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◇距離感◇
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___ここ数年の物価高で部品代が高騰し、各コーナーの商品は大なり小なり価格への影響があった。
それはあの感染症が収まった今でさえも、当たり前のように続いている。
地方の店舗はここ数年続く不景気で、私達の店よりも更なる人員削減が進んでいるらしい。
取り扱いの中小企業だって、あの感染症以降、急に"倒産しました"なんて通達で知らせがきて、昔からお世話になっていたメーカーの倒産に、何だかやるせない気持ちになったり___
それでも、品揃えの良さが強みのこの店舗は、不景気といえど休日ともなれば店内は来店客で溢れかえるのだが。
昨日の暇だった土曜日の反動だろう、岸川店長の予想は見事に的中して、今日の日曜日の店内は朝一から来店客でごった返していた。
<ラジカセコーナーでお客様がお呼びです!>
<照明コーナーでお客様がお呼びです!>
<テレビコーナーの方、お客様からチラシに掲載されているテレビの在庫問い合わせの電話が入ってます!>
<斎藤さん!遠藤さん!レジは福原さんとパート、アルバイトに任せて売り場の接客に回って下さい!>
レジ係の正社員ですら、店長指示でコーナーの垣根を越えてフル稼働で動き回るも手が足りない状況に、私の眠気なんかはとっくに吹き飛んでいる。
そして、時刻はあっという間に11時30分。
「平岡~、甘味ちゃ~ん!少し早いけど、砂東フロア長から今のうちに1番に行くように言われたから僕と原田さんが先に行くからね~!」
接客の合間を縫って、配達商品の伝票確認をしていた私達に向かって手を振る松本さん。
「うっす!いってら!」
「うん!了解~!」
あまりに忙しすぎて、年長者の松本さんに対しても失礼すぎる私達。
それぐらい目まぐるしいのだ。
そして、また鳴り出すトランシーバーの呼びかけに、私達は方々の対応に散り。
その対応もひと段落し、また持ち場へと戻るその途中で砂東フロア長と出くわした私は、砂東フロア長の手に持っている伝票の量に思わず怯む。
「そんな顔すんなって。半分は直接配送先の倉庫から貰えるように既に引き当ててあるから、伝票の後処理だけ頼む」
砂東フロア長は軽くそう言うが、あの量が全部私の仕事になっていたと思ったら流石に発狂もんだった。
「じゃあ、引き当たってる分はチェックだけして配送日の棚に入れてたらいいんですね?」
「おう!あと半分は悪いけど頼めるか?指示は伝票に書き込んであるから」
渡された伝票の文字を見ると、忙しかったのは分かるけど、辛うじて読める範囲の殴り書きだ。
「ちゃんと読める字で書いてよね!この文字を読み解くだけでも難題でしょ?!」
「お前から貰ったこのペンさ、書きやす過ぎて指がスラスラ~と動くんだよな~。いや~、いいもん貰ったわ~。ありがとな!」
私から奪ったままのボールペンをわざわざ胸ポケットから取り出し見せつけてくる辺り、性根が悪いというか何というかこの性格の悪さをみんなが知らないのが本当に悔しい。
「借りパクしといて良い様に言わないでよね?!」
ボールペンを取り返そうと手を出した瞬間またまた鳴り出すトランシーバーでの接客要請の声。冷蔵庫と美顔器で別々のお客様が呼んでいるようだ。
「残念でした!これはもうみんなからは俺のもんで認知されてるからな。それじゃあ、俺が冷蔵庫に行くから甘味は美顔器な!伝票の処理も頼むぞ!」
「もぉー!!」
また方々に散る、伝票を小脇に抱えたままの私と身軽になったであろう砂東フロア長。
今を乗り越えれば、夜はどんなにか美味しいお酒が飲めるに違いない。
___それだけを夢みて頑張っていたのが13時過ぎだ。
「私達の休憩は何時ぐらいになるかな。めっちゃお腹が空きすぎて倒れそうなんだけど」
少しでも隙間時間が出来ると寝坊した代償は大きくて、広い売り場をあちらこちらに動き回れば更にお腹は空いてくる。
「多分、いつも通り14時すぎくらいっすかね。こんなに忙しいからフルには休憩取れないでしょうから、もしかしたら順番が回ってくるのは早いかもっすよ?」
やっと戻ってこられた自分の持ち場で平岡くんとそう話している間にも、 <レコーダーの所でお客様がお呼びです!>、 容赦なく耳元で鳴るトランシーバーには、すでにうんざりだ。
「黒物コーナーから返答がないっすね。甘味さんが行きます?」
「いや、なんでよ?!どーぞ平岡くん行ってきなよ。フフッ。なんせ230万だもんね。この調子なら狙える数字だよ!頑張って!」
親指をグッ!と立てれば、平岡くんは露骨に嫌そうな表情を私に返す。
「甘味さんの数字も乗っかってるんすよ?!他人事みたいに言わないで下さいよ~。甘味さんも出来る限り頑張って下さいね?!」
「もちろんそのつもりですよぉ?」
「嘘くさいなー!絶対ですよ?!」
「はい、はーい。とりあえずはレコーダーのお客様はよろしくね。白物は任せて」
先輩風をばっちり吹かせている私は、出来た後輩の平岡くんを見送る。
そして今日こそは定時で帰ってやろうと一人目論み、平岡くんに接客を押し付け、ここぞとばかりに砂東フロア長と自分の仕事をこっそり片付けていく。
それはあの感染症が収まった今でさえも、当たり前のように続いている。
地方の店舗はここ数年続く不景気で、私達の店よりも更なる人員削減が進んでいるらしい。
取り扱いの中小企業だって、あの感染症以降、急に"倒産しました"なんて通達で知らせがきて、昔からお世話になっていたメーカーの倒産に、何だかやるせない気持ちになったり___
それでも、品揃えの良さが強みのこの店舗は、不景気といえど休日ともなれば店内は来店客で溢れかえるのだが。
昨日の暇だった土曜日の反動だろう、岸川店長の予想は見事に的中して、今日の日曜日の店内は朝一から来店客でごった返していた。
<ラジカセコーナーでお客様がお呼びです!>
<照明コーナーでお客様がお呼びです!>
<テレビコーナーの方、お客様からチラシに掲載されているテレビの在庫問い合わせの電話が入ってます!>
<斎藤さん!遠藤さん!レジは福原さんとパート、アルバイトに任せて売り場の接客に回って下さい!>
レジ係の正社員ですら、店長指示でコーナーの垣根を越えてフル稼働で動き回るも手が足りない状況に、私の眠気なんかはとっくに吹き飛んでいる。
そして、時刻はあっという間に11時30分。
「平岡~、甘味ちゃ~ん!少し早いけど、砂東フロア長から今のうちに1番に行くように言われたから僕と原田さんが先に行くからね~!」
接客の合間を縫って、配達商品の伝票確認をしていた私達に向かって手を振る松本さん。
「うっす!いってら!」
「うん!了解~!」
あまりに忙しすぎて、年長者の松本さんに対しても失礼すぎる私達。
それぐらい目まぐるしいのだ。
そして、また鳴り出すトランシーバーの呼びかけに、私達は方々の対応に散り。
その対応もひと段落し、また持ち場へと戻るその途中で砂東フロア長と出くわした私は、砂東フロア長の手に持っている伝票の量に思わず怯む。
「そんな顔すんなって。半分は直接配送先の倉庫から貰えるように既に引き当ててあるから、伝票の後処理だけ頼む」
砂東フロア長は軽くそう言うが、あの量が全部私の仕事になっていたと思ったら流石に発狂もんだった。
「じゃあ、引き当たってる分はチェックだけして配送日の棚に入れてたらいいんですね?」
「おう!あと半分は悪いけど頼めるか?指示は伝票に書き込んであるから」
渡された伝票の文字を見ると、忙しかったのは分かるけど、辛うじて読める範囲の殴り書きだ。
「ちゃんと読める字で書いてよね!この文字を読み解くだけでも難題でしょ?!」
「お前から貰ったこのペンさ、書きやす過ぎて指がスラスラ~と動くんだよな~。いや~、いいもん貰ったわ~。ありがとな!」
私から奪ったままのボールペンをわざわざ胸ポケットから取り出し見せつけてくる辺り、性根が悪いというか何というかこの性格の悪さをみんなが知らないのが本当に悔しい。
「借りパクしといて良い様に言わないでよね?!」
ボールペンを取り返そうと手を出した瞬間またまた鳴り出すトランシーバーでの接客要請の声。冷蔵庫と美顔器で別々のお客様が呼んでいるようだ。
「残念でした!これはもうみんなからは俺のもんで認知されてるからな。それじゃあ、俺が冷蔵庫に行くから甘味は美顔器な!伝票の処理も頼むぞ!」
「もぉー!!」
また方々に散る、伝票を小脇に抱えたままの私と身軽になったであろう砂東フロア長。
今を乗り越えれば、夜はどんなにか美味しいお酒が飲めるに違いない。
___それだけを夢みて頑張っていたのが13時過ぎだ。
「私達の休憩は何時ぐらいになるかな。めっちゃお腹が空きすぎて倒れそうなんだけど」
少しでも隙間時間が出来ると寝坊した代償は大きくて、広い売り場をあちらこちらに動き回れば更にお腹は空いてくる。
「多分、いつも通り14時すぎくらいっすかね。こんなに忙しいからフルには休憩取れないでしょうから、もしかしたら順番が回ってくるのは早いかもっすよ?」
やっと戻ってこられた自分の持ち場で平岡くんとそう話している間にも、 <レコーダーの所でお客様がお呼びです!>、 容赦なく耳元で鳴るトランシーバーには、すでにうんざりだ。
「黒物コーナーから返答がないっすね。甘味さんが行きます?」
「いや、なんでよ?!どーぞ平岡くん行ってきなよ。フフッ。なんせ230万だもんね。この調子なら狙える数字だよ!頑張って!」
親指をグッ!と立てれば、平岡くんは露骨に嫌そうな表情を私に返す。
「甘味さんの数字も乗っかってるんすよ?!他人事みたいに言わないで下さいよ~。甘味さんも出来る限り頑張って下さいね?!」
「もちろんそのつもりですよぉ?」
「嘘くさいなー!絶対ですよ?!」
「はい、はーい。とりあえずはレコーダーのお客様はよろしくね。白物は任せて」
先輩風をばっちり吹かせている私は、出来た後輩の平岡くんを見送る。
そして今日こそは定時で帰ってやろうと一人目論み、平岡くんに接客を押し付け、ここぞとばかりに砂東フロア長と自分の仕事をこっそり片付けていく。
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