フィクサーへファントムからの言伝を

ぽよクリット

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プロローグ 1

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サモナーそれは…世界を繋ぐもの。

 異世界から来た魔物の亡霊。亡魔《ファントム》を従え、亡魔によって自らのうちに秘める魔力を自在に引き出し、操る者のことである。

 2056年 宇髄和馬《うずいかずま》 著『異世界への扉と魔力の底からから来る者たち』より抜粋。

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 2100年 5月7日 砂倉市《さくらし》 奈々原《ななはら》町

 午後7時、学校の帰り道 女子高生、広沢《ひろさわ》凛《りん》は一人と家路についていた。

 彼女は高校2年になり、そろそろ進路を考え始める頃だった。

幸い平凡な女子高生である、彼女は生まれつき【魔力】という特別な力を持っているらしく、進路に至っては特別扱いと言えるほど、常人より優遇されていた。

 また、最近新たに可決された国の法案によって、3ヶ月前から月ごとに多額の補助金が支給されているため、進学に必要な費用も問題なく賄えていた。

 しかし彼女はそんな特別扱いされるほどの特別な魔力という力を宿しているものの、何の役にも立たないほど全くもって扱えていないため、周りと違うところなんて一つもなかった。

 通い慣れた塾の帰り道。

広沢凛は、ふと夜空を見上げた。
── そこにいたのは、『ワイバーン』だった。

四枚の黒い翼を広げた飛龍が、ネオンに照らされたビルの合間を縫うように飛んでいく。

(……綺麗……)

彼女は思わず息をのんだ。
数年前までは「幻想の産物」とされていた魔物たちが、今はこの世界で共に生きている。

 その中でも、ワイバーンは滅多に見られない希少種だった。

「いいなぁ……私もいつか、可愛くて強い亡魔を従えてみたいな」

凛は無意識に呟く。
── その瞬間だった。


 突如後ろから何者かにハンカチのようなもので鼻と口を覆われ、彼女の意識はそこで途絶えた。

 意識を失う寸前まで、凛の目に映ったのは、あの大空を飛ぶワイバーンが急にこちらに向かって急降下してきた姿だけだった。


 3時間後、広沢は目を覚ますとそこは見知らぬ薄暗い廃ビルの一室、彼女の目に写るのは、すぐ鼻の先にあるその壊れかけた壁だっただった。

 冷たいコンクリートの床で横向きに寝かされていて、両手両足は縛られて身動きが取れず、口は猿轡を噛まされて、声を出せず、ただじっとしているしかなかった。

 広沢は誘拐された恐怖と不安で頭がいっぱいになっているとその時、自身の背後に何やら気配と、そして何か生暖かい吐息を感じた。

「……んふっ……っふ……ン……」

「ひっ…!?」

 広沢は背後の気配に驚き、縛られた身体で懸命に振り返ると、驚くべき光景がそこにはあった。

 何とこの廃ビル一室には2人の自分と同じく高校生くらいの制服姿の男女が自身と同じように縛られ、床に寝かせられていたのだ。

 さらに驚いたことは、彼女らもまた自分と同じように口にタオルで猿ぐつわをされ、手足を縛り上げられていたことだった。

 自分の隣に寝ている少年少女も恐らく自分と同じ被害者だろう。

「お目覚めかい?お嬢さん?」

 背後から男の声が聞こえた。

 振り向くとそこには長身痩躯で顔立ちの良い、いかにもホスト風の男が立っていてこちらを見下ろしていた。

 その男は革ジャンやジーンズを着崩し、白いシャツの下には金色のネックレスが見える。 

 髪は短髪でくせ毛なのかあちこちに跳ねている。

 耳や腕など体のあちこちを銀色のアクセサリーで飾っており、チャラけた印象を受ける男だ。

 しかし、恐らく彼がこの誘拐事件を引き起こした張本人なのだと思うと、途端に恐ろしい男に見えた。

 男は不気味な笑みを浮べながら、コツコツと靴音をたてながら広沢凛へと近づいてくる。

 広沢は自分の置かれている状況を理解し、必死に体を揺すり暴れるが、縄は全く解けない。

 すると男は広沢の目の前で止まり
 彼女を見下ろし口を開いた。

「やぁ…。お嬢さん。僕の名前は白鷺和臣《しらさぎかずとみ》。早めに起きた君とは、もしかしたら短くない、付き合いになりそうだから…。一応お見知り置きを…。」

 白鷺和臣その風貌に似合わず丁寧な口調だ。

 だがこの男の正体は、状況から考え紛れもなく広沢凛やほか数名の誘拐犯であり、その証拠に今現在こうして誘拐してしまったのだ。

「……ッ!?ンー!ンッー!」
 広沢凛はなんとか助けを呼ぼうとするが、猿ぐつわを噛まされているせいで声すらまともに出せない。

 それを見た和臣はハッとしたような顔をして口を開いた。

「あぁ…すまない。僕としたことが……無礼にも、言葉を封じた者に一方的に話を始めてしまった」

 そう言うと和臣は指を鳴す。すると突如として、広沢の口を塞ぐようにしていた猿轡から、バチバチと不可解な音がし始め、次の瞬間、黄金に輝く炎の帯が広沢の口から溢れ出てきた。 

「熱ッッ!?」 

 広沢は思わず悲鳴を上げたがそれも無理はない。なぜなら突然口からまるで炎が溢れてきたのだから。

「あ゛ぁあああっ!!熱いぃぃ!!」

 あまりの熱さに悶絶するが、すぐに痛みは引いていき、次第に呼吸も楽になっていった。

「ハァッ……ハァッ……え?」

 不思議なことに、広沢自身もなぜこんなに痛い思いをして、何故こんなにも早く治っていくのか分からなかった。

 和臣の方を見るとニヤリと笑いこちらを見ていた。
 どうやら彼が何かをしたようだ。

「僕の魔力だよ…。知っての通り魔力とは宿る人それぞれで、同一のものはなく、全く違う固有の性質を持ち、通常この世に存在するどのエネルギーや物質とも違う、異質なものだ。

 ただ僕の魔力は稀有《けう》で、色は不自然なゴールドだけど、その他の見た目や、性質は一部、自然界に普通に存在する、炎と酷似した性質を持っていて、基本は4000度と高温だし僕の意思次第で……。」

 和臣は言葉を一度中断し、もう一度指を鳴らすと今度は、広沢の手足を拘束していた縄だけが綺麗に燃え去り、広沢の体から離れた。

「この様にモノをピンポイントで燃やすなんてことも出来る…。でも完全に正確には出来ない…。少し熱かったかな?」

   和臣の話を聞いて、広沢凛は少し落ち着きを取り戻し、ゆっくりと話し出した。

「これは貴方の魔力…?魔術が使えるってことは…。じゃあ貴方はサモナーなんですか……?」

 広沢は恐る恐る尋ねる。

 すると和臣は当たり前と言わんばかりに、短く「そうだよ」と答える。

 すると広沢の背後に先ほど、彼女を拘束していた縄や猿轡を焼き払った金色の炎、即ち顕現した白鷺和臣の魔力が激しく燃え上がり、その魔力は巨大な渦を形成した。

 そしてその渦の中から、コウモリのような形状の黒い巨大な2枚の羽が飛び出す。

「え?この魔物…。亡魔は?!」

 振り返った広沢は見覚えのあるその2枚の大きな黒い羽を見るなり驚きのあまり声を上げる。

「ひっ……!これってさっきの……!」

 そう。燃え上がる魔力の中から現れたのは、広沢が気を失い攫われる前最後に見た。あのワイバーンだったのだ。

 広沢が見たその姿は、間近で見みると、より一層迫力があった。

 それに、自分が想像してたよりもずっと大きい。

 長い尾を持つその全長は、約7メートルはあるだろうか。

 鋭い牙や爪を持ち、全身は真っ黒な鱗に覆われており、その眼光はとても鋭く、威圧的で凶暴性と危険性が一目でわかる。

 だがそんな迫力のある恐ろし見た目をしたワイバーンは、主人である白鷺和臣の姿をみるや、パタパタと翼を畳み込み、彼に頭を擦り寄せ甘えていた。

「よしよし、いい子だね。」

 和臣はそう言いながら、ワイバーンの頭を優しく撫でる。

 ワイバーンは気持ちよさそうに目を細め、喉を鳴らしているように見える。

 その様子はまるで飼いならされたペットのように見えてしまい、しかしそれは、男とこの魔物の関係がサモナーと亡魔の関係であることの証明でもあった。

「貴方……一体誰なの?何が目的なの……?」

 広沢は目の前の異様な光景に理解が追いつかず困惑していた。

 自分はこれから何をされるのかという恐怖もあるが、同時に、この状況を受け入れ始めている自分がいることに驚いていた。

 そんなことを考えていると、和臣はニコリと笑いながら言った。

「あぁ…これから選別を始めるよ」

 和臣は笑顔でそう言い放ち、ワイバーンはそれを見て嬉しそうにクルルルっと小さく鳴いた。

「さぁまずは君からだ。おいタマ!彼女をこちらへ!」

 和臣はワイバーンに声を発して命令すると、ワイバーンはまるで人間のように大きく頷く反応を見せ、広沢の背後にひとっ飛びで移動した。

「ひっ!?な…なに?!」

 広沢は突然の出来事に驚くが、ワイバーンは意に返さず、彼女の背後から首元の制服の襟を器用に咥えて持ち上げ、そのままゆっくりと、白鷺和臣のいる方へ運び始める。

「ちょっ!?待って!下ろしてぇ!」

 広沢は必死に抵抗するものの、相手は大きな竜である以上、その力は尋常ではない。

 抵抗虚しくあっという間に、和臣の目の前まで運ばれた。

 だがそれで終わりではなく、ワイバーンは倒れ込む広沢を両足で跨いで逃げ場を塞ぎつつ、長い尻尾で両腕をしっかりと抑えつけた。

「嫌ぁぁ!何する気!?離してよぉ!」

 広沢は必死になって叫び声を上げるが、ワイバーンは聞く耳を持たないどころか気にも留めていない様子だ。

 それどころかワイバーンは逃げられない広沢の顔の前に、その恐ろしい顔をどんどん近づけていく。

「ひぃっ!いやっ!!来ないでぇ!!!食べないで!!」

 食べられると思った広沢は泣きながら命乞いをし、それでも状況は変わらないとすぐに悟ると、目をギュッと瞑り逃れようのない死を覚悟した。
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