『禍福の迷宮』

墨虫(仮)

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 ―1―

 目を覚ましたらそこはトイレだった。

 前日の記憶を辿ってみるも途切れているため何故こんなところで寝ていたのか分からない。しかも自宅ではなく、どこかの施設に備えられたパブリックなトイレだ。

 僕はアルコールは飲まない。いやそもそも外出すら稀だ。もしや夢遊病でも発症して不法侵入でもしたのかと恐る恐る外に出とそこには見覚えのある景色が広がっていた。
 
 中世っぽい集会場。天井は異様に高く、その原因となっている複数の石造りの巨大な門。そして活気で溢れる人混みの中に人間とは逸脱した存在がちらほら闊歩していた。
 
 誰もがこれは夢だと思う異様な光景。僕はすぐにこれが『禍福の迷宮』がゲーム開始時に訪れる施設だと理解できた。
 
 目の前のモニターに映るグラフィックよりも綺麗な現実。これは全て僕の頭の中にあった景色そのままだったからに他ならない。

(これが異世界召喚か)

 まるでラノベの主人公のような境遇に興奮する一方で何故数多のゲームが存在する中で『禍福の迷宮』なんだと神様のゲームチョイスに落胆する自分がいた。
 
 なぜなら『禍福の迷宮』はいわゆる死にゲー。プレイヤーキャラクターが死ぬことを前提にされた内容だ。しかもダークファンタジーな世界観のため死に様は結構グロい。落とし穴に落ちれば時々針で串刺しにされ死に。寄生モンスターの攻撃は宿主を腹から食い破る。死に方だけでも指折りでは数えることができないほどバリエーションは無駄に豊富。

 神様は僕に惨たらしく死んでほしいのかな?

 この選択は悪意があるのではと勘ぐってしまう。少なくとも愛されてはいないだろうとため息を吐くと僕は現在の所持品を確認した。

 着ている服は安っぽい部屋着。財布や売れそうな貴重品はなかったが何故かこの世界のお金らしき硬貨がポケットに入っていた。これはゲームスタート時に持っている所持金だろう。現実になっても適応されていてよかったと無一文ではないことに安堵するとまずはチュートリアル通りにカウンターへと向かい利用者登録へ向かってみることにした。

 受付は全部で三つあったが僕はその中でも一番好みの嬢に話しかけた。



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