転売スレイヤー ~この異世界から転売ヤーを絶滅させます~

natuumi

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1章 火の魔石

炎上

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 くそ、時間がかかり過ぎた。 質屋をハシゴなんてすべきではなかったな。
 火の魔石と食糧を買うには十分な金は手に入れたが、もう昼は過ぎてしまっている。正午までに売ってくる手はずが…。 
 
 いくら自分に悪態をついても仕方がない。
 私は金貨を詰めた小袋を片手に納屋から出た。

 外は昨日から依然として吹雪が吹き荒れている。今は多少ましにはなっているが、こういう日は村を見渡してもだれ一人で歩いていないのが普通。しかしその日だけは違っていた。

「なんだあれは…」

 村役場の方に人だかりができている。普段穏やかな村民たちが声を荒げ、何かを訴えかけているようだ。
 私はその後ろについて事情を聞ける人を探した。朝、父は村役場に行くと言っていたがこの人だかりの中には姿を確認できない。とりあえずその中にいた顔馴染みを人だかりから連れ出して話を聞いた。

「キセラ、これは一体どういうことなんだ?」
 群衆の中から連れ出したのはキセラ。ここ周辺の農地を所持し、仕切る地主の娘。この田舎で唯一の同い年だ。
「ヤミー、大変な事になったわ。火の魔石が売り切れてるの」
 火の魔石売り切れている…。
 火の魔石はこの村では生産する魔術師がいないため、トリスキンの王都からやってくる行商人に頼っている。行商人はあらかじめ村での必要量を村長から伝えられているから滅多に売り切れるなんてことはないのだが…。

「売り切れか…困ったな、丁度火の魔石を切らして買いに来たところだったんだけど…」
「それがただの売り切れじゃないの!」
 ただの、売り切れじゃない…だと…。腹の底で沸々と何かがたぎる音がする。
 もしかして…もしかしてだがそれは…。

「村長の息子のウォレットが、朝一番で火の魔石を買い占めちゃったのよ!それで火の魔石が欲しければ俺から買えって言ってるの!」

 転売か…!

 とても耳障りな言葉が頭の中をこだまする。久しく忘れていた、だが確かに腹の奥底で燻ぶった憎悪の炎が再び火炎を揺らめかせたのを感じた。

「…そうか…それで、みんな村役場に詰め寄っているのか」
 深呼吸をして憎悪を火を鎮める。
 落ち着け…。私はヤミー・デント。デント家の長男だ。取り乱すな…。

「ウォレットは自分が売るって言ってるくせに、怒った人々に怯えて役場に引きこもってるし。行商人のソンも売り切れているの一点張りで…」
 喧噪を尻目に状況を聞いていると、突然村役場の2階の窓がばたんと開いた。

「おい!火の魔石が欲しけりゃ大人しくしろ!そこに一列に並んで、話をするのは一人ずつだ!さっきから言ってるだろ愚図が!」

 罵倒と共に窓から姿を現したのは小太りの彼がウォレット。この村の村長バレットの息子だ。
 この村の村長は選挙や推薦で選ばれるのではなくトリスキン王国政府から認可された家系が代々行うもので、世襲制だ。現村長のバレットは温厚で人当たりも良く、村民を第一に考える人格者だったが、ウォレットは顔姿が似てるばかりでロクな奴じゃない。いわゆる傲慢なドラ息子で、自分たちは王国政府から直接指名を受けた上級国民で、村民とは人種が違うと本気で思っているようなクズだ。あいつが村長になったらこの村はどうなるのかと不安の声が上がっていたが、まさかそれより先にこんな問題を起こすとは…。

「ギャーギャー騒ぐんじゃねぇ!これは真っ当な商売だ!金を払えば売ってやるから、その口閉じて五体投地で売ってくださいと懇願しに来いって言ってんだよ田舎もんが!」

 威勢がいいのは口だけで窓から身を乗り出すようなこともなく、それだけ言うと反論が耳に入る前に窓を乱暴に閉めた。いかにも小物…。

「バレット村長はどうしたんだ?あの人ならこの状況を看過すると思えないが…」
「村長は定期報告の為に今はトリスキンの王都よ。留守の間に小遣い稼ぎのつもりでこんなことしたみたい。あそこの奥さんは気が弱くて息子に意見できないみたいだし」
 子供のような事を言っているがあの男は30過ぎのオッサンだ。仕事をしている様子はないが、副村長という役職が付いている以上、役場も意見しにくいだろうし…。今は誰も止める事ができない権力の暴走機関車ってわけね。
 仕方がない。こいつには痛い目見てもらうとするか…。

「それよりヤミー君のお父さんは大丈夫なの?」
「ん?父さんがどうかしたのか?」
「え?会ってないの?」

 疑問符だらけの会話でいまいち要領を得ない。だが、何か嫌な予感がしてきた。

「ジョブスおじさん、村長さんを呼んでくるって言ってたらしいけど、流石にこの吹雪の中火の魔石を持たずに森を抜けて王都に行くのは大変だし、家にいるよね?正義感が強い人なのは知ってるけど…」
「王都に行くだって…!?」

 その時、頭痛と共にエマの衰弱していく姿が頭をよぎった。
 次の瞬間には顔面蒼白にして駆けだしていた。

「父さん…!」

 父は長年猟師をやっていてこの森に精通している。冬の森は雪で足元を奪い、寒さで体温を奪う、体力の消耗は夏のの5倍以上だと教えてくれた。冬の森に出るときは必ず火の魔石を専用の容器に入れて懐炉にし、体温を保って歩かなければ自分でも生きて森を抜けるのは難しいと。
 だが父は無理だとは言っていなかった。おそらく狩猟生活で鍛えた身体と培った知識があれば懐炉がなくとも吹雪く森抜ける算段があったのだろう。
 だが、それはきっと万全な状態であればの話だ。昨日の夜、父は吹雪の中少しでも山菜が取れないか森を見に行き、薄いスープのおかわりすらも我慢をし、火の番は一番きつい中間の時間を買って出た。自覚はなくとも前日の消耗から全快しているはずもない。

 自宅のドアを開ける。案の定、そこには父の姿はない。母はいつものように学舎に向かっていておらず、誰もいない居間でポツンと犬が寂しそうに座り込んでいた。

「ゾッド!力を貸してくれ」

 私がそう声をかけると、ゾッドは待ってましたと言わんばかりにこちらに駆け寄り、喉を鳴らす。私はクローゼットから父の肌着を取り出し、ゾッドの鼻先に持ってくると撫でながら語りかけた。

「時間がない…この父さんの匂いを追うんだ。わかるよな?」
 そう問いかけると、呼応するようにゾッドはワンと吠えた。
「いいぞ兄弟。よしいこう!」

「ちょっと待って!」
 いよいよゾッドを連れて父さんを探しに行こうとしたが、遅れて玄関先にたどり着いたキセラに行く手を阻まれた。

「もしかしてジョブスおじさんを探しに行くつもり!?それこそ危険よ!ここはおじさんが無事にトリスキンにたどり着くのを信じて待つしかない!ミイラ取りがミイラになったらどうするのよ!」

「大丈夫だ、ちゃんと考えてある。今はとにかく早く出ないと…!」

 早く出ないと…私はまた家族を失う事になるかもしれないんだ…!

「バカ!どうなっても知らないからね!」

 そう叫ぶキセラを尻目に私はゾッドと共に家を飛び出した。
 そして向かう先は…家の裏手にある納屋だ…!
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