『禍福の迷宮』

墨虫(仮)

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 ―02―

「すみません。もしよかったら僕達と一緒に潜りませんか?」

 声の主は子供だった。顔立ちや身なりから歳は高校生くらいに見える。茶色の短髪で腰に剣を携えた男子。後ろには同年の女子を三人取り巻きのように控えていた。四人は容姿端麗で現実なら間違いなくリア充と呼ばれる存在だろう。

 僕はソロが好きである。例えマルチプレイのゲームでも一人が良いためパーティ申請なんて来た際はすぐに拒否するのだが、聞き逃せない単語が含まれていたので足を止めて聞き返した。

「君達はを組んでダンジョンに行くの?」

「はい、そうです。後ろにいるメンバーと四人で探索してます」

「マジか……」

 聞き間違いではないことに僕は愕然とした。

(ルールが改変されてるかよ……)

 僕が作った『禍福の迷宮』は一人用だ。それを複数人で遊ぶとか火力過多だろ。バランス考えろ――、そもそも人のゲームを勝手に使うんじゃねぇ! こんなの著作権侵害だろ!!

 無断利用だけでなくデータ改造まで行う倫理観の欠片のない神の愚行に憤激するも僕はこの怒りをどうにか抑える。目の前のやつらが海賊版を遊ぶクソガキに見えても理性を保つ。ここはネットの海ではない、お互い対峙していて匿名性も皆無だ。煽って喧嘩になれば僕はなす術もなく敗北するだろう。
 
「誘ってもらえるのはありがたいけど僕は登録したばかりだから、今日は一階で様子見するだけにしておくよ」
 
「初心者でも大丈夫です。実は採取クエストを受注したのですが帰りの荷物が多くなりそうでちょっと人手が欲しいんですよ。戦闘に関しては僕達が全部相手をしますし、もちろん報酬もお支払いします」
 
 やんわりと断るも食い下がる少年の報酬という言葉に少し心が揺れ動く。もちろん報酬の額にもよるが荷物持ちで稼げるなら得だろう。それに採取目的なら依頼の片手間に何か便利あアイテムを見つけることが出来るかもしれない。
 
「何階層まで潜るの?」
 
「5階です。依頼内容はポーションの素材のキノコ集めで5階はモンスターが生息しない安全地帯なので簡単にできますよ。それに依頼主のスタンリック商会なので支払いも心配ないと思います。どうでしょうか?」
 
 丁寧に対応してくれる青年。態度や雰囲気から僕を陥れようという意思は感じない。だがこの依頼内容を聞いた瞬間、僕の中で承諾するという可能性は消え去った。
 
 五階層、これは地雷なのだ。
 
「やっぱり止めておくよ。悪いけど他をあたってくれ」

「わかりました。では次の機会にでもご一緒しましょう」

 僕がきっぱりと断ると意外にもすんなりと引いてくれた。善意を無下にした相手に少年は終始紳士的だったが、後ろの取り巻きは良い気がしなかったのだろう。明らかに不機嫌な様子に見えるし、内心では嘲笑っている気もする。被害妄想かもしれないが。

 ただ、ここで話したのも何かの縁だ。このまま自分より年下の子供を死地に送るのは心苦しいため一言だけ忠告しておく。

「五階層は気を付けた方がいい。なんせ五階層は環境変化階層だからね」

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