巡り巡って風車 前世の罪は誰のもの

あべ鈴峰

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第二十五集

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 徐有蓉の策に嵌り沈天祐は、右も左も分からない全く未知の土地に来ていた。それでなくても困っているのに、さらに 変な男に邪魔されていた。


 情報収集しようと路地から出ようとしたが突然、黒い服を着た背の高い男が入って来て押し戻された。
「なっ、何をする」
「ああ、黙って、黙って、見つかる」
「なっ」
「しー、しー、しー」
子供にでもするように、指を口に当てた。
どうやら追われているらしい。背だって体格だって私と変わらないのに見掛け倒しらしい。やれやれ、男のくせに情けない。
こんな男と関わりたくない。男を押しのけて出て行こうとすると、
「私には関係ない」
「ダメだよ。今出て行かれたら俺が此処に居るってバレるでしょ」
失礼な奴だ。私に見向きもしないで通りの様子を伺っている。
「退け、私には関係ない」
「待った。待った。待ったー」
そう言うと私を道ずれにその場にしゃがみ込む。
「何をする。放せ!」
腕を振りほどくと、後ろから羽交い締めにされ引き戻される。
「ちょっとなんだから少し待ってよ」
「どうして私がお前の都合を考えないといけないんだ」
「そこを何とか」
押し問答をしている内に複数の足音が聞こえてきた。どうやらこの男の追手が近くに迫っている。このままでは厄介事に巻き込まれる。
「自分で何とかしろ」
「ほら、袖振り合うも多少の縁って言うでしょ」
「なっ」
「ねっ、ねっ。後で良い処に連れて行ってあげますから~」
「断る」
「え~すごく良い所ですよ。天国、天国に連れて行ってあげますから」
「まだ、死にたくない」
「まったく~、とぼけて。いい匂いがして、柔らかくて、気持ちいいことしてくる天国ですよ」
「興味ない」
「そう言わずに~、ねっ?」
男の手を払いのけて出て行こうとするが胼胝のようにしがみ付いて離れない。
「見つけたぜ王元」
そうこうしている内に追手が来てしまった。
がたいの良い男たちが路地の入り口を塞いでいる。一、二、三、……六人。

 既に一度やりあったのか殴られたような怪我をしている。やり返そうと 躍起になっている。その視線が私にも向けられている。
(まったく……)
「やば! 助けて」
男の襟首を掴んで 前に出そうとしたが、後ろにピッタリ張り付いて離れない。
「何をする。私を捲き込むな」
「兄貴、やっちゃって下さい」
ひょこっと私の後ろから顔だけ出して挑発すると、また男が私の後ろに隠れた。
そんな事されたら、仲間だと勘違いされる。
何なんだ全く。思わず天を仰ぐ。私が何をしたと言うんだ。今日は厄日のようだ。
「何勝手な事を言っている。私はお前の兄貴じゃない!」
「此処から逃げられると思うのか」
数人の男が行く手を遮る。それを見て舌打ちした。こう言う輩は何処にでもいる。その男たちが自分に敵意を向けて来る。何でこうなる。
「そんな恰好して俺たちを脅しているつもりか?」
「このコスプレ野郎が」
「そんな模造剣で俺たちを切る気か?」
「助けを求めるならもっとましな奴を呼べ」
何を言っているか理解出来ないが、悪口だと言う事は分かる。
「とっとと、やっちまえ!」
頭目らしいその男の一言に手下の男たちが殴りかかって来ようとしている。
ただの通りすがりなのに……。しかし、来るならやるしかない。反撃しようと刀に手をやったが、そこで考えた。ならず者に眼を付けられるのは此方としても都合が悪い。
こう言うならず者は報復して来る。下手に殺して恨みを買いたくない。刀から手を離すと素手で殴ったり、蹴り飛ばしたりして男達を倒して行く。火の子は振り払わないと私が怪我をする。これは致し方ないことだと自己弁明した。

「兄貴どうします。コイツ強いですよ」
数人倒しただけで男たちの距離をとって様子を伺っている。すると、
「クソッ」
「行くぞ」
「覚えてろよ!」
男たちが捨て台詞を言って逃げて行く。所詮口だけで大した事はなかったな。ならず者は、どの国でも同じか……。
逃げて行く後ろ姿を見送りながら、手を叩いて埃を払う。これで片付いた。出て行こうとすると後ろに隠れていた男が私を押しのけて躍り出た。
「いやー。強いんですね」
「世辞は良い」
今にも揉み手をしそうなほどの笑顔をしている。そんな態度に蔑みの目を向ける。どうせ此奴も口だけだ。ならず者とこれ以上関わりを持ちたくない。横を通り過ぎようとするとまた男が前に回り込んだ。
「いや、いや。助けて貰ったんですからせめて何か奢らせてください」
「要らない」
押しのけて路地を出ると横に並んで付いて来る。
「待って下さい。せめて一杯だけでも奢らせて下さい」
お道化たように眉を上げる。

 王元と呼ばれていた男がしつこく誘って来る。どこまでも軽薄な奴だ。相手にしていられないと、断ろうと思ったがはたと歩みを止めた。このお調子者のならず者を利用しない手は無い。新しい土地の情報が欲しい。だったら、命の恩人とまではいかないが、その恩を売れば力になってくれるだろう。
「では、頂こう」
「そうこなくちゃ」
そう言うと王元が長年の連れのように馴れ馴れしく肩を組んで来る。その手を払いのける。しかしまた肩に手を回して来ると顔を近付けて来た。
「天国にお一人様ご案内~。可愛い娘のいる店に案内しますからね」
話を総合するに行き先は妓楼か何かだろ。そう言うのには興味ない。
「それより、酒の旨い店が良い」
「はい。はい。俺のとっておきの店に連れて行きますから」
「…………」

そうだった。初対面の時からこうだった。車の傍まで行くと王元が窓を下げて紙袋を差し出す。
「はい。依頼のあったスマホです」
袋の中身を確かめて財布を取りだそうとすると 王元が首を振って押し止めた。
「ありがとう。幾らだ」
「金は良いです。何時もみたいに電話したら助けに来てくださいね」
そう言って片目を瞑る。最初に会った時、簡単に敵を捻り上げた腕前を買われて用心棒として雇われてしまった。裏家業の人間だと知って利用しようとしたことが仇となった。
「お前は呼び出しが多いんだよ」
「ははっ」
この男、対して強くないくせに何でもかんでも首を突っ込むから何度も呼び出さ助けに行った。王元は鏢局のような仕事をしていてる。現代の言葉ではマフィアと言う名前に変わっているが。

 いちいち何で相手にするんだと聞くと、王元曰くマフィアは「漢」を売る仕事だと答えた。自尊心が何より高い。
(私も人の事は言えないが……)
だが、こうやって欲しい物を簡単に手に入れてくれるのは便利だ。性格もさっぱりしている。

3の38

 夕餉のための餃子の皮を伸ばしていると天祐さんが戻って来た。
「お帰りなさい。早かったんですね」
仕事へ出掛けたのかと思っていたけど違ったようだ。お茶でもだそう。
「ほら、お前のスマホだ」
そう言って天祐さんが私にスマホを差し出す。
「わっ、私にですか?」
あまりの驚きに声が裏返る。ピカピカしてる。指紋の一つも無い。新品だ。無造作に差し出されたスマホを受け取るのをこばんだ。うまい話には裏がある。
(何で私にスマホを渡すのか意味が分からない)
こんな高価な物を失くしたりこわしたりしたら……。ボコボコにされる。そう考えると受け取れない。
「何だ。要らないのか?」
「えっ、いいえ……」
無意識にそうじゃないと否定していた。
断ると人の好意をむげにしたと怒られる。
結局機嫌を取る為にあいまいな態度を取るしかない。
「スマホが無いと買い物も出来ないぞ」
「あっ……」
その言葉に昨日のスーパーでの買い物の支払いを思い出した。他の人もスマホで支払いしていた。現金で支払っている人はあまり見かけなかった。今どきはスマホで決済が当たり前だと聞く。確かお財布代わりになるとコマーシャルで見たことがある。
「えっと……」
「それとも現金派か?」
「いえ……その……」
大金を持ち歩くのは怖い。それが他の人のお金ならなおさらだ。スマホの次は現金。
どうして、私に? そうか! 買い物に付き合うのが面倒だから貸してくれるだけだ。そうだ。そうだ。スマホはすごく高いんだから。私にプレゼントしてくれるはずが無い。でも、これはスマホを使えるチャンス。
手を出したが、直ぐに引っ込めた。
店で働いていた中さんが画面がひび割れてもお金が無くて買い替えできないとぼやいていた。だけど……ダメだ。持てあますのは目に見えている。だってスマホを見たことはあっても使った事も触ったことも無い。でもそう言って呆れられるのも嫌だ。役に立たない奴と思われるのはもっと嫌だ。
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