ギャルゲーのはずが攻略対象外男子に好かれてます。

12月

9

 手を広げ俺を待つ先輩。

 今か今かと楽しそうに待たれると、やりにくくて仕方がない。

 いくら人気がない場所とは言え、素面で自ら相手を抱き締めるのには俺には心の整理が必要です。




「まだかな弟君？」




 そうですね、その設定でしたね。

 オレハオトートオレハオトート…。

 兄にハグするのは恥ずかしくもなんとも無いんだっ（ヤケ）

 思い切って雪平先輩の胸に飛び込めば、勢い良すぎたのか上から小さな呻き声が聞こえた。




「うちの凪沙は情熱的だね」

 「先輩可笑しいなら素直に笑って」

「いやいや、これは、嬉しくて、つい」




 タックルをかまされ小刻みに震える先輩に噛み付けば更に震えがこちらに伝わってくる。

 別に色気とか可愛気とかそんなもん俺に求められても無理だしね。良いけどさ。




「…本当に可愛いね、凪沙は」

「はいはい」

「何かあったらお兄ちゃんに電話してね」




 頭を撫でる先輩の声音が温かく染み込む。先輩と言おうと見上げればお兄ちゃんでしょ、と茶目っ気を含んだ微笑が。




「…今は、それで我慢して上げるよ」

「え？」

「いやぁ？お兄ちゃんも悪くないなぁ、なんてね」




 一瞬不穏な空気が…。気、気のせいですよね。

 イケメンの微笑に気を取られ、何を言われたのか理解出来なかった俺の額に先輩はチュッと軽くキスを落とす。

 俺が真っ赤になって先輩から速攻離れれば、態とらしくコテン、と先輩は首を傾げる。




「兄弟だったら、これくらいのスキンシップ当たり前でしょう？」

「こ、ここは日本で欧米じゃありません。もう、いいですよね？俺帰りますよ」




 ちょっと気を許せばすぐこれだよ。

 背を向け元来た道へ駆け出す俺を先輩がどんな表情で見ていたのか考えすらしなかった。