ガンズ・アンド・シッスル

前原博士

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チャプター5 Killed By Death

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 突如飛来した巨大手裏剣は、ダレル社の打撃部隊旗艦であるギター宇宙船を断裂させた。
 そして無数の破片を飛び散らしながら大爆発を起こす。
 爆風は周囲にいたダレル社の兵士たちを巻き込み、爆心地に残ったのは地面に突き刺さった巨大なギターヘッドだけだった。
 マルティニのオフィスビルはギリギリで難を逃れていた。

「い、今の宇宙船は……… そんな、まさか……」
 立ち込める砂煙の中、少年ニンジャは爆発の中心へと駆け寄ろうとする。
 それをリベルタが肩をつかんで制止する。
「危ないってば! どこに行く気なの?」
「あれはあの時の船だよ! 長老が乗ってたんだ!」
「ええ!?」

 そう、突如飛来した手裏剣は、数時間前にZERO-NEMOとリベルタがバースデーパーティーをしていた、あの船であった。
 船には彼らの長老が残っていたはず……とすればあの船を操縦し、そして突進して行ったのが誰であるかは明白だ。
 再び駆け出そうとする少年をリベルタはまたも制止する。焦燥にあふれた少年の顔を見つめ、哀れむように首を横に降った。
 この爆発であの老人が生きているわけはない。
 おそらく、骨も残らずに吹き飛んでしまったことだろう……

「死にぞこなってしまったな」
 建物から着地したZERO-NEMOが少年とリベルタの前に姿を表す。
「ZERO-NEMOは…… 長老に育てられたんだ」
 少年がぽつりとつぶやく様に言った。
「父と母はマルティニに殺された、それからワタシを育てたのはあの男だ」
 ZERO-NEMOがそれに続いた。

 ZERO-NEMOのサイバーマスクは、モノアイの赤い明滅以外に感情を伺わせるようなものは何も無い。
 その心中に去来するものはなんであろうかは、本人以外にはわかりえなかった。

「あたしもパパ死んでるし、気持ちわかるよ」
 リベルタは馬を下り、ZERO-NEMOと並んで立った。肉親の死などこの過酷な宇宙の荒野では珍しくも無いありふれた悲劇だ。
 だがそれでも少女は共に戦った者として、せめてもの共感を示した。それで十分だと思った。

 爆発で巻き上がった砂煙が徐々に晴れていく。煙のヴェールの向こうから慎重な足取りで近づく、幾体かの人影が見えた。
 その雰囲気から察するに、おそらくはマルティニの連中であろう。リベルタものその影に向かってゆっくりと歩いていく。

「止まれ!」
 人影の一つが腕を上げ声がかかり、影たちが静止する。真空管がVの字型に並ぶ電子ライフルを構えた、黒いスリーピーススーツの男が影から顔を出す。
「やはりお前かリトルホーク」
 リベルタの顔を、忌々しげに見ながらウィリアムは言った。

「素直に感謝とかできないわけ? あんたを救ってあげたのに」
「ああ! 今日からグラウンド・ゼロで眠ることになるのはとても幸せだな  まぁ命を救われたのは確かだな 心から感謝する」

 ウィリアムはライフルの上に帽子を乗せ、大げさに、恭しく敬礼した。

「子供相手に皮肉言う大人ってさいてー」
リベルタはウィリアムに向かって中指を突き立てるサインを示した。

『ふうあああああ!!!!』
 出し抜けに叫び声が上がり、瓦礫の一部が動き出した。そして猛烈な衝撃と共に瓦礫の破片が周囲に飛び散り、山の中から大男が現れる。

『ヘヴィメタルは死ななぁい! 俺はイージーじゃない! ハードであり続けるぅ!! 俺の名はぁ…………… メぇイヘぇム!!!!』
 男が背にした巨大アンプスピーカーから猛烈な音が巻き起こる。
 それは最早音波兵器だ。強烈な重低音の振動に限界を迎えた瓦礫が決壊し、次々と崩れ落ちていく。
 男は瓦礫の中から取り上げた、一本しか弦の残っていないベースギターを太い腕で弾き続ける。
 背に括り付けられたスピーカーからは粗野で暴力的なノイズの塊が吐しゃ物のように吐き出され続けていた。

「うるさ!! ていうかあれ自分が一番うるさいんじゃないの……?」
「酷い音楽だ 今のティーンはあんなものを聞くのか? 私はクラシックしか聞かないがね」と口を挟むウィリアム。
「聞かないよあんなの」
「ワタシはトランスが良い 先祖の霊に近づける気がする」モノアイを明滅させるZERO-NEMO。
「で、それじゃぁいまどきティーンは何を聞くんだリトルホーク? ダブステップ?」
「きっとダブステップだ そうだろカウガール」
「古いよ 今の流行はWAVE系 知らない?」
「知らない」「理解不能」
「OK グリップ君、ミュージックスタート」

 真夜中を思わせる、暗く冷たく清んだシンセサイザーの音が流れ出す。ダークだが流麗で、どこか女性的な丸みを帯びた神秘的な音色だ。
「悪くない」
「私はクラシックが良いね バッハなど聞かないのか?」
「大バッハ?小バッハ? どちらだマルティニの」
「あー…… もちろん…… その、一番大きいバッハだ」


 ダレル社の最後の生き残りであるメイヘムは渾身の力を込めベースギターに腕をたたきつける。
 メタルは死なない。ロックは死なない。ハードコアに生き続けているから、イージーには生きていないから。
 故に彼は死なない。死が彼を殺すまでは。

 メイヘムは集中砲火を受けていた。当然なことだがどれだけの大音量で、狂ったビートをたたきつけようとそう簡単に人は殺せない。
 だが男は止まる事は無い。最早男は他人も自分も、誰の死も関係は無い。
 ただただ、破滅的な音楽衝動をたたき付けるだけだ。

『ヘヴィメタルは屈しない! 永遠なのだ!』
 ヘヴィメタルの概念へと到達した男は、不屈の意思で踏みとどまる。しかしその体には四方八方から弾丸と矢とが降り注ぐ。
 背にしたスピーカーは火を噴き、ベースギターは粉々に砕け散った。その四肢に余すところなく弾丸と矢が突き刺さる。
 4分39秒の間、ひたすら攻撃に耐えた男はついに立ったまま動かなくなった。

「…… やっと死んだ?」
『ろっくん…… ろぉ』BLAME!BLAME!
 リベルタの放った弾丸がメイヘムの眉間を貫き、ついに男は地面に倒れた。
「敵ながら天晴れな奴だ」
 ウィリアムはタバコに火をつけて吹かした。

「さて、リトルホーク 何か忘れていないか? 私の依頼の品はちゃんと持ってきたんだろうな?」
「もちろん、依頼はちゃんとこなすよ ほらこれでしょう」

 リベルタは例のピラミッド型の容器をウィリアムに渡す。

「ああぁ! これだこれだ! 助かった これで私は…… んん? なんだこれは、ドレッドホークよりリベルタへ……?」
ウィリアムはピラミッド型容器に書かれたメッセージに気が付いた。

「知らなかったの? それ、パパから私への誕生日プレゼントだよ」
「な、なにぃ!? もしや中身はっ!!」
「別に依頼の時には中身の話してないじゃん  だから依頼の通り、その入れ物はあげるけど、中身の正当な持ち主はあたし おうけい?」

 リベルタは例の株券をひらひらさせながら言った。

「ふざけるな! そんなことが許されるか! おい、お前らこいつを捕まえろ!」
「できませんウィリアム部長 相手は百万株の大株主です そんな事をしたら……」
「ちょっとー、その態度はなんだねーウィリアム君ー? 大株主さまに向かってそんな口聞いていいのー?んー?」
「ふっくぅっ っぐぐぐ ……も、申し訳ありません!」

「さてそれでは、あんたたちマルティニを救った英雄である このあたしと、元タタラ社の彼らに感謝をしてもらおっか」
「はっ! こ、この度は緊急の事態をお救いいただきまして誠に……」
「そんなのいいからさ どうせ街建て直すんでしょ? こんどはちゃんと彼らに住む所と仕事を用意してあげてよね」
「な、なんでこいつらにそこまで!?」
「えーなにー? 大株主の言う事聞けないんだー ふーんあーそーわかった、それじゃぁ本社にラインを……」
「わーっ! まって!まってください! おっしゃる通りに致しますから!!」

 へこへこと頭を下げるウィリアムの姿に、迫害されていた少年ニンジャ達やスラム居住者に笑顔が戻った。
 いまや彼らは弱き者ではない。沢山の犠牲の上に。ようやく尊厳を取り戻すことができたのだ。

 -------


 銀河に数ある銃開発メーカーの中で、トップクラスの技術力を誇る巨大企業、エンディミオン社のオフィスは白を基調とした空間だ。
 全てのものが女性的な丸みを帯びた有機的で、清潔感のあるデザインで装飾はほとんどなく、病的なほどに潔癖な場所だった。

「私にはとても信じられないが…… だがたしかにこのダレル社の動きは君の懸念に当てはまる」
 男は糊のきいた灰色のスーツを着こなし、さも椅子では窮屈だといわんばかりに長い足を組んで座っていた。
 すっきりとした細面は几帳面そうな身なりにふさわしくなく無精ひげを蓄えているが、瞳は青く、少年のような輝きを持つ男だった。

「やはりどこからか情報の漏洩があったのだと思われます すぐに行動を……」
 男の傍らでデスクに腰をかけた女が言った。髪と同じ、赤色のベアトップにジーンズを履いたラフな姿だ。
 ビスクドールの様に美しい顔立ちをしているが、その瞳は奇妙に揺らぎ、まるで炎をその瞳に隠しているかのようだった。

「エリー、君もわかっているだろう わが社は中立の立場だ 無法集団と違って理由なく争いに加わることはできないんだ」
「では私を解雇してください」
「おいエリー! よしてくれよ、君の事は大事に思っている、君の研究もだ だがそれで会社を動かすわけにはいかない」
「ええ、わかっていますCEO ですが対処しなくてはなりません そしてそれは私が最も適任です」

 男はしばしの間押し黙り、三角形に組んだ手を遊ばせていた。だがやがて観念したように言った。

「……わかった 君の退社を許可しよう だがそこまで大事なのかね?」

「私の故郷ですから」
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