51 / 58
第3章 偽りの王子と恋の試練?
2 お茶会と悪役令嬢と私(リヒター視点)
しおりを挟む(…ああ、今日も空が青い…)
空を見上げ、快晴の空にしみじみと思う。
城の一角にある色とりどりの季節の花が咲き誇る美しい庭園で、リヒターは現在、紅茶ポット片手にしたくもない精神修行を強制的にさせられていた。
若い令嬢がキャキャウフフと蝶のように舞い、甘ったるい媚びた猫撫で声で会話する中でどうして自分が愛想笑いを貼り付けて突っ立って居なければならないのか。
口元の筋肉が痙攣しないよう気をつけながら、今日も良い天気で絶好の洗濯日和だなと、どうでもいい現実逃避をしなくてはとてもじゃないがやっていられなかった。
「本日はお茶会にお招き頂きありがとうございます。私、魔法薬学にすっごく興味がありまして。ぜひ殿下とお話してみたかったんです~」
「そうなんだ。貴女みたいな麗しい女性と話せるなんて僕も嬉しいよ。今日はじっくり君の話が聞きたいな」
「一人だけそんなズルイですわ。アルヴィン様、私ともぜひお話しして下さい。この機会に魔法だけでなく私は殿下のことを色々お聞きしたいですわ」
「可愛いこと言うのはこの唇かな?桜色で凄く美味しそうだね。話すのはいいけど、…話しているうちにうっかり食べてしまったら、ごめんね?」
「「やん。もぉ~アルヴィン様ったら~~」」
ーーピシッ、
黄色い声が重なった瞬間、張り付いた笑顔の下で何が壊れる音がした。
普段の姿からは想像もつかないあまりの砂糖の大盤振る舞いっぷりに、前以て事情を知らなければ医者か、偽物と勘違いしとっとと牢に打ち込むところであった。
「くっ…」
手にした陶器のポットが通常ではあり得ないピシピシとおかしな音を立ててひび割れた隙間から紅茶が漏れ出しているが、とてもそんな細かいことに構っていられる精神状態ではなかった。
いつもの主ならあんな頭の中が常春お花畑令嬢など、冷たい目で一瞥した後、存分に虫けらに向けるが如く清々しいせせら嗤いをしてそのまま通り過ぎるだけだというのに…。
「それだけ聞くとアルヴィン君の性格がかーなーり歪んでいるように聞こえるわね。ダメよ、リーさん。気持ちは分かるけど平静を装わないと。一応ここ、王子様主催のお茶会の場なんだからね」
さり気なく隣にやって来た菫色のドレスを着た令嬢ーノワールが扇子で口元を隠しつつ、気遣う声をかけてくれるが、頭では分かっていてもやはりどうしても、あの姿を見ているとやりきれない感が込み上げてきてしまうのだ。
「私がもっとしっかりとお側についていれば、こんなことにはっ」
とうとうポットが最後の断末魔を上げ、ひび割れた隙間から残っていた透き通った琥珀色の液体が一気に決壊し溢れ出した。
その様を横目に、扇子を閉じたノワールが困り顔で眉を下げ苦笑いを浮かべた。
もし仮にリヒターがアルヴィンから離れず、ずっと側にいたとしても、魔力暴走が起きた時点で彼に何かが出来たとは思えなかった。
それにこの事態は誰も予想すら出来なかった、まさしく不測の事態なのだから誰かが責任を感じることではない。
あの魔王ですら、喚び出した冥界の番犬に口酸っぱくそう言われていたのだ。今更自分らがどうこう言ったって、何かが変わるわけではない。たらればを言ったところで無駄である。
「ーって言っても、それこそ理屈じゃないのよねぇ」
「そうです。だからこうして貴女も、こんなくだらない茶番に付き合ってくれているのでしょう?」
ポットという尊い犠牲のおかげで幾分落ち着きを取り戻したリヒターが、マカロンやマドレーヌを取り分けた皿を差し出し、それをノワールは受け取ってから小さく肩を竦めてみせた。
「私はどっちかっていうと魔王様の命と、自分の信念に従って行動しているだけよ。私、割と雑食だけどビッチは嫌いなの」
そう言って彼女は令嬢に囲まれて彼女らに甘い言葉を囁いている第二王子の姿を眺めながら、苛立たしげに淑女らしからぬ手つきでマカロンを口へと放り込んだ。
後半は分かりかねるが、前半はそれだけではないだろう。新しいポットに湯を注ぎながらリヒターは思った。
主不在のまま森から帰還し、魔力暴走の件を話す彼女の顔は蒼白で今にも倒れそうに見えた。
あの聖騎士からも道中での話を聞いたが、主が一時行方不明になった際も、自分のせいで見失ってしまったと不死者が跋扈する施設内を必死になって彼女は探し回ってくれたそうだ。いくら命じられたからと言って、まだ会って間もない人間を自分の身の危険を顧みずに探し回るなど、命じられたからってそう簡単には出来まい。
あのストーカーの部下にしては中々に信用に足る人物だと思う。
「そう言えばヴィンセント君だっけ?アルヴィン君のお兄さん。おかげでだいぶ助かったわねー」
「そうですね、感謝しないといけませんね」
唐突、とまではいかない話題の変換に素直にのることにする。アハハウフフな世界を見ているだけだと気が滅入ってしまいそうになるのはお互い様だ。
適当に気を紛らわせなければ衝動を抑えきれず、万が一暗器などを放って主の身体に傷でもつけたりしたら、申し訳なくて一生顔向けが出来なくなってしまう。
「勝手に城内をふらふらしていた私を正式な他国からの使者扱いしてくれて。おかげでコソコソせずに、こうしてお茶会に顔を出せるているんだもの」
「コソコソ…」
していた記憶はないような…。
むしろ堂々し過ぎて周りを圧倒していた気が。
「ひどい、リーさん。私これでも結構、精神的に周りに気を配っていたのよ」
「そうですか、それは申し訳ないこと…。私も貴女を通じてアルヴィン様の異変を聞きつけ急ぎ帰ってきましたから。そのあたりに手を回す余裕がありませんでした。私みたいな立場の者が下手に貴族令嬢に手を出すと後々、大変なことになりますからね、そこは有難いことです」
他にも第一王子は弟の奇行で良からぬ噂が立つ城内を鎮めるために色々と手を回してくれているらしい。その上忙しい最中に弟の身を案じ様子を見に直接足を運んで下さったりと、まことに持つべきは弟想いの兄である。
「そうねー。親の権力をかさに来た令嬢って、やたらプライドだけ高くて厄介なのよねー」
「実体験ですか」
「ご想像にお任せします」
空のティーカップに湯気立つ紅茶を注ぎ、それに口をつけようとしたノワールが頬にかかった自身の飴色の髪を指先で鬱陶しげに払い除けた。
その仕草に、慣れない地で慣れないことをする気苦労というものを垣間見えた気がした。
「…早くアルヴィン様に戻って頂かねば貴女にも負担がかかってしまいますね」
「あら、お気遣いどうもありがとう。でも、そこは魔王様と黒わんこ、後は女神様次第かしらね。なんともまあ壮大な話になったものね」
「っ、そうでした、またしても、あのストーカーに頼る羽目になるとは…!」
出来うることならば自分の力で主を救い出したかった。
そのあたりの経緯を思い出し、不本意と言わんばかりの渋面を作るリヒターに、まあまあとまたもや宥める声が。
「聖域には魔王しか入れないらしいから仕方ないわよー。私たちはあの身体がアルヴィン君の意に反することに使われないよう、未然に防ぐことに力を注ぎましょ。ね?……あ~らら。向こうさん雲行き怪しくなって来たわねー」
その呆れた視線を辿れば、なんと先程まで仲良く話していた令嬢たちが第二王子を挟み、激しい言い争いを始めているではないか。
「なによっあんたなんて……で、……の、クセにっ!!」
「失礼ね、そっちだって……だし、この前だって………だったでしょ!!アルヴィン様に相応しくないわよ!!」
「ぬぅわんですってぇ!!!」
令嬢にあるまじき品位を疑う単語が飛び交うド修羅場である。
それを止めるどころか戸惑っている体で静観し、間で楽しんでいる男のなんと意地の悪いことか。姿顔立ちがそのままであっても、絶対にあんなのは自分の仕え守るべき主なんかではない。
嫌悪感に表情が歪みそうになるのを耐えていると、すぐ側から不気味な笑い声が聞こえてきた。
「ん~ふ~ふ~。ここぞ悪役令嬢様の出番ですわね!」
「は?悪役?」
「いざ、参りますわよ~。んお~っほっほほぉ~~~!!」
「……よろしくお願いします」
たった今まで普通に会話をしていたはずなのに、この切り替えの早さは一体…。
扇子を華麗に広げ、ド修羅場に高笑いもろとも突撃して行く勇ましいノワールのあまりのテンションの高さに、ただ、呆気に取られ見送るしかないリヒターなのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
☆次回からシリアス回予定です。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる