猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰

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かくれんぼ

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 リサは さっきから 息を殺し、足音と立たないように 一階と二階を行き来していた。

ゲイルたちとのかくれんぼうは続いている。足音にも、行動にも、四人の性格が出る。
特にハンスの足音には気を使っていた。ためらいもなく私の首を切りつけたんだ。ちょっとでも機嫌はそこねれば、また襲ってくるに違いない。
( 心配ならナイフを取り上げればいいのに……)
大事にしたいのか、いきてさえいれば良いのかわからない扱いだ。

✳✳✳

 リチャードは草むらに身を低くして時が来るのを待っていた。

オペラグラスを使って既に犯人の人数を確認済みだ。新しく雇ったとの報告が無いから全員で五人だ。ドミニクは歳だから攻撃はして来ないだろう。残り四人。良い噂を聞かない者も混じっている。
(何もされてないと良いのだが……)
強行突破は悪手だ。 人質に取られるかもしれない。だからこそ、夕日を背にして全員がドミニクの家を包囲していた。
もう少ししたら明かりが灯る。
それは決行の合図だ。

 そうすれば誰が何処に居るか見分けがつく。もしリサが 地下に監禁されていても食事を運ぶはずだから その後を付けて行けば良い。部屋の一つに明かりがついた。
しかし、それ以外は行ったり来たり、上ったり降りたりと、忙しく動いている。
ドミニクは書斎に籠ったまま。他の手下たちはバラバラになって家の中をうろついている。リサは隠れているのか?
武器を携帯していないところを見ると 我々が来ている事を予想して巡回をしている訳じゃないらしい。リサに何とか、こちらが来ている事を伝える方法を考えないと。
四人とはいえ制圧するのは簡単では無い。


✳✳✳

 リサは、角にしゃがみ込んで階段の途中で立ち止まったまま何かを考えているゲイルを物陰から観察していた。
どうして動かないんだろう……。
あそこに居られると困るんだけど。
上に行くにも下に行くにも階段を通らないとならない。どっち、どっちに行くの?
不安なまま待っているともう一つの足音が近付いて来た。それと一緒に明かりもついてくる。見覚えの無い顔だ。ニキビ面の男じゃなくてホッとした。
「あっ、ゲイル。よかった」
「ドナルド」
「はい。コレ。もうすぐ暗くなるからって ベンジャミンが持たせてくれた」
そう言って ドナルドがランプとは違う 四角いものを手渡した。
「どうしだ。見つかったか?」
「見つからない」
二人になった。どうしよう……二手に別れたら一人はこっちに来る。ジッと様子を見ていると相談を始めた。
「ドナルドは部屋の中も調べてるか?」
「調べてないよ」
ドナルドと呼ばれた男が首を左右に振る。
「二人で一緒に探さないか?」
ゲイルの提案にギクリとした。
(えっ?嘘でしょ)
一人でも大変なのに二人がかりでなら逃げにくくなる。ドナルドが頷く。
「そうだね」
「出入り口は一か所なんだか ら一階で待ってればいずれ来るだろう」
その言葉に唇を噛み締める。一階に下りたりしたら確実にゲイルたちに見つかってしまう。
(どうしよう……)
他の仲間も一階に集合してしまったら、本当に逃げ場が無くなってしまう。一階へと下りて行く二人の足音が遠くなっていく。二階から飛び下りる? あの時はリチャードが居てくれたから勇気が出せたけど……。
猫の姿の時だって木から飛び降りるのが怖かった。人間ならもっと無理だ。
暗闇の中ならまだ逃げるチャンスが広がる。既に日は傾き始めた。それまで何としても逃げのびよう。

   二人が一階に居るなら三階を中心に隠れよう。そう考えてリサは見つからないように三階の部屋の一つに隠れていた。しかし、聞こえてきた物音に腰を浮かした。
さっきまで足音を忍ばせていたのに、今はなりふり構わず部屋を調べている。
時々物の倒れる音も混じっていた。
あのハンスとか言う男が暴れているんだろうか?

 部屋から部屋へ移動している時、何をしたのかと見に行くと部屋の中が滅茶苦茶だった。地震があったのかと勘違いするほど物が
散乱している。さっきゲイルが部屋の中も調べると聞いた。それで倒したのかもしれない。そのせいで中に入れないくらい荒らされている。ドアは開けっ放しだから、ドンドン隠れ部屋が無くなって行く。
窓に視線を向けると真っ赤な夕日が地平線の向こうにもうすぐ完全に沈む。昼と夜の入れ替わりは近い。あと少しだ。
リチャードは私がドミニクに攫われた事に気付いているかな?
(………)
兎に角頑張ろう。ファイト!
自分を励ました。

**

 しゃがんだまま隣の部屋に行こうとすると足音が聞こえた。
(まさか、この足音……)
まずい。やり過ごそうと近くの部屋に入ったが入り口が物音で塞がれている。
どうしよう……。
他の部屋に移るには時間がない。
倒れた箱の上に足を乗せて部屋の中に入ると、バランスを取りながら壁伝いに進んで部屋の奥へ。大きい箱と箱の間に身を隠した。
足音が入り口の所で止まった。
(来た……)
「ここは調べたぞ」
「もう一度調べよう」
「この家は部屋が多過ぎるんだよ!」
何回も調べて、うんざりしているように愚痴るとハンスが木箱を蹴った。その衝撃で倒れた家具がこっちへ押し込まれて来る。
(あっ!)
迫り来る家具を寸でのところで止めた。
ぺちゃんこなるところだった……。胸を撫で下ろしたが、一難去ってまた一難。
「中もちゃんと見なよ。ゲイルに言われただろう」
「見てるよ!」
ハンスが仲間に怒鳴ると私の隠れている木箱に手が掛けた。ズキズキと痛みがぶり返してきた。体に恐怖が刻まれているんだ。
他に逃げ場が無い。更に身を小さくする。
(どうか気付きませんように……)
手を組んで祈った。
ニキビ顔のハンスが ぬっと姿を現す。反対側を見ている顔が、こっちに向かって頭が動く。駄目だ。見つかる。
(嫌だ。誰か助けて!)
心の中で叫ぶと急に視界が変わった。

 隠れていたはずの箱を見上げている。そして、気付けば生暖かい物を踏んでいる。
えっ? はっ? この感じ知っている。
自分の足下を見ると猫になっていた。片方の靴に足を突っ込んでいる。
くしゃみも驚いてもいない。それなのに、どうして? 状況が飲み込めずポカンとする。
「居たか?」
その言葉にハッとした。
はっ、そうだ! 
呆けてる場合じゃない。
「やっぱり居ないな」
見つからないように着ていた洋服を口に銜えて引き摺って行くと、頭を使って隙間に押し込んだ。
「次行。こう次」
そう言って二人が部屋を出て行った。
(助かった……)
ナイスタイミングで猫になった。これなら前より見つかりにくいし、見つかったとしても簡単に逃げられる。


**

 リチャードは皆と夕闇に紛れて建物の側まで来た。しかし、このまま侵入しようにも見回りのスピードが速い。上手に隠れているようだ。ドミニクの手下たちが、休みなくそれぞれの階を見まわっていては隙が無い。
しかし、リサに集中しているから我々が接近している事に気付いてさえいない。壁に張り付いて窓からそっと覗く。どの部屋もドアが開いていて荒らされている。
何でこんな事を? 人間を探すのにここまで徹底するか? 意味が分からず眉間に皺を寄せていたがある考えが閃いた。
(……もしかしてリサは猫の姿になっているのか?)
試しに
「リサ……リサ……」
名前を呼んでみたが反応が無い。この付近には居ないみたいだ。

『いかがいたします?』
ニックの言葉に計画を伝える。
仲間の一人が居なくなれば、アイツらの足並みも乱れるだろう。
『一人……ベンジャミンを拉致しよう。揺さぶりをかけるんだ』
『分かりました』
ベンジャミンを選んだのは戦闘能力が低いからだ。トニーたちが頷くと音も無く侵入する。一人でも捕まられれば、リサが逃げるのに役に立つだろう。
『我々は如何いたしましょう』
『ニックはここに居てくれ。私はもう少し様子を見て来る』
窓からから中の様子を伺いながら移動しているとドタン、バタンと、上の階から大きな物音がした。ハッとして皆が上を見た。
「いたぞー!」
「こら待てー!」
手下たちが慌てて声のする階に戻って行く。見つかったんだ。リチャードは壁から離れると窓に向かってリサの名前を叫んだ。
「リサー!」
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