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白いツバキの花
14.恋の苦しみ
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お、お呼ばれしてしまった。
これは現実だろうか。心が浮つきすぎて白昼夢を見てるんじゃないだろうか。いや、そもそも僕は起きてるのか?どこから現実だ。
夢じゃないことを確認するように周りを見回す。談笑する人達、大きな花弁の、赤や白の花の寄せ植え、天井で回るシーリングファン。結露したグラス。持ち上げると指先が濡れた。口を覆った手で鼻を摘まんでみるとちゃんと鼻が詰まった。全部はっきりと認識できる。
薫くんの表情は、思わずという感じだった。それって、思わず誘っちゃうくらいには僕との会話を楽しんでくれてたって事だろうか。そうならとても嬉しい。
遅れて、ぞわぞわと背筋が震えた。
天にも昇る気分って多分こういう気分のことだ。今なら月まで行けそうだ。
食事を終えて運ばれてきたコーヒーを飲みながら幸せを噛みしめる。
薫くんはコーヒーはブラック派なんだな。
僕はミルクを少しだけ。甘さが欲しいわけじゃなくて、ちょっと苦みが深くなる気がして好きなんだ。スイカに塩をふったら甘く感じるのと同じ。
「この後、どうする?」
薫くんの方からこの後の事を振られるなんて思ってなくて、また心臓が跳ねた。大丈夫か僕の心臓。今日だけで多分1年分は跳ねてる。寿命が縮まりそうだ。
それから、何も考えてなかったことに気付いてちょっと焦ってしまう。
このままここでダラダラ話していては、…僕からしたらジェットコースターみたいに驚きとときめきの連続なんだけど、とにかくお店の迷惑になってしまう。一旦出るのは確定として、どこに誘えばいいだろう。
僕が悶々と考えてると、薫くんがかちん、と軽い音を立ててカップを置いた。
「よければ、買い物付き合って欲しいな。ネクタイ欲しいんだ」
スーツを着る仕事をしてるんだろうか。それとも余所行き?彼はどんな仕事をしてるんだろう。
あとで聞いてみよう。よかった、会話のストックができた。
…、会話のストックなんて、ホントは考えなくてもいくらでもある。
好きな食べ物は1つ知れた。他に好きなものは?好きな色は?どんなゲームをするの?何歳?何型?誕生日は?どこで生まれて、どんな子供時代だったの?
初恋は?どんな人だった?その恋はどうなったの?
…どんな人が好き?
聞きたいことだらけだ。
でもこんな風に聞いてしまうとどんどん欲が出て、きっと全部が欲しくなってしまう。
たとえもし全部を手に入れても、きっと満たされない。この気持ちはそういう類のものだとわかってる。
だからここで満足しないとダメだ。
目を奪われた彼の名前が知れて、こうして会って話をして、こんなにも幸せを貰って。
それだけで十分だ。
僕は自分に言い聞かせて、改めて薫くんを見た。
彼はコーヒーカップを片手に、肘をついて柔らかく微笑みながら僕を見ている。
きゅ、と胸が切なく疼いて息が詰まった。
「…いいよ。行こうか」
最後に残ったコーヒーを飲みほしてカップをソーサーに戻す。
彼も同じようにカップを置いた。
伝票を持って会計に向かうと薫くんが一歩前に出た。
「…奢られるつもりないからな?」
財布を出しながらの発言に驚いた。
こういう風に会って、僕が奢るのは当然なんじゃないだろうか。ましてや僕が誘ったのに。
少なくとも今まではそうだったし、今日もそのつもり、というか、それが当たり前だと思ってたから意識もしていなかった。
ぽかん、と、口を開けて薫くんを見ると、彼は呆れたように息を吐いた。
「俺、いい歳した社会人。記念日とかならまだしも、遊んだ初日から奢られてたまるか」
そういう、ものなのかな。
いままでのお付き合いがふっと頭を過ったけど、今はそんなことより薫くんの価値観がとても好ましいものに思えて、胸が高鳴った。
あぁ、好きだなぁ。
一層深く、恋に落ちた。
これは現実だろうか。心が浮つきすぎて白昼夢を見てるんじゃないだろうか。いや、そもそも僕は起きてるのか?どこから現実だ。
夢じゃないことを確認するように周りを見回す。談笑する人達、大きな花弁の、赤や白の花の寄せ植え、天井で回るシーリングファン。結露したグラス。持ち上げると指先が濡れた。口を覆った手で鼻を摘まんでみるとちゃんと鼻が詰まった。全部はっきりと認識できる。
薫くんの表情は、思わずという感じだった。それって、思わず誘っちゃうくらいには僕との会話を楽しんでくれてたって事だろうか。そうならとても嬉しい。
遅れて、ぞわぞわと背筋が震えた。
天にも昇る気分って多分こういう気分のことだ。今なら月まで行けそうだ。
食事を終えて運ばれてきたコーヒーを飲みながら幸せを噛みしめる。
薫くんはコーヒーはブラック派なんだな。
僕はミルクを少しだけ。甘さが欲しいわけじゃなくて、ちょっと苦みが深くなる気がして好きなんだ。スイカに塩をふったら甘く感じるのと同じ。
「この後、どうする?」
薫くんの方からこの後の事を振られるなんて思ってなくて、また心臓が跳ねた。大丈夫か僕の心臓。今日だけで多分1年分は跳ねてる。寿命が縮まりそうだ。
それから、何も考えてなかったことに気付いてちょっと焦ってしまう。
このままここでダラダラ話していては、…僕からしたらジェットコースターみたいに驚きとときめきの連続なんだけど、とにかくお店の迷惑になってしまう。一旦出るのは確定として、どこに誘えばいいだろう。
僕が悶々と考えてると、薫くんがかちん、と軽い音を立ててカップを置いた。
「よければ、買い物付き合って欲しいな。ネクタイ欲しいんだ」
スーツを着る仕事をしてるんだろうか。それとも余所行き?彼はどんな仕事をしてるんだろう。
あとで聞いてみよう。よかった、会話のストックができた。
…、会話のストックなんて、ホントは考えなくてもいくらでもある。
好きな食べ物は1つ知れた。他に好きなものは?好きな色は?どんなゲームをするの?何歳?何型?誕生日は?どこで生まれて、どんな子供時代だったの?
初恋は?どんな人だった?その恋はどうなったの?
…どんな人が好き?
聞きたいことだらけだ。
でもこんな風に聞いてしまうとどんどん欲が出て、きっと全部が欲しくなってしまう。
たとえもし全部を手に入れても、きっと満たされない。この気持ちはそういう類のものだとわかってる。
だからここで満足しないとダメだ。
目を奪われた彼の名前が知れて、こうして会って話をして、こんなにも幸せを貰って。
それだけで十分だ。
僕は自分に言い聞かせて、改めて薫くんを見た。
彼はコーヒーカップを片手に、肘をついて柔らかく微笑みながら僕を見ている。
きゅ、と胸が切なく疼いて息が詰まった。
「…いいよ。行こうか」
最後に残ったコーヒーを飲みほしてカップをソーサーに戻す。
彼も同じようにカップを置いた。
伝票を持って会計に向かうと薫くんが一歩前に出た。
「…奢られるつもりないからな?」
財布を出しながらの発言に驚いた。
こういう風に会って、僕が奢るのは当然なんじゃないだろうか。ましてや僕が誘ったのに。
少なくとも今まではそうだったし、今日もそのつもり、というか、それが当たり前だと思ってたから意識もしていなかった。
ぽかん、と、口を開けて薫くんを見ると、彼は呆れたように息を吐いた。
「俺、いい歳した社会人。記念日とかならまだしも、遊んだ初日から奢られてたまるか」
そういう、ものなのかな。
いままでのお付き合いがふっと頭を過ったけど、今はそんなことより薫くんの価値観がとても好ましいものに思えて、胸が高鳴った。
あぁ、好きだなぁ。
一層深く、恋に落ちた。
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