ガンズ・アンド・シッスル

前原博士

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チャプター1 リボルバー・ガン・エチケット #1

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 荒れ果てた大地に砂塵の舞い、何もかもがセピア写真のように色あせていた。
 ただ土を踏み均しただけの道に駅馬車が止まり、また走り出していく。
 砂埃の向こうに見えるのは、荒野の只中にぽつんとたたずむバラックのような建物。
 トタンを何重にも打ち付け、そこに巨大な筆で血を撫で付けたように赤く、SALOONとだけ書かれた粗末な酒場だ。

 馬車から降りてきた男が、拍車付のブーツのつま先を建物へと向ける。刺繍入りの上等な皮製で、つま先は鳥のくちばしの様に尖っている。
 カウボーイ・ジーンズには金ピカのチャンピオンバックル きっちりと着込んだフリンジ付のシャツ 
 痩せているが日に焼けた小麦色の肌  碧眼 金髪 白いキャトルマンハット 
 腰に巻かれたホルスターにはもちろん使い込まれたシングルアクションのリボルバー銃。
 どこからみても完璧なカウボーイスタイルだ。
年の頃は30代半ばと言ったところか。

 カウボーイは高い位置に付いた羽型の扉を、手で押し開けた。
 ギイギイと扉の軋む音に酒場の客たちは一斉に剣呑な視線を向ける。
 酒場の中は思いの他広く、カウンターの他にもテーブルと椅子がいくつも並び、人相の悪い男たちで満員御礼状態だ。
 その数、およそ30人以上。
 奥の壁にはバスケットボール用のゴールが取り付けられ、手榴弾を投げ入れている男がいる。

 荒廃の酒場に集ういかにもな荒くれ者たち。テーブルの上には酒と干し肉と銃。
 皆男を値踏みするように睨め付けている。
 男は真っ直ぐにカウンターに向かい、肘を突いてそこにもたれかかった。
 すぐ隣では茶褐色の液体の入った酒のボトルを、テーブルに置いた男が手酌で飲んでいる。

「よぉ、バーボンをくれ」
 カウンターの向こう、でこちらを無視してグラスを拭いていた主人に声をかける。
 しかし主人は男を無視したままだ。
 同じくカウンターにもたれかかっていた隣の客が、ボトルを男に差し出した。
 少し遅れて主人がグラスを正面に置く。

 カウボーイは礼も言わず、注がれた酒を飲み干してグラスを置くと、カウンターを背にして酒場の男たちを睨み返す。
 荒くれ者たちも負けじと腕を組みなおし、いらだたし気に靴を鳴らし、そしてテーブルの上の銃を引き寄せた。

「バレットゥース!バレットトゥース・ジョニー!」

 カウボーイが出し抜けに声を上げる。
 その視線は酒場の片隅でたった一人でカードをめくる、黒衣の男に向けられていた。
 黒衣の男は仰々しく気障にテーブルに置いたカードを絞ってめくると見えない相手に向けて手札を広げて見せていた。

「聞いてるのか!」
 さらに声をあげ歩き出そうとすると、胡散な男が一人立ち上がり、リボルバー銃を手にカウボーイの行く手を塞ぐ。

「雑魚に用はない 俺と奴の問題だ」
 荒くれ者たちに睨みを効かせるカウボーイ。
 しかし荒くれ者たちは身動ぎもしないまま、ただ侮蔑のまなざしを向けている。

「フラッシュイーグルじゃねぇか 三ヶ月ぶりだな、まさか生きてたとは」
 酒場の隅にいた黒衣の男が立ち上がる。
 黒衣に黒い帽子、長く蓄えた顎鬚、髪も黒くまるで死神のような男だ。
 フラッシュイーグルと呼ばれた痩身のカウボーイとは対照的に二メートルはあり、コートの上からでもその下に鍛え抜かれた分厚い肉体が隠れているのがわかるほどだ。

 海を割り進む聖者よろしく、周囲の荒くれ者たちが二列に別れ、黒衣の男に道を開ける。
 男はその中心を悠々と歩くのだった。
「三ヶ月前の仕事の報酬がまだだぜ」
「コンテナ強盗のか?くれてやっただろう?弾をたっぷりと!ハハハハハ!!!」
 下劣な笑い声は周囲の男たちに感染し合唱のように酒場を満たす。

「そうかい、じゃぁ返してやるよ」
 男は青いカウボーイ・ジーンズの裾をめくる。
 その下は幾つもの管やシャフトが伸びる、新品の金属の義足になっていた。
「へ、前よりマシになったんじゃねぇか? よしお前ら手を出すなよ! 決闘だフラッシュ」

 黒衣の男は自らの口の中に手を突っ込むと素手で歯を引き抜き始めた。
 男の不気味な乱杭歯は、恐るべきことに弾丸の形をしていた。
 血でぬらぬらと光るそれを、カウボーイに向けて指し示すと、腰から引き抜いたリボルバーに装填した。
 カウボーイもそれに倣い、腰のリボルバーの弾倉を空け中の弾体を空にすると改めて一発だけ弾を詰める。
 正々堂々、一対一の勝負だ。

 二人が向き合い、にらみ合う。沈黙の時間が流れる。 
 荒くれ者たちは死人の様にみな押し黙りじっとバレットトゥースとフラッシュイーグルを交互に見る。
 二人は互いの次の一瞬の動きを読みあっている。
 荒くれ者にも誇りがある。誇りの無いものはただのサンシタだ、敬意を集められない者だ。
 決闘における最大の誇り高い行為とは、相手より後に動き、相手より先に引き金を引くことだ。
 外では大型犬ほどの巨大なトカゲがその頭部に1ダースも並んだ不気味な目をSALOONに向け、吹き抜ける風が、団子状に絡まったケーブルを運んでいた。

 やがて一発の銃声が沈黙を破る。SALOONから出てきたのは…… カウボーイ姿の男だ。男は小さくうつむいたまま歩き出し、白いキャトルマンハットを被りなおした。
 そこで男は倒れ臥した。

「ギャハハハハ!! くそ弱いぞあいつ!」「口ほどにもねぇ!!」

 まだ息のあった男は少しでもこの場所から逃れようと無様にもがいた。
 だが非情にもその背中に追撃の弾丸が注がれる。
 男の体は跳ね、ついに男は動かなくなった。
 目敏く死の匂いを嗅ぎつけた巨大なトカゲ達が群がり、力強い顎で肉を引き裂いていく。
 人だったものの肉片を咥えたトカゲがふと顔を上げ、砂塵に煙る道の先を睨む。
 その直後、鋼鉄のひづめが砂を切り払い、ガンメタルカラーの機械馬が、トカゲと男の死体を踏み潰して止まった。
 過酷な弱肉強食の食物連鎖はこの世界のたったひとつの掟である。
 すなわち、強いものだけが銃を持つべきなのだ。

 トカゲとカウボーイをミンチに変えた馬車から降りてきた者が拍車付のブーツのつま先を建物へと向ける。
 刺繍入りの上等な皮製で、つま先は鳥のくちばしの様に尖っている。
 カウボーイ・ジーンズには金ピカのチャンピオンバックル きっちりと着込んだフリンジ付のシャツ
 痩せているが日に焼けた小麦色の肌 そばかす 丸みを帯びたアーモンド形の目は碧眼 肩まで伸びた金髪  白いキャトルマンハット
 腰に巻かれたホルスターにはもちろん使い込まれたシングルアクションのリボルバー銃。
 どこからみても完璧なカウボーイスタイルだ。

「うええ、脳ミソ踏んじゃったよ 新品のブーツなのに」
 ボーイではなく、10歳ほどの少女であると言う点を除いては。
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