【本編完結】ブーゲンビリアの花束を

戌依 寝子 (旧いろあす)

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ピンクのカスミソウの花

55.クレオメ

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「だるい」
 同僚に向かって声に出すと同僚は「ははは」と笑ってたしなめるように俺の背中をとんとん叩いた。
「お前、主役の一人だろ。営業担当。そんな顔してたらクライアントの印象最悪だぞ」
 分かってる。会場に着いたら切り替えるからもう少しダラダラさせてくれ。
 今日はT社が主催するシステムの完成記念兼忘年会的なパーティーだ。開発したうちのメンバーも当然呼ばれている。
 俺からするとおもっくそ無賃労働だ。定時後に。
 何が楽しくて仕事終わった後に愛想笑いしながら取引先にぺこぺこしないといけないんだ。
 アンタら、金出す。うち、作る。アンタら、問い合わせる。うち、答える。
 対等な立場のはずだろ。
 なんでこっちが「ありがとうございますぅ~」ってへつらわないといけないわけ?
 そうやって考えてるとますます苛立ちが募ってきて、腹が立ったから同僚の脇腹を殴った。
「いたっ、おま、ホントやめろよ」
 同僚の苦笑いが返ってくる。
 腰をくにゃんと折って態勢を崩した同僚にちょっと気分がすっきりして、俺は外面をセットした。

 受付を済ませて会場に入る。
 ドアを開いた先は結婚式場みたいな広々としたホールで、丸テーブルがいくつか置かれていて自分の名前の席に座るスタイル。
 部長の体格が強すぎてすぐに席は見つかった。
 俺たちは俺たちの会社のくくりで座るようになっていて、3つのテーブルを占領している。
 それ以外に、1.2.3…全部で15.6卓くらいかな?
 俺は素早くT社卓の配置を確認して上から順に挨拶するシミュレーションをした。
 あぁ、でも多分あそこは歓談になった途端に人が殺到するだろうなぁ。
 俺嫌いなんだよね。行列になって人と話すの待つの。相手だっていちいち顔なんて覚えてられないだろうし。
 できれば最後の方に行きたいな。「ご挨拶遅くなってすみません」っつって。
 その方が相手の印象に残る。はず。
 ここは、外部受注席から狙うべきだろう。
 うちと関係あるって言ったら、エンジニアアドバイザーとプログラミングアドバイザーが居たはずだ。
 そう言えば今回のアドバイザーは開発が絶賛してたから、そっちから攻めよう。
 そう決めた所で、会が始まった。

 長ったらしい挨拶やら会社の沿革とかを見せられて、さぁ歓談ですよって時間になってのんびり席を立つ。
 外部卓に最初に行く奴なんてほとんどいないだろ。
 と、思ってたんだけど、開発の連中が外部卓に殺到していた。嘘だろ。
 これはしまったと思ってT社のお偉いさんの方を見たらそっちはそっちでてんやわんやになっている。
「まいった」
 両者の列を見ると、お偉いさんの列がガンガン伸びてるのに対して外部卓の列は精々4.5人くらいなもん。というか、主にうちの開発が取り囲んでる状態だ。
 一人は、ちょい悪オヤジ風で慣れた風に名刺交換に応じてるのに対して、もう一人は困ったように笑いながら一人一人と丁寧に名刺交換をしている。
 その姿にドキッと胸がはねた。なに、あれ。めちゃくちゃ男前。ヤバ、どストライク。
 多分オーダーメイドの身体に添ったグレーの3ピースに、今日のことを意識してるんだろう、T社のイメージカラーの青いネッカチーフ。すっきりオールバックに纏められた髪。まずその出で立ちが最高。顔立ちはキツいけど物腰の柔らかさがそれを軽減させてる。そのちぐはぐさに目が離せない。
 え、あれどっちのアドバイザー?
 どっちにしろ、二人ともうちの案件にえらい力を入れてたみたいだからてっきり他に仕事もない冴えないおっさんをイメージしてたんだけど。何が何が。
 お偉いさんの方はまだ時間がかかりそうだし、俄然興味が沸いて、当初の予定通りこっちを優先させることにした。
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