猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰

文字の大きさ
20 / 52

私に出来ること

しおりを挟む
   保護者気分で マーカスに同行したのに 怪我を負わせてしまった。
大急ぎで帰ってきたが、そのことを伝えられないでいた。

「ニャーウ?…………マーカス! マーカスのことだね」
(そう。そうだよ)
コクコクと頷く。通じた。これで大丈夫。すると、途端にご主人様の態度が一変する。
「マーカスが どうしたんだ?」
厳しい顔に、私が来たことの重要性が分かったようだ。
"草で怪我をしたの。早く助けに行って"と 言いたいが、そこまでは無理だ。とにかく 連れて行こう。
ご主人様の袖を咥えて引っ張る。
「分かった。ついて行くよ。案内してくれ」
しかし、サッと立ち上って出て行こうとするご主人様をニックさんが引き止めた。
「ご主人様」
「リサが一人で帰って来たんだ。マーカスに何かあったに違ない」
その言葉にニックさんもハッとしたように立ち上がる。

***

   ご主人様が執務室を出ると、
「準備して来るから玄関で待ってて」と言い残して何処かへ行ってしまった。
早く、早く。何をしているのよ。
今は一刻も争うのに。脳裏に別れたときのマーカスの姿が浮かぶ。
(大丈夫。大丈夫。間に合う)

玄関をウロウロしながら待っていると、服を着替えたご主人様が救急箱のような物を持ってやって来た。続いてニックさんが毛布のような物を背負ってやって来た。
ご主人様と同じく登山に行くみたいな格好だ。二人ともブーツに手袋をしている。
「リサ。案内してくれ」
分かったと頷くとマーカスの元へ向かって駆け出す。
マーカス今、助けに行くからね。

**

「マーカス!」
「お坊ちゃま!」
現場に戻るとマーカスが苦しそうに体を丸めている。まだ息がある。良かった。死んでなかった。体調が悪化しているのではと心配したが 大丈夫そうだ。
「やはり、セージ草にやられたようだ」
二人がマーカスの側に跪くと応急処置が始まった。転んで手をついた拍子に、草で擦ったらしく患部が酷く腫れていた。
(痛そうだ……)
何も出来ない私は治療されているマーカスの周りをグルグル回るこてしか出来ない。
擦れたところに水を掛けられ軟膏を塗らてれ包帯を巻かれた。
お父さんが来たというのに目も開けない。それだけ、苦しいんだ。顔色も悪いままで、何をされても反応がない。
(擦っただけなのに、こんなに酷い状態になるなんて……恐ろしい草だ)
最後に薬を飲まされた。それが終わると、ご主人様がマーカスを背負って走り出す。
「戻るぞ!」
「はい」
『にゃ』
その後ろをニックさんと私の二人でついて行く。




   一緒に帰って来たが、汚れているからとアイリスさんに私だけ お風呂場に連れられて、別々になってしまった。 頭では分かっていてもなんだか 差別されたような気になる。
やっと、マーカスの部屋に行った時には、既に眠っていた。 顔色も元に戻ったし 呼吸がさっきよりは辛そうじゃない。
これで一安心かな。ホッとした。
頑張ったねとマーカスの頭を前肢で撫でる。
(早く元気になってね)


***

   複数のバタバタと急いでいる足音に目を覚ました。辺りはまだ暗い。何事だろう? 
ムクリと起き上がると耳を澄ます。今度は足音が帰ってくる。
音の方角からしてマーカスとの部屋を往復している。
マーカスに何かあったのかもしれない。隣を見るといつも一緒に寝ているご主人様の姿も無い。
(寝る前に見たときは大丈夫そうだったのに……)
様子を見に行こうとベッドを下りて外に出る。廊下に水の雫の痕が残っている。それとクスリの臭い。その事が不安を煽る。
行かなくちゃ!
タッ、タッ、タッとマーカスの部屋に向かっていると途中でアイリスさんとすれ違った。動揺しているのか 私に気づいてない。
何時もの余裕が無くなっている。これは一大事だ。

   マーカスの部屋のドアが開いている。中を覗くと強張った顔で ご主人様がマーカスの額のタオルを交換していた。
付きっきりで看病していたんだ。包帯の巻かれたマーカスの手がパンパンに腫れ上っている。どうやら、毒のせいで熱を出しているみたいだ。
(解毒が上手く行かなかったんだろうか?)
邪魔にならないようにベッドに飛び乗ってマーカスの顔を覘き込む。顔が赤い。熱のせいか息苦しそうだ。
ああ、可哀想に……。こんな小さな体で病気になるなんて。
私に気付いたご主人様が私を下ろそうと身を乗り出した。
「大丈夫だから、心配ない」
しかし、その前にマーカスが目を覚ました。熱で目が潤んでいる。
その目が私を捉える。
「……来てく……れたん……だ……」
こっちは心配しているのに、嬉しそうにマーカスが口を緩める。
熱に浮かされている? 
驚いて前肢を額に押し付けた。
夏の日のアスファルト並に熱い。
四十度はある。
「はぁ~」
マーカスが気持ち良さそうに溜め息をつくと目を閉じだ。
……肉球が冷たかったらしい。
「う……れし……い……よ……」
喋るな、おとなしくしてろと、マーカスの肩に前肢を置く。
すると、更に嬉しそうにする。
そんな顔するの反則だよ。胸が苦しくなる。私は 何もしてないのに……。
「リ……サ……」
まったく、喋るんじゃない。首を振って止める。無駄に体力を使って欲しくない。
こんな状態なのに病院に行かなくて大丈夫なんだろうか? 
不安になって耳が倒れる。
すると、ひょいっと抱き上げられた。見上げるとご主人様だった。いつもと違ってご主人様も元気がない。私だって自分の事以上に心配なんだから、ご主人様からしたらそれ以上に心配で辛いだろう。

   私の体を撫でながら笑みを浮かべるが どこか硬い。
「心配しなくて良い。明日の朝には元気になってる」
そう言う割には眉間に皺が寄っている。私じゃ無く自分に言い聞かせているみたいだ。
たった一人の子供だもの。
心配なのは当たり前だ。
ひょいと二本足で立ち上がると、
ご主人様の頭を撫でる。
すると、驚いたように一瞬止まったが、強請るように私に頭を向けて来た。少しでも、それで気が紛れるならと何度も撫でると、
「後は私がしますので、お二人とも部屋に戻って下さい」

   アイリスさんに、看病の邪魔だとやんわりと追い出された。
ご主人様と寝室に戻りながらマーカスが心配で何度も振り返る。
本当に大丈夫? あんな状態のマーカスを見た後では落ち着かない。
「熱が下がらなかったら、医者を呼ぶから」
その言葉にコクリと頷く。いつも元気にしているから、ああいう姿を見ると不安になる。まだ子供だもの。
(私も何か役に立てればいいんだけど……)

**

   余り眠らないうちに夜が明けて医者が来た。同席したかったが、ペットは面会禁止だと言われて私だけ外に追い出された。
(私だってマーカスが心配なのに……)
ザブマギウムだと言っても猫にしか見えないし、悔しいが仕方なく引き下がるしかない。マーカスの部屋の前でウロウロと診断が終わるのを待っていたが、アイリスさんに時間が掛かるからと執務室で待つように言われた。何だか体良く追い払われた気がする。
(長いなー。いつ終わるんだろう)
待ちきれずにマーカスの所へ行った。でも……。自分の両手を見る。猫の手だ。この手では何一つままならない。タオル交換さえ出来ない。マーカスが、苦しんでいるのに何も出来ない。私は役立たずだ。邪魔者だ。こんな私では部屋を追い出されても仕方ない。
私が人間だったら看病出来たのに。傍について水を飲ませたり、手を握ってあげたり、出来るのに……。
どうして私は猫なんだろう。
どうしてニャーニャーしか言えないんだろう。どうして私は人間の姿で召喚されなかったんだろう。
トボトボと引き返した。

  玄関のドアの閉まる音に続いて人の話し声が聞こえる。終わった。マーカスは大丈夫なの?
窓から外を見ると、丁度 医者が馬車に乗り込むところだった。
ニックさんが見送っている。
これでマーカスの所へ行ける。
自分で様子を見ないと気が済まない。マーカスの部屋に向かった。
ドアを開けて中に入るとアイリスさんが看病している。ベッドに乗り上ると、マーカスは昨日の夜と同じで苦しそうにしている。
昨日は私を見つめてくれたのに、今日は目を開いてくれない。
(マーカス……)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

異世界から来た華と守護する者

恋愛
空襲から逃げ惑い、気がつくと屍の山がみえる荒れた荒野だった。 魔力の暴走を利用して戦地にいた美丈夫との出会いで人生変わりました。 ps:異世界の穴シリーズです。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
第零騎士団諜報部潜入班のエレオノーラは男装して酒場に潜入していた。そこで第一騎士団団長のジルベルトとぶつかってしまい、胸を触られてしまうという事故によって女性とバレてしまう。 ジルベルトは責任をとると言ってエレオノーラに求婚し、エレオノーラも責任をとって婚約者を演じると言う。 エレオノーラはジルベルト好みの婚約者を演じようとするが、彼の前ではうまく演じることができない。またジルベルトもいろんな顔を持つ彼女が気になり始め、他の男が彼女に触れようとすると牽制し始める。 そんなちょっとズレてる二人が今日も任務を遂行します!! ――― 完結しました。 ※他サイトでも公開しております。

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

処理中です...