猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰

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ザブマギウム

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   ずっと食べたかった人間のご飯が食べられる事に。あまり期待していなかったが、出てきたのは 何とステーキ! 大満足していたが、最後に出てきたのはデザートと皿に入った水。


   どうしても水に直接口を付けて飲むことに抵抗がある。仇の様に睨みつけた。すると、
「コップで飲んでみるかい」
そう言って ご主人様が テーブルの上にマグが置く。
(………)
ちょっと緊張する。でも、大丈夫。上手く出来る。そう自分を勇気付ける。
前肢を突き出して その間にマグを
しっかりと挟んで、ゆっくりと持ち上げて下に傾ける。すると水が入って来た。冷たい水が喉を通って胃へと流れたて行く。
(飲めた……)
ホッとしてマグをコトリと置く。
「父上、すごい。ちゃんと飲めたよ」
「そうだな」
感心するマーカスの様子にドヤ顔を返す。猫でもやれる。ご主人様も嬉しそうだ。だけど、そんな風にジッと見てられるとテレる。それを誤魔化すようにデザートの皿を食べさせてくれと鼻先で押しやる。
「はい。はい」
そう言ってご主人様が 嫌がる様子もみせずにフルーツは小さくカットして、ババロアは一口一口スプーンで食べさせてくれた。
(親切な人だ)
子育てをしているから慣れているのかもしれない。最後のババロアを食べ終ると、水を飲もうと、もう一度両手でマグを掴んで ゆっくりと傾ける。視線を感じて向くと、マーカスが私の様子を観察している。
まあ、猫が人間みたいに食べたり飲んだりするんだ不思議に思うのは仕方ない。でも、どうしてご主人様は私の事を人間として扱ってくれるんだろう……。使用人たちも私の人間っぽい行動に噂話をしているのが聞こえた。それなのに、ご主人様は当たり前のように接してくれる。
(本当にどうしてだろう?)
小首を傾げて見ていると赤ちゃんみたに抱えられた。
筋肉があるから、腕そのものも太い。その分面積もあるので安定感もある。体が密着しているから安心感もある。猫が抱っこを好きなのが分かった。ああ、毎日この腕の中で目を覚ましたら最高だ。

   食後、楽しそうにお喋りしているご主人様たちを見ていると心がほっこりする。
家族の仲がいいのは良い事だ。私も会社や学校で会ったことをよくお母さんたちに話したものだ……。でも今日からはここが私の家だ。ここまで歓迎してくれたんだもの捨てられることは無いだろう。
「ふふっ」
(神様ありがとう!)



二人はああでもない、こうでもないと話を続けているが、私は集中出来無い。
瞼が下がって仕方ない。
『ふわぁ~』
疲れたなあ、今日はいっぱいの事があった。マーカスに会って、追い駆けて、ご主人様に会って、お風呂に入って、お腹もいっぱい
で……。デザートまで食べて満腹になったからか段々眠くなって来た。もっと二人を見ていたいのに瞼が言う事をきかない。

**

   ブルッ
寒さを感じて目を覚ました。野宿が常だから何時もの事だ。
だけど、何時もと違う。湿っぽくも無いし、真っ暗でも無い。
あっ、そうか。ここは人間の家だ。やっと、たどり着けたんだ。ニンマリ笑う。これからは楽しい生活が待っているんだ。
(ところでここは……)
最後の記憶は……そうか、あのまま食堂で寝ちゃったんだ。
誰の部屋だろうと首をもたげて部屋を見まわす。家具や装飾品からすると大人の男性の部屋だ。
横を見ると布団が上下に動いて
いる。ご主人様だ。起き上がって顔を覘き込むと、予想通りご主人様だった。ぐっすり寝ている。まつ毛が長い。寝顔もハンサムだ。乱れた髪、はだけた胸元。くうーっ、セクシーだ。
私が人間だったらライン交換しているのに。
(声を掛ける勇気があれば、だけど)
惜しい。こんな良い男を前にアプローチ出来ないなんて。

   猫である事の良い点もある。
どんなに甘えてもオッケーだ。
そして、何処に居ても怪しまれない。お風呂でも、寝室でも、食堂でも、着替えるときも、これからの毎日見放題だ。
アイドルと同居してるみたい。
まさに天国! 今日初めて猫に生まれた事を感謝した。
それでは早速、一緒に寝ようと布団を頭で押し上げて中に入りこむ。すると、寝ぼけたご主人様に
抱き締めて、その胸にすっぽりと納まった。まるで、最初から私の居場所みたい。そう思えるほどしっくりくる。
人間だったら、こんなシュチュエーション心臓バクバクで楽しめなかっただろう。でも、今は五感全てで感じられる。
血管の浮き出た腕を見て、クンクンと男性的な匂いを嗅いで、ペロリと舐めて、胸にホッペを擦り付ける。すると、ドクン、ドクンと心臓の音が聞こえる。
まさか自分が こんなに大胆な行動がとれるとは 自分でも知らなかった。これも猫だからだできる事だ。今もし、ご主人様が目を覚ましても、じゃれついているとしか思われない。

***

   温もりが無くなったからなのか
自然と目が覚めた。
朝なのかな? 
そう思って片目を開けると部屋が明るくなっていた。もう片方を開けると、ご主人様が着替えようとしていた。私も起きよう。部屋を出るなら連れて行ってもらおう。歩くより早い。
朝食は何だろう。洋食だからパンに目玉焼きかな……。
ふわあ~と、大きく欠伸をすると前脚を伸ばしてグッとお尻をお持ちあげる。う~ん。と体を伸ばす。こうすると気持ち良い。

パサリ

猫の習性なのか布の擦れるような小さな音でも反応してしまう。
つい、そちらを見るとパジャマの上が椅子の背にかけられていた。
(と言う事は……)
ご主人様に目を向けると上半身裸だ。まさか、こうも簡単にお約束が叶うとは思わなかった。

   双方の壁のような大胸筋。綺麗に等分された腹筋。ここまで完璧な身体は無い。これぞまさしく涎ものの芸術作品。
(はあ~眼福)
もっと近くで見てみたい。
今までは男性の裸など写真とかでしか見た事がなかった。でも今、目の前、触れる距離に居る。
指一本で良いから触って確かめたい。本能に導かれるように人差し指を伸ばす。伸ばした指が、手が、腕が、一直線にご主人様の筋肉を示す。あとちょっと、そう思った矢先、ドタンと大きなお音をたててベッドの下に落ちてしまった。寝ぼけてバランスを崩したのか派手に転んでしまったようだ。
何時もは自動で受け身を取るのにどうしたんだろう。猫なんだから無様な格好で落ちたりするのは変だ。
「まさか……」
痛ててと顎を擦っていると何時の間にかご主人様の顔が目の前にあった。驚いて身を引くとゴンと今度は後頭部を打ち付けた。
『にゃ!』(痛っ!)
気を抜いていたから まともにぶつかってしまった。頭を擦っている所をご主人様が見下ろしている。酷く驚いているようで瞳孔が広がっている。
(何だか緊張しているような……)
「やっぱり……」
私が落ちたから驚いているのかな。みっともない姿を見せてしまった。てへへと愛想笑いをして誤魔化した。すると、ご主人様の緊張が解けたようで笑顔で私を抱き上げた。
「痛かったね」
そう言って私の代わりに頭を撫でる。

   されるがままになっていたが、よく考えると今ご主人様は半裸。
そして、目の前には胸。これはチャンス。ホッペを擦る付ける。
すべすべして温かい。肉球で押してみると固いけど弾力がある。
(ああ~至福の時だ)
「コラッ、くすぐったいよ」
ご主人様がそう言って私を床に置いてしまった。
(私の夢が……)
その後も、もっと触ろうと纏わりついたが着替えが終わってしまった。無念。今度は 何時見れるか分からないのに……。



   ご主人様と食堂に向かっていたが、頭の中では色々考えている。実は気になることがあった。
(さっきのは何
だったんだろう……)
ベッドから床まで一メートルも無い。それにつんのめって落ちたと言う感覚も無かった。それなのに、顎がぶつかったのは何故?
あの派手な音も気になる。猫一匹にしては大き過ぎる。
何より、ご主人様に伸ばしたのは
人間の腕だった。……ご主人様も目を見開いて驚いていたけど……その事には何も触れなかった。
(う~ん。まあ……気のせいだろう)
余りにも触りたくて妄想したのかも。何かあったならご主人様の態度が変わるはずだ。
チラリとご主人様を盗み見ると嬉しそうに笑っている。何か良い事があったみたいだ。

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