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序章 私が転売ヤーに殺されるまでの話
まずは転売ヤーに家族が殺された
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転売ヤーに最初に怒りを覚えたのは8歳の頃だった。
エマとの出会いは物心つく前で覚えていない。なにせ私と同じ年同じ月同じ日に生まれた犬として、1歳の時に親戚の元からやってきたメスの柴犬だからだ。物心つくよりもずっと前から一緒にいて、両親のもと一緒に育った兄弟のようなものだ。成熟は犬の方が早いから、正確には姉になるのかな。エマも私を弟のように大事にかまってくれた。
散歩中に出くわしたガキ大将を吠えて一蹴したり、旅行に連れていけない事が分かって家に引きこもって泣いたり、家族で川の字になったり寝たり。
私はエマが大好きだったし、エマも私の事が大好きだった。
その時が、私の最初の人生で最も幸せの人生のように思える。
そんなエマの様子がおかしくなったのは5歳ごろ。出したエサを食べなくなり、食べてもその後猛烈に吐き出すようになってしまったのだ。心配になり、半べそ掻きながら親と一緒に動物病院にエマを連れて行ったのをよく覚えている。なにやら小難しい説明を医者から受け、当時の私は訳が分からず右耳から左耳から流しつつも、なんとかアレルギーという言葉だけを聞き取っていた。
そのあと母親からは動物病院で買ったこの白い袋のエサ以外をエマにあげないようにと忠告を受け、言われたとおりに私はエマにそのエサを与えるようになった。するとまるでそれまでが嘘のようにエマは食欲を取り戻し、エサを吐き出すことも無くなって元気に散歩に出れるようになった。だから治ったものだと思っていたけど、実際は一生付き合うことになるものだったんだよね。
そしてつかの間の幸せを取り戻して3年。迎える8歳の誕生日間近に、事は起こった。
白い袋のエサが家から尽きそうになったのだ。いつもなら自分がエサの減り具合を母さんに報告して、母さんが動物病院から買ってきて補充する手はずだったのだが、補充がされていない。忘れたのかと思って母さんに尋ねると、白い袋のエサは「療法食」という特別なエサで、基本的に動物病院でしか売っていないのだとか。しかし今行きつけの動物病院では売り切れており、補充ができなかったとのこと。でも、動物病院からは仕入れ次第連絡が来て、すぐに取りに行くから安心してと母さんは言っていた。
しかし、仕方ないと手に入るのを待つが、2日、3日と経っても一向に動物病院から連絡は来なかった。やがて白い袋のエサは底をつき、エマは次第に元気を失っていった。そんな状態でもやはり普通のエサは食べれないようで、やがて大好きな散歩にも出れなくなってしまった。動物病院にはこちらから問い合わせたり、別の動物病院に問い合わせたりしたが、どこも品切れ状態。八方塞のようにも思え、毎夜エマの傍らで泣いたことを覚えている。
唯一売っていたのは…フリーマーケットアプリ。それも10倍近くの値段で、だ。
動物病院ですら売ってないものをどうしてこんなに一杯売ってるんだろう、と当時は不思議でしょうがなかった。
しかしいくら違和感を覚えても、普通のエサを食べれないエマがだんだんと衰弱していく姿を前に、手段を選んでいられる余裕は無かった。
私は貯めていたお年玉と小遣いを全て差し出して両親に買ってくれと懇願し、エマを家族のように思っていた両親も命が大事だとそのフリマアプリで療法食のエサを購入したのだ。
配達予定日は2日後。それまで耐えてくれと弱弱しくうずくまるエマの背中をさすって励ました。もうすぐ、もうすぐ来るから、と。
しかし4日後、エマは息を引き取った。
なぜ配達予定日まで生きていたのに、彼女は死んだか。理由は簡単だ、白い袋のエサは結局届かなかったのだ。
配達予定日を過ぎても届かない事を出品者に問い合わせたところ、在庫が無くなってしまい発送できなくなってしまったのでキャンセルさせてほしいという旨のメールが返ってきた。何度か療法食を工面してくれと両親たちは出品者とやり取りをしていたようだが、途中で返信がこなくなって、返金を受け入れて泣き寝入りする他なかったのだ。
今思えばこの出品者は、商品が手元にないまま出品して注文が確定してから仕入れる無在庫転売をしていて、結果的に自分でも仕入れることができずにキャンセルを申し出たのかもしれない。
当時は空前のペットブームで家でペットを飼う人が急増し、療法食の需要も急増。対して当時療法食は海外の物しかなく国内での在庫が少なかった。フリマアプリの普及で生活必需品、医療品が買い占められ転売されるのが問題視されて規制が入り始めていた時期ではあったが、ペット用の療法食などにはまだ規制が及んでいないタイミングだった。そこに目をつけた転売ヤーによって、療法食が悉く買い占められ、高額転売に利用されたのだ。
私が知る限り、憎悪というものを覚えたのはその時が初めてだ。
友達と喧嘩した後すぐ冷めるような怒りとは全く異なる、心の奥底にこびりついた感情。顔の上では移り変わる表情、その皮一枚挟んだ裏でずっと焦げ付いて煙を出し続ける黒い炎。そう、憎悪だ。
エマがおばあちゃんになったらどんな顔になるのかな。
これから先少しアレルギーがよくなったら、使える食材でケーキとか作ってお祝いできないかな。
今度はエマもつれていける所を旅行で行こうね。
そんなエマの未来は閉ざされた。
買占めを行う転売ヤー共によって。
これが、最初に転売ヤーを恨む事になった最初の出来事だ。
エマとの出会いは物心つく前で覚えていない。なにせ私と同じ年同じ月同じ日に生まれた犬として、1歳の時に親戚の元からやってきたメスの柴犬だからだ。物心つくよりもずっと前から一緒にいて、両親のもと一緒に育った兄弟のようなものだ。成熟は犬の方が早いから、正確には姉になるのかな。エマも私を弟のように大事にかまってくれた。
散歩中に出くわしたガキ大将を吠えて一蹴したり、旅行に連れていけない事が分かって家に引きこもって泣いたり、家族で川の字になったり寝たり。
私はエマが大好きだったし、エマも私の事が大好きだった。
その時が、私の最初の人生で最も幸せの人生のように思える。
そんなエマの様子がおかしくなったのは5歳ごろ。出したエサを食べなくなり、食べてもその後猛烈に吐き出すようになってしまったのだ。心配になり、半べそ掻きながら親と一緒に動物病院にエマを連れて行ったのをよく覚えている。なにやら小難しい説明を医者から受け、当時の私は訳が分からず右耳から左耳から流しつつも、なんとかアレルギーという言葉だけを聞き取っていた。
そのあと母親からは動物病院で買ったこの白い袋のエサ以外をエマにあげないようにと忠告を受け、言われたとおりに私はエマにそのエサを与えるようになった。するとまるでそれまでが嘘のようにエマは食欲を取り戻し、エサを吐き出すことも無くなって元気に散歩に出れるようになった。だから治ったものだと思っていたけど、実際は一生付き合うことになるものだったんだよね。
そしてつかの間の幸せを取り戻して3年。迎える8歳の誕生日間近に、事は起こった。
白い袋のエサが家から尽きそうになったのだ。いつもなら自分がエサの減り具合を母さんに報告して、母さんが動物病院から買ってきて補充する手はずだったのだが、補充がされていない。忘れたのかと思って母さんに尋ねると、白い袋のエサは「療法食」という特別なエサで、基本的に動物病院でしか売っていないのだとか。しかし今行きつけの動物病院では売り切れており、補充ができなかったとのこと。でも、動物病院からは仕入れ次第連絡が来て、すぐに取りに行くから安心してと母さんは言っていた。
しかし、仕方ないと手に入るのを待つが、2日、3日と経っても一向に動物病院から連絡は来なかった。やがて白い袋のエサは底をつき、エマは次第に元気を失っていった。そんな状態でもやはり普通のエサは食べれないようで、やがて大好きな散歩にも出れなくなってしまった。動物病院にはこちらから問い合わせたり、別の動物病院に問い合わせたりしたが、どこも品切れ状態。八方塞のようにも思え、毎夜エマの傍らで泣いたことを覚えている。
唯一売っていたのは…フリーマーケットアプリ。それも10倍近くの値段で、だ。
動物病院ですら売ってないものをどうしてこんなに一杯売ってるんだろう、と当時は不思議でしょうがなかった。
しかしいくら違和感を覚えても、普通のエサを食べれないエマがだんだんと衰弱していく姿を前に、手段を選んでいられる余裕は無かった。
私は貯めていたお年玉と小遣いを全て差し出して両親に買ってくれと懇願し、エマを家族のように思っていた両親も命が大事だとそのフリマアプリで療法食のエサを購入したのだ。
配達予定日は2日後。それまで耐えてくれと弱弱しくうずくまるエマの背中をさすって励ました。もうすぐ、もうすぐ来るから、と。
しかし4日後、エマは息を引き取った。
なぜ配達予定日まで生きていたのに、彼女は死んだか。理由は簡単だ、白い袋のエサは結局届かなかったのだ。
配達予定日を過ぎても届かない事を出品者に問い合わせたところ、在庫が無くなってしまい発送できなくなってしまったのでキャンセルさせてほしいという旨のメールが返ってきた。何度か療法食を工面してくれと両親たちは出品者とやり取りをしていたようだが、途中で返信がこなくなって、返金を受け入れて泣き寝入りする他なかったのだ。
今思えばこの出品者は、商品が手元にないまま出品して注文が確定してから仕入れる無在庫転売をしていて、結果的に自分でも仕入れることができずにキャンセルを申し出たのかもしれない。
当時は空前のペットブームで家でペットを飼う人が急増し、療法食の需要も急増。対して当時療法食は海外の物しかなく国内での在庫が少なかった。フリマアプリの普及で生活必需品、医療品が買い占められ転売されるのが問題視されて規制が入り始めていた時期ではあったが、ペット用の療法食などにはまだ規制が及んでいないタイミングだった。そこに目をつけた転売ヤーによって、療法食が悉く買い占められ、高額転売に利用されたのだ。
私が知る限り、憎悪というものを覚えたのはその時が初めてだ。
友達と喧嘩した後すぐ冷めるような怒りとは全く異なる、心の奥底にこびりついた感情。顔の上では移り変わる表情、その皮一枚挟んだ裏でずっと焦げ付いて煙を出し続ける黒い炎。そう、憎悪だ。
エマがおばあちゃんになったらどんな顔になるのかな。
これから先少しアレルギーがよくなったら、使える食材でケーキとか作ってお祝いできないかな。
今度はエマもつれていける所を旅行で行こうね。
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