51 / 77
ハルジオンの花
51.アンスリウム
しおりを挟む
忙しいのと、そういうのとは遠ざかっていたかったのとで来れてなかったゲイバーに久々に顔を出した。
「あら、久しぶりね」
テーブル客の酒を出していたママが顔を上げて言う。今度のウィッグは黒髪のちょっとシャープなボブだ。
「アンタの座る席なんてないわよ。薄情者」
そんなことを言われるくらい来てなかったらしい。「はは」と苦笑いしながら勝手にカウンターに腰かける。
すぐにママが戻ってきて、いつもの酒を作り始めた。
「どうしてたの?元気だった?」
そうは言いつつ、こちらを気遣ってくれる。ママのこういう所は美徳だ。
元気、ではなかったな。でも、大分元気にはなって来たと思う。
あの時のことは、かさぶたくらいにはなって来た。
いい加減忘れたくて、この店に来た。
「うん、ぼちぼちね」
出された酒を煽ってタバコに火を点ける。大きく吸って、吐き出す。
ママがちょっと訝し気にこちらを見るもんだから、全部見透かされてるような気がして目を逸らした。
じっとりとこちらを睨みつけていたママが一言、口を開く。
「振られたんでしょ」
核心を突かれてかさぶたが少しだけ、べり、と剥がれた。
「そういうこと言う?上手くいってたから来なかったんだよ」
強がってそう言うとママは「はんっ」と息を吐いて、ニヤリと笑って俺を見た。
「あたしに隠し事はできないわよ?アンタは特に。上手くいってたから来なかった。でも振られたのが辛くて来なかった。それでちょっと元気になったから来た。そんなとこでしょ」
なんだこの人、エスパーなのか。
ずばり言い当てられて気恥ずかしさで苦笑いする。その通りだよ。
「じゃないとアンタこんな店1人で来ないでしょ」
ママはちょっと小首を傾げて苦笑いしながら「しょうがないわね」と言って、タバコに火を点けた。
「振られたんじゃなくて、飽きたから振ったんだよ。それで退屈になったから」
また強がってそう言うと、心が「違う、違う」と叫ぶもんだから、また少しかさぶたが剝がされて胸が痛んだ。
「そんな死にそうな顔しといてよく言うわよ。とっとといい男見繕って帰りなさいよ。それともあたしが慰めてあげようか?」
俺がいい男見繕えないの知ってるだろ。
いつものからかうのとは違うママのちょっと獰猛な視線に狼狽えつつ、振り返って店内を見回す。
そう言えば店内のメンバーも随分変わってるみたいだ。本当に、それだけ来てなかったらしい。
ぐるりと見回してから最後にカウンターを眺めると、すっきりとした体格の穏やかな顔をした男と目が合った。
男はニコリと笑って手を振るみたいにグラスを振って見せる。
「…ほら、呼ばれてるわよ。行っときなさいよ。行かないならその泣きそうな顔違う意味で泣かすわよ?」
ママに脅されるまま、ニコリと笑い返すと男の方から隣に移動してきた。
近づいた肩からほんのり体温が伝わってきて、どうしようもなく人肌が恋しくなる。
「ごめんね、急に。あんまりにもタイプだったから」
耳元に響いた低い声に、ぞく、と首筋が震えた。
主税はもうちょっと高い声だったな。でも、俺を見つめて喋る時だけちょっと低くなるんだよ。
そうやってまたアイツのことを考えてしまって、これ以上考えてたら多分泣く、と思って、何も考えずに男のあからさまな誘いに乗ることにした。
「あら、久しぶりね」
テーブル客の酒を出していたママが顔を上げて言う。今度のウィッグは黒髪のちょっとシャープなボブだ。
「アンタの座る席なんてないわよ。薄情者」
そんなことを言われるくらい来てなかったらしい。「はは」と苦笑いしながら勝手にカウンターに腰かける。
すぐにママが戻ってきて、いつもの酒を作り始めた。
「どうしてたの?元気だった?」
そうは言いつつ、こちらを気遣ってくれる。ママのこういう所は美徳だ。
元気、ではなかったな。でも、大分元気にはなって来たと思う。
あの時のことは、かさぶたくらいにはなって来た。
いい加減忘れたくて、この店に来た。
「うん、ぼちぼちね」
出された酒を煽ってタバコに火を点ける。大きく吸って、吐き出す。
ママがちょっと訝し気にこちらを見るもんだから、全部見透かされてるような気がして目を逸らした。
じっとりとこちらを睨みつけていたママが一言、口を開く。
「振られたんでしょ」
核心を突かれてかさぶたが少しだけ、べり、と剥がれた。
「そういうこと言う?上手くいってたから来なかったんだよ」
強がってそう言うとママは「はんっ」と息を吐いて、ニヤリと笑って俺を見た。
「あたしに隠し事はできないわよ?アンタは特に。上手くいってたから来なかった。でも振られたのが辛くて来なかった。それでちょっと元気になったから来た。そんなとこでしょ」
なんだこの人、エスパーなのか。
ずばり言い当てられて気恥ずかしさで苦笑いする。その通りだよ。
「じゃないとアンタこんな店1人で来ないでしょ」
ママはちょっと小首を傾げて苦笑いしながら「しょうがないわね」と言って、タバコに火を点けた。
「振られたんじゃなくて、飽きたから振ったんだよ。それで退屈になったから」
また強がってそう言うと、心が「違う、違う」と叫ぶもんだから、また少しかさぶたが剝がされて胸が痛んだ。
「そんな死にそうな顔しといてよく言うわよ。とっとといい男見繕って帰りなさいよ。それともあたしが慰めてあげようか?」
俺がいい男見繕えないの知ってるだろ。
いつものからかうのとは違うママのちょっと獰猛な視線に狼狽えつつ、振り返って店内を見回す。
そう言えば店内のメンバーも随分変わってるみたいだ。本当に、それだけ来てなかったらしい。
ぐるりと見回してから最後にカウンターを眺めると、すっきりとした体格の穏やかな顔をした男と目が合った。
男はニコリと笑って手を振るみたいにグラスを振って見せる。
「…ほら、呼ばれてるわよ。行っときなさいよ。行かないならその泣きそうな顔違う意味で泣かすわよ?」
ママに脅されるまま、ニコリと笑い返すと男の方から隣に移動してきた。
近づいた肩からほんのり体温が伝わってきて、どうしようもなく人肌が恋しくなる。
「ごめんね、急に。あんまりにもタイプだったから」
耳元に響いた低い声に、ぞく、と首筋が震えた。
主税はもうちょっと高い声だったな。でも、俺を見つめて喋る時だけちょっと低くなるんだよ。
そうやってまたアイツのことを考えてしまって、これ以上考えてたら多分泣く、と思って、何も考えずに男のあからさまな誘いに乗ることにした。
10
あなたにおすすめの小説
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。
■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる