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おまけ
21.5 初夜の深夜の朧げな記憶
しおりを挟む......どういうことだ。ん? どっち?
「ん゛……?」
「優鯉さん。目、覚めたの?」
身動ぎを敏感に察した蓮司さんの声が落ちてきて壁時計を見上げていた視線を戻せば、ナイトライトのぼんやりとした明かりの中でも派手な色合いが目に飛び込んでくる。その上の穏やかな笑顔とのギャップにくらりと眩暈がした。
「……」
口を開きかけて、喉を掠めていった息——正確には声にならなかった声——に小さな痛みを感じて目を顰める。その視線のままじっとりと睨みつけてやると、蓮司さんは中途半端な半笑いの申し訳なさげな顔を作って、「ごめん」と口先だけで謝りながら僕の身体をゆっくりと抱き起した。僕は非協力の極みの心づもりで脱力したまま蓮司さんの腕の中に納まる。
「お水飲める?」
差し出されたペットボトルにストローがセットされていることにちょっと絆されかけて、こく、と一口飲んだ時に張り付いた喉が無理やりこじ開けられる不快感を感じて気を取り直した。許すまじ。
そのまま二口、三口と飲んで「もういらない」と顔を背けると、引っ込んだペットボトルに続いてエネルギーチャージのゼリー飲料が登場した。
「お腹には溜まらないかもしれないけど、少しでも口に入れれる?」
そう言われて自覚した空腹感に改めてアナログの壁時計を見上げると、時刻は12時前。7時に蓮司さんが来て、色々あって、凄く色々あって、だから多分、夜の。
つまり。
差し出されたゼリー飲料を咥えるとパウチが蓮司さんの手の中でぎゅうっと形を変えて、中から押し出される形でつるりとした塊がぷりゅぷりゅと口の中に飛び込んできた。温んだ心地いい甘みが少しの溜飲を連れて胃に落ちていく。
「……ん」
……つまり、紆余曲折を経て結ばれた僕たちは、そのままなし崩し的に約17時間をベッドの上で過ごしていたということだ。
一日の三分の二をだ!
なんってことだ! 世の中の真っ当な方々が健全な経済活動に勤しんでいる間、僕らはベッドの上でわぁわぁきゃあきゃあ、くんずほぐれつ、のたくりちちくり……、紆余曲折を経て結ばれた恋人同士という大義名分を以てしてもお日様に顔向けできないような、あんな、とんでもない……。
「……っ」
よぎった記憶が意識の外から腰の重だるさと股関節の軋みとお腹の違和感と羞恥心を連れてきて顔面に血が集まる。
なんてことだ。僕ったら、いくら舞い上がってた上にめくるめく魅惑の未知の未体験ゾーンを大型重機で掘削されて前後不覚になってたとは言え、何だかすんごい恰好をしてすんごい声を出して、思い出すのも憚られるようなすんごいこと口走ってた気がする。ダメ、この記憶は暫く封印。無かったことにはしないけど、お前とはまだ僕向き合えない。
「優鯉さん、他にして欲しいことある? まだ寝ときな?」
衝撃の事実を受け入れるまでの間、精一杯「無体を働かれて呆然自若です」アピールをしてる僕を腕に抱いて、蓮司さんは「恋人のご機嫌取りに必死です」と言わんばかりの甲斐甲斐しさを発揮しながら、その実「拗ねてるのが可愛くて仕方ない」と言わんばかりの甘ったるい表情を浮かべている。
「……スマホ」
「ん?」
ようやく人心地ついた喉は魚の干物が鳴いたらこんな音出すだろうなみたいな声しか出せなかったけど、一先ず人の言葉は発してくれた。
「シゴト、レンラク」
余裕たっぷりの顔が悔しくて精一杯意地張ってやろうって出来るだけツンとした顔でそっけなく答えると、蓮司さんは苦笑いで溜息を零して予測してましたとばかりに僕のスマホを手渡してくれた。
関節の油が足りない感覚を味わいながら確認した通知は思ってたより少なくて、内心で胸を撫で下ろす中担当さんからの「明日はゆっくりしてください」と言うメッセージが目に付く。
ん? どういうこと?
意味を推察するべく前後確認をするより先に、蓮司さんが「ごめんね?」と僕のスマホを奪う。
「たまたま着信があったからさ、ちょっと、色々、お話させて貰った」
ちょっと? いろいろ? お話? なにを?
何だか嫌な予感を纏った困惑が込み上げてくるのを丸ごと布団に押し込められて、あやすようにぽんぽんと胸を叩かれる。
待って待って。なにをお話したの?
誤魔化しを多分に含んだ寝かしつけに絆されてなるものかと身を捩っても、隣に潜り込んできた蓮司さんに腕枕と一緒に抱き込まれて「また明日」と幸せそうな声で囁かれたら、一緒に朝まで過ごせることに浮かれた僕が顔を出して今までのこと全部ほっぽり出して「うん……」と胸に額をぐりぐり押し付けた。
トクトクという穏やかな鼓動があっという間に眠気を呼ぶ。
あぁ、もう。僕の馬鹿。幸せ者め。
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