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砂と骨の都市、サザノール
聖女サザニア
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「旅の人、もし観光するつもりなら、私が案内してあげよっか」
ミートパイを平らげ、食器をカウンターに上げると隣のサザニアが提案をしてくれた。
「是非頼みたい所だけど…」
正直少し遠慮したい気持ちでもある。元々旅のポリシーとして町は一人で歩くのが基本だし、サザニアはおそらく貴族か神職の家系、粗相をして投獄なんて可能性もある。この申し出は断っておいた方が身のため…
「私と一緒なら買い物全部タダになるよ?」
「案内よろしくお願いします」
まぁ、町をよく知る人と歩くのが魅力を知るには一番でしょ!
「…にしても、本当にタダになるなんて」
少し申し訳ない気がするが、流浪の身である以上タダを断れるような金銭の余裕はない。
しかし、本当に何者なんだこの人は…。
「旅の人、ここの建物って面白いでしょ。この真っ白な煉瓦」
「え、あ、うん」
大通りを舞うように歩くサザニアが突然歩みを止めて近くの仕立て屋の壁を指差した。
確かに普通の煉瓦にしては白い。干し煉瓦ならある程度白いのはわかるが、砂よりも白いのはどう言う事だろう。
「実はね、これ全部巨人の骨を切り出してできてるの」
「巨人の骨!」
「ここら辺じゃ木材は貴重だし、巨人の骨はそこら辺の建材より丈夫で耐熱性も高いから重宝するんだ」
「名実ともに巨人の町って事か…」
これが全て生き物の骨となると少し気味が悪い感じがあるが、先人の知恵というのは偉大だな…。
「あとねあとね、この町、巨人の建物の上にあるんだって。だから砂の下は大きな空洞になってて、そこにも実は町があるの!そこは地下水や土が豊富にあって農業をやってるんだよ!あ、そこに外国人は案内できないんだけど」
目を輝かせながら熱っぽく語る彼女。郷土愛。それだけでは説明できない何かすら感じる。
「サザニアさんは好きなんだね、この町が」
そう言うと、彼女は満面の笑みで答えた。
「うん!大好き!」
それ以上を憶測だけで語ろうとするのは無粋という物だろうか。しかしその笑顔の裏側に何かがあるようでならなかった。
「サザニアは普段何をしてるんだい?」
そう聞くと、彼女はクルリと身を翻し艶やかに四肢をしならせ、軽快なステップを踏んだ。
「…踊り子?」
「正解!毎年カーニバルの舞台の上で踊ってるんだ!結構盛り上がるんだ!」
大きいながらしなやかな肢体で砂漠の旋風のようにサザニア、その姿はきっと美しいのだろう。
「旅人さんも見に来てよ。サザノール人以外は皆カーニバルの前に出てっちゃうけどさ、絶対楽しいから!」
彼女が広場の真ん中で私の手を握る。瑞々しい肌から伝わる熱量からその気概が分かる。花火の様に弾ける様な熱量だ。
「あ、じゃあちょっと見てて」
サザニアが広場の中心へと走っていき、ワンピースの裾を結んで髪を一つに結える。すると何かが始まるのを予感したのか人混みが彼女を中心に円陣を組む様に広がる。
「スタック!ジョーンズ!フレッド!久々にジャムるよ!」
彼女の掛け声が響くと円陣を切り裂いて3人の男が出てきた。先程まで広場で各々の弾き語りをしていた者だ。
お手製の小さなウクレレを持つ太った緑色のトロル。空き缶や食器をスプーンで叩く四本腕のキュクロプス。二人と打って変わって立派なコントラバスを抱えた小柄なドワーフ。種族も楽器も統一感の無い組み合わせだ。
だが、長い旅の経験からわかる。この3人は各々独自の技術を持った手練れであり、そうしたスキルに裏打ちされた抜き打ちのジャムセッションは、失敗する事など無い。
キュクロプスがスプーンで音頭を取る。彼が示した単調なリズムの方向性、その二拍後に続いてドワーフがコントラバスを指で弾いた。そしてトロルのウクレレが主旋律を奏でる。
しばらく三人の即興とは思えないセッションが周囲を席巻する。なんの打ち合わせもないのにオーディエンスの方でも手拍子ができあがり、主役の登場を前にして広場は歓声に包まれた。
そして、サザニアが動き出す。
彼女の動きはその大きさからダイナミックでもあり、しかしそれでいて秀麗。砂風の中を舞うバラのようだった。
その時人々は熱を感じた。
寒い砂漠の夜の中のはず。だがそこには確かに太陽があった。
その姿を焼き付けた目の奥がじんわりと暖かくなり、血液に乗って身体中に熱が広がる。そうしてサザニアの一挙手一投足に観客は沸いていった。
まるで、魔法のようだ。
私もいてもたってもいられなくなって、円陣を出た。見ていられなくなったわけではない、私は私なりに、あのセッションに参加したくなったのだ。
私は路地裏に入ると、道の隅で山になってる白砂を一握りした。この町では毎日風に乗って道を埋めようとする砂をこうして住民たちがこまめに集めているのだ。
そして握った砂を口元に寄せる。
即興だが、みんなサザニアに夢中になってる。彼女はおそらく巫女のような存在でもあるのだろう。これだけ彼女を慕う人間が多ければ、効果は絶対のはずだ。せっかくだし、カーニバルの合言葉にも因んでこんな名前はどうだろう。
「サザニア・デ・ラムティン(サザニアが砂の上で舞った)」
そう呟くと、握った砂が光を帯びる。やがてその光は収まるが、握った手を離すと導かれる様に砂が一人でに流れていく。向かう先は、もちろん広場だ。
「サザニア!砂をイメージして!」
人混みの中、砂を追いながらサザニアに呼びかける。聞こえてるかは分からない。だが、彼女ならきっとコレも使いこなせるだろう。
すると間もなく、ワァッと歓声が鳴った。
サザニアの舞、それを追いかける様に砂が流れる始めたのだ。
サザニアも演奏隊も最初は驚いた様で、少し調子を崩すが、すぐに持ち直す。特にサザニアは天才的だった。その砂が自分の踊りのイメージに沿う流れ方をしている事を瞬時に察知し、美しい渦を巻き上げた。
まるで夢を見ているかのような光景だ。踊り子の動きに合わせて白砂も舞う。砂は効果演出に、月光は絶好のスポットライトに、今この砂漠にある全ての物が彼女の為にある。
最後に彼女が宙返りをする。それに惹かれる様に砂は螺旋状に流れる、彼女の着地とともに砂煙となって弾け飛んだ。
いつのまにか見惚れて止んでいた歓声が、思い出したかの様に湧き上がる。サザニアに目一杯の賞賛が贈られる。10分程度のジャムセッション、それだけでこのサザノールの町の中心は彼女になったようだった。
「すごいね!旅の方!今の魔法!?私初めて見たよ!」
興奮気味のサザニアが抱きついて背中を叩く。うっ…こういう事躊躇いなくしちゃう子なのは分かってるけど…なんか恥ずかしいな…。
「サザニアの踊りが凄かったからね。感化されてちょっと創っ…」
と口を噤む。
「使ってみたんだよ。前に魔法サーカス団の所で下働きしてた時に教えてもらったのを」
「へぇ!すごい!」
「でも私がしたのは呪文を唱えて君に受け渡しただけ。サザニアに魔法の素質と踊りのセンスがあったからあそこまで綺麗な舞になったんだよ」
「へぇ…、えへへ、そうかなぁ」
顔に手を当てて照れる様子のサザニア。だが実際に持続型の魔術は継承した術者に扱う素質が備わっていないとすぐに消えてしまう物だ。おそらく魔法に馴染みが無い文化で育ったから気づかなかっただけで、初見の魔術を意のままに操る程豊かな魔法の才に恵まれているのだろう。
「ねぇ、良かったら教えて、その魔法」
「もちろん、サザニアがもっとくべき魔法だ」
そう言って彼女の手を取る。そして先ほどと同じように砂を一握り持たせる。
「目を瞑って、想像するんだ。自分がどんな風に砂と踊るのか、砂の行方と自分の姿を」
彼女に持たせた白砂が既に光を帯び始めている。思った通り、この子には並々ならぬ魔法の才能がある。
「そしてこう唱えるんだ」
サザニア・デ・ラムティン
すると、砂は指の隙間からスルスルと抜けていき、サザニアの周囲を一本の糸のように列になって流れ始める。
「もう目を開けていいよ」
ゆっくりと目を開ける彼女の表情にパッと花が咲く。
「後は砂にどう動いて欲しいか想像するだけだ。ただ集中が切れて想像できなくなると魔法の効力はなくなるから気を」
「ありがとう!旅の人!」
彼女が再び私に抱きつく。やれやれ…本当に身体は大きくても子供…ん?
「ちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょーーーーーーーーーい」
足が浮いてる。これは抱きつかれてるんじゃない、抱き上げられているんだ。これは抱きつかれるより別の方向で恥ずかしいぞ…!
「この魔法、絶対カーニバルで使うね!大盛り上がり間違いなしだよ!」
それは良かった。良かったから、とりあえず下ろしてくれーーーーーーい。飛び跳ねんでくれーーーーーーい。酔ーーーーーうーーーーー。
「よかった、最後に魔法を使って踊れるなんて」
彼女が魔法のお礼にとこの町で一番眺めのいい場所に連れてきてくれた。町の隅に位置する打ち捨てられた時計塔跡だ。元は時計盤が嵌められていたであろう壁の大穴に腰掛け、町を見下ろす。なるほどここならサザノールもサザンの骨も一望できる。夜風は冷たいが蒸し芋を片手に味わう夜景はまた格別だ。
「最後、なんだ」
「…うん」
覇気のない返答。先程までの機嫌は面影も残っていない。
知りたい。
サザニアの事は好きだ。明るく汚れを知らず、優しさと素養を待ち合わせた彼女を嫌う筈もない。だがこの「知りたい」は恋慕から来るような青臭い物ではない。知的好奇心?いやそれとも違う。知らなきゃ良かったと後悔する事は分かっている。だが彼女と触れ合い、時間と知識を共有するうちに、彼女の行く末をしっかりと知らなければならないという使命感のようなものを感じたのだ。友人として…そして…。
「サザニア、聞いて良いか?」
「何?」
灰の月に照らされて白く輝く彼女はまさに聖女のようだった。
「カーニバルでは、一体何が起こるんだ?君はどうなるんだ?」
彼女が深く息を吸う。灰色の月をボンヤリと見つめ、一呼吸置くと、ようやく問いに答えた。
「カーニバルではね、私は…サザン様の下に行くの。私はその為に生まれてきたんだ」
ミートパイを平らげ、食器をカウンターに上げると隣のサザニアが提案をしてくれた。
「是非頼みたい所だけど…」
正直少し遠慮したい気持ちでもある。元々旅のポリシーとして町は一人で歩くのが基本だし、サザニアはおそらく貴族か神職の家系、粗相をして投獄なんて可能性もある。この申し出は断っておいた方が身のため…
「私と一緒なら買い物全部タダになるよ?」
「案内よろしくお願いします」
まぁ、町をよく知る人と歩くのが魅力を知るには一番でしょ!
「…にしても、本当にタダになるなんて」
少し申し訳ない気がするが、流浪の身である以上タダを断れるような金銭の余裕はない。
しかし、本当に何者なんだこの人は…。
「旅の人、ここの建物って面白いでしょ。この真っ白な煉瓦」
「え、あ、うん」
大通りを舞うように歩くサザニアが突然歩みを止めて近くの仕立て屋の壁を指差した。
確かに普通の煉瓦にしては白い。干し煉瓦ならある程度白いのはわかるが、砂よりも白いのはどう言う事だろう。
「実はね、これ全部巨人の骨を切り出してできてるの」
「巨人の骨!」
「ここら辺じゃ木材は貴重だし、巨人の骨はそこら辺の建材より丈夫で耐熱性も高いから重宝するんだ」
「名実ともに巨人の町って事か…」
これが全て生き物の骨となると少し気味が悪い感じがあるが、先人の知恵というのは偉大だな…。
「あとねあとね、この町、巨人の建物の上にあるんだって。だから砂の下は大きな空洞になってて、そこにも実は町があるの!そこは地下水や土が豊富にあって農業をやってるんだよ!あ、そこに外国人は案内できないんだけど」
目を輝かせながら熱っぽく語る彼女。郷土愛。それだけでは説明できない何かすら感じる。
「サザニアさんは好きなんだね、この町が」
そう言うと、彼女は満面の笑みで答えた。
「うん!大好き!」
それ以上を憶測だけで語ろうとするのは無粋という物だろうか。しかしその笑顔の裏側に何かがあるようでならなかった。
「サザニアは普段何をしてるんだい?」
そう聞くと、彼女はクルリと身を翻し艶やかに四肢をしならせ、軽快なステップを踏んだ。
「…踊り子?」
「正解!毎年カーニバルの舞台の上で踊ってるんだ!結構盛り上がるんだ!」
大きいながらしなやかな肢体で砂漠の旋風のようにサザニア、その姿はきっと美しいのだろう。
「旅人さんも見に来てよ。サザノール人以外は皆カーニバルの前に出てっちゃうけどさ、絶対楽しいから!」
彼女が広場の真ん中で私の手を握る。瑞々しい肌から伝わる熱量からその気概が分かる。花火の様に弾ける様な熱量だ。
「あ、じゃあちょっと見てて」
サザニアが広場の中心へと走っていき、ワンピースの裾を結んで髪を一つに結える。すると何かが始まるのを予感したのか人混みが彼女を中心に円陣を組む様に広がる。
「スタック!ジョーンズ!フレッド!久々にジャムるよ!」
彼女の掛け声が響くと円陣を切り裂いて3人の男が出てきた。先程まで広場で各々の弾き語りをしていた者だ。
お手製の小さなウクレレを持つ太った緑色のトロル。空き缶や食器をスプーンで叩く四本腕のキュクロプス。二人と打って変わって立派なコントラバスを抱えた小柄なドワーフ。種族も楽器も統一感の無い組み合わせだ。
だが、長い旅の経験からわかる。この3人は各々独自の技術を持った手練れであり、そうしたスキルに裏打ちされた抜き打ちのジャムセッションは、失敗する事など無い。
キュクロプスがスプーンで音頭を取る。彼が示した単調なリズムの方向性、その二拍後に続いてドワーフがコントラバスを指で弾いた。そしてトロルのウクレレが主旋律を奏でる。
しばらく三人の即興とは思えないセッションが周囲を席巻する。なんの打ち合わせもないのにオーディエンスの方でも手拍子ができあがり、主役の登場を前にして広場は歓声に包まれた。
そして、サザニアが動き出す。
彼女の動きはその大きさからダイナミックでもあり、しかしそれでいて秀麗。砂風の中を舞うバラのようだった。
その時人々は熱を感じた。
寒い砂漠の夜の中のはず。だがそこには確かに太陽があった。
その姿を焼き付けた目の奥がじんわりと暖かくなり、血液に乗って身体中に熱が広がる。そうしてサザニアの一挙手一投足に観客は沸いていった。
まるで、魔法のようだ。
私もいてもたってもいられなくなって、円陣を出た。見ていられなくなったわけではない、私は私なりに、あのセッションに参加したくなったのだ。
私は路地裏に入ると、道の隅で山になってる白砂を一握りした。この町では毎日風に乗って道を埋めようとする砂をこうして住民たちがこまめに集めているのだ。
そして握った砂を口元に寄せる。
即興だが、みんなサザニアに夢中になってる。彼女はおそらく巫女のような存在でもあるのだろう。これだけ彼女を慕う人間が多ければ、効果は絶対のはずだ。せっかくだし、カーニバルの合言葉にも因んでこんな名前はどうだろう。
「サザニア・デ・ラムティン(サザニアが砂の上で舞った)」
そう呟くと、握った砂が光を帯びる。やがてその光は収まるが、握った手を離すと導かれる様に砂が一人でに流れていく。向かう先は、もちろん広場だ。
「サザニア!砂をイメージして!」
人混みの中、砂を追いながらサザニアに呼びかける。聞こえてるかは分からない。だが、彼女ならきっとコレも使いこなせるだろう。
すると間もなく、ワァッと歓声が鳴った。
サザニアの舞、それを追いかける様に砂が流れる始めたのだ。
サザニアも演奏隊も最初は驚いた様で、少し調子を崩すが、すぐに持ち直す。特にサザニアは天才的だった。その砂が自分の踊りのイメージに沿う流れ方をしている事を瞬時に察知し、美しい渦を巻き上げた。
まるで夢を見ているかのような光景だ。踊り子の動きに合わせて白砂も舞う。砂は効果演出に、月光は絶好のスポットライトに、今この砂漠にある全ての物が彼女の為にある。
最後に彼女が宙返りをする。それに惹かれる様に砂は螺旋状に流れる、彼女の着地とともに砂煙となって弾け飛んだ。
いつのまにか見惚れて止んでいた歓声が、思い出したかの様に湧き上がる。サザニアに目一杯の賞賛が贈られる。10分程度のジャムセッション、それだけでこのサザノールの町の中心は彼女になったようだった。
「すごいね!旅の方!今の魔法!?私初めて見たよ!」
興奮気味のサザニアが抱きついて背中を叩く。うっ…こういう事躊躇いなくしちゃう子なのは分かってるけど…なんか恥ずかしいな…。
「サザニアの踊りが凄かったからね。感化されてちょっと創っ…」
と口を噤む。
「使ってみたんだよ。前に魔法サーカス団の所で下働きしてた時に教えてもらったのを」
「へぇ!すごい!」
「でも私がしたのは呪文を唱えて君に受け渡しただけ。サザニアに魔法の素質と踊りのセンスがあったからあそこまで綺麗な舞になったんだよ」
「へぇ…、えへへ、そうかなぁ」
顔に手を当てて照れる様子のサザニア。だが実際に持続型の魔術は継承した術者に扱う素質が備わっていないとすぐに消えてしまう物だ。おそらく魔法に馴染みが無い文化で育ったから気づかなかっただけで、初見の魔術を意のままに操る程豊かな魔法の才に恵まれているのだろう。
「ねぇ、良かったら教えて、その魔法」
「もちろん、サザニアがもっとくべき魔法だ」
そう言って彼女の手を取る。そして先ほどと同じように砂を一握り持たせる。
「目を瞑って、想像するんだ。自分がどんな風に砂と踊るのか、砂の行方と自分の姿を」
彼女に持たせた白砂が既に光を帯び始めている。思った通り、この子には並々ならぬ魔法の才能がある。
「そしてこう唱えるんだ」
サザニア・デ・ラムティン
すると、砂は指の隙間からスルスルと抜けていき、サザニアの周囲を一本の糸のように列になって流れ始める。
「もう目を開けていいよ」
ゆっくりと目を開ける彼女の表情にパッと花が咲く。
「後は砂にどう動いて欲しいか想像するだけだ。ただ集中が切れて想像できなくなると魔法の効力はなくなるから気を」
「ありがとう!旅の人!」
彼女が再び私に抱きつく。やれやれ…本当に身体は大きくても子供…ん?
「ちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょーーーーーーーーーい」
足が浮いてる。これは抱きつかれてるんじゃない、抱き上げられているんだ。これは抱きつかれるより別の方向で恥ずかしいぞ…!
「この魔法、絶対カーニバルで使うね!大盛り上がり間違いなしだよ!」
それは良かった。良かったから、とりあえず下ろしてくれーーーーーーい。飛び跳ねんでくれーーーーーーい。酔ーーーーーうーーーーー。
「よかった、最後に魔法を使って踊れるなんて」
彼女が魔法のお礼にとこの町で一番眺めのいい場所に連れてきてくれた。町の隅に位置する打ち捨てられた時計塔跡だ。元は時計盤が嵌められていたであろう壁の大穴に腰掛け、町を見下ろす。なるほどここならサザノールもサザンの骨も一望できる。夜風は冷たいが蒸し芋を片手に味わう夜景はまた格別だ。
「最後、なんだ」
「…うん」
覇気のない返答。先程までの機嫌は面影も残っていない。
知りたい。
サザニアの事は好きだ。明るく汚れを知らず、優しさと素養を待ち合わせた彼女を嫌う筈もない。だがこの「知りたい」は恋慕から来るような青臭い物ではない。知的好奇心?いやそれとも違う。知らなきゃ良かったと後悔する事は分かっている。だが彼女と触れ合い、時間と知識を共有するうちに、彼女の行く末をしっかりと知らなければならないという使命感のようなものを感じたのだ。友人として…そして…。
「サザニア、聞いて良いか?」
「何?」
灰の月に照らされて白く輝く彼女はまさに聖女のようだった。
「カーニバルでは、一体何が起こるんだ?君はどうなるんだ?」
彼女が深く息を吸う。灰色の月をボンヤリと見つめ、一呼吸置くと、ようやく問いに答えた。
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