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スイセンの花
6.当惑
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仕事柄ほとんど家に居る僕にとって、外界との繋がりはこの前のパーティーの時のような不測の事態を除けば、趣味でやってるゲームくらいだ。
TRIUMPH
3人1チーム、複数のチームで最後の1チームになるまで銃撃戦を行う。バトルロイヤル形式の一人称視点シューティング。
仕事が一区切りついて、次の仕事を始めると多分結構時間を取られる。そういうちょっとだけ息抜きしたい時に一戦単位でプレイできるから気に入っている。
「あ、今出ない方がいい」
VCを繋いで、誰とも知らない相手に言いながら戦況を見る。了解の意を表すエモート。
こっちが喋ってるのに相手が無言だと、少し気まずい。気まずいし、戦況共有ができないのは結構辛い。でも勝ちたいのはみんな一緒だろうし、必要なことは喋るよ、僕は。
数少ない他人との会話の機会でもあるし。
他人と話すことなんて、下の花屋さんと、クライアントとたまにオンラインで打ち合わせするくらい。大概がメールとチャットで済んでしまう。
それ以外にコミュニケーションをとることがあまりにもなさ過ぎて、言葉を忘れてしまいそうになる。だからこうして喋る機会を設けているんだ。自分なりに。
たまには外に出ないといけないとは思うんだけど、用事もないし、理由もない。
仕事柄、勤め人のように定時という時間的拘束がないかわりに休みという概念もない。
こうして引きこもって仕事なのかプライベートなのか線引きがあやふやな生活を続けていると、どんどん世俗と距離が離れてきて、余計に出るのが面倒になるという悪循環が続いている。
まぁ、生来の出不精だし、自分の知識だけで生きていく分は稼げているんだから必要性も感じていないというのが正直なところだ。
「ごめん、フォロー厳しい」
チームメイトが突出して遠方でダウンしてしまった。
助けに行きたいけれど、それを許してくれるほど甘くない相手。助けに行ってたら多分、僕はともかくもう一人が囲まれて二次災害が起こる。
結局、地形と数の優位を取られて膠着している内に後方から挟み撃ちにあってなし崩し的に負けてしまった。
ランキングは8位。上から数えた方が早いけど、優勝には程遠い。
まぁ、こんなことはざらにある。
マッチ画面に戻って、いつもはプレイを振り返ってのほんの少しの雑談があったりするんだけど、最初に聞こえてきたのは「ちっ」というあからさまな舌打ちだった。
『Lのくせにフォローもできねぇのかよ』
突出してダウンした彼は一言そう言ってマッチから抜けてしまった。ダウンして以降、回線を切断もせずに彼は僕かもう一人の目線から戦況を見てたはずだから、状況はわかってたと思うんだけど、それを覆すだけの力が僕一人にあるとよほど期待していてくれていたらしい。
「うん、ごめんね」
もう居ない相手に謝っても仕方ないんだけど、ついそう返して「ふぅ」と短くため息を吐く。
もう一人の人も「また良ければ」と短く挨拶だけして退出してしまって、僕は一人だけマッチ画面に残された。VCの意味、とは…。
このままにしておいたらまた次のプレイヤーとマッチングしてしまう。
もやもやしたものを抱えたままメニューに戻ってヘッドセットを外した。
固まっていた筋肉をほぐすように伸びをする。
こういうことも、まぁ、ざらにある。顔も名前も知らない相手だから。
フォローに行けなかったのは事実だし。
自分に言い聞かせて顔を上げると、先日買った白い花が目に入った。
紐づけられたようにあの花を見かけた時の感情が思い出されて、無性に彼に会いたくなった。
TRIUMPH
3人1チーム、複数のチームで最後の1チームになるまで銃撃戦を行う。バトルロイヤル形式の一人称視点シューティング。
仕事が一区切りついて、次の仕事を始めると多分結構時間を取られる。そういうちょっとだけ息抜きしたい時に一戦単位でプレイできるから気に入っている。
「あ、今出ない方がいい」
VCを繋いで、誰とも知らない相手に言いながら戦況を見る。了解の意を表すエモート。
こっちが喋ってるのに相手が無言だと、少し気まずい。気まずいし、戦況共有ができないのは結構辛い。でも勝ちたいのはみんな一緒だろうし、必要なことは喋るよ、僕は。
数少ない他人との会話の機会でもあるし。
他人と話すことなんて、下の花屋さんと、クライアントとたまにオンラインで打ち合わせするくらい。大概がメールとチャットで済んでしまう。
それ以外にコミュニケーションをとることがあまりにもなさ過ぎて、言葉を忘れてしまいそうになる。だからこうして喋る機会を設けているんだ。自分なりに。
たまには外に出ないといけないとは思うんだけど、用事もないし、理由もない。
仕事柄、勤め人のように定時という時間的拘束がないかわりに休みという概念もない。
こうして引きこもって仕事なのかプライベートなのか線引きがあやふやな生活を続けていると、どんどん世俗と距離が離れてきて、余計に出るのが面倒になるという悪循環が続いている。
まぁ、生来の出不精だし、自分の知識だけで生きていく分は稼げているんだから必要性も感じていないというのが正直なところだ。
「ごめん、フォロー厳しい」
チームメイトが突出して遠方でダウンしてしまった。
助けに行きたいけれど、それを許してくれるほど甘くない相手。助けに行ってたら多分、僕はともかくもう一人が囲まれて二次災害が起こる。
結局、地形と数の優位を取られて膠着している内に後方から挟み撃ちにあってなし崩し的に負けてしまった。
ランキングは8位。上から数えた方が早いけど、優勝には程遠い。
まぁ、こんなことはざらにある。
マッチ画面に戻って、いつもはプレイを振り返ってのほんの少しの雑談があったりするんだけど、最初に聞こえてきたのは「ちっ」というあからさまな舌打ちだった。
『Lのくせにフォローもできねぇのかよ』
突出してダウンした彼は一言そう言ってマッチから抜けてしまった。ダウンして以降、回線を切断もせずに彼は僕かもう一人の目線から戦況を見てたはずだから、状況はわかってたと思うんだけど、それを覆すだけの力が僕一人にあるとよほど期待していてくれていたらしい。
「うん、ごめんね」
もう居ない相手に謝っても仕方ないんだけど、ついそう返して「ふぅ」と短くため息を吐く。
もう一人の人も「また良ければ」と短く挨拶だけして退出してしまって、僕は一人だけマッチ画面に残された。VCの意味、とは…。
このままにしておいたらまた次のプレイヤーとマッチングしてしまう。
もやもやしたものを抱えたままメニューに戻ってヘッドセットを外した。
固まっていた筋肉をほぐすように伸びをする。
こういうことも、まぁ、ざらにある。顔も名前も知らない相手だから。
フォローに行けなかったのは事実だし。
自分に言い聞かせて顔を上げると、先日買った白い花が目に入った。
紐づけられたようにあの花を見かけた時の感情が思い出されて、無性に彼に会いたくなった。
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