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第4章 大商人グリフレッド

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 わたしは露店を始めた。
 商業ギルドに属していたら、どこでも店を開けるというのがこの国での慣習法だ。
 そのかわり、儲けはきちんとギルドに申告しないとならないし、税金も払わなければならない。
 ただ、農業に比べて儲けの把握しにくい商業は税率が低い。
 これは、商人が領主と癒着しているからでもある。
 税金を上げられそうになると、いろいろな手でそれを防ぐ。
 それに、商業による所得なんて簡単に把握できない。
 きちんと計算ができる人材は騎士団の中にはあまりにも少ないのだ。
 っていうより会計がわかる騎士なんて皆無に近い。
 やつらは原則脳筋だからね。

 下町に近い広場での露店の許可を得る。
 これは少しの袖の下で簡単にできる。
 それから、この広場を仕切っている顔役に挨拶だ。
 これも金貨1枚程度のみかじめ料でいい。
 
 広場の隅のほうにスペースを与えられる。
 場所としてはあんまり良くはないが、わたしには関係ない。
 商品は最高なんだからね。
 とりあえず、台を用意して商品を並べる。
 商品は回復薬や毒消し、それからハウエルの作った武器だ。
 
 わたしはまわりを眺める。
 ここは庶民の市場として機能している。
 店を構えているところはどうしても中流以上の人が買い物をする場所だ。
 中流以下の人たちは、こういう市場で買い物をする。
 だから、食料品や日用品が中心。
 それも質の悪いものが多い。
 それから値段も安い。
 この市場は庶民の生活を担っているのだ。

 それにしても、前はもっと活気があったはずだ。
 わたしは父から引き継いだ店を構えていたが、この場所にも頻繁に来た事がある。
 その時はもっと露店にはものがあふれ、多くの人々でにぎわっていたはずだ。
 それに人々の表情。
 前はもっとイキイキと輝いていたはず。
 今はみんな疲れたような顔をしている。

 たぶん経済がうまく回っていないのだろう。
 一部の者に富が集中して民にまわらなくなる。
 購買力は落ちて商店も儲からない。
 だからいいものが仕入れられなくなり、より誰も買わなくなる。
 みんなお金を貯めることしか考えなくなる。
 健全な状態ではない。

 わたしは台に薬品と剣を並べる。
 それと一回分の小瓶。
 これは以前もやった試供品だ。
 薬品を薄めて小瓶につめてある。
 それでも、モーガン商会の薬よりも効果が上。
 
 さあ、戦争をはじめよう。
 わたしはモーガン商会の1/10の値札を台の前に掲げるのだった。
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