フィクサーへファントムからの言伝を

ぽよクリット

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何も知らないこの街で その3

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彼女の服装は、当然だが、広沢と出会い、白鷺と激戦を繰り広げた三日前の職業上の制服のとは違い、六道や見海が通う学園の高等部が着る制服を着ていたものの、漆黒の黒コートは変わらず制服の上から羽織っていた。

 「ごめんね…。呼び止めちゃって…。私は桜庭玲奈…。今日から君たちの通う学校の高等部に転入するものよ…」

「へぇ…。中等部の六道彩国です。道にでも迷いましたか?」


「あっ…同じく見海伏文です。」

 桜庭玲奈の丁寧な口調に対して六道もややフランクだが最低限の礼儀は守る。 見海も六道に遅れて自己紹介をする。

「いいえ……そうじゃなくて……いくつか聞きたいことが…」

 「失礼ですが出来れば手短に…。お互い遅刻しますよ…」

 六道はぶっきらぼうに言いながら、腕時計を確認する。時刻は8時30分を指している。

「そうですね……ごめんなさい……。では単刀直入に聞きます。この街で最近、怪しい人見かけませんでしたか?もしくは危ない話とか…。噂でも、怪談でも何でも構いません」

「怪しい人…。危ない話ね…」

「この平和な街でですか?……心当たりはありませんね」

「僕も特に何も知りません」

六道は素っ気なく答える。
一方、見海の方は申し訳なさそうに首を振った。 
するとほんの少しだけ柔らかかった表情だった桜庭の目つきが一瞬鋭く光った。

「そうですか…。なら…気をつけてください…ここだけの話…。私の父は警察関係者でして、近頃この街に不可解な死亡事件が密かに起きていると…。噂ではどうやらあのフィクサーが関係しているみた…」

「フィクサーがこの街にいるの!?」
「見海!」

六道は大声で叫ぶ見海の肩を軽く叩いて諌めた。

 「ん…ええ…そうなの…学校からもすぐに皆さんに知らせと強い注意喚起や指導が入るとは思いますが…。とにかく気をつけて…。それと怪しい人を見かけたら…直ぐにこの番号にお願いします」

 桜庭は胸ポケットから名刺を取り出し六道に手渡した。

「ありがとうございます。それじゃあ僕たちはここで失礼しますね」
「失礼します。さようなら~」

二人は足早にその場を去ろうとするが、桜庭はそれを許さないとばかりに声をかける。

「待って……。本当に危険なの…!もし見つけたらすぐに連絡してください。あと、絶対に深入りしないで。お願い!」

「わかりました。忠告感謝します」
「ありがとうございました。気をつけます」

六道は雑に頭を下げ、見海は律儀に頭を下げた。

「それじゃ……あんたも急がないと…」

「…いえ…大丈夫です…お気を付けて」

「?そうか…じゃあな」

六道と見海は再び歩き出す。桜庭はその背中を見送った後、狭い路地裏に入る。

 そして凄まじい跳躍力を発揮し、ひとっ飛びで青空の彼方へ消えていった。

桜庭と別れた後、しばらく無言のまま歩いていたが、途中で見海が口を開く。

「ねぇ……六道くん……。さっき言ってたフィクサーの話……。どう思う?」

「どう?ってさっき女の言う通りだろ?本当なら学校も大きく動く。各地区の警察も動いてんだろ。俺たち一般庶民にとってはどうでもいい話さ……お前が言うには奴は一般人に加害しない良いやつなんだろ?」

「もう~」

  見海の問いかけに対して六道は少し嫌味っぽく返す。

「それよりさ……。あのお姉さんすごく美人だったね…」 


 見海は先程の桜庭を思い出しながらしみじみと語る。

 彼の反応は当然だ。桜庭玲奈は頭の先から爪先、そして声に至るまで男女問わず魅力を感じる、美しさと可愛さ、可憐さを兼ね備えた容姿の持ち主だ。

 おまけに性格や礼儀も良いと来たら、惹かれない男性はいないと言えよう。それが例え、見海のような外見の人間であっても。

「そうだな。美人と会えて良かったたな…。どさくさに紛れて電話番号もゲットしたし……それに…」

 「それに?」

ふざけた口調で話してた、六道の顔が一瞬だけ真剣なものになったのを見て、見海は不思議そうに首を傾げた。

「いいや……何でもない」

六道は誤魔化す様に首を振る。

「あぁ!六道くん!遅刻しちゃうよ!」

見海は時計を見て焦り出す。時刻は8時45分を過ぎていた。

「やべぇ……。急げば間に合うかも!」

二人は走り出した。ここから校舎までは徒歩で5分程度かかる。このまま行けば授業開始までには余裕で間に合うはずだ。 

「うわ~ん…!僕にも亡魔がいれば~!」

「うだうだ言ってねぇで走れ!」


結局、なんとか二人は校門のすぐ近くまでたどり着いた。時刻は8時50分。

 9時10分が始業のチャイムなのでまだ二十分、遅刻まで時間の猶予があるのだが、教室までたどり着くとなると余裕とは言えない。

何故なら…。

「はぁ…はぁ…疲れた…やっと着いたよ」
「おい見海…止まるな!まだまだだぞ」

 複数の警備員が、両脇に立ち並ぶ、厳格な威圧感と、それでいて華やかな高級感を醸し出す巨大な漆黒の校門の手前まで来た二人を、余りにも巨大な影がすっぽりと包む。


その影の正体は、二人が校門前までたどり着いても未だ全貌を明かさぬ巨大な校舎、『国立花宇合同高等学校』の建物であった。

その大きさは学校と言うよりはどこかの巨大企業が作った施設を連想させるほどの大きさである。その為に二人のいるこの広い敷地の中には広すぎる広場や噴水にアーチ等が存在しており、来賓用入口まで存在するのだ。

 この『国立花宇合同高等学校』は国より総予算8億をつぎ込み、創立された学校である。その為、その施設は普通の公立学校と一線を画す程の規模を誇っていた。

校舎の外見は全体的に洋式造りの建物となっており、出入り口に白い煉瓦でできた校門があり正面入り口には大きな噴水がある。また建物自体も3階建てであり、各階には1年から3年までの教室が合計4つずつ存在する他、屋上も完備されている。

 そして最も特徴的なのは、付属するドーム型の巨大スタジアムと、全国で唯一無二の施設でもある『霊舎』という、学園に在籍する全生徒と教師の亡魔を収容する為の施設がある事である。

 この暮らす人は未成年を含めて、皆何故か、魔力を宿している。 それはこの街の住人全員がサモナー、或は将来的にサモナーになる素質を秘めている。 だからこそサモナーと契約した亡魔を収容できる巨大な施設は、この街、この学校に必要不可欠なものと言えた。

 そんな事もあって、これらの施設を含めた校舎の面積は、六万平方メートルとかなり広い。

 端から端まで道に反って、練り歩けば二十分など余裕で過ぎてしまうだろう。

 これが二人が校門をくぐって、尚も校舎の庭園内を急ぐ理由だ。早い話、残り10分で二人が通う中等部の棟に入り、それぞれの教室へたどり着けるのかはかなり怪しいのだ。

「はぁ……はぁ……六道くん!僕もう無理かも!」

「遅刻しちまうぞ」

見海は息を切らせながら、弱音を吐いた。

しかし一方、六道は涼しい顔でその中学生にしては長い脚でどんどんと前へ進んでいく。

二人が中等部の建物内に入るとをくぐると同時に、キーンコーンカーンコーン……とちょうど始業5分前をを告げる鐘が鳴る。

「危なかったね……」
「本当だな……コンタクトずれそう…。」

二人は息を整え、六道は目の中のコンタクトレンズのズレを直しながら自分たちの教室を目指すべく足を進めた。 

「じゃあ後でね六道くん…」
「あぁ……」

二人はクラスが違うため廊下で別れそれぞれの教室へ向かう。

六道は三年一組の教室に入り、席につく。

周りを見渡すとほとんどの生徒がすでに席についていた。
時計を見ると8時57分を指していた。
教師が来るまで残り五分しかないため、みんな急いでいるようだ。六道も例外ではない…。

「おいアヤ!お前またミルミンきゅんに振り回されてたのか?」

「あぁ……。毎度のことだがな……。寝坊王子の家臣は骨が折れる」
「いいじゃん!羨ましいぜ!あんな可愛い子に好かれるなんてよ!」


六道の隣の席に座る、金髪のチャラついた雰囲気の男の名前は、赤嶺涼馬あかみねりょうまだ。

六道と同じ三年生で、彼もまた六道と同じクラスに所属している。
彼は常に明るく誰にでも友好的に接するタイプの人間だ。
故に交友関係は幅広く、彼を慕う者も多い。

ただしイケメンに限るという言葉がある様に、赤嶺涼馬は整った顔つきをしているものの、決してモテる部類に入る訳ではない。
何故なら彼の軽い性格が原因だからだ。

「それにしても…お前の周り篠さんとかもそうだけど美人ばっかだよな……なんでミルミンは男の子なのにあんな美人なんだろうな?」

「さぁ…もしかしたら…神の召使いの末裔かも」

「なんだよそれ?」

「涼馬お前、知らないのか?最近の考古学の研究で異世界から飛来した、未知の神話が記されたあの、『異界文書』の解読が一部成功したんだ。それに寄ると、どうやら全てを創った創造神は小児性愛者で特に中性的な美しさを持つ美少年の人間を好んで、大勢生み出し、ヴァルグランツと名付けて自らの側近として置いていたらしい」

「んだよそれ!無茶苦茶だな」

 六道は赤嶺とくだらない会話を楽しんでいると、真ん前から異様に長くそしてやや細い足の人ももが迫ってきた…。

「さっき…呼ばれた気がした」

六道が顔をあげるとそこには、女性としては飛びぬけた高身長で、磨かれた結晶のような長い銀髪とエメラルド色の瞳が特徴的な無表情の美少女が篠原愛莉が佇んでいた。

「あぁ…篠さん…。これはこれはカップルで…俺は邪魔者だな」

「いや…幼馴染はカップルとは言わねえよ…それで愛莉?どうした?」

 六道はからかう赤嶺をあしらい、篠原に話しかける。

「昨日頼まれてた……洗濯物……」
「おぉそうだった!忘れてた!」

篠原は鞄の中から紙袋を取り出し机の上に置くと、そそくさと自分の席に戻る。

 それをみた赤嶺は、再びニヤニヤとしながら小声で六道に話しかけてくる。

「幼馴染じゃあ、誤魔化せないな…流石に」

 「何が?」

「とぼけんなよ…。昨日、篠原さんの仕事先は、井上さんの家だった。お前の家じゃなかったはずだ…。なのに…洗濯だと?対した特別サービスだな…」

 赤嶺はニヤニヤしながら六道に耳打ちし、続ける。

 「この街は閉鎖的で、皆が顔見知りだ。意図して隠そうとしているプライバシー以外は、互いに家庭事情まで共有されてる。なのに篠原さんは住所すら知られていない。おかしいと思わないか?」

「確かに」

ニヤニヤとした顔で聞いてくる赤嶺に対
すると赤嶺は身を乗り出し、六道に耳打ちで話しかける。

「お前ら…同棲してんのか?」

 赤嶺は六道に確信を突きつけるかの如く追求した。その表情は変わらず六道をからかう気満々のようだったのだが、次の瞬間、六道の口角が上がったかと思うと彼は思わぬ、致命的なカウンターを食らうことになる。

「…それを認めるわけには行かないな…。何故なら俺たちは中学生だ。それに校則もある。不純異性行為は認められないからな…」

「…ふじ……!!?」

 笑みを浮かべて、小声で返された六道の言葉に赤嶺は目を見開き驚愕の表情を見せる。 

 「お前ら……ヤっ…」  

「冗談だ」

赤嶺は余りの驚きっぷりに、椅子から転げ落ちそうになるも、六道が手を伸ばして、支えたため寸前の所で踏みとどまった。するとガラガラと扉が音を立てて開いた。

 入ってきたのは、二十代後半のいかにも苦労してそうな幸のうすそうな顔つきをしている小柄な眼鏡の女性だった。

名前は久住朱理くじゅうしゅりと言い、クラスの担任を務めている。

「おはよう皆!ホームルームを始めるけど今日はこの後すぐ…ん?」

久住は手に持っていた書類を、教壇に置くと元気よく挨拶し、この後の話しを口にしようとしたがそんな時、顔を真っ赤にし様子のおかしい赤嶺を見つけた。

「赤嶺くん…どうしたの…?体調が悪いなら…」

「いえ!!先生!い…いや…何でも…本当に何でもありませんから!」

赤嶺は慌てて取り繕うように答えた。
「そう……?それならいいけど……。調子が悪くなったら直ぐに担当教員と相談して保健室に言ってね…。」

久住先生は首を傾げながらもそれ以上は追及しなかった。

「それじゃあ、さっきの話しの続きをするわ。

 いきなりで皆には悪いんだけど、実は今日の一限目の授業は中止になりました。理由は緊急の全校集会を開くから。しかも今回はただの全校集会ではありません。大事な話があるそうよ。もう後15分くらいしたら始まるみたいだから全員遅れないように第一体育館に集合するように。分かったわね?」

「はーい」
「はい」
生徒達は返事すると次々と席を立ち体育館へ移動し始める。

「赤嶺、ありがとな!チクらないでくれて…誰にも言うなよ?」

六道は未だに顔を赤くして俯いている赤嶺に声を掛ける。

「大丈夫……。問題ない……。ただ……一つだけ言わせてくれ……」
「何だ?」

「末永く爆発しろ!!!」
「おわっ!?」

赤嶺はそれだけ言うと、全速力で走り去って行ってしまった。

 その背中を六道は悪戯っぽく笑って見送り、自身も2限目の授業で使う教科書の準備を終わらせると低い声で呟いた。

「恩に着るぜ…赤嶺…ハハハ」
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