だから王子は静かに暮らしたい。

天(ソラ)

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第3章 偽りの王子と恋の試練?

6 過ぎ去りし因果の中で③

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 呆然と見開かれた目に映る鮮やかな赤色。

 どくりと胸の奥が脈打ち、忙しないさざ波が身体中を駆け巡っていくのを感じた。

「どうした?動くのも辛いのか?」

 降り注ぐ低音に我に返ったものの、流石に貴方の髪色に驚いて見惚れていましたなんて言えず、曖昧な笑みを浮かべ適当に言葉を濁した。

 身体を抱えられ移動する最中、ちらちらとその横顔を盗み見る。

 髪が赤いからてっきりヴィジュアル系のお兄さんかと思ったら、どうやら外人さんみたいだ。日本語ペラペラだけど彫りの深い顔立ちは横からみても見惚れるくらいの美形さんである。

 ……何処かで見たことがあるような?

 テレビとか雑誌だったかなぁ、モデルとか俳優さんと言われたらやっぱりねって納得するところだけど。うーん。こんな目立つ髪の人、一度目にしたら絶対忘れないと思うんだけどなぁ……ダメだ、気持ち悪くてこれ以上は頭が回らないや。

 ぐったりしながらそんなことを考えていると、本通りから外れ狭い横道を通り小さな公園へと辿り着いた。

「ここに座って、ちょっと待ってろ。…絶対に動くなよ」

 そして、そこにあった色褪せたベンチに僕を下ろし、お兄さんは自分の着ていたコートを掛けて何処かへ姿を消してしまった。

 立つのもしんどいし、取り残された僕はその言葉に素直に従って、大人しく背もたれに身体を預けて座っておくことにする。
 多分だけどあの人は僕を騙したり不利になるようなことはしないと思う。確信とまではいかないけれどそんな気がする。

 忘れないうちにと上着ポケットに手を突っ込み、スマホを取り出して同僚に連絡を入れておくことにする。流石にこの状態では、仕事に行けそうにもないから早急に代打を頼まなければ。
 するとすぐに同僚からお小言とともに心配しなくていいからしっかり休めと、有難い返信が返って来た。 ついでに次出勤した時に覚悟しろよとも。…お説教コース確定だなこれは。文面から何時間になるのかは…よし、考えるのを止めよう。

 とりあえず目下気掛かりだったことにカタがつき、安堵感に目を瞑る。

 通りから距離があるのか、雑多な雰囲気からかけ離れた公園の静けさは、先程しゃがんでいた場所と比べると段違い心地が良かった。



(…あったかい?)



 どれくらい目を瞑っていただろう。

 身体を包む温かさに、重い目蓋を開けると目の前に黒い物体が飛び込んできて、思わず息を飲んでしまった。

「!?」

 反射的に背を仰け反らせようとするが何故か身動きが出来ず、内心訳が分からず焦っていると、黒い物体がクゥ~ンと可愛らしい鳴き声を上げた。

「え?あ、…い、犬?」

 思ったことを口にすれば、黒い大きな犬が正確だと言わんばかりにワンと、短く吠えた。

 顔はラブラドールに似ているが、身体は長毛で覆われセントバーナードっぽい。もしかしたら混血なのかもしれない。
 大型犬はその見た目によらず、穏やかな気性なのだと聞いたことがある。大人しく膝に両前足を乗せ動かずにこちらを窺っているその頭に、恐る恐る手を伸ばしてみる。

 もふもふ。もふもふ。

 触り心地はいいけれど柔らか過ぎず、手入れが行き届いた毛玉など無縁なサラサラキューティクル。うん。これは良いもふもふだ。

 存分にその触り心地を堪能していると耳元で声が囁いた。

「気分はどうだ?」
 
「ひゃっ!?」

 耳朶に響く低音に肩が跳ね、そこで漸く自分が背後から抱き締めてられていることに気がついた。

(なにこの体勢、なんなの?なんなわけっ!??)

 恋人にだってこんなふうに背後から抱き締められて座るなんてこと、されたことなんかない。寒そうだったから、とかまさかそんな理由?いやいや、雪山じゃあるまいしそんなわけあるわけがない。

「あ、あのっ、なんで」

「ん?」

 やめて、首筋に息が吹きかかるからその角度で喋らないでっ。

離して貰おうと身を捩って背後にいるお兄さんに話しかければ、傾いたお兄さんの髪が僕の頬を撫でて、吐息が耳の下を擽るからたまったもんじゃない。

 背筋からゾクゾクッとした感覚が駆け上がってきて、変な声が出そうになるのを手で口を押さえてなんとかやり過ごした。

「~っ。な、なんで、僕、こ、こんな、貴方に、だ、抱っこされてるんですか?」

 顔が物凄く熱い。きっと情けないぐらい自分の顔は今、真っ赤になっていることだろう。人肌なんて久しぶり過ぎて免疫なんてゼロに近い。早く離してくれないと羞恥心で恥ずか死んでしまう。

 解放してほしい一心で訴えたはずなのに、逆に僕のお腹の前で交差している手にぐっと力が篭ったのをかけられたコート越しに感じた。

「………はあ。可愛い」

 なんだろう、空耳かな?近くにお兄さんが言うようなそんな可愛いものってあるんだろうか。

 人の肩に額乗っけての小さな呟きに怪訝に視線を彷徨わせれば、膝にいた黒わんこと目が合った。

 成る程。黒わんこのことか。このわんこ大人しくて良い子だし。よく見ると可愛いってのも頷けるかな。この人きっと愛犬家なんだ。

「可愛いですよね、このコ。賢そうだし。お兄さんの飼い犬なんですよね?」

 同意して確認しただけなのに、上と下から思いっきり不服そうな目で見られてしまった。

 …なんでだ?
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