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この世には 有耶無耶にするのが 正解なこともある
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レグールは "嫌なものは嫌だ" と ロアンヌに言われて、これは許してくれないんだと絶望して 顔面蒼白になる。
ロアンヌは私に首ったけだからと、調子に乗って 元カノがいたことを告白してしまった。
後悔に身を引き裂かれる。
すがりつきたくなるのを、ぐっと唇を噛んで堪える。
(いい気になっていたんだ)
「分かっているんです。私と出逢う前の事だし、今更言っても変えられない事は……」
(そうか、私の元を去ると決めたのか……)
許してくれるなら、どんな要望にも答えようと思っていた。けれど、過去ばかりは変えられない。
(あぁ、なんて傲慢だったんだ)
プロポーズした時のように、子供が産まれたらと茶化してしまうか、逃げられない状態にしたから 告白すればよかったんだ。
みっともない姿を見せたくないと、最後のプライドを守るように ぎゅっと拳に力を込める。
(男だろう。嘆くはロアンヌが帰った後だ)
「その事を考えると、このへんがモヤモヤしてイライラするんです」
「えっ? 」
ロアンヌが そう言って自分の胸を擦った。その仕草にレグールは驚く。
(まっ、まさか……)
首を横に振られた時は、このまま逃げられてしまうのではと生きた心地がしなかった。
しかしこの様子だと、如何やら最悪なシナリオは 避けられるかもしれない。
はやる気持ちを抑えて、恐る恐る聞いてみる。万が一という事もある。
「……それって……」
「そう! "やきもち" です」
唇を突き出して投げやりに言う。
(ああ、私のことが好きなのだ)
私の過去の恋人たち嫉妬にして、身を焦がしていたなんて。最高だ!
さっきまで地獄の業火に焼かれていたのに、状況が一転して 天国にいるようだ。
傷ついた彼女にいくら弁明しても聞いてくれないだろうと、会いに行くのを我慢していた。そんな自分に出来る事は、ロアンヌがジッと巣穴から出て来るのを辛抱強く待つ事だけだった。
「この三日間、レグール様の過去の恋人たちの事を考えては嫉妬に苦しんでたんです」
「 ……… 」
拗ねたロアンヌの口調に、窓から大声で万歳と叫びたい気持ちで一杯だ。
私を誰にも取られたくないと言う独占欲が出て来たのかと思うと、口元がむずむずする。
「まさか私が、こんなに嫉妬深いなんて思っていませんでした。……嫌ですよね、こんな女」
ロアンヌがパッと私を見たが、すぐに俯いてしまった。自分の中に隠された醜い心に気づいて、自分のことが嫌いになってしまったのだろう。
「いいや。大好きだ! 」
小躍りしてロアンヌの隣に座ると、レグールは絶対逃すまいと抱きしめる。
元カノの話をして怒ったロアンヌの機嫌をとるために、アクセサリーの一つでも 買い与えればいいと考えていた。ロアンヌとって元カノなど、その程度の存在だと思っていた。だから、ここまで真剣に "やきもち" を焼くとは、思っていなかった。 そこまでロアンヌの心の中で、私は大切なものになっていたんだ。 これ以上の幸せはない。
ロアンヌの体からは菫の匂いがする。そこも気に入っている。人の話を聞くとき微かに首を傾げるところとも、好きなところを挙げればきりがない。
(私のロアンヌが帰って来てくれた……)
*****
ロアンヌは嫉妬深い女が好きだと抱きついてきたレグールの対応に困る。
普通の男は、そういう事を敬遠するものだ。それなのに……。
「なっ、何を言っているんですか」
どうしてと、顔を覘き込もうとしたが、見せないように首筋に顔を埋めた。
何でしがみつくの?
意味が分からない。"もう気にしない"とか、"機嫌が直った"とか、言ったわけではないのに……何故?
「レグール様? 」
当惑しているグールの名を呼ぶ。
本心が知りたくて、顔を見るためにレグールの手を外そうとした。すると、嫌だと言わんばかりに体が折れそうなほど強い力で抱きしめて来る。
甘えてくることに戸惑う。
気づけば何時のまにか、膝の上に座らされていた 。でも、こうしていると、とても心が満たされる。
( 私、寂しかったんだ……)
そして、それはレグール様も一緒だ。ぎゅっと背中に手を回して懐かしい香りを吸い込む。
あんなに悩んだのに、それがキレイさっぱり消えてしまった。結局、レグールを好きだという気持ちの前では、他の事は意味をなさないと言うことらしい 。
逢えない時間があったから、お互いの大切さに気づくことができた。余計なことを教えたクリスを恨んだけど、雨降って地固まる。いい経験だった。
それに、今回の出来事を乗り越えたことで、私たちの絆は強くなった。
それだけは言える。
レグールが顔を上げると誘惑するように私の耳元で甘く囁く。
「触っていいよ」
「なっ、なっ、なっ」
いきなりそんな事を言うなんて、驚いて声が上ずる。一気に体温計が上がって、興奮して いるのか額に汗を掻く。
触られたことはいっぱいある。でも自分から触るなんて……。
それははしたない行為だと、レグール
の体を押しやる。
すると、レグールが、私の手を掴んで
自分の胸に置く。
「あっ」
シャツ越しに触れたレグールの体は温かく硬い。
「どうして? ロアンヌは婚約者なんだから その権利があるでしょ」
首をかしげて見つめてくる。その通り。私は恋人以上の婚約者なのだから、肌に触れても問題ない。
それに……元カノたちのことが羨ましかった。ごくりと唾を飲み込む。
(……触ってみる?)
ちらりと盗み見する。私が触るのを待っているのか、押し付けたまま、動かない。
「…………じゃあ、ちょっとだけ」
そう断ると、たどたどしく手を動かす。肩口から腕へと手を滑らせていく。その動きにレグールの体が反応してピクリとする。
筋肉の形が感じられる。凄い。男の人の体って、こうなってるんだ。女とは全然違う。すると、レグールが、それだけでは物足りないと、せがむように自から ジャケットを脱ぐ。
そして、私の体に自分の体に押し付て、熱い吐息を漏らす。
「もっと触って構わないよ」
「っ」
めまいを感じるほど頭が ぼうっとなる。ピッタリと押し付けられた部分から、火照りが感じられる。
ロアンヌは、震える指でシャツのボタンを外す。
(淫らなことをしている)
こんなこと、女の私がすることじゃない。それでも指は止まらない。
まず一つ。
窪んで浮き出たレグールの鎖骨が見える。
もっと見たい。
欲望のままに二つ目のボタンに手をかける。しかし、ボタンを外すのに手間取る。
引きちぎりたい。
けれど、レグールが励まし、煽るように私の耳を甘噛みする。
(もう駄目……)
強引に手をシャツに挿し入れる。
初めて触れるレグールの素肌は、すべすべしていて、湿っていて、熱かった……。
****
応接室の小さな椅子に、重なるようにロアンヌが 私の体に乗っかっている。床には脱ぎ捨てられたジャケットとシャツが落ちている。
レグールは、ロアンヌの乱れた髪を指に絡めて遊ぶ。
蕾がほころび始めるように、ロアンヌは少女から恋人へと変わって行く。
思う存分私の体を堪能したロアンヌの目はトロンとしてまるで酔ったように目元が赤い。
可愛いとその頬に手を伸ばすと、その手をロアンヌが掴んだ。怒ったのか、目を吊り上げて睨みつけてくる。
「レグール様は私の物です。他の女に触らせるのは禁止です」
「分かった。私はロアンヌの物だよ」
しかし、そう答えると目尻を下げる。
そんなロアンヌに目を細める。
予想に反してロアンヌは情熱的で激しい愛を持っている。もし誰かが自分の物に手を出したら、どんな事をしても守るし、どんな事をしても奪い返すだろう。所有意識が強い。
その一つに自分がなったのかと思うだけで震えが走る。
裏切ったりしたら噛み千切られそうだ。そうなる事は百も承知だし、そうして欲しい。
「……でも、ここまで来るのに四日もかかりました……」
ロアンヌが私の胸に顎を乗せて、指で落書きする。
好きなのに直ぐ決断が出来なかった。
悩んだ事を後悔している様だ。人を信じることは勇気がいる。私達の過ごした時間は楽しいばかりで、何か一緒に成し遂げたことも無いし、私が何かする所をロアンヌが見ていたことも無い。二人の間にはクリス以外に障害らしき物は何も無い。だから、無条件で信じろとは言えない。
どんなに愛しているのか心の全てを見せれば説得できたかもしれない。
だが今回の問題になったのは、私の女性遍歴。また誤解されるようなことが起こったら、同じ事の繰り返しだ。
だから、ロアンヌに決めさせたかった。私達の未来をどうするか。そうすれば何かあっても持ち堪えられる。
そう考えて待ったのだ。
俯かないでと、ロアンヌの顎を掴んで上を向かせた。
*****
レグール様の瞳に頼りない私が映る。
我が儘言って駄々をこねていた。
レグールが私の頬を手の甲で撫でる。
「でも、来てくれた。私の手を離さないでくれた。それだけで十分だよ」
「レグール様……」
仔猫のように、その手に頬を擦り付ける。
そんな私を受け入れてくれた。
その気持ちが心の中に染み込んでいく。甘えてばかりではなく、この手を離さない様に自分からも握ろう。
離れぬように、もっと深くしっかりと。どちらか片方だけでは駄目だ。
甘い恋も楽しいけれど、時には、ほろ苦い恋も必要なのかもしれない。
*
クリスの様子が気にかかるディーンは部屋へと急いでいた。
ロアンヌが傷ついて皆が心配していたが、当初の予定通りレグール様と結婚すると結論を出した事で、屋敷は元の静けさを取り戻した。
ディーンは、そうむって、心底ホッとした。本当にクリスの浅はかな行動には、腹に据えかねる。
(これでクリスも諦めが付いただろう)
これをきっかけに 大人になってほしいものだ。だが、その前に まずは慰め
よう。やけ酒だって 付き合ってやる。
ポケットの中のハンカチを確認する。
(よし! 準備万端だ)
さぞ落ち込んでいるだろうと、ドアを開けたが クリスは腕組みして外を見ている。
絶対泣いてると思ったのに……。いったい何を考えてるんだ。反省してるならいいけど。
「クリス。これでロアンヌ様の気持ちが分かっただろう。だから」
「ロアンヌは騙されている」
「はい?」
ロアンヌは私に首ったけだからと、調子に乗って 元カノがいたことを告白してしまった。
後悔に身を引き裂かれる。
すがりつきたくなるのを、ぐっと唇を噛んで堪える。
(いい気になっていたんだ)
「分かっているんです。私と出逢う前の事だし、今更言っても変えられない事は……」
(そうか、私の元を去ると決めたのか……)
許してくれるなら、どんな要望にも答えようと思っていた。けれど、過去ばかりは変えられない。
(あぁ、なんて傲慢だったんだ)
プロポーズした時のように、子供が産まれたらと茶化してしまうか、逃げられない状態にしたから 告白すればよかったんだ。
みっともない姿を見せたくないと、最後のプライドを守るように ぎゅっと拳に力を込める。
(男だろう。嘆くはロアンヌが帰った後だ)
「その事を考えると、このへんがモヤモヤしてイライラするんです」
「えっ? 」
ロアンヌが そう言って自分の胸を擦った。その仕草にレグールは驚く。
(まっ、まさか……)
首を横に振られた時は、このまま逃げられてしまうのではと生きた心地がしなかった。
しかしこの様子だと、如何やら最悪なシナリオは 避けられるかもしれない。
はやる気持ちを抑えて、恐る恐る聞いてみる。万が一という事もある。
「……それって……」
「そう! "やきもち" です」
唇を突き出して投げやりに言う。
(ああ、私のことが好きなのだ)
私の過去の恋人たち嫉妬にして、身を焦がしていたなんて。最高だ!
さっきまで地獄の業火に焼かれていたのに、状況が一転して 天国にいるようだ。
傷ついた彼女にいくら弁明しても聞いてくれないだろうと、会いに行くのを我慢していた。そんな自分に出来る事は、ロアンヌがジッと巣穴から出て来るのを辛抱強く待つ事だけだった。
「この三日間、レグール様の過去の恋人たちの事を考えては嫉妬に苦しんでたんです」
「 ……… 」
拗ねたロアンヌの口調に、窓から大声で万歳と叫びたい気持ちで一杯だ。
私を誰にも取られたくないと言う独占欲が出て来たのかと思うと、口元がむずむずする。
「まさか私が、こんなに嫉妬深いなんて思っていませんでした。……嫌ですよね、こんな女」
ロアンヌがパッと私を見たが、すぐに俯いてしまった。自分の中に隠された醜い心に気づいて、自分のことが嫌いになってしまったのだろう。
「いいや。大好きだ! 」
小躍りしてロアンヌの隣に座ると、レグールは絶対逃すまいと抱きしめる。
元カノの話をして怒ったロアンヌの機嫌をとるために、アクセサリーの一つでも 買い与えればいいと考えていた。ロアンヌとって元カノなど、その程度の存在だと思っていた。だから、ここまで真剣に "やきもち" を焼くとは、思っていなかった。 そこまでロアンヌの心の中で、私は大切なものになっていたんだ。 これ以上の幸せはない。
ロアンヌの体からは菫の匂いがする。そこも気に入っている。人の話を聞くとき微かに首を傾げるところとも、好きなところを挙げればきりがない。
(私のロアンヌが帰って来てくれた……)
*****
ロアンヌは嫉妬深い女が好きだと抱きついてきたレグールの対応に困る。
普通の男は、そういう事を敬遠するものだ。それなのに……。
「なっ、何を言っているんですか」
どうしてと、顔を覘き込もうとしたが、見せないように首筋に顔を埋めた。
何でしがみつくの?
意味が分からない。"もう気にしない"とか、"機嫌が直った"とか、言ったわけではないのに……何故?
「レグール様? 」
当惑しているグールの名を呼ぶ。
本心が知りたくて、顔を見るためにレグールの手を外そうとした。すると、嫌だと言わんばかりに体が折れそうなほど強い力で抱きしめて来る。
甘えてくることに戸惑う。
気づけば何時のまにか、膝の上に座らされていた 。でも、こうしていると、とても心が満たされる。
( 私、寂しかったんだ……)
そして、それはレグール様も一緒だ。ぎゅっと背中に手を回して懐かしい香りを吸い込む。
あんなに悩んだのに、それがキレイさっぱり消えてしまった。結局、レグールを好きだという気持ちの前では、他の事は意味をなさないと言うことらしい 。
逢えない時間があったから、お互いの大切さに気づくことができた。余計なことを教えたクリスを恨んだけど、雨降って地固まる。いい経験だった。
それに、今回の出来事を乗り越えたことで、私たちの絆は強くなった。
それだけは言える。
レグールが顔を上げると誘惑するように私の耳元で甘く囁く。
「触っていいよ」
「なっ、なっ、なっ」
いきなりそんな事を言うなんて、驚いて声が上ずる。一気に体温計が上がって、興奮して いるのか額に汗を掻く。
触られたことはいっぱいある。でも自分から触るなんて……。
それははしたない行為だと、レグール
の体を押しやる。
すると、レグールが、私の手を掴んで
自分の胸に置く。
「あっ」
シャツ越しに触れたレグールの体は温かく硬い。
「どうして? ロアンヌは婚約者なんだから その権利があるでしょ」
首をかしげて見つめてくる。その通り。私は恋人以上の婚約者なのだから、肌に触れても問題ない。
それに……元カノたちのことが羨ましかった。ごくりと唾を飲み込む。
(……触ってみる?)
ちらりと盗み見する。私が触るのを待っているのか、押し付けたまま、動かない。
「…………じゃあ、ちょっとだけ」
そう断ると、たどたどしく手を動かす。肩口から腕へと手を滑らせていく。その動きにレグールの体が反応してピクリとする。
筋肉の形が感じられる。凄い。男の人の体って、こうなってるんだ。女とは全然違う。すると、レグールが、それだけでは物足りないと、せがむように自から ジャケットを脱ぐ。
そして、私の体に自分の体に押し付て、熱い吐息を漏らす。
「もっと触って構わないよ」
「っ」
めまいを感じるほど頭が ぼうっとなる。ピッタリと押し付けられた部分から、火照りが感じられる。
ロアンヌは、震える指でシャツのボタンを外す。
(淫らなことをしている)
こんなこと、女の私がすることじゃない。それでも指は止まらない。
まず一つ。
窪んで浮き出たレグールの鎖骨が見える。
もっと見たい。
欲望のままに二つ目のボタンに手をかける。しかし、ボタンを外すのに手間取る。
引きちぎりたい。
けれど、レグールが励まし、煽るように私の耳を甘噛みする。
(もう駄目……)
強引に手をシャツに挿し入れる。
初めて触れるレグールの素肌は、すべすべしていて、湿っていて、熱かった……。
****
応接室の小さな椅子に、重なるようにロアンヌが 私の体に乗っかっている。床には脱ぎ捨てられたジャケットとシャツが落ちている。
レグールは、ロアンヌの乱れた髪を指に絡めて遊ぶ。
蕾がほころび始めるように、ロアンヌは少女から恋人へと変わって行く。
思う存分私の体を堪能したロアンヌの目はトロンとしてまるで酔ったように目元が赤い。
可愛いとその頬に手を伸ばすと、その手をロアンヌが掴んだ。怒ったのか、目を吊り上げて睨みつけてくる。
「レグール様は私の物です。他の女に触らせるのは禁止です」
「分かった。私はロアンヌの物だよ」
しかし、そう答えると目尻を下げる。
そんなロアンヌに目を細める。
予想に反してロアンヌは情熱的で激しい愛を持っている。もし誰かが自分の物に手を出したら、どんな事をしても守るし、どんな事をしても奪い返すだろう。所有意識が強い。
その一つに自分がなったのかと思うだけで震えが走る。
裏切ったりしたら噛み千切られそうだ。そうなる事は百も承知だし、そうして欲しい。
「……でも、ここまで来るのに四日もかかりました……」
ロアンヌが私の胸に顎を乗せて、指で落書きする。
好きなのに直ぐ決断が出来なかった。
悩んだ事を後悔している様だ。人を信じることは勇気がいる。私達の過ごした時間は楽しいばかりで、何か一緒に成し遂げたことも無いし、私が何かする所をロアンヌが見ていたことも無い。二人の間にはクリス以外に障害らしき物は何も無い。だから、無条件で信じろとは言えない。
どんなに愛しているのか心の全てを見せれば説得できたかもしれない。
だが今回の問題になったのは、私の女性遍歴。また誤解されるようなことが起こったら、同じ事の繰り返しだ。
だから、ロアンヌに決めさせたかった。私達の未来をどうするか。そうすれば何かあっても持ち堪えられる。
そう考えて待ったのだ。
俯かないでと、ロアンヌの顎を掴んで上を向かせた。
*****
レグール様の瞳に頼りない私が映る。
我が儘言って駄々をこねていた。
レグールが私の頬を手の甲で撫でる。
「でも、来てくれた。私の手を離さないでくれた。それだけで十分だよ」
「レグール様……」
仔猫のように、その手に頬を擦り付ける。
そんな私を受け入れてくれた。
その気持ちが心の中に染み込んでいく。甘えてばかりではなく、この手を離さない様に自分からも握ろう。
離れぬように、もっと深くしっかりと。どちらか片方だけでは駄目だ。
甘い恋も楽しいけれど、時には、ほろ苦い恋も必要なのかもしれない。
*
クリスの様子が気にかかるディーンは部屋へと急いでいた。
ロアンヌが傷ついて皆が心配していたが、当初の予定通りレグール様と結婚すると結論を出した事で、屋敷は元の静けさを取り戻した。
ディーンは、そうむって、心底ホッとした。本当にクリスの浅はかな行動には、腹に据えかねる。
(これでクリスも諦めが付いただろう)
これをきっかけに 大人になってほしいものだ。だが、その前に まずは慰め
よう。やけ酒だって 付き合ってやる。
ポケットの中のハンカチを確認する。
(よし! 準備万端だ)
さぞ落ち込んでいるだろうと、ドアを開けたが クリスは腕組みして外を見ている。
絶対泣いてると思ったのに……。いったい何を考えてるんだ。反省してるならいいけど。
「クリス。これでロアンヌ様の気持ちが分かっただろう。だから」
「ロアンヌは騙されている」
「はい?」
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