だから王子は静かに暮らしたい。

天(ソラ)

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番外編

閑話 春は風に舞い届く。

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 蒼く澄み渡る空を彩る様は溜め息をつく程美しく。散る様は儚げで人の心に切なさを刻む。

 手にしたティーカップにひらり、花弁が舞い落ち中の琥珀に音もなく波紋が立つ。

「綺麗ですね」

 傍らで給仕するリヒターが柔らかな笑みを僕に見せる。

 地に舞い落ちてなお、美しき花。

 空を彩るのを例えるならカーテン。地に敷き詰められた花弁は絨毯といったところだろう。

 夢の様な光景とはまさにこの様な場所。

「やめて下さいっ、ギルフィスさん。これ以上はっ」

「こんなの酒のうちに入らない入らない。注ぐのも面倒だな。犬、瓶のまま飲め」

「え、嘘!?んぐぐっ?!!」

 ー聞こえない。僕の耳には一切何も聞こえない。

 うっかりお花見には酒が付き物とか口を滑らせたけど、背後の惨事に僕は関係ない。

「…全く、リヒターの言う通りだね。切り取って額縁に飾りたいくらいだよ」

「はい」

 リヒターも僕が巻き込まれなければそれで良いとばかりに、後ろを振り返る気配もない。

 アッシュ君の犠牲は二、三日忘れないよ。

 さてさて、では本題に入りますかね。

「アナタの望む【お花見】はこの様に、ピンからキリまでありますが。あんなのでも本当によろしいんですか?」

 親指で背後を指さす僕の眼前で、この地に棲まう美少女精霊様が嬉しそうに虹色の瞳を細めている。

 腰まである撫子色の髪を揺らし、薄桜色のドレスを見に纏った姿は桜の化身そのものだ。

 あれもいいのか。懐深いなぁ。

 もっと、沢山の人にここの花を見て欲しい。それが精霊様のお願いだ。

 今僕達は人里から離れ、普段ほとんど人が足を踏み入れないとある山裾にいる。

 何でそんな所にいるか、それはーー、

 ボトッ。

「うきゅぅ」

 僕の頭に降って来た毛玉精霊に連れてこられたからだ。

 この上位精霊様に仕えている、モッフモフな手のひらサイズの下位精霊も薄紅色の毛とつぶらな虹瞳が非常に愛くるしい。

 一部匹だけなら。

ボトボトボトッ。

「アルヴィン様!!」

「大丈夫大丈夫。見た目より軽いからコレ」

「うきゅ、うきゅきゅ~」

 僕を生き埋めにしたいのか、側の枝から次々落ちて来る毛玉達。羽の様に軽いからいくら落ちて来ようが問題はないけど、ちょっと鬱陶しい。

「きゅ、うきゅきゅ、きゅぅ~」

 精霊様のお願い聞いて聞いてぇ~?そんな小山で訴えなくても聞きますよ。精霊の加護持ちは普段精霊様にお世話になってますからね、無下にはしません。

 この世界でサクラが拝めるとは思ってなかったしね。

 連れて来られてこの光景を目にした時の感動といったら、精霊様に手を合わせようかと思いましたよ。

 何でも昔、この世界の神様が【花見酒】をしたくて、ひっそりと別世界から持ち込んだサクラをこの地に植えたんだそうな。美少女精霊様はこの地の管理を任され、毎年この時期に来る神様のために毛玉精霊と一緒にこの地を守っていたが、ある時を境に来なくなってしまったらしい。

 そりゃあ、突然来なくなったら寂しいよね。

 暫く待ち続けたんだけど、来ないものは来ない。昔のような賑やかさを取り戻したいと悩んでいたら僕が近くを通りがかり、毛玉達に拉致され現在に至るってわけ。

「まずはここにサクラがある事を人々に知って貰わないとね」

「街道に案内板出しますか」

「そうだね。それとここまでの道を整備しないと」

「うっきゅ、きゅ~ぅ」

 僕の言葉に美少女精霊様と毛玉達が何度も頷き跳ねる。うん、ぼくらに任せろ~ぃね。お願いします。

「お花見に関しての詳細は立て札に書けばいいし。僕の名前いれときゃ、バカな事考える輩もそんないないでしょ。それでもってー」

「サクラの実物分からないと、人が集まりづらくないかい?」

 出たな酒乱。当たり前のように話に加わりおって。

「…アッシュは?」

「潰した」

 またかいっ!!

 あ、向こうの木陰で毛玉に介抱されてら。面倒見いい精霊だな。

「この花は珍しいからね。知っている人はいないものをどう宣伝するか」

「ビラを配るとかは?」

「それはそれで手間だよね」

 ビラ作って街に行って一枚一部枚手渡しは、大変だ。

 腕を組んで唸る僕の横で何故かギルフィスが毛玉と戯れ始める。

 お手玉のようにポンポン毛玉達を投げては落ちる前に掴み、投げては掴みを繰り返す。遊ぶ暇があるなら一緒に考えて欲しい。

 僕の視線を感じたのかギルフィスが、ん?とこちらを向き、それならと毛玉精霊を手に一つの案を提示した。






「皆、準備は良い?」

「うっきゅ」

「加減間違えるなよ」

「俺を誰だと思ってる」

「風向きは問題ありません」

 それぞれの声に僕とギルフィスが同時に風魔法を放った。

 敷き詰められた花弁と、折り畳んだ小さな手紙を咥えた沢山の毛玉精霊が風に舞い上がり、人里方向に旅立っていく。

 『この花びらのお花はサクラと言います。神様も勇者さんも好きなお花です。遊びに来ませんか?』

 手紙に簡易地図とそう言葉を添えて。

どうか、この世界の人達もサクラを愛してくれますように。風に運ばれた春の使者達に願いを託し僕は空を仰いだ。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
☆漣様のご希望ありがとうこざいました。花見?って言われるとちょっとアレですが(^^;;
この話の中に出て来る色はほぼ日本の和色を調べ決めています。自然色中心で柔らかな色合いでございます。
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