巡り巡って風車 前世の罪は誰のもの

あべ鈴峰

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第二十集

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 沈天祐は娘の言葉に驚いた。
王元に"必要だ" "簡単だ" "子供でもできる" そんな言葉に踊らされて買った物だ。売り子が言っていたことの 正しかったら、今頃は悠々自適の生活だったのに……。そんな自分ではどうすることもできない物を使いこなせるだと!?
さっきと娘の打って変わって自信にあふれている。その表情に頷いた。
無用の長物となっていたが 日の目を浴び そうだ。


3の22

 徐有容はつくづく 現代に帰ってきたと思った。電化製品を見ると安心する。
薪でご飯を炊くことも、手洗いで洗濯することもない。

「洗剤はどこですか?」
「センザイ?……ああ台所にある」
ピンと来ていないようだったけど天祐さんが思い出したように歩き出す。でも向かった先は……。
「台所ですか?」
「そうだ」
(………)
台所に行くと流し台の上にある食器用洗剤を私に渡した。やっぱりか……。
「……他に洗剤は無いんですか?」
「違うのか?」
よく見るとこれも使った形跡が無い。
首を傾げる天祐さんを見て食器用と洗濯用の洗剤の違いが分からないんだと気付いた。自分で探そうとあちこち扉を開くと、炊飯器がしまってあるのを見つけた。
これもうっすらと埃が積もっている。
「これどうしたんですか?」
「ああ、それは壊れている」
「こわれてる?」
「そうだ。そのスイッチとか言うモノを押せばご飯が炊けると言っていたのに生のままだった」
本当に? どう見ても新品だ。
洗濯機より簡単なのに……。
フタを開けると水の中にビニール袋に入ったままの米が浮いている。
(………)
どんなに物を知らなくてもビニール袋くらいはやぶきそうなのに……。貴族の子息だから米をとぐと言う事を知らないんだ。
(何でも器用に出来そうなのに、やっぱり昔の時代の人なんだ)
今迄どうしてたんだろう。
洗濯は後回しにして、まずはご飯を炊こう。
「どうした?」
「コレ、私直せます」
「本当か? それならやっとご飯が食べられる」
にっこりと微笑みかけられて恥ずかしくて顔をふせた。私が誰かの役に立つ日が来るなんて……ちょっとうれしい。

 釜を洗って計量カップで米を量って研いで水を入れてスイッチを押した。
その間子供のように私の後ろをウロチョロしながら物珍しそうにのぞいている。
ご飯が炊きあがる前におかずを作ろうと巨大な冷蔵庫を開けた。
「っ」
しかし、入っていたのは水ペットボトルにだけ。
(家では何も食べれないのだろうか?)
食器棚も他の戸棚のところも開けてみたが見つかったのは未開封の塩と砂糖、胡椒、醤油のみ。鍋はあってもお玉がない。フライパンはあってもフライ返しも菜箸さえ無い。
箸もスプーンも皿も無い。コップも無い。
(ウソでしょ……)
体からやる気は抜けていく。唯一私が出来ることなの……。
ここまで物のそろって無い家は見た事が無い。家より貧乏だ。仕方なくラップを使って塩結びを作った。
(これがなかったら 直置きするしかなかった)

 3の23

 本当だろうか!?
天祐は半信半疑だった。けれど赤いハンプが点灯してウイーンと動く音が鳴りだしたときから、もしかしたらと思った。そして何もしなくても勝手に炊きあがった。それを天祐は呆然と見ていた。蓋を開けるとご飯の炊けた臭いが漂って来た。それだけで、涎が溜まる。
(不思議だ……)
その事実に少なからず衝撃を受けた。

 握りたての塩結びを一口食べた。ただの塩結びなのにすごく美味しい。久しぶりにまともな飯が食えた。そう実感した。
多分自分の為に作ってくれた物だからだろう。
よく言えばおかず……。香の物一つも欲しいところだが、箸も皿も無いと頭を抱えていた娘を見て反省した。思えば今までは徐有蓉を見つけるために生きていたから自分の事など省みなかった。必要なのは目的だけ。
その目的が消滅してしまって、やっと自分の事を考えられるようになったと言う事だろう。
自分の生き方を変える時が来たのだ。
(………)


3の24

東岳国 過去

 徐有蓉はぐにゃぐにゃなった体が元に戻るような気持ち悪さに吐きそうになった。
その激しい苦痛に歯を食い縛って耐えた。
土の湿った臭い、埃っぽい木の臭い。それを嗅いで時代を移動する事ができた。成功したのだ。これで助かる。そう思ったが、目の前に役人が居た。どう言う状況か分からない。しかし、私にとっては敵だ。有蓉は邪魔者を突き飛ばして無我夢中でかけだした。 兎に角走る。捕まったら終わりだ。通り過ぎる景色を見ながら自分が何処に居るのか確かめた。
角を曲がって真っ直ぐ行けば牢の門を潜り抜ける。そして外に出る事ができる。背後から来ている兵たちの足音から逃げする。早く、早く、もっと早く。肺が焼けそうになる。
それでも走るしかない。門が見えた。すると、門番たちがこちらを振り返った。

 私が、何をした。人だって死んでない。それなのに、ここでも、向こう でも、私を殺そうとする者ばかり。ギリッと噛んだ唇から血が滲む。
死んでたまるか!  絶対に逃げ切る。
もし行く手を阻んだら命を奪う。そんな固い決意で門番たちに体当たりして門を抜けた。
まさかの事態に あっけなく転んだ兵士たちの無様な姿に溜飲が下がる。しかし 喜びのつかの間。このまま真っ直ぐ通りに出たら捕まる。体力ではかなわない 隠れなくては。

 息をつく暇も無く小さな路地に入り込むと、角を何度も曲がり追手達を捲いた。
やって何とか逃げおおせた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
水瓶を見つけると何度も水を掬って飲む。喉がカラカラで胸が苦しい。膝がガクガクと震える。少し休もうとその場にしゃがみ込んだ。
無意識に汗を拭こうとして触れた首がヒリヒリする。
(殺されるところだった……)
まさか、逃げ出した時代に沈天祐が居るとは思いもよらなかった。
あの日、別の時代に逃げられたと思ったのに。どうしてあの男も居るのよ!
沈天祐。どこまでも私の邪魔をすれば気が済むのか。忌々しい男だ。まだ痛む首に手をやる。暫く渋い顔をしていたが忘れることにした。あの男でもここまでは来られない。

3の25

 有容は台所で後片付けをしていた。と言ってもラップを捨てるくらい。一日に四百枚は皿を洗っていた私からしたら 物足りない。
立派なシステムキッチンなのにホコリをかぶってる。鍋もフライパンも良い物だ。こう言うのを宝の持ち腐れと言うのかな。
ちぐはぐにしか物がそろって無い台所を見まわして小さく肩をすくめる。話に出てくる王元さんと言う人は何で一人暮らしの天祐さんにこの部屋をすすめたんだろう。
(………)
高級車も高級マンションも天祐さんににあってると言えばにあってるけど……。
そんな事を考えているとひょいと天祐さんが顔を出した。ウワサをすれば影が差す。
「ちょっと出かけて来るから先に寝ていろ」
「はい。いってらっしゃいませ」
「んっ」
うなずいて顔を引っ込めたが、すぐに又顔を出した。何か言い忘れた事でもあるかと思っていると指を私に向ける。
「いいか。怪我したばかりなんだから無理するな。ちゃんと薬を飲め」
気難いし人かと思っていたけど意外に世話焼きな人だ。向こうの時代の人は俊豪さんといい、応時さんも若渓さんもみんな親切だった。昔の人は人情があるのかも。
「はい。分かりました」
「んっ」
もう一度うなずいて顔を引っ込めた。
これで終わりと、思っていると三度天祐さんが顔を出した。
「忘れていた。朝餉は七時だ。分かったな」
「はい」
「んっ」
本当に分かったかどうか私を指差し確認してやつと出かけた。


3の26

 天祐は再び徐有蓉の寮に来ていた。
自分が食後の茶も飲めない状態になって、初めて娘を自分の意思で連れて来たが何一つ用意してあげてなかった。
着替えも何も用意してない事に気付いた。
(失念していた……)
向こうの時代の時は勝手に客を連れて来ても使用人たちが世話をしていてくれたから気にも留めなかった。しかしここではそうはいかない。我が家に使用人は居ない。となれば私が用意しなくてくてはならない。

そう思って娘に服を用意してあげようと思った。新品を買ってあげたい。そう思ったがこの時代にはサイズと言うものがある。
私に娘の体のサイズなど知りようも無いと断念した。向こうでは男女関係無く着ることができたのに……。この時代の服は全くもって理解出来ないと小さく首を左右に振る。

 そこで、その代わりに徐有蓉の服を調達しようと考えた。
 
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