転売スレイヤー ~この異世界から転売ヤーを絶滅させます~

natuumi

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閑話 故郷

勘当

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「ヤミー、座ってくれ」

 彼はそう言って食卓に着くように私を促した。大事な話があると言うことだ。

 ウォレットが村を追放された後、1週間経って父ジョブスは退院した。足を切断する事は免れたが、まだ思うようには歩けない状態で、狩りに出られない現在私が火の魔石を売ったお金で食いつないでいるのが今のデント家だ。
 そして、私が商売をしている事に両親二人が何の疑問も持たないはずはなく。

「前から不思議に思っていた事はあった。狩りの合間や暇な時間に、友達と遊んだりせずに、真っ先に納屋に向かって行って何をしているのだろうと」
「…魔法の勉強をした…転移魔法の魔法陣を描いたりして…」
「…他には?」
「…トリスキンで少し商売を…。森の薬草なんかを高く買い取ってくれる人がいて…」

 そう答えると、父はふぅと一つ息をついた。

「勉強する事はいい事だ。事実、それで予め転移魔法が使えるようにしてたおかげで父さんは命を救われた」
「自分がローブを売りに行くって言った時も、それで王都まで行って高く売ったのよね?」
「うん…」
「役場にない新しい本は、そうしてトリスキンでの商売で集めた金で買ったものだな?今回火の魔石を仕入れる資金も、そこから出ていたんだよな?」
「…その通り」

 父ははぁ…、と今度は深い溜息をついた。

「それ自体になんら問題はない。聞きたいのはそう、何故隠していたか、だ」

 その問いには即答できなかった。言い訳、誤魔化し、予め色々考えてきたが、いざとなると喉の奥で思いが絡まって吐き出せなくなる。

「知っての通り、うちはこのオラガ村でも裕福とは言えない家だ。食糧や火の魔石の備蓄は常に底と隣り合わせで、家族みんなで協力し合わなければ明日を生きれるかも分からない。それは分かっているよな?」
「…はい…」
「お前が少しでも家に稼ぎを入れてくれればこんなひもじい思いはする必要も無かったし、転移魔法が使えると言ってくれれば父さんは死にかけずに済んだ。今回の騒動だって転移魔法が使えると村の誰かが知ってれ村長をすぐに連れてきて直ちに解決した問題だ」
「ちょっとあなた…」
「今は俺に話させてくれ、ロール」

 父の容赦ない言葉が返しをつけた槍のように深く胸を突き、抜けない。全くもってその通りで真っ当な反論の余地もない。

「ヤミー、お前は俺たちの数段賢い。きっと何かワケがあるのだろう?」

 …観念するしか…ないようだ。

「お金は…人を変えてしまうんだ…」

 呟くように放った言葉を、両親は口を挟む事なくただ静かに聞き入れていた。そうすると、言葉は自然と漏れてきた。

「私は見てきたんだ…金に飢え、人を傷つける事を厭わなくなった人間を…。今回のウォレットなんてまだ可愛い方だ。世の中には金の為にもっと多くの人を苦しめたり、時には死に至らしめる事をも厭わない、それを気付こうとすらしない人間がいるんだ…」

 エマを殺したように…。

「でも…この家は、父さんと母さんは違う。2人はお金が無くても幸せで、みんなで助け合って困難を乗り切る。私はそんなこの家が好きで、お金が入る事でそれが変わることが怖かったんだ…」

 前世では考えられなかった生活、それが変わってしまうことを私は何よりも怖かったのだ。

「もし私が家にお金を入れ、裕福な生活ができるようになったとしたら、出て行く時にきっと金の為に2人は私を引き止める。金の為に私を見る目を変えた2人を、見たく無かったんだ…」

 長年溜めてきた言葉が一気に溢れ出す。一緒に目から涙も溢れ、食卓を濡らした。

「…家を出るつもりなの?ここを出てどこに行くつもりなの?」
「トリスキン王国。あそこではもっと多くの人がお金に苦しんでる。私はそれを救いたいんだ」
「行くあてはあるの?」
「あっちで既に商人ギルドに商人見習いとして登録してる。本登録して上納金を納めればギルドの宿泊施設も使える。衣食住に困る事はないよ」
「…そう…」

 そこまで確認すると、母はもう十分という感じで引き下がった。
 そして黙って聞いていた父がようやくその口を開く。

「つまり、お前は育ててもらった家族を助けるよりも、見ず知らずの人間を救いたいと、そういう事だな。金が人を変えるなどと言う訳の分からない理由で」

 それに対して反射的に違うという言葉が漏れそうになるが、それこそが間違いだと言葉を飲み込んで言い換えた。

「…そう…だね」
「ふざけるな!」

 食卓にコブシを叩きつける父。その顔は務めて平静を装っていたが、声は怒気を帯びていた。

「俺はお前を猟師として育て上げてきた!俺の全てを分け与えるつもりだった!しかしお前は最初からこの村を出るつもりで、全て無駄だったということか!?」
「ジョブス!」
「ロールもこの村にいて欲しいと思っているはずだ!今回の事で村のみんなも同じように思ったはずだ!その思いすらも全て踏み躙るというのか!?どこまで薄情なやつなんだお前は!」

 唾を散らし、怒り狂う父。こんな父を見るのは初めてだ。でも…それも当然の事…想定してたじゃないか…。

「金に困っている奴がいる?それを助けたい?英雄気取りもいい加減にしろ!身近な人間も守れない奴に他人を守れると思うな!家族を裏切るような恩知らずに、英雄を演じる資格はない!」

「…ッ!それでも私には!やらなきゃ行けない事があるんだよ父さん!」

 ここで初めて私は父に食ってかかった。食卓を叩いて椅子から立ち上がり、語気を強める。こんなに言葉を荒げたのはいつぶりだろうか。
 父も母も、初めて声を荒げる息子の姿に驚き言葉を失う。
 そして父はついに言った。

「…出て行け…」

 父の重い言葉が脳にのしかかった。

「この家から出て行け!俺達が与えたものは全て無駄で、お前は俺達を足枷か何かとしか思っていないのだろう!ならこの家にいる必要もない!トリスキンでもどこでも、好きにいくがいい!」
 父も立ち上がり、ドアを指さす。
「明日までに荷物をまとめろ!俺とロールが朝家を出て、仕事から帰ってくるまでに出て行くんだ!」

 そして彼の口から最後通告が発せられた。

「お前は勘当だ!」

 勘当。その言葉が私の中で何かを千切り去った。溢れていた涙も止まり、荒くなった息も静まる。
 そうか…ここまでなのか…。

「…わかった」

 そう言うと、私は自室である屋根裏部屋へと姿を消して行った。そして、淡々と旅支度を始めるのであった。

 やはり、金は人を変えてしまうのか。
 あの優しかった父も、私が大量に金を抱えて隠した事を知ってあそこまで激怒するなんて…。最後には母も私を擁護する様子もなかった。
 言うべきじゃなかった。あんな理由、話した所で理解されるわけもない。バレる前に出て行ってしまうのが正解だったんだ。あんな父と母の姿は見たくなかった…。
 自分の愚かさに腹が立ち、荷物を鞄に詰めながら再び涙が溢れてくる。

 でも、いくら自分の愚かさを祟ってももう遅い。私は両親を裏切り、騙し、それを知った2人は私に激怒して勘当を言い渡した、親子関係は壊れてしまったのだ。
 私が金を持っている限り、それを修復するのは不可能なのだ。
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