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何も知らないこの街で その4
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六道は2限目の授業の準備を済ませた後、皆と同じようにように廊下へ出る前、篠原から受け取った洗濯物の入った袋の中身をみることにした。
そこには、篠原に洗濯を頼んだ衣類が数着、綺麗に畳まれて入っており、その内の一着は昨日六道が着用していた物だった。
「愛莉……本当にありがとう」
六道はその袋に優しく手を添えると、その服の間に何かが入っている感触を右手から感じ、それがなんなのか、中身を確認した。
それは、馬の封蝋で閉じられた手紙だった。
「これは……」
六道はその手紙を見て、まず封を開けるのではなく、裏をめくったりして宛名を探した。自分に宛てたものとも、思えるが自分以外との不要な接触を極端に嫌う篠原から受け取ったものであれば、もしかすると彼女が自分を通じて、間接的に他の誰かに伝えたい意味を持つのかも知れない。そう直感で六道は考え行動に移したのだ。
そして宛名を見た瞬間六道の眉がピクリと動く。
彼の想定は予想の斜め上で、しかし確かに自分に宛てたものでなく、自分を通じて誰かに宛てたものと言うことは当たっていたからだ。
「………これは」
「おい!彩国くん何してる?!鍵閉めたいんだけど!」
六道が手紙の裏に小さく書かれた宛名のメッセージを見て、眉を潜めたとき、教室の扉から、六道を急かす声がかかる。
振り向くとそこには、少し赤みがかった、若干茶色っぽい髪をおさげにしている小柄な女の子が、左手に握られた教室のカードキーを六道に見せつけるように振りながら、立っていた。
彼女こそが六道たちのクラス3年1組の委員長『秋月あかり』である。
「あぁ…委員長…ごめん」
六道は手に持っていた、手紙を、制服のポケットに隠すようにしまうと、慌てて彼女のいる扉の方へ向かった。
「全く!後十分位で行かないと…みんなもう行っちゃったよ…」
「あぁ…大事な集会って話だが…自由席なのか?」
「ええ…早く行かないと……好きな席…君のせいで私の席までなくなっちゃうじゃん…なくなっちゃうじゃん」
「すまんて…」
六道と委員長は廊下を早歩きで進みながら会話をした。
目的地でもある第一体育館に近づいた頃、六道はこの大規模な校内の棟と棟を繫ぐ、廊下の窓から空を覗き眉を潜めた。
「暗すぎるな…今日、予報では雨だったか?朝は晴れていたのに…」
「そうね…もう最悪…折りたたみしか持ってないんだけど…」
窓から見える空は、まるで墨汁を溶かし込んだような分厚い雲が太陽を隠し、空には暗雲が立ち込めていた。
今まさに大雨が振らんとする、異様な空模様に二人はつい足を止めて、窓から空を見あげたが、直ぐに秋月は、ハッと我に帰ったようで六道の手を引いて、足を速めた
「そんなにことより!ほら遅れちゃうよ」
「あぁ…やべぇな…あと7分」
六道は秋月に手を引かれるまま、後に続き、二人は直に第一体育館のシックな高級感あふれるデザインの大扉に辿り着つく。するといつもはいないはずのピッシリと引き締まったスーツに身を包んだ大男二人が、扉の両脇に直立し佇んでいた。
「すみません…ええっと…警備員さんでいいのかな?普段はいないのに…あの…僕たちまだ遅刻じゃ無いですよね?」
そんな警備員に六道は、少し不安になりつつも、質問した。
「はい……私たちは臨時で雇われた警備員です…まだ5分程度、時間はありますよ…
」
「そう……ですか……ならよかった……では遅れそうなので、先を通らせて頂きます。委員長着いたぞ!」
六道が一足先に扉に手をかけた時、秋月が慌てる様に右腕を引っ張る。
「まって彩国君!」
「ん?」
秋月は六道の腕を引っ張ったまま、自分の方へ振り向かせる。 そして六道の首もとに手を伸ばしネクタイの結び目に触れた。
「うわ!めっちゃ高そう…。どこのブランド?」
「あぁ…『FRAGRANCE』の特注品。……ズレてた?」
「うん…。もう…遅刻しそうで走ってきたでしょ?せっかく良いネクタイなのに…」
秋月は頬を膨らませ、器用にネクタイの結び目を整えた。
「センキュー委員長」
「篠原さんは…してくれないの?こういう事」
「そりゃ…ぶっきらぼうだし」
六道は笑いながら答え、第一体育館の扉を開けた。
そこに広がっていた室内の光景は、とても『体育館』と呼べるようなものではなかった。
まず目に入るのは部屋の奥に設置された大きなスクリーンでそのすぐ手前にはショーをやるような、ステージが広がっており、眩しい照明が当てられている。ステージの手前は暗く一面、赤いカーペットがひかれており、その左右に、無数の赤いリクライニングチェアーが綺麗に並べられており、そこには六道たちと同じ中等部の生徒がもう皆、着席していた。
その内装はとても体育館と名が着き、その役割を担えるような場所ではない。むしろ劇場と呼ぶべきような場所である。
事実、この第一体育館は別名旧体育館とも呼ばれており、この場所が体育館として使われていたのは改築前の、今から約20年程前の話でそれ以降は校舎裏のスタジアムがその役割を引き継いでいる。
現在、この場所の役割は、その光景の通り、主に演劇部が練習として、または文化祭などのイベントにおいて演劇発表の場所として、使われていたり、今日のような全校集会などの、学校行事に使用されている。
またあらかじめ予約を取れれば誰でも貸し切れるため、映画鑑賞会など、利用されていたりするため、一般の生徒にも非常に馴染み深い建物でもある。
「彩国くん…見て!」
六道は座れる場所がないか、辺りを見渡すと秋月は彼の肩をチョンチョンとつつき、千に届くほど数ある席の列の、ちょうど真ん中辺りを指さす。
「ん?あいつら…」
六道が指された方を目を凝らして見ると、そこには、身海と篠原が、座っている。
二人は隣同士で座っているわけではなくその間に一席、身海のブレザーが、かけらて降り誰も座っては居ない。
つまり二人は遅れてくる六道の為に、わざわざ席を空けているのだ。
「よかったじゃん…彩国くん」
「あぁ…持つべきものは友達だな…じゃあ…委員長」
六道は手を軽く振り、秋月と別れるとそのまま二人の元へ向かった。
「彩国…」
「よう」
「あっ…彩国くん!」
六道が席に座る二人の背後から近づくと、声をかける前に先に篠原が六道に気付く、身海は手に握っていたスマートフォンで何やら動画を見ていたようで、六道が来たことに気づかず遅れて反応する。
「待たせて悪かったな!席空けといてくれるなんて気が利くじゃねぇか…センキューな二人共」
「何してたの?六道くん」
「なに…ただ…準備に手間取って…おい飲み物まで用意してくれたのか
!」
六道は、身海と篠原の間に開けられた、その一つの席から、篠原が自身の上着を退かしたのヲ確認して腰を下ろした。
腰を下ろしたそのリクライニングチェアーの肘掛けのホルダーには、売店で購入できる、六道の好物でもある特製のドリンク『ライブレ・パーク』が、予めセットされて、恐らくそれが、細かい気配りができる身海が用意してくれていたものだと六道は理解した。
六道がもう一度、お礼を言おうと身海の方を見る。
すると身海が先程から夢中になって見ている、動画が再生されているスマートフォンには、イヤホンなどの類が付いておらずそれ故にスマートフォンから流れる動画の音が全て漏れており、その内容が嫌でも六道の耳に入ってくる。
『…確かに現代では、インフラや医療機関、果ては魔力を動力とした最新の技術が目まぐるしく進歩を見せています。 しかしながら貴方が今手元に持ってこの動画を視聴しているパソコン、スマートフォンなどといった電子機器は、実際のところ約70年前から、現代と変わらず、それどころか以前からこの世に存在する電化製品なのです…。めまぐるしい発展を遂げているのは一部だけで、それ以外はまるで何かを大きな存在が意図して抑制しているかのように文化レベルまで…』
「なぁ…身海…なに聞いてるんだ?」
「あ…これ…?わっ!イヤホン忘れてた!音聞こえてた?」
身海は六道からの質問に慌てふためき、イヤホンを取り戻そうと、椅子の上に載っている鞄に手を置き慌てて手を動かして、イヤホンを探しながら六道の問に応えるべく口を開く。
「この人ね……『Mr.S』って人で、主に都市伝説とか、陰謀論の類を解説してる動画投稿者なんだ!」
「お前……そういうの好きだよな…なんだ?全然、再生回数回ってないし、フォロワー数も少ないな……人気ないのか?」
六道は見海が握るスマホの画面を覗き見る。そこ画面には、動画投稿サイトの画面が表示されており、その画面の右上には『Mr.S』と言う名前と彼のチャンネル名らしき文字が書かれていた。
「まぁ…この人、つい最近になって、よく動画をアップするようになってさ。まだ認知されてなくて、人気がないのは仕方ないけど……。
でもこの人、今まで、4本の動画を投稿してきたんだけど、それが全部ね…『外国という存在は既に滅んでいる…』とか、『本当の世界には空に水がある…』とか、そんなぶっ飛んだ内容なんだけど…何故か何となく本当っぽく聞こえるんだよ……。だから僕は、この人のファンなんだ! それにこの動画の最後に『Mr.S』がいつも言ってる言葉があるんだけど、それがまた良いんだ!」
「へ…へぇ…」
興奮気味に話す身海に、六道は若干引きながら相槌をうつ。すると、六道の隣で黙ってジュースを夢中で飲んでいた篠原が、ステージに誰かが上がったのに気付いて、六道の腕を軽く、肘でつつく。
「彩国…伏文…時間みたい」
「え?ホントだ…警察か?あの格好」
「まさか…やっぱりあの桜庭さんの言ってた…事が」
「誰?」
見海は、今朝出会った少女が言っていた事を思い出す。
事情を知らない篠原は、見海の呟いた言葉に首を傾げる。
まだガヤガヤと生徒たちの話し声でざわついているが、六道と篠原が入り口を見るとちょうど教員たちの先頭に立つ生徒指導課の担任が入場し、続いてその後ろから、青っぽい制服を着た警察官の男が二人入ってきた。
一人は身長180センチほどあり、体格ががっしりとしていて制服の上からも分かる筋骨隆々の腕をしており、もう一人は背丈が170くらいで小柄で腕は細く、見るからに力仕事が得意そうではない、という印象を受ける警官だった。
そしてその2人を教頭が、壇上へ案内する。彼の江島 康人えじま やすひとといい、年齢は40代前半ほどで、髪は短く白髪混じりの短髪、常にニコニコと笑っているイメージがあり、実際いつも笑顔を絶やさない人物であった。
そしてもう一人は対照的に細身な体型をしており背も170センチ程度しかない、しかし、どこか不気味な雰囲気を醸し出している男であった。
二人は訓練の癖なのかまるで、幽霊のように、足音を一切立てず、気配や存在感も一切表さず、壇上に上がる。そのせいで六道達を覗く生徒たちは、大半が依然と楽しげな様子のままだ。
すると教頭は皆を静かにさせようと、マイクを持とうとしたが、近くに立っていた大男の警官の方が先に止めて、なんとホルスターから拳銃を取り出す。
そしてなんと、天井にその銃口を向けて発砲し、甲高い破裂音を鳴り響かせた。
それにより生徒たちは一斉に静まる。大男は一瞬にしてその場の空気を支配したのだ。
「うん…やっぱり銃を使うのが一番手っ取り早いな!」
大男は血の気が引いて静まりかえる生徒達を前に、口角を大きく上げて、不敵に笑いマイクに声を通す
「どうも!私は、国家権力機関警察庁特異事象対策部第1課の『葉隠総司』と言います。皆の命の安全を預かりに来た…。よろしくね!」
「随分と…キャラの濃い奴が出てきたな……」
六道は突然現れ爽やかな笑顔を浮かべる警察官の男に呆気にとられながらも、少し苦笑いして隣に座る、篠原を見る。
すると、篠原も同じ気持ちだったのか、六道の方を向き、無言で頷いた。
そこには、篠原に洗濯を頼んだ衣類が数着、綺麗に畳まれて入っており、その内の一着は昨日六道が着用していた物だった。
「愛莉……本当にありがとう」
六道はその袋に優しく手を添えると、その服の間に何かが入っている感触を右手から感じ、それがなんなのか、中身を確認した。
それは、馬の封蝋で閉じられた手紙だった。
「これは……」
六道はその手紙を見て、まず封を開けるのではなく、裏をめくったりして宛名を探した。自分に宛てたものとも、思えるが自分以外との不要な接触を極端に嫌う篠原から受け取ったものであれば、もしかすると彼女が自分を通じて、間接的に他の誰かに伝えたい意味を持つのかも知れない。そう直感で六道は考え行動に移したのだ。
そして宛名を見た瞬間六道の眉がピクリと動く。
彼の想定は予想の斜め上で、しかし確かに自分に宛てたものでなく、自分を通じて誰かに宛てたものと言うことは当たっていたからだ。
「………これは」
「おい!彩国くん何してる?!鍵閉めたいんだけど!」
六道が手紙の裏に小さく書かれた宛名のメッセージを見て、眉を潜めたとき、教室の扉から、六道を急かす声がかかる。
振り向くとそこには、少し赤みがかった、若干茶色っぽい髪をおさげにしている小柄な女の子が、左手に握られた教室のカードキーを六道に見せつけるように振りながら、立っていた。
彼女こそが六道たちのクラス3年1組の委員長『秋月あかり』である。
「あぁ…委員長…ごめん」
六道は手に持っていた、手紙を、制服のポケットに隠すようにしまうと、慌てて彼女のいる扉の方へ向かった。
「全く!後十分位で行かないと…みんなもう行っちゃったよ…」
「あぁ…大事な集会って話だが…自由席なのか?」
「ええ…早く行かないと……好きな席…君のせいで私の席までなくなっちゃうじゃん…なくなっちゃうじゃん」
「すまんて…」
六道と委員長は廊下を早歩きで進みながら会話をした。
目的地でもある第一体育館に近づいた頃、六道はこの大規模な校内の棟と棟を繫ぐ、廊下の窓から空を覗き眉を潜めた。
「暗すぎるな…今日、予報では雨だったか?朝は晴れていたのに…」
「そうね…もう最悪…折りたたみしか持ってないんだけど…」
窓から見える空は、まるで墨汁を溶かし込んだような分厚い雲が太陽を隠し、空には暗雲が立ち込めていた。
今まさに大雨が振らんとする、異様な空模様に二人はつい足を止めて、窓から空を見あげたが、直ぐに秋月は、ハッと我に帰ったようで六道の手を引いて、足を速めた
「そんなにことより!ほら遅れちゃうよ」
「あぁ…やべぇな…あと7分」
六道は秋月に手を引かれるまま、後に続き、二人は直に第一体育館のシックな高級感あふれるデザインの大扉に辿り着つく。するといつもはいないはずのピッシリと引き締まったスーツに身を包んだ大男二人が、扉の両脇に直立し佇んでいた。
「すみません…ええっと…警備員さんでいいのかな?普段はいないのに…あの…僕たちまだ遅刻じゃ無いですよね?」
そんな警備員に六道は、少し不安になりつつも、質問した。
「はい……私たちは臨時で雇われた警備員です…まだ5分程度、時間はありますよ…
」
「そう……ですか……ならよかった……では遅れそうなので、先を通らせて頂きます。委員長着いたぞ!」
六道が一足先に扉に手をかけた時、秋月が慌てる様に右腕を引っ張る。
「まって彩国君!」
「ん?」
秋月は六道の腕を引っ張ったまま、自分の方へ振り向かせる。 そして六道の首もとに手を伸ばしネクタイの結び目に触れた。
「うわ!めっちゃ高そう…。どこのブランド?」
「あぁ…『FRAGRANCE』の特注品。……ズレてた?」
「うん…。もう…遅刻しそうで走ってきたでしょ?せっかく良いネクタイなのに…」
秋月は頬を膨らませ、器用にネクタイの結び目を整えた。
「センキュー委員長」
「篠原さんは…してくれないの?こういう事」
「そりゃ…ぶっきらぼうだし」
六道は笑いながら答え、第一体育館の扉を開けた。
そこに広がっていた室内の光景は、とても『体育館』と呼べるようなものではなかった。
まず目に入るのは部屋の奥に設置された大きなスクリーンでそのすぐ手前にはショーをやるような、ステージが広がっており、眩しい照明が当てられている。ステージの手前は暗く一面、赤いカーペットがひかれており、その左右に、無数の赤いリクライニングチェアーが綺麗に並べられており、そこには六道たちと同じ中等部の生徒がもう皆、着席していた。
その内装はとても体育館と名が着き、その役割を担えるような場所ではない。むしろ劇場と呼ぶべきような場所である。
事実、この第一体育館は別名旧体育館とも呼ばれており、この場所が体育館として使われていたのは改築前の、今から約20年程前の話でそれ以降は校舎裏のスタジアムがその役割を引き継いでいる。
現在、この場所の役割は、その光景の通り、主に演劇部が練習として、または文化祭などのイベントにおいて演劇発表の場所として、使われていたり、今日のような全校集会などの、学校行事に使用されている。
またあらかじめ予約を取れれば誰でも貸し切れるため、映画鑑賞会など、利用されていたりするため、一般の生徒にも非常に馴染み深い建物でもある。
「彩国くん…見て!」
六道は座れる場所がないか、辺りを見渡すと秋月は彼の肩をチョンチョンとつつき、千に届くほど数ある席の列の、ちょうど真ん中辺りを指さす。
「ん?あいつら…」
六道が指された方を目を凝らして見ると、そこには、身海と篠原が、座っている。
二人は隣同士で座っているわけではなくその間に一席、身海のブレザーが、かけらて降り誰も座っては居ない。
つまり二人は遅れてくる六道の為に、わざわざ席を空けているのだ。
「よかったじゃん…彩国くん」
「あぁ…持つべきものは友達だな…じゃあ…委員長」
六道は手を軽く振り、秋月と別れるとそのまま二人の元へ向かった。
「彩国…」
「よう」
「あっ…彩国くん!」
六道が席に座る二人の背後から近づくと、声をかける前に先に篠原が六道に気付く、身海は手に握っていたスマートフォンで何やら動画を見ていたようで、六道が来たことに気づかず遅れて反応する。
「待たせて悪かったな!席空けといてくれるなんて気が利くじゃねぇか…センキューな二人共」
「何してたの?六道くん」
「なに…ただ…準備に手間取って…おい飲み物まで用意してくれたのか
!」
六道は、身海と篠原の間に開けられた、その一つの席から、篠原が自身の上着を退かしたのヲ確認して腰を下ろした。
腰を下ろしたそのリクライニングチェアーの肘掛けのホルダーには、売店で購入できる、六道の好物でもある特製のドリンク『ライブレ・パーク』が、予めセットされて、恐らくそれが、細かい気配りができる身海が用意してくれていたものだと六道は理解した。
六道がもう一度、お礼を言おうと身海の方を見る。
すると身海が先程から夢中になって見ている、動画が再生されているスマートフォンには、イヤホンなどの類が付いておらずそれ故にスマートフォンから流れる動画の音が全て漏れており、その内容が嫌でも六道の耳に入ってくる。
『…確かに現代では、インフラや医療機関、果ては魔力を動力とした最新の技術が目まぐるしく進歩を見せています。 しかしながら貴方が今手元に持ってこの動画を視聴しているパソコン、スマートフォンなどといった電子機器は、実際のところ約70年前から、現代と変わらず、それどころか以前からこの世に存在する電化製品なのです…。めまぐるしい発展を遂げているのは一部だけで、それ以外はまるで何かを大きな存在が意図して抑制しているかのように文化レベルまで…』
「なぁ…身海…なに聞いてるんだ?」
「あ…これ…?わっ!イヤホン忘れてた!音聞こえてた?」
身海は六道からの質問に慌てふためき、イヤホンを取り戻そうと、椅子の上に載っている鞄に手を置き慌てて手を動かして、イヤホンを探しながら六道の問に応えるべく口を開く。
「この人ね……『Mr.S』って人で、主に都市伝説とか、陰謀論の類を解説してる動画投稿者なんだ!」
「お前……そういうの好きだよな…なんだ?全然、再生回数回ってないし、フォロワー数も少ないな……人気ないのか?」
六道は見海が握るスマホの画面を覗き見る。そこ画面には、動画投稿サイトの画面が表示されており、その画面の右上には『Mr.S』と言う名前と彼のチャンネル名らしき文字が書かれていた。
「まぁ…この人、つい最近になって、よく動画をアップするようになってさ。まだ認知されてなくて、人気がないのは仕方ないけど……。
でもこの人、今まで、4本の動画を投稿してきたんだけど、それが全部ね…『外国という存在は既に滅んでいる…』とか、『本当の世界には空に水がある…』とか、そんなぶっ飛んだ内容なんだけど…何故か何となく本当っぽく聞こえるんだよ……。だから僕は、この人のファンなんだ! それにこの動画の最後に『Mr.S』がいつも言ってる言葉があるんだけど、それがまた良いんだ!」
「へ…へぇ…」
興奮気味に話す身海に、六道は若干引きながら相槌をうつ。すると、六道の隣で黙ってジュースを夢中で飲んでいた篠原が、ステージに誰かが上がったのに気付いて、六道の腕を軽く、肘でつつく。
「彩国…伏文…時間みたい」
「え?ホントだ…警察か?あの格好」
「まさか…やっぱりあの桜庭さんの言ってた…事が」
「誰?」
見海は、今朝出会った少女が言っていた事を思い出す。
事情を知らない篠原は、見海の呟いた言葉に首を傾げる。
まだガヤガヤと生徒たちの話し声でざわついているが、六道と篠原が入り口を見るとちょうど教員たちの先頭に立つ生徒指導課の担任が入場し、続いてその後ろから、青っぽい制服を着た警察官の男が二人入ってきた。
一人は身長180センチほどあり、体格ががっしりとしていて制服の上からも分かる筋骨隆々の腕をしており、もう一人は背丈が170くらいで小柄で腕は細く、見るからに力仕事が得意そうではない、という印象を受ける警官だった。
そしてその2人を教頭が、壇上へ案内する。彼の江島 康人えじま やすひとといい、年齢は40代前半ほどで、髪は短く白髪混じりの短髪、常にニコニコと笑っているイメージがあり、実際いつも笑顔を絶やさない人物であった。
そしてもう一人は対照的に細身な体型をしており背も170センチ程度しかない、しかし、どこか不気味な雰囲気を醸し出している男であった。
二人は訓練の癖なのかまるで、幽霊のように、足音を一切立てず、気配や存在感も一切表さず、壇上に上がる。そのせいで六道達を覗く生徒たちは、大半が依然と楽しげな様子のままだ。
すると教頭は皆を静かにさせようと、マイクを持とうとしたが、近くに立っていた大男の警官の方が先に止めて、なんとホルスターから拳銃を取り出す。
そしてなんと、天井にその銃口を向けて発砲し、甲高い破裂音を鳴り響かせた。
それにより生徒たちは一斉に静まる。大男は一瞬にしてその場の空気を支配したのだ。
「うん…やっぱり銃を使うのが一番手っ取り早いな!」
大男は血の気が引いて静まりかえる生徒達を前に、口角を大きく上げて、不敵に笑いマイクに声を通す
「どうも!私は、国家権力機関警察庁特異事象対策部第1課の『葉隠総司』と言います。皆の命の安全を預かりに来た…。よろしくね!」
「随分と…キャラの濃い奴が出てきたな……」
六道は突然現れ爽やかな笑顔を浮かべる警察官の男に呆気にとられながらも、少し苦笑いして隣に座る、篠原を見る。
すると、篠原も同じ気持ちだったのか、六道の方を向き、無言で頷いた。
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