ガンズ・アンド・シッスル

前原博士

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チャプター3 駅馬車 #1

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「……なんだか嫌な予感がする」
 都市郊外はあまりが道が整備されておらず、サスペンションが絶望的なアンティークタクシーは通れない。
 そのため仕方なく乗り合いの自動運転駅馬車で、遺跡の近くまで向かっていたリベルタだったが、いかにも面相の悪い男二人が乗り込み、しかも挟まれ形で座る事になった。

 一人は片腕をガトリング砲に換装し、マスクを被った上半身裸の大男。一人はギターを担ぎ、ポンチョを着込んだサングラスのメキシカン。
「まてまて俺も乗せてくれ」
 追い討ちのように、さらに白いスーツ姿の男が乗り込みリベルタの正面に座る。にやりと男は笑いかけてきたが前歯の上半分が全て金歯になっていた。
 男はまるで頭からペンキをかけられたように、目深に被った帽子もブーツのつま先も白で固めていた。ヒゲは綺麗に剃られ、頬骨の浮く優男だ。

「どこまでいくの? 三人とも、もしかしてお仲間?」
 少女は尋ねるが誰も答えない。右隣の荒くれ者。「……」 左隣の荒くれ者。「……」
「ああちょいとこの先までさ、そんなに遠くじゃないよ お嬢ちゃんこそこんな所に一人で居るのかい?」

 正面の男がやっと口を開いた。
「あっそう 私もまぁ、ちょっとその先まで」
 肩をすくめるリベルタに倣うように、男も肩をすくめて苦笑した。
 馬車は次第に森の中へと足を進めていく。道はさらにひどく凹凸を増し、数メートル置きに音を立てて揺れるのだった。

 無言の馬旅が続く。リベルタの正面に腰掛けていた男は懐からトランプを取り出し、数枚のカードをめくっては品定めするようにカードを覗き込んでいた。
「何してるのそれ?」
「自分のツキを試しているところさ 良い手がそろったら今日はきっと良い日になる 見てくれ、俺のカードの目はどうだ?」
 そう言って男は金歯を見せつけながら少女に五枚のカードを広げて見せた。

「あーうん…… あまりよくないかも」
「そうかい?俺は良い日になると思うぜ」
 男はまた金の歯を見せて笑った。最初に二人が乗り込んできた来た時からなんだか妙だとリベルタは感じていた。

「オいリベルタ あー、チョッといイか?」
 リベルタの銃搭載の支援AIが囁く。
「なに、グリップ君?」
「一つ注意しタいことがアルんだ」
「はぁ?」
「そノ男に見覚エがある…… 間違いナい、アいツはバレットトゥースの弟のハーフトゥース・ダンだ」

 リベルタは男をまじまじと見た。ニタニタ笑いの半開きの口から金歯が除く。
 なるほどハーフトゥースか。男も意味ありげな少女の視線に気が付いた。

 まずリベルタが立ち上がり、両腰の銃に手をかける。しかし左右の男二人が少女にほぼ同時に飛び掛り乱闘となった。
 少女は銃のグリップの底で男たちを殴りつけ、噛み付き、足を蹴り飛ばすも、いささか分が悪く、馬車の椅子に無理やり座らされた。
 ハーフトゥースはトランプを胸ポケットに仕舞い、それを愉快そうに眺めていた。

「暴れるんじゃないよメスガキめ」
 正面に座ったままのハーフトゥースがリベルタに拳銃を向けていた。
 リベルタはおとなしく従うほか無い。
「俺は兄貴が大嫌いだった だからお前がバレットトゥースを殺してくれてむしろ感謝しているくらいだ だがな、それでもあいつは俺の血を分けた兄だ、殺されたのなら復讐をすべきだ それが掟というものだ」
「クっ……!!」
 もがこうとするも左右から押さえつけられ、少女はほとんど身動きも取れない。

「いいかお嬢ちゃん、良い話を聞かせてやろう この世には二種類の人間が居るんだ 銃を抜く奴に、穴を掘る奴 ……ハハハハハハ!!」
 勝ち誇った男は銃を少女に向けたまま、懐から酒の入ったスキットルを取り出し、掲げてから口につける。
 勝利の美酒、祝杯だ。
「バレットトゥースに乾杯」

 whiz!

「っっ……!?」
 その場の全員が突然のことに声を失った。ハーフトゥースは目を見開き、ゴクリと喉を鳴らして自分の胸元を見た。
 そこには窓から突如侵入した、親指ほどの太さの棒が深く突き刺さっている。
 ハーフトゥースは金歯の隙間から血を吐き出し、銃を取り落としてうなだれるように事切れた。

 胸ポケットの入れていたカードがすべり床に落ちた。
 血に濡れたカードはダイヤの9 スペードの8が二枚 クラブのAが二枚。
「外ダ! 馬車の外に何カが居ルぞ!」
 AIの電子音に、弾かれたようにリベルタとハーフトゥースの部下二人が、そろって馬車の窓から顔を乗り出す。
 そこには裸のメカニカルホースに乗りこみ、黒いサイバースーツを着込んだ数人の人物が、こちらに弓矢の切っ先を向けていた。

「危ない!」
 BLAME!BLAME!BLAME!
 咄嗟にリベルタが飛んでくる矢を銃の連射で撃ち落とした。
「なにあれ!? あのときのニンジャ!?」
「違うナ 身長も体重も異なルし装備モ奴よりズっと旧式ダ」
「一体何がどうなってんの!? あんた達ニンジャに追われるようなことしたわけ?」
 しかし少女に問われた男二人は無言のまま首を横に振る。
「分けわかんないけど、死にたくなかったら反撃して!」

「ルアァァァァァ!!!」
 それまでまったく喋らなかった裸のガトリング腕男が咆哮し、自慢のガトリング砲を窓から外へと向ける。ガトリング砲が低い唸り声を上げながら勢いよく回りだした。
 Bratatatatatat!!!Bratatatatatat!!!Bratatatatatat!!!
 ガトリング砲の荒狂う銃弾の嵐に、馬車の右側面に居たニンジャ達が次々と落馬していく。ニンジャ達が射掛ける矢が数発刺さるも、男はびくともしなかった。

「左カらも来るゾ!」
 今度は反対側からニンジャ達が迫り、弓矢を放つ鋭い音が響く。そこにそれまで無言だったギター男が、ストラップを肩に掛け馬車のドアを開き仁王立つ。
 twaaang……
 男がギターをニンジャ達の方に向け、ギターを爪弾く。するとネックから銃弾が放たれ、馬車の左側面に居たニンジャ達が次々に落馬していく。
 男は無言のまま、物悲しげな旋律と殺戮を奏でていく。

「オー、ありゃぁダレル社製の古い銃ダな 二年前の戦争デ嫌というほド見たヨなぁ」
「まだ来る!」
 今度は馬車の後ろに着けたニンジャたちが迫り、弓矢を放つ鋭い音が響く。馬車は後ろには窓が無い。
 そこでリベルタは馬車の天井部分にのぼり、両手に銃を持ったアキンボ・スタイルでニンジャ達を迎え撃った。
 BLAME!BLAME!BLAME!BLAME!
 飛来する矢を撃ち落し、さらにニンジャの額を狙い引き金を引く。馬車の後方に居たニンジャ達が次々に落馬していった。

 もはや爆走銃弾射出戦車と化した駅馬車が崖へと差し掛かったその時、ニンジャの放った矢の一発が高く飛び、放物線を描いて馬車を引くメカニカルホースの頭部に突き刺さった。

「うわっやばっ! 落ちるわよ!!!」
 身をかがめるもつかの間、矢の衝撃で頭部を破壊された馬は暴走し、そのまま深い崖へと落ちていくのだった。

 追いついたニンジャ達が崖の下を覗き込む。崖下には森に飲み込まれつつある奇妙にねじれた十字……手裏剣型の巨大な黒い物体が幾つも横たわっていた……。



▂▅▇▓▒░*:.*★・゜*░▒▓▇▅▂



-同時刻 bellows-23近郊の宙域-

「俺の!名前はぁぁ!!! メイヘェム!!!地獄を追い出された無敵の男ぉぉ!!ダレル社が幹部!Vo:B(ボーカルベース)のメイヘェム!!!」
 大音量でやかましいメタルミュージックの流れる中、安いウイスキーでうがいをしながら叫んでいるようなダミ声で、男はマイクを手にカメラに向かって吠え立てる。
 どこからとも無く熱狂的な歓声音が鳴り響いた。

 首からは炎の彫刻の成されたベースギターをぶら下げ、ドクロを模したフルフェイスメットを被り、袖無しのレザージャケットを着込んだ筋骨隆々の大男だ。
 男はステージの上に立っている。フロア全体が7色に明滅するサイケデリックな空間で、壁は全て巨大なスピーカーで出来ていた。その回りには無数の人影が暴れまわっている。

「フライング・ソリッド号より全宇宙に向けてライブ中!! これより俺たちは!! 最強のロックンロールをぶちかましに行くぅぅ!!」「Yaeeeeeeeer!!!」
 天高く、悪趣味な骨型のアクセサリーを無数につけた腕を振り上げ、五本の弦が張られたベースギターをうち鳴らす。巨大なスピーカーコーンが生き物の様に荒ぶり、耳元で花火を打上げたのごとき爆音が鳴り響く。

「Burn!!Mother fu【censored】ピ-er!! Burn!!! 破壊!メイヘム破壊!メイヘム破壊!メイヘム
 熱狂のモッシュダンスがあちこちで起こっていた。彼らは宇宙船、フライングソリッド号の船員のはずだが、みな思い思いのスカムなロックファッションで決め、およそ船員や兵士とは言いがたいスタイルだ。

 カメラが引き、宇宙船の全貌が見え始める。宇宙船はVの字型のボディと長く伸びたネック、そして攻撃的で鋭角なフォルムのヘッドから成っている。そうこの船はエレキ・ギターの形をしていた。
 ダレル社の誇る宇宙一クールな宇宙船だ。少なくとも彼らはそう信じて疑わない。それが10船ほど浮かんでいる。
「目に付くものは吹き飛ばせ! 何もかも食い尽くせ!」
 この野獣のような男の率いる、V字のギター型宇宙船団がそのギターヘッドをbellows-23に向けていた。
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