身代わり花嫁は妖精です!

あべ鈴峰

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薄明

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フィアナは、アルに良いところを見せようと飛ぼうとしたが 、何故か飛べなくなっていた。

嫌な予感に胸が苦しくなる。これでは元に戻っても 普通に生活できない。
一時的な事なら良いけど……。もし違ったら? こんな体で戻って来た私を見て、お母さんはどう思うだろう……。
怒るだろうか? 悲しむだろうか?
もし嫌われてしまったら……。
そんな事になったら、悲しくて、悲しくて死んでしまう。
出来ることが、出来なくなってしまった事への、言い知れぬ不安に、じわりと涙が滲む。
アルが不意に私の頭をポンポンとする。何気ない事なのに心が軽くなる。
「アル………」
「大丈夫。私がついている」
そう言って私を抱き寄せる。フィアナは、お母さんに甘えるようにギュッとアルの体に両腕を回す。
(ありがとうアル)
一人じゃない。私にはアルが居る。

アルが居てくれて良かった。でなかったら心細くて 泣きじゃっていたかもしれない。
「………体が急に大きくなってバランスが取れないだけなのか。もしくは怪我のせいかもそれない」
「本当に? アルもそう思う? 」
縋る様に聞くと、アルが安心させる様に笑顔を浮かべて頭を優しく撫でる。
その仕草に慰められる。もっと撫でて欲しいと、甘えたくて仕方ない。
「夜も遅いし、明日になっても飛べなかったら二人で原因を調べよう」
「でも……」
このままでは 心配で寝れそうにない。上目遣いでアルを見ると、駄目だと首を振られた。
「良いから」
有無を言わさぬ命令口調で、アルが半ば強引に話を切り上げた。

そう言われても心配で、心配で仕方ない。
自分の身に何かが起こっているのは確かだ。 そう考えると怖い。
でも、私たちには 解決方法が分かない。 これ以上駄々をこねても アルを困らせるだけだ。
アルの 言うとおり明日になれば、手掛かりが見つかるかもしれない。
気持ちを落ち着けようと硬く手を組む。すると、アルが その手を自分の大きな手で包み込んだ。
「ちゃんと協力するから」
「……はい」
コクリと頷く。信じよう。今の私には、それしか残っていない。

アルが私を抱き上げるとベッドに横向きに寝かせる。アルも向かい合う形で同じように横向きに寝て毛布を かけてくれた。眠ろう。そう思って目を閉じる。だけでどうしても、そればかり考えてしまう。気を紛らわそうとしても、 どうしても頭から離れない。
私の事を本気で心配してくれているアルがいるのに、愚痴を吐きそうな自分を止めようと唇を噛む。

助けてくれると言ってくれたのに、何か言ったら信じてないに思われる。
「気持ちは分かるけど、まずは自分が元気にならないと」
「 ……… 」
アルが羽に気を付けながら私を抱き寄せると、額にお休みのキスをした。 
体に回されているアルの腕の重さが、心地良い。
(寒い日は、葉っぱを5枚重ねて寝たっけ……)
「傍に居るから、安心してお休み」
「……お休みなさい」
こんな気持ちでは眠れない。そう思っていたが瞼が重くなる。疲れが勝り全てが夜に解けていく。


アルフォンは、フィアナが完全に寝るのを待ってから、花の香りのする柔らかな髪に顔を埋めて甘い溜め息をつく。長い一日だった。それでも心は満たされる。
(私の花嫁……)
アルフォンにとって、フィアナが 妻でいてくれるなら、飛べようが、飛べまいが、どちらでもいいことだった 。
協力して駄目だったら、慰めれば良い。

それにしても、どうしてフィアナは、私が騙していないと思い込んでいるんだ? ドレスの話はフィアナと結婚したくて ついた真っ赤な嘘だったのに……。どうも腑に落ちない。 
しかし、肝心なのはこれからだ。二度と嘘をつかなければ、バレることはない。そう、フィアナの誤解をいい方に受け止める。

*****

フィアナは、小鳥たちのさえずりで目を覚ましたが、何時もと何かが違う。最初に目に入ったのは、ラフィアナの木でも、青空でもなく黒い柔らかそうな髪だ。
太陽を浴びていないのに、体が暖かい。今日は、このままぬくぬくしていたい。そんな誘惑に負ける。
(う~ん。あったかい……)

ぼんやりとした頭で自分が枕代わりにしている物を見て、完全に目を覚ました。裸の男の肩だ。
ガバリと起き上がると、そこにいたのは………私の花婿。
昨日の事を一気に思い出して、緊張をとくと安心してアルの肩口にもう一度
頭をのせる。
人間って温かい生き物なのだと改めて思う。このままぬくぬくして居たいが癖になりそうで怖い。そう思ってるのに、アルの寝顔を見つめる。
指で、そっとアルの乱れた髪を直す。 予想通り柔らかい。


どうして結婚してしまったんだろう……。
そもそも私にアルと結婚する資格なんてないのに……。
憧れのウエディングドレスを着られて浮かれていたんだ。いくら魔法のドレスでも、断るべきだったんだ 。軽はずみな行動を反省する。 いつもなら、こんなことしないのに……。自分らしからぬ行動だと、口を引き結ぶ。
私をこの騒動に巻き込んでアルは、気持ち良さそうに寝ている。それを恨みがましい目で見る。
これも全てアルが悪い。あの瞳は反則だ。自分こそが本物の花嫁だと誤解させる。
( ……… )
ちょっとした悪戯心が芽生える。
「悪い奴! 」
人差し指で、ほっぺをつつく。
「う~ん」
むにゃむにゃと口を動かして嫌がる。まずいと慌てて指を隠す。
「ぷっ」
だけど、それがおかしくて吹き出す。
慌てて口を隠す。だけど、起きる気配はない。 すやすやと寝ているアルは 幼げに見える。
昨日と違う顔をみせアルを見ていると、コトリと胸の何かが動く。
「毎朝見られたら素敵なのに……」
思わず漏らした本心にハッとして首を左右に振る。ダメダメ。私はかりそめの花嫁。ビビアンが来るまでの関係。
親しくなるのは危険だ。 そうなったら、急にいなくなった私をアルが心配するはずだ。
「これ以上ここに居るのは危険だわ。ちゃんと距離を置かないと」
( 別れる時辛いだけだもの)
半分自分に言い聞かせるように言うと、フィアナはアルを起こさない様に
名残惜しい気持ちを振り切ってベランダに出た。

そこには何時もの朝があった。
朝靄に包まれた木々と花が目の前に広がる。
朝と夜の狭間。 街が起き切っていない時間。すぅーっと、 朝の空気を吸い込む 牛乳を運ぶ馬車の音も、パンを焼く香ばしい匂いも、まだしない。
沢山の緑が、ざわついた心を静めてくれる。少し冷たい空気。けれどそれが気持ちいい。朝ごはんを食べようと、花びらに口づけする。清らかな水が口の中に滑り込んでくる。
これでごはん終了。そう思ったのに、物足りないとグウーッと大きな音をたてた。
妖精は、 だった時は これで十分だったのに……。
(もっと沢山食べないとダメなのかな? )

しかし、何時もの何十倍も朝露を飲んでいるのに。飲んでも、飲んでもお腹が一杯にならない。催促するように また、お腹が鳴る。
それを宥めようと お腹を擦る。
手の届く範囲の朝露は全部飲んでしまった。他に花が無いかと探していると
「こんな所に居たんだ。その格好だと寒いよ」
アルの 声に振り返ると、白いガウンを手に近づいて来る。
「おはよう」
「随分早起きなんだね。目を覚ましていなかったから、心配したよ」
アルに着せてもらいながら、 距離を置こうと決めたのに 嬉しくて笑顔になる。そのことに気づいて自分を叱る。
瞳を見つめちゃ駄目。

「ごめんなさい。よく寝ていたから起こすのが可哀想で……」
「そんな事気にしなくていいのに」
「分かったわ。今度から必ずアルを起こすわ」
アルが微笑みながら頬に唇を押し当てた。ただそれだけの事なのに何故か 、頬が火傷したかのように 熱い。
思わず頬に手を当てた。
「朝食にしよう」


アルに促されて、ついて行くと庭先にテーブルが用意されている。
テーブルの上には人間の食べ物が隙間無く並んでいる。
(席に着いたのは、良いけれど……)
どうしようかと悩む。そういえば昨日お腹を壊さなかった。なら、食べても大丈夫?
「何が好きか分からなかったから色々取り揃えてみた。トーストにスコーン、サンドイッチ。スープに果物、シリアル。どうだい。好きなものはあるかな? 」
「 ……… 」
前に座っているアルが勧めて来るが、
結局、口にしたのは味に馴染みのある果物だけだった。
チャレンジしたい気持ちはあるが 、失敗したくない気持ちの方が強い。
アルの前で、 吐き出したり して、みっともない姿を見せたくない。
「フィアナ。君が食べたい物があるなら用意させるから、遠慮せずに言ってくれ」
「ありがとう。アル。でも、もうお腹一杯」
「………」
私の食の細さを心配してくれるが、りんごを半分も食べたのは生まれて初めてだ。いつもは、少しかじるだけで満腹になる。

それでも何か食べさせようと、じっと私の様子を見ているアルの視線を避けようと、水を飲んで逃げる。

シャラシャラン

この音は? 聞き覚えのある音に、フィアナは音のする方を見る。すると、見覚えのある妖精が居た。
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