ハッとして振り返る。 微かだが確かに 悪魔の気配がした。
しかし 、生徒でごった返してるせいで もはや誰か分からない。
内ポケットから 使い魔の 魔獣を取り出すと床に放す。
使い魔の行方を確認すると 生徒たちの間をすり抜けて 2階に上がる。
言われた通り部屋のドアに あるネームプレートを 一つ一つ確認して 目的の部屋を見つけた 。
指をパチンと鳴らして 解錠して中に入る。
机の上に 置かれている 紙の束の前に立つ。
( これか ?)
「ミリア ・ロビンソン。 ジェニファー・ブラウンの答案用紙は私の前に来い」
命令して指をパチンと鳴らすと 紙の束が揺れて 2枚の紙が手の中に納まる。
ダリルは 2枚の答案用紙を見比べて 目を閉じる。 ここまで酷いとは・・。
ミリアが 悪魔に泣きつく理由が分かる。
ダリルは ジェニファーの答案用紙を見ながら 1/3ほど正解に書き換えた。
***
ミリアは そわそわと自分の席から見える 樫の木を何度も確認する。
ダリルが完了の合図を その場所から送ってくれる約束になっている。
「 どうしたのミリー? さっきから外ばかり見てるけど、 何かあるの」
背後からの声に 振り向くと親友のジェニファーが、 私の視線を辿って窓の外を見る。
ジェニファーは 美しい金茶の髪にエメラルド色の瞳で、 いつも笑顔を絶やさない。 そして、 私の面倒を見てくれるしっかり者だ。
ジェニファーに、隠し事などしたこと無かったが 今回ばかりは 話すことが出来ない。
もし、知られたら カンカンに怒るに決まってる。
「 ううん、別に 。ジェニファーこそ何かあったの?」
話を振って注意をそらしたが、本当に話しが あったようだ。 私の 前の席に座って 辺りの目を気にしながら、 そっと耳打ちしてくる。
「 エリザベスが フランス語のテストで満点を取ったらしいの」
「嘘!!」
思わず立ち上がったが 、すぐにジェニファーに両肩を押されて椅子に座らされた。
ちょっと待って それが本当なら、今回のテスト 私だけが補習? そんなの嫌だ!
一人だけなんて死んでしまう。 エリザベスとは、 いつも仲良くフランス語の 補習を受けている。 時には私より 点数が低かったことさあった。そのエリザベスが 満点を取った時は にわかには信じられない。
もし その話が真実なら 、一気に気が滅入る。 5年間一緒に試練を乗り越えてきた同志を 失ってしまった。
ミリア は、がっくりと肩を落とす。 慰めるように ジェニファーが肩をポンポンと叩く。
ダリルが約束を破ったら 2週間、マンツーマンで補習。 想像するだけでも恐ろしい 。
「もしかして 凄腕の家庭教師でも 雇ったの?」 それなら、私も 同じ人に教えてほしい 。そうすれば 悪魔の力などに 頼らなくて済む。
「それは、無いわ。この前 12人目の家庭教師を 首にしたばかりよ」
私の問いに 気まずそうにジェニファーが答える。
「そっ、 そうなんだ ・・」
何とフォローしたものか ・・。しかし、 高慢ちきなエリザベスが 家庭教師を雇っているのに、赤点とは・・。
「 ミリアも 本気を出せば、出来るんだから 勉強すれば良いのに 」
あのエリザベスに出来たんだから、 私にも出来きるはずだと言いたいのだろう。
ジェニファーが不満げな目で見る。
ダリルが 約束を守ってくれたら 勉強したことになる。 でも 、ダリルが約束を守ってくれなかったら・・。
横目で木を 見たが ダリルの姿は無い。
ミリアは 仕方なく曖昧な相槌を打つ。
「・・ そうね ・・」
「そんな事では お嫁にいけないわよ」
ミリアは ジェニファーに向かって チッチッチと指を振る。 フランス語の成績が 全てでは無い。
「 そんな事ないわ。 一番重要なのは 家を切り盛り出来るか、 どうかでしょ。 その点 私は完璧よ。 料理も裁縫も 仕入先との値段交渉も お手の物よ」
他にピアノ、 バイオリン。 絵画に社交ダンス。 後は自転車にも乗れる。 機会があれば 、他のスポーツもチャレンジしたい 。
そうそう クロスワードも好き。
それなのに ジェニファーが横槍を入れる。
「 旦那様が フランス人の客を連れて来たら どうするの?」
「 フランス人と 付き合いのない人を選ぶわ」
「ミリー・・」
他の事は上手なんだから 問題無い。
それに 欠点のない人間なんて、いないんだから。
「 探せばいると思うのよ。 私みたいにフランス人が 嫌いな人が、一人くらい。そう思うでしょ?」
「 本気で言ってるのよ!」
ジェニファーが 怒って 立ち上がる。 すかさずミリアは 両肩を掴んで椅子に座らせる。
心配してくれるのは分かるが、 一度も見合い話が出た事も無い私には、 どうしても他人ごとのようにしか感じられない。
ミリアは 結婚したいと思ったことは一度も無い。 まして恋愛など 本の話の中だけで 、夢のまた夢。
ジェニファーは 弟のウィルと付き合っているから 現実的に考えられるのかもしれないが・・。口を真一文字にして ジェニファーが責めるような視線を送ってくる。
「 分かったから。 そう怒らないで 」
「ちゃんと約束して!」
それでも 足りないとジェニファーが重ねてくる。 ミリアは仕方なく 頷く。
***
ダリルは 約束通り木の枝に ハンカチーフを敷いて 足を伸ばして腰かける。
教室に目をやると ミリアと目が合う。
こくりと頷いて合図を送ると ミリアの顔に 花のような笑顔が咲く。
よほど補習が免れて嬉しいのだろう。
ミリアの仕事は終わったが 、ダリルはそのまま 使い魔が戻ってくるのを待つことにした。
暇つぶしに教室を見ると、ドアの開く音に 騒がしかった生徒が一斉に自分の席に着席して 無言で教師を出迎える。
その徹底ぶりに 酷薄な笑みを浮かべる。
( ここは、学校という名の軍隊だな。とうとう 令嬢も 戦に駆り出される時代になったか )
下から聞こえる音に目をやると使い魔が木を登ってくると、 そのまま私のズボンをよじ登って 肩にとまると耳に口を近づける。
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