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第3章 偽りの王子と恋の試練?
7過ぎ去りし因果の中で④
しおりを挟む少し休んだらおかげさまで大分気分が良くなった。あんなに辛かった吐き気も無事に峠を越えられたみたいでホッと安堵の息をつく。
あのまま、あそこでしゃがみ込んでいたままだったらと思うと…。うん、大惨事にならなくて良かった。助けてくれたお兄さんに本気で感謝しなくては。
睡眠大事。食事もしっかり三食とりましょう。当たり前のことだが、体調を崩すとこの当たり前のことが本当に身に染みる。睡眠は無理でも家を出る前に何か適当に腹に入れておけば良かった。
そんなふうにつらつらとりとめのないことを考えていると、ひやりと、冷たい感触が額に触れた。
「すまない、嫌だったか」
声は出さなかったが僅かに肩が揺れてしまい、濡れたハンカチらしき布を手にしたお兄さんが肩口から申し訳なさそうに窺って来る。それに対し大丈夫だと首を横に振ると安堵の息とともに再度布を額に押し当てられた。
気づかないうちに発熱していたのか額に当てられた冷たさが気持ち良い、じんわり背中から伝わる熱が温かさも安心出来て心地良かった。
両親は子供が病気でも看病してくれるような人達では無かったし、恋人には移されては困ると、具合が悪くなった時側にいてくれなかった。前回はそんな余裕なんか無かったから気づかなかったけど、心身が弱っている時の他人の体温がこんな気持ち良いものだなんて、今まで知らなかった。
( ……んん?前回って、いつのことだっけ?)
まあ、細かいことはいっか。ちなみに体勢は先程と変わらず背後から抱き締められたまま。どうも目を瞑ってうっかりうたた寝してしまったのがお兄さんの過保護心を刺激してしまったらしく、離れて欲しいという要望は、心配とのお言葉と顔面偏差値の高さに最終的に却下されてしまった。本当、お兄さんが良い人過ぎて涙も出やしない(泣)というわけで意識すると精神衛生上よろしくないので、自分は縫いぐるみもしくはペットなんだと思うことにしました。思い込み大事。
大事だけどそれはそれとして一旦置いといて、赤の他人にここまで親身になってくれたお兄さんに是非とも何かお礼がしたい。
けれど、例えばお礼を現金で、というのはいくらなんでも助けてくれた人に対し蔑ろな気がするし、お兄さんもそんなつもりで助けてくれたわけじゃないだろう。
しかし、貧相な僕の発想力では他に良いお礼が思いつかない。何か良いお礼はないものか。
内心唸り声を上げていると、その視界の端で黒わんこが何かに興味を示し鼻先で匂いを嗅いでいるのが見えた。
それが自分のバッグだと気づき、何かわんこが興味を持つものを持っていたっけ?と首を傾げて、徐に手を伸ばし中身を確認してみる。
財布に手帳に定期入れ…。わんこが好きそうなものは入ってないと思うんだけど。後はーー、
「…三角の黒い…石?」
深く考えずトートバッグから取り出したラップに包まれたおにぎりに、背後から思いっきり怪訝そうな呟きが。
え?もしかしておにぎりを知らないの?
「武器、なのか?それにしては使い勝手が悪そうだが。鋭角が大きくて殺傷力は低そうだし、持ち運びもこの厚さじゃ嵩張って不便だろ?…ああ!もしかして投たら爆発する仕込みの武器か!」
ちっがーう!ちょっと待てっ、どこの世界にンな物騒なおにぎりがあるんだよ!?
合点がいったみたいな声に思わず心の中で裏拳込みの盛大な突っ込みを入れてしまった。
冗談ではなく本気でそう思って言っている響きがなんとも恐ろしい。お兄さんが外国の人なのは見た目で分かるけど、おにぎりが分からないなんて一体何人なんだよ。…おっかしいなぁ、おにぎりってメジャーなソウルフードだと思ってたんだけど、僕の思い違いだったか。
「違います、これは武器じゃありません。食べ物です」
言いながら、座る位置をずらしておにぎりを一つ手渡す。
「食べ物…」
すると、物珍しそうにしげしげと角度を変えておにぎりを観察し始めたので、本気で知らないんだなぁと心底感心してしまった。なら、百聞は一見にしかずだ。
「作ったばかりで不味くないとは思うんで。良かったら食べてみて下さい」
「これは君が作ったのか?本当に食べても?」
「はい。大したものじゃありませんけど」
そんな目を輝かせて嬉しそうな顔をされても、本当に大したものじゃないんですけど。こんなおにぎり一つで喜んで貰えるのなら、もっとちゃんとした料理も作ってくれば良かった。
ラップごと食べようとしたお兄さんに、もう一つのおにぎりのラップを剥がしこうして食べるんですよと見本を見せてあげる。黒わんこもおにぎりを欲しそうにしていたので僕がラップを剥がした分は黒わんこへ。
大丈夫かなぁ。塩と砂糖は間違うという致命的なミスはおかしてない、はず…。あ、なんか凄い心配なってきた。
人に自分の作ったものを食べてもらうというのが久しぶり過ぎて妙に緊張してしまう。
「外側の黒いのが何かは分からなかったが、中は米なんだな。美味かった」
そんな僕の気持ちなど知るわけはないお兄さんは、食べ終えた後そう言って笑ってくれた。
自分はなんて単純なんだろう。それがただのお世辞だと分かっているはずなのに、
『美味かった』
その言葉が心震える程うれしくて、
笑顔が冷蔵庫の中に入っている自分の冷えた料理と重なって、
ほろりと。
目から涙が零れ落ちた。
「あ、れ?」
「おいっ、どうした!?何処か痛むのか!?」
「いえ、これはただの鼻水です」
「流石にそれは無いだろ。誰が信じるんだ」
残念。誤魔化せませんか。
ならば、ダメですねぇ、歳をとると涙腺が弱くなっちゃってって…あれ、これも白々しい?中々厳しいですねお兄さんったら。
先程の濡れた布で僕の目元を拭う優しい手つきに、無理矢理口端を上げて笑ってみても決壊して溢れた涙は止められそうにない。
「無理に笑うな。泣きたかったら泣けばいい」
言ってから太い腕が頭を抱え込んで広い胸に押し当てた。
本当に優しいなぁ。どうしてこんな会ったばかりの人間にここまで優しくしてくれるんだよ。
あやすよう頭を撫でられて、嗚咽を漏らさないよう唇を噛み締め震える手で縋り付いた。
健康は大事だね。身体が弱ると心まで弱くなってしまって。だからごめんねお兄さん。今だけは、今だけだからどうか僕に肩を貸しておいて。すぐにもう大丈夫、ありがとうございましたって無理じゃなくて、ちゃんと笑ってこれ以上心配をかけないようにするから。
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